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第二十五話:余裕を

「なるほど…それで昨日は来れなかったんですね」

メルヘルのつぶらな瞳が俺を真っ直ぐに捉える。かいつまんでことのあらましを話しただけだが、俺が何を考えてそういう行為に踏み切ったかまで見透かされているような気がして、俺は下を向いた。干草が随分くたびれてきているのが視界に映った。

「…これからは毎日来れそうだ。停学になるだろうからね」

皮肉ったような口調になってしまう。俺はガキだ、とまた思った。

「コーヨーは正しいことをしたと思っているのですね?」

「……ああ」

だから拗ねることはないのに。少なくとも父さんは俺の見方だと言ってくれた。俺はだれかに認めて欲しいのだと、わかっていた。お前は間違っていないと言って欲しいのだ。

「私は心清いものにしか見えません」

メルヘルが突然承知の事実を言い出すものだから、俺は不思議に思って顔を上げた。

「あなたが正しいかは…私にはわかりません。けれどあなたが優しい人だということはわかります。でなければ私の姿は見えないのですから」

「…そうなのかな」

「…コーヨー、よく頑張りましたね」

メルヘルの優しい声音と笑顔。

ありがとう、と言った俺の顔は多分褒められた子供そのままの笑顔だったと思う。



家に帰ってしばらく、何をするでもなく、居間でテレビを観ていた。

バラエティー番組、プロ野球中継、ニュース…。チャンネルをころころ変えるが、どれもしっくりこなくて結局野球を観るともなく観ていた。

電話が鳴った。

我が家の固定電話の相手は大抵父さんからだ。慌てて取ると、中年の男の声がした。

「夜分失礼します。日野さんのお宅ですか?」

担任の岩下いわした教諭の声だと気付いた。

「はい…日野幸陽です」

ああ、こんばんはと電話の向こうの声は少し安心したような響きだった。

「丁度よかった…お前の処遇が決まった」

「…はい」

「明日からゴールデンウィークまでの停学…二日間だね。及びその間の外出禁止」

岩下が話し出すと、電話の横のメモ帳を取ったがメモの必要はなさそうだ。

俺はメモ帳を元あった場所にぽんと投げる。

「わかりました…」

自分でも冷静な声が出た。

「その…何だ…元気でな」

岩下の気まずそうな声。俺は噴出しそうになった。もっとマシな台詞を吐けないものか。

「はい、先生も」

ややあって、参ったなと岩下の苦笑が聞こえた。


あのイカツイ教師が動いてくれたのか、かなり軽い処分だ。

さあ、明日からどうして暇を潰そうか、と想像すると少し楽しくなった。


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