血が世界で一番美しい
血がヒザから流れた。
じんわりと、じんわりと。
真っ赤というより、褐色に近い。
生きている。
私はここに生きている。
そう思える赤だった。
黒を生きてきた。
ずっと色の無い世界を生きてきた。
微動すら僅かしかない、そんな世界を歩いてきた。
だから、ヒザに赤がいることに喜びを覚えた。
ふわふわした感覚にいる。
雲の中心に似た、新世界にいるみたい。
胸が、落ち着きを引き摺りながら、騒いでる。
ああ、私は地球人だ。
「本当にありがとうございました」
「いえ」
「娘を助けていただいて、本当にありがとうございました」
「いえ」
「あなたがいなかったことを考えると、すごく恐ろしいです」
「ああ」
「急に道に飛び出しちゃダメと、言い聞かせてはいたんですけどね」
「はい」
「なんてお礼していいか、本当にありがとうございました」
「はい」
沈みゆく太陽に照らされた血の赤は、麗しくキラキラと揺れていた。
今まで見た赤の中で、一番美しいと感じた。