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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第2章 ロリババア、探偵助手になる
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第16話 新生活をはじめよう


 護衛役として一緒についてきたのはミスルアーニだった。

 芸能人が裸足で逃げ出すような美貌の持ち主だが、これは種族的な特徴なので、べつに特筆するようなことじゃない。


 特筆すべきは、彼女が魔法の中でも幻術を得意としてるってことだろう。

 それを使って美胡の姿を人間と変わらないように周囲に見せることができるのだ。


「芸は身を助くってやつよね」

「微妙に意味が違うと思うけどな。誰の身を助けてるんだよ」

「合ってるわよ。ミサキと共同生活したら精気もらい放題じゃない」


 しれっと言ってるし。

 目的は精気をもらうことじゃないからな?

 そっちは副産物だぞ。あくまでも。


「大丈夫大丈夫。わかってますって」


 念を押すと、ひらひらと手を振ってみせる。


「私の人生、すべて営利が目的だから」


 OK。

 ぜんぜん大丈夫じゃなかった。


「あのなぁ」

「判ってないわね。マゾールト。利益があるから頑張るんじゃない。いっさいなんにもメリットがないのに頑張る人なんていないでしよ」


 そりゃそうだ。

 商売とか営業って言葉に、やたら過敏に反応する人がいるけど、サービスに対して対価を支払うのは、当然のことなのである。


 ボランティアは尊い。しかし、それは強制して良いものではない。

 そして、料金以上のサービスを要求できるものでもないのだ。


 けっこー勘違いしている人間って多いよね。


 たとえば、俺たち夜魔は、すっごいえろえろな夢を見せてあげるかわりに、精気をもらうわけだけど、実際に性交を求められることもあるんだ。

 その場合、精気を直接身体で受けることができるので、大変に効果が高い。

 だから相手に対して、望みをひとつ叶えるとか、そういう代価を支払うのである。


 ゆえに、ミスルアーニの言い分は正しい。

 彼女はラシュアーニ姫の命令である以上に、精気が欲しいから美咲をまもるのである。

 すっごく正しいんだけどね……。


「だれがマゾだこのやろう」


 心にまったく響かないのは、マゾよばわりのせいだ。

 名前は大事だって知っていていじってくるんだぜ。この小娘。

 犯してやろうかしら。


「できるもんならやってみれ。私が発散する精気で消滅するんじゃない? 貧弱ロリキュバスのあんたなんか」

「くっそくっそ!」


「そなたら。子供のいる前できわどい話をするでない」


 きゃいきゃい騒いでいると、夕食を運んできた美鶴に注意されました。

 後ろには美胡が続いている。

 茶碗とかを乗せたお盆を持って。


 七歳くらいと六歳くらいの女の子たちがそんなことをやっているのは、なんだかおままごとみたいで、めんこいもんである。

 あ、児童虐待とかいわないでね。


 台所は女の城、とかいう謎の理屈で、俺は手伝わせてもらえないのだ。

 つーか勝手に冷蔵庫とか開けたら怒られるというね。

 家主なのに。






 そんなわけで夕食タイムである。

 今夜は、鶏の炊き込みご飯と照り焼き風ポークソテー、ほうれん草のおひたしとあさりの味噌汁。


 ちょっとだけ洋風に寄せた和風ごはん、というのが、美鶴の得意技だ。

 三人から一気に五人に増えちゃった食卓で、みんなが舌鼓をうつ。


「え? なんで食事から精気が吸収できるの? え? なんで? 食事ナンデ?」


 そして困惑しつつ、箸が止められないミスルアーニである。

 気持ちは判るぞ。

 不思議だよな。


『お母ちゃんの愛』と、俺や美咲が呼んでいる美鶴の特殊能力だ。

 彼女の作った食事には、なぜか精気が宿るのである。


「おいしいよ。まま」

「うむ。たんと食べるが良い」


 ぼろぼろとこぼしながらスプーンで食事をする美胡の口元を、慈母の表情で吹いてやる美鶴。


「おばあちゃんって、昔っからこういう世話焼きが好きよねえ」


 やれやれと呆れる美咲であった。

 彼女も幼少の頃から、こうやって世話を焼かれたんだそうである。

 ゆえに、美咲にとっては、おばあちゃんというよりお母さんって認識が近いらしい。


「さすがはミサキの先祖ってところかしら」

「特殊な家系なのかもしれないよな」


 ミスルアーニの言葉に俺は小さく頷いた。

 かたや伝説級の精気、かたや食事に精気を宿す特別な力。


 ごくまれにそういう変わった血を持つ家系ってのが存在する。

 美鶴や美咲にも、そういう血が流れているのかもしれない。


「ああ、そうじゃ。アゾールト」

「ん? どうした美鶴」

「わしは今日から美胡と寝るでの」

「え?」


 ようするに三人で寝るってこと?

