ノワールの母親の事
ニードは冷めてしまったポットを抱え、天井を仰ぐ。
「本来、次の妻を娶るのには時間がかかります。ましてやフランツ様は教皇。ガルーダ族の最高権力者であらせられる方。
子が卵から孵ればすぐに乳を与えねば死んでしまいます。ですからフランツ様は…自分に仕えていたマリアーネという奴隷をすぐ妻に迎え、ノワール様の卵を作りました」
「それって……」
すごく嫌なカンジ。それじゃノワールのお母さんはただいいように利用されただけじゃ…。
「ジャンヌ様とノワール様は幸いにも同じ日に卵から孵りました。
ジャンヌ様はノワール様がご自分の母君と血が繋がっていない事を知っても変わらず愛情を注いでいます」
「あの…ノワールのお母さんは今はどうしているのですか?」
さっと、ニードの顔色が暗いものになる。
「……ジャンヌ様が乳離れした頃、マリアーネはノワール様を連れて屋敷を出ました。……マリアーネを快く思わぬ輩もいたのです。フランツ様はマリアーネを守ろうと尽力されましたが、マリアーネは自分の為にフランツ様が窮地に立たされるのではないかと心配して此処を離れたのです。
そして……我々が探し当てた時にはマリアーネは流行り病で亡くなっていました」
「……」
なんて悲しい人だろう…。
「愛されて…いたんでしょうか…」
ただ、それが気になった。
「えぇ。フランツ様はとてもマリアーネ様を愛しておられました。前妻と同じかそれ以上に。
貴族の称号まで与えようとしましたが元老院が認めず…彼女の遺体はこの上層区ではなく最下層区の共同墓地に葬られました」