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14.聖女王国それは、聖女の王国


王城での一件以来、5カ月が経った。


北の国境の町ノースンでは、王子ジョエインが、巡回をしていた。


前回の越境での殲滅により、北の国は、親和路線に傾いている。大国でもあり、他との小競り合い等からあまり進まないが、頻繁に親善大使が訪れるので、その対応も含め1月程の巡回に来ていた。


「しかし、聖女の信者は、東の荒れ地に行って帰ってこないようだが、あんな所では、生きていけないはずなんだよね。間者は帰ってきているの」


「それが、信者に紛れて、間者が森を通ろうとすると、いつの間にか森の中で一人になってしまい、歩いていくと入口に戻ってしまうのだそうで、何回通ろうとしても入口に戻ってしまうので荒れ地が見えないそうです。

全く報告を聞いても分かりません」


「うーん、やっぱり東の荒れ地には、何かがありそうだね。一度王都に帰り父上と話してみよう」


「それから、麦の収穫が遅れています。最初は、2割程度の国民が東の荒れ地に旅立ってしまったので、人手不足から遅れていると思っていたのですが、どうも今年は麦の発育が悪く実りが3か月くらい前から遅くなってきているそうです。」


「ここら辺の麦は、青いままで、何か萎んできているようにも見える。こんな事初めて見たように感じるが、何か異変が起こっているのかも知れない」


「これは早急に王城へ戻ろう。聖騎士団に伝えろ、駐屯者以外緊急で王城へ向かう」


“はっ”


皆、馬に乗ったがいつもと違う。何か全体が重たいのだ。鎧も重たい、剣も重たい、それを支える馬はもっと重たいようだ。

「どうしたシルバー、農耕馬でももっと早く走るぞ」

馬車で20日の距離も1,2日で走る名馬が、ポコポコ歩いている。

他の騎士の馬も同じだ。

騎士の聖女紋はちょっと薄い気はするが、付与されているようだ。


途中、休み休み進んだ。5日目から少し力が戻り、駆け出し始めた。

周りの小麦は青いが、穂に実が大きくなっていた。

王都に近づくと穂は黄金色に光り収穫の時期と見える。

シルバーも猛スピードで王城へ入っていった。


「父上、ただいま戻りました。」


「おお、息子よ、良く戻った。聞いているとは思うが、穀物等が王都から遠いところで枯れ始めている。今までこのような事は、起こったことが無い。

それに、王都内では、疫病が蔓延し始めている。

原因は、学者が調べているが、未だ分からぬ」


「これは、やはり聖女が関係しているのではないでしょうか、2か月前からの信者の大移動が起こり、ほぼ、東の荒れ地に全員が到達すると時を同じくして穀物が枯れ始め、疫病が蔓延する。聖騎士たちの力も王都から遠方では弱まっています。

因果関係は全く分かりませんが、偶然にしては出来過ぎではないですか」


「王子よ、東に行き聖女を捉え、王都に連れて来い。平民を殺すと脅せば、簡単に付いて来よう」


「は、東の森へ行ってまいります」


最早、あれから6カ月が過ぎようとしていた。


マリオンは、王国に信者が残っているか、感知できる。

今、暗闇の森の前で水を飲む80人が最後の入植者だ。

西の最奥の開拓地から来た老人のグループだった。この国では、奴隷が働けなくなるまで生きると恩賞として奴隷紋はそのままだが、国の端っこの村で死ぬまで自由に生きられる。


マリオンは、黒い霧を出し、皆を包んだ。奴隷紋は綺麗に無くなり病もなくなり元気いっぱいに森へ入っていった。


マリオンは、10m程高台に登り、西の大地に茂る草木が枯れていくのを“ぼー”と観ていた。


すると、向こうからポコポコと馬に乗った聖騎士団が現れた。

既に聖騎士の聖女の紋章は消えていた。と言うかマリオンが先ほど消した。


聖女のパワーチャージは、聖女に近づくと力を増す性質がある。面倒なので消しておいたのだ。


「おい、奴隷聖女、いったい何をした。早く元に戻さぬと国民をお前の前で殺すぞ。」

そう言って、マリオンのいる高台に登ろうとしたジョエイン王子だったが、


「そこから降りてこい、そうしないと、一人一人、腕を切り落とし、足を切り落とし、目を抉り、そのまま放置してやる。

分かったらさっさと降りてこい」

「・・・・・・・・・・」

「おい、何か言え、ぐうう」

マリオンに痺れを切らした王子は、崖を登ろうとしたが、今の彼には、鎧が重く、剣も重く一向に上に登れない。

諦めたのか、崖の下で胡坐をかいて座ってしまった。

「ちくしょう、馬鹿にするな」

「ねえ、お願いがあるの。王様に伝言を頼みたいのだけどいい?

