姉さんは来てないのか?
「ノワール、カノンさん、お久しぶりですね」
大聖堂に入るとノワールとジャンヌの父、フランツさんが出迎えてくれた。
「……」
ノワールはプイッと顔を背け
「今日は姉さんは来てないのか?」
と消えそうな声で聞く。
「ジャンヌは今日は来ていません。とても珍しいですね」
「やっぱり…何かあったのかな。
フランツさん、ジャンヌについて何か分かりませんか?」
だがフランツは首を横に振るだけ。
「あの子は最近礼拝が終わっても話しかけて来てくれなくなりました。私はもしかしたら嫌われてしまったのかもしれません…」
「…姉さんの婚約の話も聞いていないか?」
ノワールの独り言のように小さな質問にフランツさんは顔を勢い良く上げた。
「ジャンヌが婚約?誰とですか?」
「アーヴァイン・バルセフォンだ。全然聞いていないのか?」
おかしい。普通なら父親に一言くらい言うはずだ。
「変ですね…その男はジャンヌが一番嫌いだと言っていた者ではありませんか。
ノワールにとっても、あまり好感を持てる相手ではなかったでしょう?」
フランツさんの言葉にノワールも頷く。
「あいつは空の涙から逃げ出した臆病者だ。シオンが死んだのだってあいつのせいだ」
「決めつけるのはよくないでしょう。
ですが、今アーヴァイン氏は騎士団に復帰したと聞きます」
どうしてこうも悪い方にばかり事態は悪化するのか。まるで計算されているかのように。
「やっぱりジャンヌに直接会いに行くしかなさそうだね…」