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紅蓮の大地  作者: 大田牛二
第二章 五胡躍動

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王俊

 二月、晋が涼州刺史・張軌ちょうきを太尉・涼州牧に任命し、西平郡公に封じた。また、王浚おうしゅんを大司馬・都督幽冀諸軍事に、荀組じゅんしょを司空・領尚書左僕射兼司隸校尉・行留台事に、并州刺史・劉琨りゅうこんを大将軍・都督并州諸軍事に任命した。


 朝廷は張軌の老病を理由に、子の張寔ちょうしょくを副刺史に任命した。


 そんな中、石勒せきろくは戒厳して王浚を襲おうとしましたが、躊躇して実行できずにいた。そんな石勒に張賓ちょうひんが言った。


「人を襲う時とは、相手の不意に出るものです。今、軍が戒厳して日が経つのに、実行しないのは、劉琨および鮮卑、烏桓が我々の後患になることを恐れているのではありませんか?」


 石勒は頷いた。彼は後顧を憂いて実行できないでいたのである。石勒という人は案外、慎重なところがある。


「その通りだ。如何するべきだ?」


 張賓はこう答えた。


「彼ら三方において、智勇が将軍に及ぶ者はおりません。たとえ将軍が遠出したとしても、彼らは必ず敢えて動くことができないでしょう。そもそも、彼らは将軍がすぐに孤軍で千里も行軍して幽州を取ることができるとは思ってもいません。軽軍の往復は二十日を出ることなく、もし彼らにその心があったとしても、彼らが謀議して軍を出すまでに、我々は既に帰還していることでしょう。それに、劉琨と王浚は同じく晋臣を名乗っていますが、実は仇敵となっています。もしも書を書いて劉琨に届け、人質を送って和を請えば、劉琨は必ず我々の帰順を喜び、王浚の滅亡を快く思うので、最後まで王浚を救って我々を襲うことはありません。用兵とは神速を貴ぶものです。時を失ってはなりません」


 後顧を突くほどの度胸も決断力も能力も劉琨らには無い。そう断言する張賓の言葉に石勒は笑いながら言った。


「俺が決断していなかったことを右侯が既に決断した。俺は何をこれ以上、疑おうか」


(やれやれ俺らしくない)


 彼はそう思った。こんなことでうだうだと考えるなど、今までなかった。


(人の上に立つということはこういうことなのかねぇ)


 だからこそここで背を押してくれる張賓の存在は貴重なのだ。


 石勒は火を灯して夜行し、柏人に至って主簿・游綸ゆうりんを殺した。兄の游統ゆうとうが范陽にいるので、軍謀が漏れることを恐れたためである。


「彼の死を隠し、彼の書として兄・游統の元に書簡を送りましょう。それを持って警戒を少しでも緩めるのです」


 そう言ったのは張賓である。こうして見ると彼は実に過激な人である。


 その後、石勒は使者を派遣して劉琨に書を届け、人質を送った。自分の罪悪について陳述し、王浚を討つことによって晋のために力を尽くす機会が与えられるように請うた。


 劉琨は大いに喜んで州郡に檄を送り、


「私はまさに猗盧いろと共に石勒を討つことを議していたが、石勒は逃げ隠れする場がなくなり、幽都を攻略して贖罪とすることを求めた。今こそすぐに六脩ろくしゅうを派遣して南の平陽を襲わせ、僭偽の逆類(帝号を偽称している逆賊。劉聡りゅうそうを指す)を除き、知死の逋羯(自分の死を知った逃亡中の羯人。石勒を指す)を降し、天意に順じて民意に副い、皇家を補佐すべきである。これは長年にわたって誠心を積んできたので、神霊による佑助がもたらしたのである」


 と称した。


「勝手なことを言ってやがるな」


 石勒が吐き捨てるように言うと張賓はと言った。


「言わせておいてあげましょう。己の愚かさを自ら晒しているのですから」


 三月、石勒軍が易水に達した。


 王浚の督護・孫緯そんいはこの動きに対して、人を駆けさせて王浚に報告し、兵を指揮して石勒を拒もうとした。しかしこれを弟から軍事行動では無いと書簡で聞いていた游統が制止した。


