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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第3章 淫魔、人間の所業に怒る
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第18話 幼女と猫耳


 場所が知られていることは判った。

 もちろん部屋までバレてるかどうかってのは未知数だけど、バレているものと考えて行動計画を立てるのが吉だろう。


人妖(バケモノ)と戦ってでも人妖を手に入れる、か。いつの世も人間というのは度しがたいのう」


 やれやれと両手を広げる美鶴である。

 まあ、ニーチェさんも言ってるしね。怪物と戦う者はそのうち自分も怪物になるって。


「それはちょっと意味が違うと思うがのう」


 頷いた俺に苦笑して見せたり。


「ともあれ、アゾールトだっていつまでも探偵の仕事をさぼるわけにはいかんじゃろ。事務所を襲われたら、大変な被害が出てしまうのではないか?」

「そこは大丈夫さ。日中の襲撃はないと考えて良いと思う」

「そのこころは?」

「存在を認知されて困るのは、やつらのほうだからな」


 目撃者は出せない。

 かといって見たやつは皆殺しなんてできるわけもない。

 ゆえに、人々が寝静まってからの行動となる。


 あくまでも人外の力を使った襲撃が、という意味だが。

 白昼堂々と誘拐する、なんて可能性だって捨てきれないのである。


「ミサキには私が張り付くから問題ないわよ」


 しゅたっと手を挙げるミスルアーニ。

 同性なら一緒にいてもおかしくないし、これは順当なところだ。


 家に帰ってからについては、テグルト、モリールト、ハッシュルトの三人が交代でマンションにつめることになるだろう。

 彼らは彼らで仕事があるから、ミスルアーニほどべったり専任ってわけにはいかないのである。


 美鶴と美胡を守るのは俺だ。

 探偵の仕事に同行させることで、安全を図ることができる。

 エセ獣人みたいなのならともかく、普通の人間が相手なら後れを取ることもないだろうしね。


「それはかまわぬのじゃが、アゾールトはますますロリコンだと思われるのう」

「ほっとけ」


 幼女と猫耳童女を連れた探偵だ。

 ちょっとシュールがハンパないよね。


 しかし、こればっかりは仕方がない。

 同族たちの最優先護衛対象は美咲であって、美胡ではないから。

 美胡を守ろうとする美鶴を俺が守る。こういう構図になってしまうのだ。


「では、方針が決まったところで、皆ひと眠りするが良い。夜明けまで何時間もないが、少しは寝ておかねば身体が参ってしまうでのう」


 ぱんぱんと美鶴お母ちゃんが手を拍つ。

 テグルトたち男どもはリビングで雑魚寝、という感じかと思っていたのだが、美鶴と美胡が寝ていた客間を使わせるそうだ。

 で、彼女たちは俺の部屋に。


 美鶴と暮らすようになってから新調したダブルベッドに川の字で寝ることになった。

 俺以外の二本がやたら短い川だけどね。


 三々五々、それぞれ割り当てられた部屋へと消えてゆく。

 もちろん俺たちも。


「アゾールト」


 美胡と手を繋いだ美鶴が俺を見上げた。


「うん?」

「一緒に寝るからといって、淫夢を見せるでないぞ」

「……わかってるよ」


 釘、刺されちゃった。





 目が覚めたら、美鶴も美胡もいなかった。

 出て行ってしまったのか!? ということはまったくなく、朝ごはんを作る良い匂いがダイニングから漂っている。


 毎朝のルーチンワークだ。

 顔を洗って身支度を調え、リビングへと向かう。

 すると、すでに美咲と美胡が配膳をおこなっていた。


「あ、ホクトくん。おはよう」

「ぱぱ。おはよう」


 なんてこった。美胡にとっては、もうパパで確定らしい。

 ということは美咲は小姑ってポジションか。

 大変だな。お互い。


「ああ。二人ともおはよう」


 美咲とアイコンタクトを取りながら挨拶を交わす。

 やがて同族たちもリビングに集まり、ささやかな朝食が始まる。


「うお……これは……」

「食事から精気が吸収できるだろ?」


 驚きに目を見開いたテグルトに、俺は微笑を向けた。

 モリールトとハッシュルトなんか、さっそくごはんをがっついてるし。


 美鶴の作った食事には、なぜか精気が宿るのだ。

