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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第3章 淫魔、人間の所業に怒る
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第17話 深夜の戦いはロックだぜ


 炯々と輝く月が地上を照らす。

 不夜城の東京とはいえ、さすがに静寂が満ちていた。


 暁暗。

 闇が最も深くなる時間帯である。


「こんな時間に散歩かい。お兄さんがた」


 物陰に潜む黒ずくめたちに、俺は声をかけた。

 隠れていても無駄だよ、という意味でね。


 これで退いてくれたら話は早いんだけど、まずそういうことにはならないだろう。

 こっちは一人、相手は三十人以上いるのだ。


 獣人を監禁して何かの実験をやっていたような連中である。自分たちの戦闘力に自信があるだろうし、そもそも頭のネジは吹っ飛んでるだろう。

 無言のまま、黒ずくめどもが戦闘態勢に移行する。


 ほらね。

 交渉の余地なんてありゃしない。

 俺を殺して美胡を奪う気まんまんだ。


 躊躇も遅滞もなく襲いかかってくる。

 闇に閃く黒焼きのナイフ。

 まあ、さすがに大都会の真ん中で銃器は使えないか。


 危なげなく身をかわし、一人またひとりと首筋に手刀をたたき込んで昏倒させてゆく。

 死んじゃったらごめんね?

 いちおう手加減はしてるんだけどさ。人間の身体って脆いから。


 ていうか、襲撃が今夜で良かったわー。

 美鶴からもらってる精気が、まだまだたっぷりと俺の身体に満ちてるからね。これ、時間が経つごとに少なくなっていくんだわ。


 今日から一緒に寝れないし。

 つらいよう。

 さみしいよう。


 瞬く間に十人ほどやっつけると、黒ずくめたちが少したじろいだ。

 手強い、と、判断したのだろう。

 あるいは俺も人外であると気づいたか。


 ちょっと距離を取り、ナイフを収納する。

 何をする気だ、と、思ったのも一瞬。黒ずくめたちの姿が変わった。


 腕は太く、逞しくなり、胸の筋肉もボコボコと盛り上がる。

 かぶっていたフードがはずれ、獣じみた顔が露わになった。


「獣人、というわけじゃなさそうだな」


 特徴こそ残しているものの獣人ではない。ごく稀に生まれてくる混血とも雰囲気が異なる。

 もっとずっと禍々しく、おぞましい気配だ。


「因子を埋め込んだか……これだから人間ってやつは」


 睨み付ける。

 先ほど倒した連中も、次々と起き上がってきた。






 判っていたことだけど並の人間の動きじゃない。

 さっきまでとはぜんぜん違う。

 純粋な獣人っほどじゃないけど、それに迫る勢いだ。


「このっ!」


 正直、三十対一で戦って勝てる相手じゃない。

 襲いかかってきた一匹に跳び蹴りをかまし、その勢いを使って大きくジャンプする。


 バン、と、開く翼。

 一気に急上昇して距離を取った。


 ようするに逃げを打ったのであるが、この飛行能力こそが獣人たちに対する絶対的なアドバンテージなのだ。

 彼らの跳躍力はものすごいけど、空を飛べるわけじゃないからね。


「うーむぅ。どうしたもんかなぁ」


 空中で腕を組んで考える。

 一番簡単なのはこのまま逃げちゃうこと。絶対に追いつかれないからね。


 けどそれを選択することはできない。

 俺が逃げたら、マンションにいる美鶴たちに危険が及んでしまう。


 となればここでやっつける手なんだけど、正直それもちょっと難しいんだよなあ。


 美胡が捕まっていたことで誤解する人もいるかもだけど、獣人ってのは、けっして弱くない。

 人妖戦闘力ランキング、なんて胡散臭いものがあったとしたら、彼らは間違いなく上位に入るだろう。


 むしろ俺たち夜魔なんか下位だと思うよ。

 魅了の力があって、魔法に長けているってだけだもの。

 しかも後者なんて悪魔族とかの方が上手いしね。


「でかい魔法で一気に片付けるかぁ」


 じっさいそれも気が進まない。

 都市部で大魔法とか、ちょっと目立ちすぎだよね。


 ヒルズの一角にクレーターを作っちゃったら、さすがに朝のニュースに出ちゃうよ。

 あと、魔力がもったいないし。


「苦労してんじゃねーか。ロリキュバス」


 唐突に声が響き、西の空から接近する影たちが俺の視界に飛び込んだ。


「テグルト!? それにモリールトとハッシュルトまで!? なんでここに!?」


 同族である。

 男性の夜魔、インキュバスだ。


「アゾンが精気(リビドー)をもらえる相手を見つけたっていうからさ。挨拶にきたんだよ」


 愛称で呼び、ククク、とモリールトがが変な笑い方をする。無言でハッシュルトが頷いた。


 挨拶って時間帯じゃないと思うけどね。

 真夜中の訪問って、最大限に好意的に解釈しても夜這いじゃん。


 まあ、たぶんラシュアーニから連絡を受けて援軍に駆けつけてくれたってことなんだろう。


「一人頭七匹ちょっとだ。とっとと片付けるぞ」


 言うが早いか、ぎゅんとテグルトが急降下する。

 そして手に持った魔力の槍を投擲して急上昇。

 まるで急降下爆撃機(ダイブボマー)のような戦い方だ。


 これにはエセ獣人ども対応できない。なにしろ対空攻撃ができないから。待ち構えてカウンターを狙うしかないんだけど、高速で接近しながら槍を投げつけて去って行く相手を捉えることなんて容易な話じゃない。


