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波長

作者: 多治凛

こんばんは。

多治凛です。

昨日に引き続き短編を投稿させていただきました。

短いですが、お楽しみください。

 蝉たちの混成三部合唱が開けた窓から熱風と一緒に教室に入ってくる。太陽はゴッホのひまわりのごとく生命力にあふれる黄色に輝いている。せっかくの午前授業なのに、居残りなんて憂鬱だ。だけど、

 正面に座る彼女――――――井村遥のお陰で至福の時間だ。

「提出物多いよねぇー」

 そう言って艶のある青々とした長い黒髪を搔き上げる仕草に妙な緊張感を覚える。血色のいい白めな肌。整った目鼻立ち。長い睫毛。組んだ足は長くてしなやか。

「そっ、そうだねー。あははっ……」

 いけない。あまり見ているとばれるかもしれない。たまにチラッと見るのならバレな……

「ねぇ、ここの解き方教えて?」

 急いでプリントに視線を落とす。一瞬だが、目が合った。心臓の鼓動が耳元で聞こえる。もしかしたら、彼女にも聞こえているかもしれない。さっきから背中に変な汗が流れている。

 こんな可愛い子と付き合いたい。誰もがそう思う筈だ。だが、僕なんかには彼女は釣り合わない。

 ああ、いけない。早く終わらせなきゃ。でないと心臓が爆発して死にそうだ。

「ええと、ここの解き方はね、」間違えてはいけない。解説を間違えてはいけない。完結かつ分かりやすく。意識すると声が上ずり、早口気味になる。

「んんー!やっと終わった!職員室行こっか」立ち上がった彼女は伸びをし、僕に視線を向ける。その瞳は清水のように澄んでいた。僕にはとても長時間直視出来ない。

「うん」

 小さく返事をし、立ち上がる。

 誰も居ない廊下を二人きりで歩く。暑さにやられているのか蝉の鳴き声が遠ざかっていく気がする。そのせいでまるで世界に僕と彼女しか居ないかのように感じる。

 そう考えると、余計に緊張する。両手は手汗で濡れ、喉が渇いている。舌が口の内壁にへばりついている。

「そういえばさ、私たち結構仲良いよね」

 思えば彼女とは小学校の頃から友達なのだ。その友情も実に九年目になる。

「そっ、そそうそうだね!そういえばさ、聞いたことある?えっと、人間にはそれぞれ波長が有って、で、波長が合う人とは仲が良いんだってね!」

 沈黙が怖くて下らない話を切り出し、どうにか間を繋ぐ。もっとこう、面白い話はできないのか。十五年生きてきても、未だに女の子と何を話せば良いか分からない。

「そっか。じゃあ、私たちは波長が合うんだね」

「そういうことになるんじゃないかな?」

「じゃあ、付き合お?」

「えっ・・・」

「実は、前から好きだったの。波長が合うならオーケー。してくれるよね?」

 その一言で加速していた心臓が止まりそうになった。彼女の眩い後光が暗い廊下を一瞬で照らした。奇跡だ。人生で初めて告白された。

 冴えない男らしくもない僕が彼女と付き合っても良いのか?僕にはもったいないくらいだ。

「うん。付き合おう」

 きっとこんなチャンスは二度と来ない。だから、震えながらも自分の心を伝えた。

「ありがと!じゃあ、一緒に帰らない?」

「もちろん」



 梅雨が明けた空は澄み渡り、純白の雲が浮かんでいる。

 二人並んで帰路に着くとそっぽを向きながら左手を差し出して遥は言う。

「あのさ、手繋ぐとか彼氏らしい事、してよね……」

 白くて細い指先を握りたいがために近づけた右手をすぐに引っ込める。

「まだ、あの、早いんじゃないかなぁ?」

 僕はダメな人間だ。意気地無しだ。カッコいい所一つ見せられない。

「……ばか」

 遥は少し足を早めた。急いでその背中を追う。

 不意に振り返り笑みを浮かべる彼女は今まで見てきた彼女の笑顔の中で一番美しかった。


読了有難うございます。

感想やレビュー、評価をしていただけると励みになります。

明日も短編を投稿させていただこうと思います。

失礼します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。 飾り気のない自然な二人の初々しい関わり合いに、ほのぼのした気分になれました。 わざとらしさがないところに魅力を感じます。 十五年生きてきても、未だに女の子と何を話せば良…
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