 とうしてなのか、理由は判らない。

 とりあえず、俺や美咲は『お母ちゃんの愛』と呼んでいる。


 もちろん本人からもらうのに比べたら微々たる量だが、それでもけっこうありがたかったりするのだ。とくに俺にとっては。

 なにしろ浮気できない体質だからね。

 吸精する機会は逃せないんだよ。


 というわけで、食べたら俺たちは出勤である。

 美咲の方は、講義が午後からってことで、もうしばらくだらだらしてるってさ。

 大学生とは、良いご身分でございますなぁ。


「わしら働き蟻は、一生懸命に働けということじゃな。亭主元気で留守が良いというやつじゃ」

「さすが美鶴。古い言葉を知ってらっしゃる」



 一九八六年の流行語にも選ばれたCMキャッチコピーだ。

 ようするに、夫というの働いて家に金を入れていれば良く、帰ってくる必要はないよってくらいの意味である。


 男性としては業腹だろうが、べつに珍しい考え方じゃない。

 今だって、男はATM、なんて言葉も使われるしね。


「ババアじゃからな。戦後の日本をずっと見てきたものとしては、言いたいことのひとつやふたつはあるというものじゃ」


 美胡と手を繋いだまま、うむうむと頷く。

 こいつって、俺たちみたいな人外じゃないからね。

 人間族の価値観を持ったまま人間以外になり、人の営みを見続けてきたというのは、なかなかすごいことだと思う。


 だって、人間の精気を必要とする夜魔の俺ですら、人間ってどーしょーもねーなー滅びちまえば良いのにって思うことあるからね。

 彼女の立場だったら、言いたいことの一つや二つ、では済まないだろうに。


「達観してるなあ」

「枯れたババアなのじゃよ。むしろアゾールトは、わしよりじじいじゃろ」

「夜魔換算では若造だよ」

「ぱぱとままは、じじいとばばあなの?」


 こてんと小首をかしげる美胡。

 おおっと、子供の前でじじいとかばばあとか言っちゃいけないね。

 真似されてしまう。


「愛情表現だよ。美胡。パパもママも若いんだ」


 はっはっはっと笑いながら、猫耳童女を抱き上げる。

 ちなみに、幻術がかかっているため、判っている人間にしか耳も尻尾も見えない。

 厳密には見えていないわけじゃなくて、脳が認識しないだけなんだけど。


 簡単にいうと、こんなところに猫耳童女がいるわけねーじゃん、という常識に働きかけてるわけだ。

 認識阻害、なんて言い方をすると、ゲームやライトノベルみたいだけどね。


「ぱぱ良い匂いー」


 ふがふがと俺の髪の匂いを嗅ぐ美胡。

 これもまた俺たちの種族的な特徴である。老若問わず異性に好かれるような香りを放っているのだ。

 フェロモンみたいなもんだと思ってくれればいいよ。


(わらし)に手を出したら犯罪じゃぞ。まあ、わしに手を出している時点で死刑は確定じゃがの」

「出してないよ!? 人聞きの悪いことを言わないで!」


 ほんっとね。

 勘弁してくださいって。

 いまって、そういうのにすっごいうるさい世の中なんだから。


 ちょっとエロエロな夢を見せてるだけじゃん。

 それで興奮して発散される精気をもらってるだけじゃん。

 一部の夜魔みたいに、じっさいにヤってるわけじゃないじゃん。


「そなた。喋れば喋るほどドツボにハマっているぞい」

「なぜじゃー!」


 きゃいきゃいと騒ぎながら事務所に入る。

 留守番電話の点滅と、吐き出されたファックス用紙が出迎えてくれるのは、休み明けのいつもの光景だ。


 この時代に留守電? ファクス? とか言わないでくれよ。

 年配の方々にとっては、未だに現役装備なんだから。

 じっさい、ラジオ局なんかだと何十台ってファックスが稼働してるってさ。


「たまっておるたまっておる。美胡や。そなたは床に散らばっている紙を集めておくれ」

「うん。まま」

「わしは留守電のテープ起こしをしているでの」


 テープ起こしってのは、録音された内容を聞き取って文字として書き残すこと。

 インタビューなんかを記事にするときにも使う用語だね。

 ものすごーく面倒なんだけど、なぜか美鶴はこの作業が大好きっぽい。

 不思議な趣味である。


 幼女親子が仕事に入るのを微笑ましく眺めながら、俺はデスクについた。

 北斗探偵社、営業開始である。

 

 

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