3.王国側の対応
国王は、朝から慌てていた。
「新しい聖女が誕生しただと、宰相!、宰相はおらぬか」
宰相は、謁見の間に走ってきた。
「只今参りました。新聖女の事で宜しいでしょうか。国王様」
「うぬ、新聖女が誕生したそうだな。どのような者か調べたのか」
「はい、昨日新聖女が誕生致しました件、暗部も総動員して徹夜にて調べました。
名前は、マリオン王都近くの農村に住んでいた娘15才です。
王都を光の道に乗って大聖堂に入り、例の石に吸い込まれて行ったそうです。
間違いはございません」
「農民の娘か、王子の奴、臍を曲げそうだな」
「いえ、それがその、農民の娘ではなくてですね。そのー、何と申しましょうか」
「ええい、はっきりせい。ソチがはっきりせねば話が進まぬだろ」
「その娘は、奴隷にございます。それも生まれた時からの奴隷でございまして、両親が犯罪奴隷でして、それも聖女様に偽物を売りつけた大罪人の娘でございます。
奴隷落ちした時、母親が身籠っていたそうでそのまま生まれた子にございます」
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「そんな娘を王子の妃には出来ぬではないか。祭典には慣例として聖女を呼ぶのだぞ
それが、大罪人の娘が一番上の上座に座るのだぞ」
しかし、疑問が頭をよぎった。過去の選定された聖女にその様な者はいない。
ひょっとして冤罪だったのではないか、冤罪だとすると元聖女が嘘をついたことになる。
「衛兵、姉上を呼べ、至急来るようにと」
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暫くするとパトリシアがやって来た。
既に紋章は無くなっていた。
「新しい聖女が誕生したの? アイリーンだった?」
「アイリーンではなく別の少女の様です。姉上に伺いたいことがあるのですが、
15年前、姉上が首飾りが偽物だった事で商家が取り潰しになったのは、覚えていますか」
「そんな事あったわね。確かお腹の大きい奥さんがいて、私は売ってないとか聖女の私に向かって騒いで来た奴よね。本当はどこで買ったか分からなかったんだけどお前が売ったと言ってやったわ。」
「それがどうしたの。
まさか逆恨みされている訳?。
あいつ聖女の私に向かって怒鳴ったのよ!」
ああ、これはまずいと王は思った。では、偽物を売ったことは冤罪だったんだ。
この他にも、大聖堂に飾ってあった初代聖女のマントを見た時、どうしても欲しいと駄々を捏ね、聖騎士に無理やり取って来させようとした事件があった。
あのマントは、必要な者が現れると勝手にそのものに纏われるそうだ。その能力は計り知れず、村一つを緑の木々に変えることも出来ると言われている。
最早、聖女の力を付与された聖騎士であっても触る事すら許さない代物なのだ。
司教が不在であった所を狙ったかは分からないが、奪われそうになったマントを神官が持ち出して逃げたが、その神官は裏路地にて死体で見つかった。
それ以来マントは見つかっておらず、姉上は、“借りれるものなら借りてきて”と言っただけだと主張し、敏感に反応した神官が悪いと罵った。
司教は怒り心頭だが、聖女教では、聖女の言う事は絶対だ。また、王家と聖女教の仲が悪くなった事件である。
やはり、新聖女の件も拙い展開になりそうだ。
「姉上、良―く聞いてください。そのお腹にいた娘が、今代の聖女になったんです。」
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「えーと、整理すると私を逆恨みしに来るかもって事?
うーん、じゃあ謝っちゃえばいいわね。聖女だし心広いに決まってるし」
「姉上、その子の父・母は過重労働の末に死亡しています。謝る相手はいませんよ」
「いないなら、謝る必要ないわね。
良かったー。
何でそんな話をするのよ。
やっと国外旅行が出来るようになったのよ。」
「姉上、直ぐ行った方が良さそうですな。侍女たち姉上をサポートし早急に国外に行けるよう準備しろ。早急にだぞ。分かったな。」
これは、冤罪を証明して今の聖女を名誉回復したとしても元聖女の姉上の罪になってしまう。そうすると元は付いても聖女を罰したことになってしまう。
これは出来ない。
奴隷のまま式典等に出したら、王家の威信は失墜してしまう。
とにかく奴隷であるのは拙い。
しかし、奴隷であったことは、広まってしまう。
取り敢えず一切の式典の場には聖女を出さない事にしよう。
どうしても必要なら秘密裡に行うしかない。
「宰相、聖女が奴隷として働いていた農家は、聖女を不逞に扱ったとして斬首にしろ」
「王子を呼べ」
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王子が謁見の間に来て、片膝をついた。
「おもてを上げい。既に聞き及んでおるとは思うが、新しい聖女が誕生した。最初は、王子の妃にと思っておったが、さすがに無理がある。
王子はどう思う」
「父上、さすがにご勘弁願いたいと思っておりました。
奴隷の妃など物笑いの種にしかなりません。
斯様な奴隷の身分の者が私に近寄ろうものなら、無礼討ちで切り捨てるまででございます。」
「相分かった、ただし聖騎士の付与式だけは、せねばならん。
最早、姉君の付与効果は切れている。
早急に行わねばならぬ。聖女の機嫌を取る事は忘れるなよ。
もし、付与できなくなれば、他国に嗅ぎ付けられ、攻めてくるは、必死だと思え」
「奴隷など牢に閉じ込めて、無理やり脅せば良いのではないですか」
「良いか王子よ、まず、聖女を監禁した場合、1週間以内に石の中に入らなければ、気が狂うそうだ。姉君が言っていたのを聞いていただろう。もしそうなれば、聖騎士の強化付与は消え、この国は終わる。
脅すにしても、既に両親も親戚もない身の者を脅すには、拷問するしかない。自殺すれば石の中に戻り、二度と出てこなくなるぞ。
良いか、間違っても短慮はするな。
これは、国の存続が掛かった重大事項である事を忘れるのではないぞ」
「ははー」
王子は、言い足りなさそうだが、ここはこのまま引き下がった。
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