第五話:子供と大人
メイメイは兄と違って、活発な女の子だ。
そして兄よりも少し俺に対して遠慮がない。
「ふうん。コーヨー、モテモテだね」
彼女が俺に胡乱な目を向ける。
「別にそういうんじゃないさ」
兄から木田と湯原と俺が仲良くしていると聞いた途端、メイメイは何かを誤解してしまった。
「でも一緒に遊ぶ約束したんでしょ?」
クマッチョも何でもない風を装っているが、内心気が気ではないのだろう。トイレを我慢しているみたいにそわそわと落ち着きがない。
「…約束とはちょっと違う」
心苦しいが、メルヘルに相談してみてどうするかを決める。ダメだと言われたら適当に都合をつけて断るしかない。
「……まあコーヨーが誰と仲良くしようと、私には関係ないけど」
メイメイはそう言って一人早足で歩き出す。気にしてるじゃないか。
二人とも俺の交友関係には気を揉む。それは多分二人にとって俺が一番の友達だから。
そんな幼い独占欲が、嬉しくもあり、うっとうしくもある。
俺はやれやれとため息を吐くと、機嫌を損ねたメイメイを追いかけた。
クマッチョの家で夕食をご相伴になり、時刻は夕方というより夜。昨日よりももっと暗く、冷たい空気が森の中から吹き付けて、俺の前髪を揺らした。
右手にぶら下げた懐中電灯のスイッチを入れ、森を照らす。オレンジ色の光線が寝静まった木々の間を突き抜けた。一つ身震いして、俺は森に足を踏み入れた。
懐中電灯の光は、取り敢えずの進路を照らすだけで、その先は全くの暗闇だ。暗闇から不意に何かが現れるんじゃないか、と視線をあちこち泳がせながら森を進んでいく。
しばらくそうやって進んで行くと、懐中電灯の光が一際大きな木、ケヤキじゃないかなとあたりをつけている、を捉えた。少し幹が剥げている。俺が殴ったところだ。
「やっと中間地点か…」
幹に手をついて、その場にへたり込みたいのをどうにか我慢した。
「誰かと思えば…コーヨーですか」
昨日の今日で聞き間違えるべくもない。幹の向こうにやはり淡い白が見える。知り合いの馬だ。パカパカとその場で足踏みしている。
「ごめん…寝てた?」
呑気な質問だなと、自分でも思った。
「ええ。人の気配を感じて…まあ貴方だというのはすぐにわかったんですが」
メルヘルが小首を傾げて見せる。さっき気付いたと言ったのは彼女なりのお茶目だったらしい。
例の開けた場所の奥に、干草を敷き詰めた場所があった。メルヘルが言っていた「寝床」だろうと推測する。淡く光る白い蹄が、その草を踏みしめた。
「それで何か御用ですか?」
君に会いたくなった、と言ったらどうなるかなと思った。正解ではないが、嘘でもないような気がする。
俺は軽口を諦め、事情を説明した。
「…ごめんね、約束したのに」
「謝ることはありませんよ。貴方は何ら約束を反故にするようなことはしていません」
メルヘルが優しく笑った。
「でも」
「私は、私の存在を言いふらさないで下さいとお願いしたまでです」
けどそれは。結果としては同じことじゃないのか。
「……」
俺は何と言っていいかわからず、暗い森を見つめた。
「いいでしょう…連れておいでなさい。何もいないと分かればその子達も興味を無くして、もう来たいとは言わなくなるでしょう」
メルヘルに向き直ると、メルヘルはまだ優しい笑みを浮かべたままだった。
「ごめんね…ありがとう」
メルヘルが俺の頭を顎で優しく撫でてくれた。母さんもよく俺の頭を撫でてくれたっけ、と思いながら髪に伝わる体温を感じていた。