第四話:友情の裏表
「昨日はごめんね」
登校すると、いの一番にクマッチョが大きな体を丸めて俺に謝った。変なところでクマッチョは気にしいだ。
「何言ってんだよ。そもそもお邪魔してるのはこっちなんだから」
仕事の忙しい父さんは、家事に時間を割けず、苦肉の策として俺の食事は幼馴染のクマッチョの家に厄介になることになっている。一応食費名目で父さんが月々幾らかクマッチョのお母さんに渡しているが、やはり迷惑をかけているという思いも少なからずあるのだ。
「…うん」
クマッチョが丸い手を組んだ。納得していないときのクマッチョの癖だ。
「今日は二人でメイメイを迎えに行こう」
「うん。芽衣もコーヨーに会えなくて寂しそうだった」
クマッチョが歯を見せて、人懐っこく笑う。クマッチョは一つ年下の妹を可愛がっている。幼馴染の俺と三人で今でもよく遊ぶくらい、兄弟仲は良好だ。
一応木田とは同じ班であるため、話くらいは幾度かしたことはあったが、昼食に誘われるほどの仲ではなかったはずだ。
昼休みに突然、木田と湯原に学校の中庭に連れてこられた。昼休みのチャイムが鳴るやいなや、手を引っ張られてわけもわからないままに中庭にいる。昼食を外で取ろうと、数人の生徒が校舎から出てきて芝生や、ベンチに腰掛けていくのをぼんやり眺めていると
「私達もあん中入ってみたいんだよね〜」
湯原が空いているベンチに腰掛けながら、間延びした声を出す。
「森の中?」
内心まずいな、と思った。ユニコーンはあそこで静かに暮らしたいと言っていた。
あまり人がどしどし入ってしまっては、約束を破ることになってしまう。
「そ!結構深くまで入って何にもなかったんしょ?」
湯原が目を輝かせる。木田は少し躊躇ったが、右に同じと頷いた。何となく二人の関係性が見えてきた気がする。湯原が引っ張って、木田がそれに着いて行く。そんな感じだ。
「……まあ」
昼食も取らずベンチを占拠する二人に苛立たしげな視線を送りながら、数人の生徒が過ぎ去っていく。
「でも、何で俺に言うんだ?」
行きたいのなら勝手に行けばいい。俺は二人の保護者じゃない。
「にっぶいなあ。日野君に案内してもらいたいの!」
強気を保っていた湯原の顔に少し、不安の色が浮かんだように見えた。
「…つまり、行ってはみたいけど二人だけじゃやっぱり怖いから俺について来て欲しいと?」
「しょうがないでしょ!だって幽霊森だよ?」
湯原が語気を荒げる。木田は少し不安げに湯原と俺の顔を見比べていた。彼女は争いごとは嫌いなタイプなのかもしれない。
「…明日まで待って」
結局俺が折れちゃうのか、と少し情けなくなった。
「じゃあ決まりね!明日にはいい返事期待してるよ〜」
湯原が快活な笑みを残して、校舎のほうに走っていく。
「ごめんね。早紀って結構強引なとこあるから」
残された木田が力なく笑う。
「……」
「…別に私は行きたくはないんだけど」
「え?」
「早紀って交友広いから…多分自慢したいんだよ」
木田が口を尖らせて言った。俺なんかに本音を語ってもいいのか、と何だか落ち着かなくなった。少し寂しい気持ちにもなった。
「…そうなんだ」
何が面白いのか、木田が口元を押さえてクスクスと笑う。
「早紀には内緒ね!」
そう言い残して、木田は友人の後を追って走り出した。
上下に揺れるポニーテールをぼんやり見つめていると、昨日追いかけた白い馬のお尻を思い出した。