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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第3章 淫魔、人間の所業に怒る
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第22話 ダイナミックおじゃまします


「それにしても、美鶴がそういう血筋だったとはね」

「すこしは名の知れた陰陽の家系なのじゃよ。安倍晴明などに比較したら、マイナーどころじゃがの」


 白石が去った事務所での会話だ。

 あいつがいるときには顔に出さなかったけど、それなりに驚いてるよ。

 てっきりアットランダムに誘拐されてきた子供で実験していたのかと思っていたから。


「当時は、お国のためといわれたら、喜んで身を捧げたものじゃ。むろんわしもな」


 ほろ苦い表情の美鶴だ。

 現代人からは想像もつかないだろうけど、滅私奉公なんて言葉がまんま生きていた時代なのである。

 国のためってのが免罪符だった。


「終戦後、占領軍であるアメリカ軍兵士の歓心を買うため、国が女たちに身体を差し出させたりしたんじゃぞ」

「知ってる知ってる。アメリカ人にぞんざいに扱われて傷ついた女性たちを慰めて精気をもらってたインキュバスもけっこういたし」


「すっかり忘れていたが、わしより年上じゃったの。そなたは」

「百七歳と八十四歳。まさに老夫婦……いたっ!? なんで無言で蹴るんだよ!」

「……次に夫婦などという戯言を吐いたら、チョークスリーパーで沈めてやろうぞ」


 なんでプロレス技?

 引き出しの多すぎる幼女である。


 ともあれ、先の戦争のとき、俺はすでに生まれていた。

 戦争の悲惨さもよく知ってる。


 モノがなんにもないからこそ人々の性欲が爆発して、精気食べ放題だったってこともね。俺以外の夜魔は。

 つらい時代だったぜ。

 他の夜魔たちは生き生きしてんだもん。


「じゃあ美鶴も陰陽術とか使えるのか?」


 話を戻す。

 あの頃のことは、あんまり思い出したくない。

 ばたばたと人が死んでいくのも、見ていてつらかったしね。


「ほとんど使えぬ。わしは女なので、ちゃんと学ぶ機会を得られんかったからのう」

「そんなもん?」

「門前の小僧習わぬ経を読むというやつで、少しは使えるがの。ほぼ我流というか得手勝手流じゃ」


 それに、陰陽師で食っていける時代でもないしと付け加える。


 終戦後、この国ではとくにオカルトが排斥された。

 その結果として、日本はものすごいオカルト後進国になってしまった。


 ぶっちゃけ魔術師(メイジ)聖騎士(クルセイダー)の存在すら信じてないよね。日本国民って。

 ロンドンには魔術師協会世界本部、通称『世界塔』があるし、ローマには聖騎士たちの本拠地があるってのに。

 

「だから獣人を使った実験、なんて馬鹿げたことをはじめちゃうんだろうけどな」


 下手をすれば獣人族との全面戦争だ。

 人猫こそ絶滅寸前だが、人狼(ウェアウルフ)獅子人(ライカンスロープ)などは、まだまだ残っているのである。

 同族が実験動物にされてるなんて彼らが知ったら、大変なことになるだろう。


「まあ、遅らせるために知識を根こそぎアメリカが奪った、という事情もあるじゃろうがの」


 アメリカーンな仕種で美鶴が両手を広げた。

 きみまでアメリカナイズされなくても良いと思うよ。


「ともあれ、陰陽師の家系であるわしが魔族とつるんでいるんじゃからな。時代は変わったというべきじゃろう」

「魔族ってひとまとめにするなよう」


 夜魔と悪魔と吸血鬼はけっこう違うんだぞ。

 一緒にされたら傷つくんだぞ。


「で、これからどうするのじゃ?」

「敵対は避けられないだろうな」


 まあ、すでに一戦は交えてるわけだけど、あれは防疫研究所だっけ? 風祭機関だっけ? とにかくそいつらにとっては小手調べみたいなもんだろう。

 けどこれからは本気で攻めてくるってわけだ。


「専守防衛でいくのかや?」

「まさか。自衛隊じゃあるまいし」


 人の悪い笑みを浮かべる。

 けっして自分からは手を出さない。守りに徹して、相手が撤退するのを待つ。

 それがこの国のやり方だ。


 まさに堅忍不抜ってやつで、それはそれで立派なことだと思う。


 けど、どうせ撃てないだろ、どうせ撃墜できないだろって、隣国に舐められまくってるっていうのも事実だ。

 あげく、防衛力を増強しようっていう防衛大臣に対して、中国や韓国への配慮が必要では? などという、ちょっとびっくりするような質問を投げかける報道記者がいるくらいである。


 頭は大丈夫か? 日本国民。

 主権国家と主権国家の間には、完全な平穏なんてありえないって、歴史から学んでこなかったのか?


