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第十一話:誤解と再評価

教室に入るとすぐに、湯原と目が合った。軽く会釈をするとこちらに近づいてくる。

「おはよ〜う」

朝から相変わらず、やる気のなさそうな間延びした挨拶。こちらも投げやりに挨拶を返すと、教室を見回した。少し早い時間だからか、数人の真面目そうな生徒が机に座っているだけ。クマッチョはまだ中庭にあるクラスの花壇の世話をしているのだろうか。しかしこんな時間に湯原が登校しているとは意外だった。

「一昨日はごめんね」

急に湯原が真面目な声を出した。

「…何が?」

「私わがままだったよね?」

湯原が顔の前で手を合わせる。へえ、と心の中で感心した。一昨日の自分勝手な言動を謝っているのだ。この子はわがままなばかりではなく、ちゃんと相手を思いやれる優しさを持っているようだ。俺は湯原の顔をまじまじと見つめた。

「な、何?」

「いや…俺は気にしちゃいないよ」

「本当?」

なおも不安げに眉根を寄せる湯原に、なるべく優しい声で嘘ではないことを告げると、湯原の頬がようやく緩んだ。少し木田の気持ちがわかったような気がする。この少女は良くも悪くも幼い。嬉しそうに席に戻っていく湯原の背を見ながらそんなことを思った。



やはり森には日が暮れてから行った。

俺の都合というのもあるが、ここは私有地だと聞いたことがある。昼間から堂々と他人様の土地に上がりこむのは、一昨日だけで十分だ。あの時も俺は一人、回りに人がいないかと警戒しながら森に入っていったのだ。

勝手知ったる何とやら、暗い森の中をサクサク一時間程度進むと目的の白いお尻を見つけた。

「メルヘル、今日は夜のお散歩かい?」

メルヘルがその場で円を描くように回って、俺と向き合う。

「…昨日は来てくれませんでしたね?」

「え?」

「…なんでもありません」

メルヘルが前足で土を蹴った。どうやら昨日来なかったことで、彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。そんなに好かれているとは思わなかった。

「ごめんよ。明日からはちゃんと会いに来るよ」

湿った鼻先を触ると、メルヘルは小さく口を動かした。

少し誤解していたようだ。彼女は一人でいることを好んで、この場所にいるのかと思っていた。だから特に用のない日は来ないようにしようとさえ思っていた。


「ねえ、メルヘル。君はいつからここに住んでいるの?」

晩飯のおかずを尋ねるような、軽い口調で尋ねた。

「…そうですね。ここに住むようになったのは数年前からです」

なら出会えたのは本当に偶然だったということか。自分が生まれてから死ぬまでこの場所で暮らしているのなら、長い人生の間でまた他の機会もあったかもしれないが。

「このままここにずっといるの?」

「…わかりません」

メルヘルが渋い顔で答える。あまりにも渋いので、それ以上の質問を重ねるのが心苦しくなる。ここに来る前はどこにいたのか。どうしてここに来ようと思ったのか。

聞きたいことはむしろ増える一方だったが、俺は黙ってメルヘルの先を歩き出した。

「散歩……続けるんだろ?」


嬉しそうについて来る白馬を見ていると、まあいいかと思えた。



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