そしたら、パワーチャージ付与を2、3日してあげる」

「何だ」


「それじゃお願いね。

大事な事を教えてくれて、王様本当にありがとう。

“誰を生かすのか、誰を殺すのか”その選択が重要だって本当に心の底から思ったわ。

そう、今いる西の人達を切り捨てたの。貴方達をね。そこの住民どうしで何をしようと私は構わないからもう少しで終わる命を楽しみなさい。

ここは、聖女王国、聖女が主の国よ。

そう伝えてくれますか」


「ああ、分かった。パワーを戻してくれ」


「それから、今から2,3時間でここから立ち去らないと土が灰色になり命を吸い取られるわよ」

マリオンは、約束通り「パワーチャージ」を付与し、森の中に消えていった。


「奴隷聖女を追え!」


聖騎士たちは、暗闇の森に入っていった。既に中央にあった道は無く、暗い森を走っていくと数分後光が見えた。

そこは、先ほど入って行った場所、つまり元の場所に戻っていた。

木に傷をつけ入っても同じ場所に戻る。

火をつけようとしたが、全く燃えない。


2,3時間経っただろうか、森の前の土が、段々灰色になって来た。

どうせ追わせないためのはったりだろうと思っていたが、騎士たちが蹲り始めた。


王子は、シルバーに乗り「今すぐ戻るぞ」と言って王都に向け走り出した。

半分が、うずくまったまま息絶えた。


2日で王都に帰って来たが、既に王都の周りの作物は全て枯れ異臭を放っていた。


王都に入ると至る所に死人が転がっていた。疫病と言っていたが、体の生気、魂まで全て吸い取られたミイラのように見える。臭いもせず、かえって不気味さを感じる。


唸り声が聞こえるので、未だ生きている者がいるのだろう。


死屍累々の道を王城へ歩いていく、手をこちらにかざすミイラを見ると地獄の亡者のようだ。


王城の門にも、中にも誰も居ない。


謁見の間に辿り着いた。


玉座には、下を向いて王が座っていた。隣には母上と思しきミイラがあった。

「父上、ただいま戻りました。」


「おお、息子よ、戻ったか、元に戻るのか」


「聖女からの言葉を報告します。」


侘しい声で王子は告げた。


「大事な事を教えてくれて、本当にありがとう。

“誰を生かすのか、誰を殺すのか”その選択が重要だと心底思った。

今いる西の人達を切り捨てた。我々を。

もう少しで終わる命を楽め。

ここは、聖女王国、聖女が主の国だと」

暫く天を仰ぎ、背中を震わせながら王は言った。

「そうか、我が一番愚か者だったのだな。・・・・・8割を切り捨てるか・・」

そう言って王は、萎んでいった。


聖騎士団を解散し、皆自分の家に帰っていった。俺も王城の自分の部屋で眠りについた。

朝が来た。

体がだるい。何か体が吸われているように感じるし、起きたばかりでも眠い、俺の魂まで吸われている感じがする。

もうどうでも良くなった。

眠い。・・眠い。

死にたくない。どこでこうなった。奴隷だろうと何だろうと生きていたい。

何処で間違った。

多くの人を殺した。自分が死ぬのは怖いのに、こんなに怖いのに、皆笑いながら殺した。俺は死なないと思っていたが、どこでそんな自信が生まれたのか、


もういいや、生きるのは苦しい。


ジョエインは、ふーと息を吐くと同時に干からびて行った。


・・・・・・・聖女王国・聖女マリオン・・・・・・

今、東の大地は、豊かな実りの大地となった。


皆で小麦を収穫しているようだ。


私は思う、500年後西に移動することが無いようしよう。


でも今は祝おう、


さようなら、ウエステリア。


こんにちは――聖女王国・イーステリア――



誤字・脱字、文章の繋ぎがおかしな所を修正しました。

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