第三十一話:仲良し
木田と湯原をもっと仲良くさせよう作戦。
思って俺は笑いそうになった。俺の失言に端を発した一連のどたばたは、結果としてはより二人の関係を緊密にすることに繋げれるんじゃないかと思うのは俺の傲慢だろうか。
河原のゴツイ岩に腰掛けて、少しぎこちなく言葉を交し合う二人をぼんやりと見つめながら、俺はそんなことを考えていた。
ゴールデンウィーク二日目。今日も今日とて五月晴れに恵まれたこの日、俺は湯原、木田、それにクマッチョ、メイメイ兄妹も誘って、俺たちの住む街から二駅ほど離れた山に来ていた。
昨日の夕方に立案して、そこから各人に連絡を入れたにも関わらず、全員が参加できたのは僥倖だった。ピクニックに行こうという安直な俺の誘いに、全員が二つ返事で了承してくれた。
「何見てんのさ?」
突然背後から声をかけられて、俺の体がぴくりと跳ねる。
「メイメイか…二人があまりにもカワイイから見てたんだよ」
メイメイは膨れっ面で俺を睨む。
「アイツら、上手くいくといいんだけどな」
湯原が時折笑みを見せながら、木田に何事か話しかけている。木田もつられて、自然に笑っている。
「大丈夫だよ…元々仲良しだったんだから」
メイメイの視線の先をたどると、クマッチョが懸命に火を起こそうとしていた。
必死の形相で、枯れ草を乗せた石を擦り合わせている。ライターを持ってくればよかったな、と今更に思った。
「第一今回のは、コーヨーが悪いんだから失敗したら責任取らなきゃいけないよ?」
メイメイとクマッチョには今回のあらましを伝えておいた。そのほうが俺一人で奔走するより、上手くいくような気がしたからだ。
「上手くいけよ」
俺に出来ることはここまで。無責任なようだが、あとは二人の問題だ。
湯原がケラケラと笑っている。
どうやら俺はすっ転んでしまったようだ。川の冷たい水がお尻を湿らせていく。
川魚を捕まえようということになったのだ。
岩と岩の継ぎ目に、イワナが潜んでいる。緑がかった銀の体色の魚の尾びれのあたりを掴んで引っ張っていたのだが、意外に大きくて力強い。俺たちはお遊びだが、彼等にとっては死活問題。自分の命を守るには、懸命に岩に食らいつくより他ない。つるりと掌から魚の尾が抜けるのを感じた次の瞬間には視界がひっくり返って、天を見ながら尻を強かに川底に打ちつけていた。
「…笑うなよ」
俺が不貞腐れても、湯原はお構いなしに笑い続ける。よく見ると遠巻きに見ていた木田もクマッチョ、メイメイも笑っている。
皆楽しそうに笑っている。
「これ結構難しいんだぜ?」
俺も知らないうちに頬が緩んでいた。