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第十五話:同属の夜の散歩(上)

どこかで見たことがあるな、とその少女の背中をずっと見つめながら歩いていた。

黄色いTシャツに、ジーンズ素材のホットパンツを履いている。


視線に気付いたのか、その背中がこちらを振り返る。少しきつそうな吊り目と、どこか締まりのない口元。それでいて鼻筋は西洋人のように綺麗。湯原早紀だった。

「あんれえ、コーヨー君じゃないかあ」

湯原は子供のように人懐っこい笑顔を見せながら、一歩二歩後退してくる。

「湯原…お前こんな時間に一人で出歩いて、危ないぞ?」

熊野家を後にするとき、居間の掛け時計は午後八時半を指していた。女の子一人でフラフラするには少し遅い時間だ。湯原は俺の心配などどこ吹く風、先生みたいとゲラゲラ笑っている。

「…早く帰るんだぞ?ここらも最近物騒だからな」

メインストリートから折れる、暗い路地の入り口に「痴漢注意」と書かれた建て看板が見えた。あまり家が遠いようだと、送って行ったほうがいいだろうかと頭の隅で考える。

「コーヨー君、暇?」

「お前俺の話を聞いてたか?しょうがないから家まで送ってくよ…家どこだ?」

「ひまぁ?」

湯原が猫なで声を出す。

「日本語通じるか?」

「暇だったら…遊ぼお?」

「こんな時間からか?」

改めて腕時計を確認すると、時刻は午後九時にさしかかろうとしていた。ついであたりを見渡すが、街灯に照らされた真っ黒なアスファルトが見えるだけで、人通りはほとんどない。

「そう…こんな時間から」

メルヘルの様子を見に行こうと、森までの道を歩いていたら予想外の拾い物をしてしまった。

湯原はいつになく、真剣な表情だ。遊び相手に逃げられまいと必死になっている子供のそれ、そのままに見える。何か思うところがあるのだろうか。何も考えていないだけだろうか。

「……親御さんが心配するんじゃないのか?」

湯原の表情が一瞬、凍りついたように見えた。立ち入ったことを聞いたかと少し不安になる。

「あたしんち、お父さんだけだから」

「え?」

あまりにもさらりと言ってのけるので、聞き間違いかとも思った。

「家に帰っても誰もいないの」

いつもの間延びしたような、馬鹿っぽい口調はさっきから鳴りを潜めている。人形のように表情を無くして、淡々と喋る姿に、彼女の寂しさが見え隠れしているようで、

「じゃあ、俺んちと一緒だな。俺んちも母さんがいない」

俺は気がつくとそんな言葉を口にしていた。湯原は目を丸くして、俺の顔を穴が開くほど見つめている。余計なことを喋っているな、と頭の隅の理性が囁いた気がした。

「いいよ、遊ぼう」

一人仲間はずれにされた子供に言うように、優しい声が出た。

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