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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第3章 淫魔、人間の所業に怒る
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第23話 全開ラブパワー


 すたっと屋上に降り立つ。

 幼女たちがぴょんぴょんと身軽に背中から飛び降りた。


 時刻は午後八時。

 この街では、まだまだ宵の口だ。

 国立防疫研究所とやらの巨大な建物にも、かなりの数が残ってるだろう。


「まさにブラック企業じゃな」

「むしろダーク企業だろ。夜の領域に足を突っ込んじゃってるんだから」


 美鶴の冗談に俺は冗談を返す。

 まあ、国の機関なのでちゃんと残業代は出るだろうし、福利厚生はしっかりしているだろうけど、人外が襲撃してくるんだからホワイトとはいえないだろう。


 階下へと続く扉へと歩み寄る。

 そして首をかしげた。


「……電子錠? 獣人で人体実験してるような組織が?」


 ちぐはぐすぎるでしょう。

 こんなもん、魔法で解錠すれば一発じゃん。


「獣人は魔法に精通してないからこれでいいやってことなのかなあ」

「そもそも魔術や魔法の知識など、やつらは持っておるまいよ」


 両手を広げてみせる美鶴。

 なんだか弱いモノいじめな戦いにななりそうじゃな、と付け加えて。


 まったくだ。

 けど、先に手を出したのはやつらだからね。

 ドアノブを握る。


『伏して出迎えよ。王の帰還である』


 魔法が解き放たれ、ビル中の扉が解錠された。

 もう警報も鳴らないし、人間たちがなにか鍵を閉めようとしても受け付けない。

 この(ビル)の主は、たったいまから俺になったのだから。


「ていうか魔法防御がゼロのコンピューター制御って、本気で可哀想になってきたぞ」

「こちらがチートみたいに見えてしまうのう。急々如律令」


 ポシェットから出した紙切れをぽいっと美鶴が投げれば、ぼふんとでっかい虎に変わった。


 漫画やアニメの陰陽師なら、もっと格好いいポーズを決めるシーンだけど、まさに無造作。式神の符だって、あれうちの事務所にあったメモ用紙にボールペンで書いただけなんだぜ。

 いろいろ台無しな幼女である。


「テレビカメラも回っておらぬのに決めポーズなどしてどうするのじゃ」


 しれっと言って、美胡と二人で虎の背に乗る。


「…………」

「なんじゃ? アゾールト」

「いやべつに……」


 移動手段として式神を出したのかよ、とか、遊園地にある動物の遊具に乗ってる子供みたいだな、とか、言いたいことはいっぱいあるんだけど、俺は大人のインキュバスなんで飲み込みますとも。


