11.王城へ
王城の前までフラフラしながら歩いて来た。
何で私は何もできないんだろう。何で私の周りの人は幸せになれないんだろう。
何で皆死んでいくの。楽しい笑顔が見たいだけなのに。
人を殺すのを躊躇うから、人を善人であって欲しいと思うから、
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・・・きっと私が甘いからだ。
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門に辿り着いた。
2mを超える。全身甲冑を着て、ハルバートを持つ門番が二人立っていた。
「ここは、王城。許しの無いものは通れるぬ。立ち去れ」
門番は、ハルバートを交差し、マリオンの行く手を阻んだ。
「ここは、私の国。私を害する国民はいらない。私を阻む国民もいらない」
マリオンはそっとそのハルバートに触った。
二人の大男は、ガシャガシャ音を立てながら倒れた。
甲冑の顔の部分を見るとミイラの様に干からびた顔が覗いていた。
後ろにいた文官らしき者が、四つん這いになりながら逃げて行った。
門を潜り、中央の広場に差し掛かると、30人くらいの聖騎士団が駆け付けて来た。
遠巻きに囲いながら、
「如何な聖女であろうと、30人の聖騎士に一気に突かれれば、只では済むまい。いいか皆一斉に突くぞ」
「おい、奴隷のくせに、いい気になってこんなところ来てんじゃねーよ。
どうせ王国には逆らえねえのに、今度は裸にひん剥いてやろうか、
下賤の者がうつるから膾にしてしょんべんでもかけてやるよ」
“せいの!”
聖騎士たちは一斉に槍で聖女を突いた。
しかし、槍はマントの前で止まったままだ。
マリオンは、一本づつ手を添えて行った。
“ガシャン”・“ガシャン”・“ガシャン”・“ガシャン”・・・
ゆっくり一人ずつ倒れていく。
倒れた者の顔は、ミイラの様にどす黒く、萎んでいた。
「ヒー、抜けろ、抜けろ、なぜ抜けん。手が離れない」
“ガシャン”
「嫌だ―死にたくない。助けてくれ、もう二度としないから、聖騎士から抜けるから」
「助けてくれと命乞いした人を聖騎士が助けていたのを見たことがございません。どちらかと言うとにやにや笑いながら、“助ける訳無ーだろ”と言って殺していましたね。」
“ガシャン”
「や、や、やめろ。助けて、私には小さな娘がいるんだ。誰が彼女を育てるんだ。それでも聖女かよ」
「貴方に育てられたら碌な娘には育ちません。これで奴隷に落ちても良い人生を送れるでしょう」
“ガシャン”
「聖女がこんな事していいのか、人を助けるのが聖女だろ。この人殺し俺を助けろ」
「人を助けるのが聖女です。」
「だったら許してくれるのか」
「簡単な算数ですね。
貴方は、今まで数百人の国民を殺しましたね。
では、今後も殺すでしょ。
あなた一人がいなくなれば、数百人の国民の命を助けた事になります。
死んでください。」
“ガシャン”
いつの間にか広場には、誰も居なくなった。
中央広場から奥に進むとお城に入る大きな扉があった。
閂をしているのかびくともしない。
マントにお願いしたら、黒い霧が隙間から中に入り扉を開けてくれた。
本当このマント便利だわ。
“ギギギーー”
中から槍が5本マリオンに向かって飛んで来た。
聖女の呪いが発動し槍は投げた本人にリバースされた。
また100m位すると扉があった。先ほどの文官が立って扉を開けた。
真正面には、玉座に王が座っていた。王妃はいない。
マリオンは、初めて謁見の間に入ったが、玉座の上にもう一つ椅子があるのがそこに女性が座っていたのが不思議だった。
右側に王子ジョエインが立っていた。左側に宰相ではないかと思われる老人がいた。
王の横には近衛騎士が二人、謁見の間の両脇には、2mはある大男の聖騎士が25人づつ帯剣して立っていた。
私は、その真ん中を王の前まで歩いて行った。
5m程手前だろうか、線が引いてあり、そこに来ると宰相らしき老人が
「控えろ、そこで跪くのだ」
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「王の御前であるぞ、控えろ、そこで跪け、この下賤の者が、礼儀も知らぬか」
「お爺ちゃん、煩いから黙っていてくれる。今、王様と話があるから」
「な、な、・・」
宰相は赤い顔をして黙ってしまった。
「王、貴方は、なぜスラムの民を害したのか、はっきり説明してくれますか」
「何を言っている。盗人を成敗して何が悪い。この国の国王は、私だ。聖女こそなぜ妨害する。」
「私は、嘆願書を出したはずよ。小麦を運んできたのは、王国の者よ。スラムの民が運んだわけじゃないのに、なぜスラムの人たちを殺したのか聞いているのよ」
宰相が口を挟んだ。
「この無礼者が、下賤の身でありながら、国王陛下に何と言う口の利き方、衛兵このものをひっ捕らえよ。」
衛兵が、近寄って来た。
「貴方たち死にたいの。死にたくなかったら、ここから退場しなさい。
面倒だからそのお爺ちゃんも退場してくれるかな。
私は聖女、この国の主。私に逆らう事は、死を持って償うことになる」
近衛兵が手を掛けようとすると、近衛兵はミイラのように干からび倒れた。
「ヒーー」
「宰相下がれ、話が拗れる」
宰相は、四つん這いになりながら、謁見の間を出て行った。
「聖女よ、良く考えてみよ、王国の為に働く優秀な文官を罰するより、スラムの役に立たぬ輩を罰するのはどちらが正しい?どちらが得だ?考える必要もあるまい。これが政治と言うものよ。」
「ふざけて話してるの。王国のために働いているのではなく、貴方達が贅沢する為に働いているんでしょ」
「何を言う、国の王の私のために働くのだから国の為であろう。王族が貧しい暮らしをしていたら、他国に侮られるのは必至、結局は国民が被害を被るのだぞ」
「だったら最低限だけ使いなさいよ。皆が疲弊するほど税金を取って、平民たちは、餓死者も出ているにも拘らず、文官含めて自分達だけ美味しい物を食べるなんておかしいとは思わないの」
「そうか、羨ましいか、だったら聖女も貴族にするぞ。
こちら側に来れば美味しい料理も煌びやかな服も買い放題だ。
さすがに奴隷のお前を王子の嫁には出来ぬが、どうだ、男爵あたりに叙爵してもいいのだぞ。悪い話ではあるまい。今までの聖女も王族に組してきたのだ。
30年が過ぎ、聖女で無くなった時どうやって暮らすのだ。
王家と敵対したら、命すら危ういのだぞ」
「王家?そんなまがい物に何の興味もある訳無いでしょう。
こんな事しておいて、何が王家よ。この恥知らず
返答次第では只じゃ済まさないわよ」
「何をいきり立っている。
今回スラムが標的になったが、次はどこがいい?