 王浚の将佐は皆こう言った。


「胡人は貪婪なうえ信がないので、必ず詭計があります。これを撃つことを請います」


 しかし王浚は怒ってこう言った。


「石公が来たのは、まさに私を奉戴しようと欲しているからだ。敢えて撃つと言う者は斬るぞ」


 衆人は発言できなくなった。こうやって思うと游統は王俊の寵臣だったのかもしれない。


 王浚は宴席を設けて石勒を待った。


 石勒は急ぎに急ぎ、早朝に薊に至ると門衛に叱咤して門を開かせた。


 だが、伏兵がいることを可能性を考え、まず牛や羊千頭を駆けさせ、王浚に礼物を献上する、と宣伝した。実際は牛や羊で諸街巷を塞ぐのが目的である。


 王浚は始めて懼れを抱き、坐ったり立ったりした。ここから行動しないのだから彼の石勒への油断具合がわかる。


 石勒は入城すると兵を放って大略奪させた。


 王浚の左右の者が防御するように請いましたが、王浚はやはり許可しなかった。もはや何を信じていいのかわからないのか。自分が間違っていることを認めたくないのか。


 石勒が聴事(政事をする場所のこと。漢・晋の時代は「聴事」と書いたが、六朝以後、「广」をつけて「廰事」と書くようになる)に登った時、王浚はやっと堂皇(庁堂)から出たが、石勒の部衆に捕えられた。


 石勒は王浚の妻を召して並んで座り、王浚を連れて来て自分の前に立たせた。


 王浚が罵って言った。


「胡奴が汝の主人(王浚)に戯れているが、どうしてこのように凶逆なのだ」


 石勒はこう言い放った。


「貴様は位が元台(補佐の大臣)に冠して手に強兵を握りながら、坐して本朝の顛覆を傍観し、今まで救援することなく、しかも自らを尊んで天子になろうと欲すばかりであった。これが凶逆ではないというのか。また、姦悪で貪婪な者ばかりに委任し、百姓に対して残虐で、忠良を殺害し、害が燕土に遍いた。これは誰の罪だろうか」


 石勒は自分の将・王洛生おうらくせいに命じ、五百騎を率いて王浚を襄国に送らせた。王浚は川に身を投じたが、王洛生が王浚を縛り付けて救出し、襄国の市で斬った。


 石勒が王浚の麾下の精兵一万人を殺した。


 王浚の将佐が争って石勒の軍門を訪ねて謝罪し、賄賂が行き交う中、前尚書・裴憲はいけんと従事中郎・荀綽じゅんしょくだけが至らなかったため、石勒は二人を召して譴責した。


「王浚が暴虐だったので、私がこれを討って誅殺した。諸人は皆、慶賀や謝罪に来たのに、二君だけは彼と悪を共にした。どうやって戮(死刑)から逃れるつもりか?」


 二人はこう答えた。


「我々は代々晋朝に仕え、栄禄を背負って参りました。王浚は凶悪・粗暴だったとはいえ、なお晋の藩臣だったので、我々はこれに従い、敢えて二心を抱くことができなかったのです。あなた様がもしも徳義を修めず、専ら威刑を行うのならば、我々の死は自らの本分なので、なぜまた逃げる必要があるのでしょうか。死に就くことを請います」


 二人は石勒を拝すことなく出て行った。石勒は二人を召して謝罪し、客礼によって遇した。


 石勒は朱碩しゅせき棗嵩さくすうらが賄賂を納めて政治を乱し、幽州の患になった罪を数え上げた。また、游統が仕えている者(王浚)に対して不忠だったことも譴責した。三人とも石勒に斬られた。


 その後、石勒が王浚の将佐や親戚の家貲(家財)を全て没収したところ、皆、巨万に及んだ。しかし裴憲と荀綽には百余袟(帙。套)の書と塩・米がそれぞれ十余斛あるだけであった。


 それを知った石勒はこう言った。


「私にとって、幽州を得たことは嬉しくもないが、二子を得たことは嬉しいことだ」


 裴憲は従事中郎に、荀綽は参軍に任命された。


 石勒は流民を分けて送り出し、それぞれ郷里に還らせた。


 石勒自身は薊に二日間停留して王浚の宮殿を焼き、元尚書・燕国の人・劉翰りゅうかんを行幽州刺史(幽州刺史代行)に任命して薊を守らせ、守宰(郡県の長)を置いて還った。


 その途中、石勒は命の危機に陥った。王浚の督護・孫緯が石勒を遮って攻撃してきたのである。


「王俊にも忠臣がいたか」


 石勒はからからと笑いながら一人、孫緯の前に現れた。


「おい、俺が石勒だ。俺の首が欲しければ、かかってきな」


「覚悟」


 孫緯が槍を持って、石勒に挑んだがその槍が彼の胸が届く前に石勒は彼の首を斬り飛ばした。


「やれやれ、最後まで油断ならないとはこういうことよな」


 彼はそう呟いた。


 石勒は襄国に至ってから漢趙に使者を派遣し、王浚の首を持って献捷(戦勝の報告をして戦利品を献上すること)させた。


 漢趙は石勒を大都督・督陝東諸軍事・驃騎大将軍・東単于に任命して十二郡を増封したが、石勒は固辞して二郡を受け入れただけであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王浚は部下ともども政治が過酷だったので、帝位を狙っても味方はいませんよね、外にもあしもとにも、ダメな部下くらいか… それにひきかえ石勒は帝位につくようにすすめられても一応謙虚に辞退したりもし…
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