 けっして、言ったら怒られそうだと思ったわけじゃないよ。

 ホントだよ。






 屋上から最上階へと移動する。

 俺はともかく、紙でできた虎に乗った幼女二人は目立つことこの上ない。

 が、あまり現実離れしたした光景のため、行き交う職員はパニックを起こすより前に硬直してしまう。


 そしてそこに、俺の魅了が滑り込む。

 するりと。


 戦うことが前提だった昨夜とは違う。

 本来、夜魔はこっちの方が得意なのだ。 


「責任者の人に会いたいんだけど?」


 にっこりと笑う。

 数人の女性職員がへなへなと腰を抜かして尻餅をつき、男性職員が頬を染めたり前屈みになったりする。


 インキュバスなので女性の方に強く効果が発揮されるんだけど、もちろん俺の魅了は男性にだって有効だ。

 廊下に満ちるむんむんとした精気。

 そしてそれは、俺にとってはけっこう毒だったりする。


「うえー きもちわるぅ」

「自分の使った技で、自分が気持ち悪くなってるってのは、度しがたいのう」


 ててて、と、虎をあやつって近くにきた美鶴が俺の腰を叩いて慰撫してくれる。

 流れ込んでくる精気は憐憫の味だった。

 かなしい。


 ていうか美鶴には魅了の効果がないのかよ。獣人の美胡に魔法が効きにくいのはしかたがないとしても、きみはただの人間じゃん。


「備えておるからの。近くに淫魔がいるのじゃから当然であろ」


 ふりふりと何やらお守りのようなものを振る。

 さすが陰陽の家系。

 隠し球の多いやつである。


 普段からこんなもんを用意してやがったのか。道理でいつまで経っても俺にメロメロにならないわけだよ。

 ことあるごとに魅了を使ってるのに。


「そんなカラクリがあったとは……」

「そんな態度だからいつまでも信用されぬのだと、死ぬまでに気づくといいのう」


 ひどす。


 ともあれ、そのへんにいたちょっと階級の高そうな女性職員の案内で、俺たちは責任者のもとへと向かう。

 魅了の力をフルパワーで垂れ流しつつ。

 ゲーム的にいうなら常時発動(バフ)ってやつだ。


 俺の半径十メートルくらいに近づいたら、問答無用で俺に恋をしてしまう。老若男女を問わず。


「おや? 白石がいるぞい」


 ちょいちょいと美鶴が指さす。

 見れば、廊下の曲がり角から身体を半ば隠すようにして、白石がもじもじしながらこちらを見ている。


 うん。

 中年男のもじもじは気色悪いね。

 そして俺と目が合うと、たたっとこちらに駆け寄ってきた。


「北斗さん。これを」


 差し出すのは名刺。

 ていうか、もう持ってるよ。さっき名刺交換したじゃないか。

 仕方なく受け取って裏を見ると、好きって書いてあった。ハートマーク付きで。


 いいたいことはたくさんあるけど。そりゃものすごくたくさんあるけど、すべて飲み込んで、俺は彼に微笑みを向ける。


「ありがとう」

「うきゅーん!」


 謎の悲鳴とともに、白石はばったりと倒れ込んだ。

 憧れのアイドルに会えた喜びで卒倒しちゃう女の子みたいなもんである。


「うーむ。まさに無差別攻撃じゃな。そなたの魅了は」


 美鶴が呆れている。

 俺はといえば、白石が至近距離で発散した精気を、ばたばたと手を振って追い払っていた。

 間違っても吸い込みたくないんで。


 案内をしている女性職員がうらやましそうに白石を見る。


「あるじさま……わたしの名刺も……」

「へいへい」


 ぞんざいに受け取る。


「あふん」


 喜ばれたのは、それが彼女の願望だからだ。

 なんでそんな願望を持ってるのかは判らないけど、この一色早苗(いっしき さなえ)という女性が軽いM気質を持っているってことだけははっきりと判るのである。

 それがインキュバスというもの。


「変な声を出してないで、案内を続けてくれないか? 一色さん」

「はい。あるじさま」

「夜魔にとっては、人間の支配など造作もないじゃろうな」


 美鶴の所感であった。


「そうでもないさ」


 ずんずんと廊下を進みながら、俺は肩をすくめてみせる。

 俺たちの魅了なんか万能でもなんでもない。


 簡単に言うと惚れさせているだけだからだ。女に狂って、あるいは男に狂って身を持ち崩す人間はいくらでもいるけど、それは全体から見たらごく少数にすぎない。

 ほとんどの人は、ビジネスと色恋を分けて考えることができるのだ。


「この惨状でそんなことを言われても説得力がゼロじゃよ」

「いまはフルパワーで力を使ってるもの。ずっとできるわけじゃないさ」


 疲れちゃうからね。

 自動車だってずっと走りっぱなしだったら燃料がなくなってしまうだろ? それと同じ。


 スピードを出せば出すほど燃料の減りだって速くなる。

 かりに常に燃料が補給されてる状態だとしても、メンテナンスもせずにずっと走り続けられるかって話だ。


「まして美鶴みたいに対策を取ってたら、フルパワーでも効かないし」

「いいや? 効いておるぞい? そなたと乳繰り合っても良いという気持ちを、精神力でねじ伏せてるだけじゃな」


 ひどい言い回しである。

 乳繰り合うとか、幼女が言わない。


 あと、俺は肉体的な接触をしたいわけじゃないから。

 そこは誤解なきように頼むぜ。


「精気を吸いたいだけなんだ」

「言ってることは変態そのものじゃな」


 やがて俺たちが案内されたのは、次官室とプレートがかかった部屋だった。

 長官ではなく次官が実質的な責任者だってのは、そう珍しい話じゃない。

 官公庁のトップは政治家が着任するケースがままあるけど、彼らは選挙のたびに入れ替わったりするから。


 だから、実務を担当する官僚が組織を取り仕切ってるんだ。

 風祭機関の系譜である国立防疫研究所の裏の顔も、また同じだろう。


「お邪魔しますよ」


 一言告げると、とくに返事も待たず、俺は扉を開けた。

  


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