 さすがに俺のベッド狭すぎないか?


「部屋は客間で良い。布団一組で寝られよう。二人とも小さいでな」

「え?」


 まって。

 ちょっとまって。

 俺は?


「じゃからアゾールト。変な夢を見せにくるでないぞ。美胡の教育に悪いからの」


 質問する前に釘を刺されちゃった!


 え?

 え?

 今日から俺、独り寝なの?

 精気の補給、どうすれば良いの?


「子供が生まれてから、奥さんに相手にされなくなっちゃった寂しい旦那さんみたいな顔ね」


 くすくすとミスルアーニが笑う。

 うっさいわ!

 たとえが生々しいわ!


 なんなのよおまえ。

 そういう哀れな旦那さんを見たことがあんのかよ。


「けどさ、客間をおばあちゃんが使うんだったら、アイさんどこに寝てもらう?」


 半ば挙手するように美咲が言った。

 いいよ。こんなやつ、廊下にでも寝せとけば。

 あるいは、ベランダにでも吊しておけば。


「ミサキの部屋に泊めてくれる?」


 俺の内心に気づくことなく、あるいは気づいていても華麗にスルーして、ミスルアーニが美咲に笑いかけた。


 まさに艶笑って感じ。

 美咲の頬に朱が刺す。


 ほんっと、サキュバスの魅了(チャーム)って無差別攻撃だよなー。

 おそろしいわ。


「いいけど。えっちなこととかしないでね」


 もじもじ美咲だ。

 その顔と仕種で言っても、フリにしかきこえないぞ。


「しないしない。したこともない」

「ほんとかなぁ」


 くすくすと笑い合ってる。

 ちょーどうでも良い。

 百合でもなんでも、好きなだけ楽しめばいいんじゃないでしょーか。


 それよりも、問題は、俺のメシだよ。

 どーすんの?

 今日からメシ抜きなの? 俺。


「アゾールトや。そんなこの世の終わりを迎えてしまったような顔をするでない。しばらく、と、いうたじゃろうが」


 美胡がこの家に馴染むまでの話じゃ、と、付け加え、美鶴がちょいちょいと指先で招く。

 そして顔を近づけた俺の頬に、ちゅっとキスをした。

 ふわりと俺を包む柔らかな精気。


「いまはこの程度で我慢するが良い」

「うおおおっ! 俺はあと十年戦えるぅぅっ!」


 感極まって叫ぶ俺を、美咲とミスルアーニが、ものっすごく冷たい目で見つめていた。






 夜半。

 不穏な気配に目を覚ます。

 獣人ほどじゃないけど、俺たち夜魔だってそれなりに鋭い気配探知ができるのだ。


 ただまあ、俺が気づいたってことは、美胡はとっくに気づいてるだろう。

 すっと寝室を出て客間に向かう。

 案の定、おびえる美胡を美鶴が抱きしめてやっていた。


「まま……あいつらがくる……」

「大丈夫じゃ。怖い連中は、パパがやっつけてくれるからの」


 そう言って美鶴が俺を見上げる。

 俺がパパかい。

 夜魔と人間の間には、どうやったって人猫は生まれないけどな。

 苦笑しつつ、俺は優雅に一礼してみせた。


「安んじて、おまかせあれ」


 そして踵を返して玄関へ。

 と、そこで美咲の部屋から出てきたミスルアーニと鉢合わせた。


「私も行く?」


 つやっつやの顔で訊ねてくる。

 おまえ今日一日でどんだけ精気吸収してんだよ。

 そして思った通り、美咲と乳繰り合ってやがってたのかよ。


「いいさ。ミスルアーニはここでみんなを守っていてくれ」


 肩をすくめたあと、俺は同族の肩をぽんと叩いた。


 戦えるのが二人ともでちゃった場合、もしここを奇襲されたらアウトだからね。

 もちろん敵がこの場所を察知しているとは限らないけど、悪い方の予想を立てて動かないと。


「わかった。無理しないでね。ロリキュバス」

「だれがロリだ。このやろう」


 にやっと笑い合いながら、俺は部屋を出た。

 マンションの廊下は、水を打ったように鎮まりかえっている。


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