「七十年も続いた平和で、すっかり平和ボケしてしまったからの。この国の民は」


 とにかくひどい敗戦だったから、と付け加える美鶴。


 うん。

 本当にひどい戦争だった。だから、もう二度と戦争なんかごめんだって気持ちはよく判る。

 舐められようが馬鹿にされようが、それでも戦争よりはマシ、と。


「けど、俺たち夜魔はそこまで弱腰じゃない。人間族に対して相応の敬意を持ってはいるけど、舐められっぱなしってわけにはいかないさ」


 白石とやらは、人間の分際で夜魔にケンカを売った。

 相応の報いをくれてやらなくてはいけない。


「つまり、ダイナミックおじゃましますをかましてやるのじゃな」

「うん。それが殴り込みってって意味なら、正解だ」


 なんだよ。ダイナミックお邪魔しますって。

 上手いこといったつもりかよ。




 

 

「風祭の顛末は、見届けなくてはなるまいよ」


 とは、俺の背に乗った美鶴のセリフである。


「なかは、たぶんあたしがあんないできる」


 とは、俺の背に乗った美胡のセリフである。


 おめえらなあー。

 俺はペガサスとかじゃねーんだぞ。

 そりゃあ、幼女二人くらい余裕で乗せて飛べるけどさ。


 国立防疫研究所へとの殴り込みに、なんと美鶴も美胡もくっついてきちゃった。

 事務所にテグルトを呼ぶから、じっとしていろって言ったのに。

 他人事じゃないからって理由で。


 それは事実だし、たぶん二人ともそれなりに戦えるって自信があるがゆえの行動だろうから、俺としても留守番を強制することはできなかった。

 だから同行は仕方がない。


 問題は、なんで俺の背中に乗ってんだって部分である。


「式神を使っても良いのじゃが、幼女二人が虎に乗って街を歩いていたら目立つであろ?」

「インキュバスに乗って空を飛んでたって目立つと思うけどな」


 どっちもどっちである。

 現実的じゃないって意味でね。


「令和の日本人は空を見上げたりはせぬよ。皆、疲れきりうつむいて歩いているではないか」


 美鶴の声に皮肉がこもる。

 背中に乗られてるから表情は見えない。


「ていうか、みんなで行くなら車で良かったんじゃね?」

「万が一捨てて帰ることになったら、そこから足がついてしまうではないか」

「慎重だな」

「風祭と敵対するのは問題ないがの。警察に目を付けられるのは面倒じゃ。いろいろ知られてまずいこともあるでの」

「たしかに」


 くすりと俺は苦笑する。

 日本の警察ってけっこう優秀だから、自動車一台から簡単に俺までたどりついてしまう。

 そして、そこから偽造戸籍まであっという間にバレちゃう。


 美鶴だって、何回も死んだり生まれたりしてるからね。

 ちょっと調べたら、おかしいところの一つや二つは出てきてしまう。


 とくにトラブルなく暮らしていれば、警察だろうと役所だろうとわざわざ調べることはないんだけど、事件の関係者となればそうもいかない。


「たとえ極小のものでも、備えておくに超したことはないからの。用心していてなにもなかったときは笑い話で済むが、準備もなしになにかあったときは笑えぬものじゃて」


 さすが美鶴お母ちゃんだ。

 転ばぬ先の杖をつく慎重さを持っている。

 八十四歳は伊達じゃない。


「またぞろ失礼なことを考えておるな? そなた」


 ぐっと美鶴が両足に力を入れる。

 肩から首に回されてるやつだ。


「うぎぎぎぎっ! 絞まってるからっ! 首絞まってるから!」

「大好きな幼女の太腿で絞められるのじゃ。本望じゃろ」

「ぜんぜん本望じゃないよ! 俺の性的嗜好はロリじゃないよ!」

「なにをいまさら。誰も信じぬぞい」


 地上百メートルで漫才をしたって、信じるどころか誰も見てないよ。

 きゃいきゃいと騒ぐ。


「ままとぱぱは、なかよしだね」


 楽しそうに美胡が笑った。

 なあ?

 これから襲撃に行くんだよ? 俺たち。


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― 新着の感想 ―
[一言] 殴り込みはレジャー。 馬鹿記者の振りした工作員に世論を操られるさらに馬鹿な日本人。
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