 モリールトとハッシュルト、そして俺も続く。

 こうなってくると戦闘とはいえないだろう。

 一方的な攻撃、七面鳥撃ちである。


 なすすべもなく一匹また一匹と倒されてゆく。

 業を煮やしたのか、大きく跳躍して襲いかかってくるモノもいた。


「いや。さすがに無理だから」


 跳べば死角である。

 空中では体勢を変えることすら簡単じゃないんだから。飛行能力を持たない彼らにとっては。


 どんなにすごいスピードでジャンプしても、いずれは頂点に達し、地球の重力に引かれて落ちる。

 俺たちは彼らの跳躍が届かない高度から、動きを止めた瞬間に攻撃するだけ。

 ぶっちゃけ、ただの的だ。


 半分ほどの損害を出すと、生き残ったエセ獣人どもはほうほうの体で逃げ出した。

 仲間の死体を担いで。


 テグルトたちが駆けつけてくれてから、わずか五分ほど。

 まさに圧勝である。


「助かったよ。みんな」


 俺は同族たちに頭をさげた。

 もし俺一人だったらこうはいかなかった。最初にテグルトがやって見せた方法だって、思いつけたかどうか。


「礼は精気でな。アゾンのとこには伝説級がいるって話じゃん」


 なれなれしく言ってモリールトが俺の肩に手を回してくる。

 つーか、ラシュアーニのやつ、おしゃべりだなぁ。





「REN!? Agile!? うそ! やだ!」


 マンションにテグルトたちを連れて帰ったら、美咲が口に手を当てて驚いた。

 ていうか、そのぶりっ子(死語)みたいなセリフはやめたまえよ。


「ナンデ? なんでここにイフリートが? イフリートナンデ?」

「こいつらは俺の同族だよ。モリールトとハッシュルト」


 混乱のあまり失禁しそうな美咲に、ちゃんと紹介する。

 あ、イフリートってのは、こいつらのグループ名。

 それなりに名の知れたロック歌手なんだよ。こいつら。


「それなりとはひどい。これでもミリオンヒット連発してんのに。RENことモリールトだ。よろしくな。ミサキ」

「……会えて嬉しい。ミサキさん」


 ふたりともさりげなーい仕種で握手を求めてるけど、そういうのってファンの方から手を出すんじゃね?

 精気を味見する気まんまんですね。お二人さん。


「あ、いえ。こちらこそ」


 彼らの思惑を知ってか知らずか、美咲はとくに警戒もせず握手に応じる。

 有名人に会えた興奮そのままに。


「はぁう!」

「すごい……っ!」


 そして、一気に腰砕けになるモリールトとハッシュルト。

 へなへなへなーって。

 そんな姿、ファンが見たら幻滅するぞ。


「すてき。こんなの初めて」

「もうはなれられない……」


 良いんだけどさ。ひとんちのリビングで、いっちゃったような恍惚の表情を浮かべるなよ。

 けっこう不気味だぞ。


「話には聞いていたけど、本当にすごいな」


 苦笑するのはテグルトだ。

 こいつは美咲と面識があるはず。ホストクラブのオーナーと客って程度だけどね。


「その節は、店のものが大変に失礼いたしました。ミサキ様」


 美咲の前に片膝をつき、テグルトか謝罪する。


「かわりにホクトくんと出会えましたから。差し引きは大きなプラスですよ」


 にこっと笑って見せる。

 ふわりと慈愛の精気が発散される。


 さっきの興奮の精気とは、また違った味わいなんだろう。

 モリールトたちがびくんびくんと震え、テグルトが微笑した。


「素敵なお嬢さんだ。僕が接客するべきだったよ。北斗なんかに任せずに」

「お上手ですね。オーナーさん」


 美咲が差し出した右手に、テグルトがそっと口づけをする。

 ぽっと彼女の頬がそまり、ミスルアーニ、モリールト、ハッシュルトの三人が地団駄を踏んで悔しがった。

 口で直接吸えるのがうらやましいらしい。


「端から見てると、かなり気持ち悪い種族じゃの。夜魔というのは」


 ぼそっと言った美鶴を、否定も肯定もできずに見つめる俺であった。


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