12.聖女は歌う
あれから3か月何事もなく時は流れた。
夜、大聖堂の塔の上に聖女は、立っている。
風がワンピースの裾を靡かせる。
彼女は歌う。
――人はいつも苦しい。人はいつも悩む。人はいつも失敗する。
でも、人はそれでも努力する。人はそれでも挑戦する。人はそれでも正しい事をする。
だから、人はきっとやる気になる。人はきっと成功する。ひとはきっと楽しい。
そう、人は、みんな私の使徒、きっとみんな幸せになる。
陽が必ず上る様に、優しい子には優しい風が吹くように、頑張る者には熱意が届くように、正しき事を行う者には、正義の風が吹くように、必ず私が応援する。必ず私が成功させる。さあ、あなたの未来を切り開きなさい。誰にでも夢見る世界はあるのだから―――
波紋が全国にその声を届ける。
とある辺境の村の子供が、
「あ、聖女様が呼んでる。行かなくちゃ」
「そうね、着るもの、食べるものを用意しましょう。朝には出られるわね」
また別の村で、
「分かった、東に向かうんだね。」
街の鍛冶屋で、
「そうだな、儂の力が必要だ。絶対役に立つからな。聖女様」
街の商家で、
「ありったけの馬車を出すぞ、必要なものを積み込もう」
とある辺境の村の夫婦が、
「あ、聖女様が呼んでる。荷造りしないと」
「こんな夜中に何を言っている。早く一緒に寝ようぜ」
「貴方は、あの歌が聞こえないの?」
「聞こえるのは、虫の声だけだろ。早く子作りしようよ」
「一人で寝てください。やる事があるの。
それから、さようならもう二度と会う事は無いから」
とある国境の街で、
「ああ、みんな聞こえたか、聖女様のために必要なものは、荷馬車に積み込め。
食べ物は、自分で運べよ。東の果ては結構遠いから動ける分だけにしろ」
「あなた、何してるの明日も仕事があるんでしょ。働かない男など必要ないのよ捨てるわよ。この屑」
「ああ、やっぱりお前には聞こえないようだな、今日でお別れだ。家の金で化粧品や高い服ばっかり買ってねーで、自分で稼げよ。達者でな。」
「何を言ってるの。私はあなたの妻よ、何処まででも付いていくわよ」
「ついて来ても構わないが、ここから、1000km以上歩くし、聞こえないものはそこにはいけない。だったらここで暮らした方がいいと思うぞ」
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大移動が始まった。
西の端から、南、北、国の至る所から老若男女を問わず街道を歩き出す。
ありったけの荷馬車にものを積み、大人も子供もリュックや図他袋を背負い歩き出す。
小さな女の子が、嬉しそうに聖女の歌を口ずさみながら歩き出す。
まるで未来が見えるのか、希望に満ちた顔で歩き出す。
みんな笑いながら元気いっぱいで歩き出す。
聖女の声が聞こえなかった者は、気がふれたと恐怖した。
悪さをする者はいないが、とにかく早くいなくなれと念じながら見送っていた。
上から見ると、黒い蟻の大群が行進するよう街道に人が歩いていく。
皆は、どの方角の者たちも東を向いて歩いていくのが見える。
暗闇の森の近い東の村の者は、小川から水を引き、いつでも水が飲める水場を作っていた。
必ず皆この森を通るので、最後の力水だ。
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最初の者が東の暗闇の森に到着した。
皆、東の荒れ地を目指してきたのだ。
―――聖女様と死ねるならここは、天国だ。―――
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・・・・その頃 王国では・・・・・・
「国王様、大変です。街の者たちが王都を出て行きます。その数人口の2割に達します」
「なに、どのような者たちなのだ。」
「はい、大聖堂の商店街の人民、スラムの者、いつも反抗的な街の者達です。
方向は皆、東の方に向かっているようです。」
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手を顎に当て、少し考えた王様は。
「丁度要らない奴らがいなくなるのだ。構わう事は無い。」
「しかし、反抗的ですが、働き者が多くてですね。この後困るかと」
「良い、そのようなものは、ほっとけば直ぐに出てくるから案ずるな」
「国王様、国内の各地から国民たちが移動しています。皆東の方角を目指しているようです」
「だから、どのような者たちなのだ」
「はい、特に国に反抗的だった村などが多く、町などでは、聖女を敬拝する者達です。
規模は、全体の2割ほどであります。」
「皆、聖女を敬拝する者たちなのだな」
「はい、報告によりますと殆どが聖女を崇拝し、言う事を聞かない民と聞いております。
口々に聖女が歌っていた歌を口ずさみ、東の荒れ地を目指している模様」
「歴史も残らぬ前から閉ざされた大地だぞ。食べ物どころか、来るものを死に追いやる場所に自分を崇拝する信者を招き入れるとは、如何な聖女でもあの広大な荒れ地をどうする事も出来る訳がない。歴代の聖女よりちょっと力が強いくらいで何を勘違いしたのか」
・
肘をつき、顎に手を当てながら、考え込んだ国王は、笑い出した。
「あはははは、聖女、ついに狂ったか、自分を支持するものを荒れ地に連れ込んで集団自殺でもするつもりか。
自分は死ねぬのに。皆が死んでいく姿を見るなど気が狂っているとしか思えん。そんな事、我でも出来ぬわ」
「しかし、ちと、追い込み過ぎたか、数か月前の脅しが相当堪えたかのう」
また、ほくそ笑みながら
「このところ、好景気で小麦はバカ売れ、果物など腐っていても売れる。
そして、要らぬものが消えるとあっては、もう笑うしかないのう。宰相よ」
「はは、本に笑いが止まりませんよ。金庫は数十万枚の金貨で溢れかえっていますよ」
「そうだな、そろそろ、新しい側室でも入れるか。王妃は、旅行三昧で全く帰る気配もないし、金は、唸るほどある。」
「国王様、あまり張り切り過ぎると、世継ぎ問題で大変な事になりますから程々にお願いします」
「大丈夫だ。男の子が生まれれば、王妃が勝手に処分してくれる。だから王妃の子の王子が一人しかいないのだ」
「ただ、王妃様が動くと、侍女から従者まで毒で死にますから揉み消すのに大変なんです」
「其方が優秀なのは分かっておる。何か褒美を授けるから頼んだぞ」
・・・・・・・・・
キャラバンと化した一行は、東の荒れ地を目指す。
力水を飲み、森を見ると、暗闇どころか優しい風が吹き、日差しが入る。
10km程通り抜けると、そこには、見渡す限りの草原と綺麗な小川が流れていた。
小鳥はさえずり、若葉が芽を出しながらぐんぐんと伸び始めている。
奥の方には、まだまだ小さいが、小麦、ジャガイモなど色々なものが芽を出し育っているのが分かる。
それが、果てが見えない程、続いていた。
それでも、人々は、真ん中にある道を進んで行く。
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