商店街か、言う事聞かない農村か、どれがいい?
この国の国民の生殺与奪は、儂が握っておる事を忘れるな。
儂を怒らせるなよ。
言う事を聞かなぬ国民などいらぬのだよ。
民衆など勝手に増えて始末に負えんのだ。殺してもまた勝手に生まれる。
儂の権限で不要と判断したらいくらでも殺してやる。
よく覚えておけ“誰を生かし、誰を殺すのか”その選択こそが国造りであり政治と言うものだ。
いいか、もう一度言う、儂を怒らせるなよ。
聖騎士も付与を忘れるなよ、国が攻められ、国民は沢山死ぬぞ。
いいのか、お前の大好きな国民が皆殺しになるのだぞ。」
マリオンは、手に爪が食い込み、血が出ている。目も血走り震え始めた。
「ははは、声も出ぬか、まあいい今回の事は大目に見てやる。二度と儂に逆らうな。この奴隷が」
上から元聖女が降りてきて、
「貴方、生意気ね。だいたい親が奴隷にされたからって、こんな逆恨みするのはやめて欲しいわ。貴方の親は、平民の分際で、聖女である私に食って掛かって来たのよ。
この王族で聖女の私によ。
だから奴隷にしてやったわ。
いい事、私に逆らう事は、国に逆らう事なの。
貴方が聖女でも奴隷では私とは身分が違うのよ」
「それと、そのマント渡しなさい。それは、私が貰うはずだったマントよ。どこで見つけたか知らないけど盗人で訴えるわよ。
早く返しなさい。」
マリオンはマントを脱いでパトリシアに渡した。
パトリシアは、喜んでマントを羽織った。
「私の方がやっぱり似合うわね。」
パトリシアは、クルクル回りながらはしゃいでいたが、様子がおかしい。
マントが段々黒くなりながら体全体に纏わりつき始めた。
「・・・う、う、う、苦しい」
パトリシアは蹲り動かなくなった。
「あら、どうしたの。返せと言うから渡したのに」
「助けて、体が動かない。脱げないの。助けて・・」
「そのマントは、選ばれたもの以外が着ると命を吸うみたいね。
今までそんな馬鹿な事する人がいなかったから分らなかったの。
協力してくれて、ありがとう。」
マリオンは、マントを外してやり、自分で羽織った。
パトリシアは、90才位の老婆の顔となり、手足も皴皴になってしまった。
「あ、元には戻せないわよ。だって私じゃなくマントが勝手にやっていることだから
それに、貴方が自分で羽織ったのよ。私は何もしてないわ
それでも、私の親の様に死んでしまった訳じゃないのだから本当にラッキーね。
パトリシアお婆ちゃん」
マリオンは、マントを翻し、それ以上何も言わず、王城を離れた。
・
・・・・・国王側・・・・
「姉上を部屋に下がらせ、看病せよ」
お付きの侍女は一礼し、パトリシアを肩に担ぎ、その場を去った。
「姉上は自業自得だな。もう一人で動くことも叶わぬだろう。
これ以上尻ぬぐいをしないで済むと思うと感謝したいくらいだ」
「父上、あの奴隷をあのまま下がらせて良いのですか。
部下を何人も殺され、このままでは腹の虫が収まりません。」
「いいか、冷静になって良く考えろ。
聖女は、幾ら殺してもまた生き返る。
聖女がいないと聖騎士が強くならない。
最強の聖騎士がいるから我々に誰も逆らえぬのだ。
聖女が国民を救いたいなら救わせれば良い。
我々に都合のいい者をな。都合が悪ければ、見せしめに何人か殺せばいい。
逆に言えば、聖女が王国に都合の悪い輩をあぶり出してくれているのだ。
いままで、分からぬまま裏で燻ぶっていた連中が、弓引く前に分かるのだから、今代の聖女には感謝すべきだろう。
聖女を監視さえしていれば、我々に都合のいい状況にすることは前より難しくない。
他国と和睦など結ばず戦えば、聖女は自国民を守りたいから聖騎士を強化せざる負えない。
聖女は助ける。誰かが殺される。聖女は助ける。また誰かが殺される。
これを繰り返せば、30年間聖女も頑張った達成感が生まれるだろ、我々はそれを監視し、取捨選択すればいい。
さすれば、前より強固に我々の思いのままにこの国は操れるのだ。
いいか、王子よ。もっと聡明になれ、儂もそれほど若くない。力だけでは国は動かせん。今のうちに研鑽を積むのだ。」
黒い笑みを浮かべ、ジョエインは、首を垂れた。
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