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紅蓮の大地  作者: 大田牛二
第一章 八王の乱

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益州争乱

 李庠りようは曉勇(強壮・勇猛)であることから、人心を得ていたため、趙廞ちょうけつは徐々に彼を忌み嫌うようになりつつも、言葉にはしなかった。


 だが、態度には出ていたのだろう。長史・蜀郡の人・杜淑としゅく張粲ちょうさんが趙廞に説いた。


「将軍は兵を起こしたばかりなのに、急いで李庠を派遣し、外で強兵を握らせています(趙廞は李庠に北道を断たせている)。我々の同族でなければ、その心は必ず異なるものです。これは戈を逆さにして(武器をこちらに向けて)人に授けるようなものなので、早く図るべきです」


 趙廞は顔を険しくして、


「汝らの言葉こそ我の意である。『予を起こすものは商なり』(論語の言葉)とは正にこのことであるな。これは天が汝らを使って我が事業を成就させようということだろう」


 と、述べた。


 ちょうどこの時、その李庠が趙廞の元にやって来て面会を請うてきた。


「ほう、あるとしよう」


 趙廞は大いに喜び引見した。李庠は今回、やけに自分を快く迎えているなと思いながらも趙廞に進言した。


「今や中原は大いに乱れており、国家の法は無いに等しくなっています。晋室はもはや復興しないでしょう。趙廞様におきましては、道は天下に従っており、徳は天下を覆っております。殷の湯王・周の武王の事業が今ここにあるのです。天の時に応じて、人の心に従い、民を塗炭の苦しみから救おうとされるのであれば、民心は帰結し、蜀だけでなく天下を平定する事も可能となりましょう」


 これを聞いた趙廞は先ほどまでにこやかにしていた表情を一転させ、


「これが人臣の言うべきことであろうか」


 と激情を顕わにすると、彼を捕らえると杜淑らに命じてこの罪を議論させた。すると杜淑らは、


「大逆無道である」


 と断じ、李庠は誅殺された。更に彼の子や宗族三十人余りも処刑した。


 さて、これで安心というわけにはいかない。まだ、彼の兄弟である李特りとく李流りりょうは皆、兵を率いて外にいるのである。


 趙廞は人を送って李特らを慰撫することにし、こう伝えた。


「李庠は言が相応しくなかったので、処刑することになった。兄弟に罪は及ばない」


 そして趙廞は再び李特と李流を督将にした。


「兄弟を殺されて黙っていられるか」


 しかし、李特と李流は趙廞を怨み、兵を率いて緜竹に帰った。


 趙廞の牙門将・涪陵の人・許弇きょえんが巴東監軍になることを求めたが、杜淑と張粲が頑なに反対したため、怒った許弇は趙廞の門前で自ら杜淑と張粲を殺した。しかし杜淑と張粲の近臣が許弇を殺した。


 三人とも趙廞の腹心だったため、ここから趙廞の勢力はまとまりを欠くようになった。


 趙廞が長史・犍為の人・費遠ひえん、蜀郡太守・李苾りひつ、督護・常俊どうしゅんを派遣し、一万余人を監督させて北道を断たせ、緜竹の石亭に駐屯させた。


 李特と李流への警戒のためである。


「私たちをあれで感謝しているつもりのようだ」


 夜、李特は秘かに兵を集めて得た七千余人を率いながらそう言った。


「頭脳になっていた三人はもういませんし、我々の敵ではありませんな」


 李流の言葉に李特は頷く。


「さあ、やるとしよう」


 彼はそう言って、費遠らの軍を夜襲を仕掛けた。


 費遠の軍の死者は十分の八、九に上ったという。


「そのまま成都へ向かうぞ」


 李特はこれを機に成都に進攻した。


 費遠、李苾および軍祭酒・張微ちょうびは夜の間に関を破って逃走し、文武の官員は全て離散した。


 趙廞は単独で妻子と小船に乗って逃走し、広都に至ったが、そこで自分の従者に殺された。


 李特は成都に入ると兵を放って自由に略奪を行わせ、使者を洛陽に派遣して趙廞の罪状を述べた。


 以前、梁州刺史・羅尚らしょうが趙廞の謀反を聞いてこう上表したことがあった。


「趙廞は雄才ではないので、蜀人が附くことはなく、敗亡は日を計って待つことができましょう」


 今回、朝廷は詔を発して羅尚を平西将軍・益州刺史に任命した。先の上表での見識を評価してのものである。


 牙門将・王敦おうとん、蜀郡太守・徐儉じょけん、広漢太守・辛冉しんぜんら七千余人を監督させ、蜀に入らせた。


 李特らは羅尚が来たと聞いて甚だ懼れ、弟の李驤りじょうを派遣して道で出迎えさせ、併せて珍宝玩物を献上した。悦んだ羅尚は李驤を騎督にした。


 李特と李流は更に牛酒を贈って緜竹で羅尚を労った。


 王敦と辛冉が羅尚に、


「李特らは専ら盗賊となっているので、この機会に斬るべきです。そうしなければ必ず後患となりましょう」


 と、言ったが、羅尚は従わなかった。


 辛冉は李特と旧交があったため、李特にこう言った。


「故人(旧知)がめぐり逢ったら、吉でなければ凶だろう」


 李特は深く猜疑して懼れるようになった。


 三月、羅尚が成都に至った。


 以前、朝廷が命を秦州と雍州に下し、蜀に入った流民を呼び戻させた。同時に御史・馮該ふうがい張昌ちょうしょうを派遣して流民を監督させた。


 李特の兄・李輔りほが略陽から蜀に至り、李特に、


「中原はまさに乱れているので再び還るべきではない」


 と、言った。


 李特はこれに同意し、繰り返し天水の人・閻式えんしきを派遣して益州刺史・羅尚を訪ねさせ、とりあえず秋までは停留する許可を求めた。同時に羅尚および馮該ふうがいに賄賂を納めた。


 羅尚と馮該はこれを許可した。


 朝廷は趙廞を討伐した功を論じて李特を宣威将軍に、弟の李流を奮武将軍に任命し、どちらも封侯した。璽書が益州に下され、六郡の流民で李特と共に趙廞を討った者も列挙させて、それぞれに封賞を加えることになった。


 ところが、広漢太守・辛冉が趙廞を滅ぼした功を自分のものにしたいと欲したため、朝命(李特兄弟を封侯するという命)は寝かしたままにして、実情(流民の功績)も朝廷に報告しなかった。


 これに六郡の者の誰もがこれを怨むようになった。


 羅尚は従事を派遣して流民を送り還す任務を監督させ、七月までに流民が道に上るように期限を設けた。


 当時、流民は梁州や益州に分布して人の傭人になっていた。州郡が還るように迫っていると聞くと、人々は憂愁・怨恨してどうすればいいかわからなくなった。


 更にちょうど大雨が続き、穀物もまだ実っていなかったため、旅費とするものがなかった。李特は再び閻式を派遣して羅尚を訪ねさせ、冬まで停留する許可を求めた。


 しかし辛冉と犍為太守・李苾がこれに反対した。


 羅尚は別駕・杜弢とげんを秀才に挙げていた。閻式は杜弢に移住の強制に関する利害を説いた。その結果、杜弢も流民の期限を一年間緩和することを望んだが、羅尚はやはり辛冉と李苾の謀を用いて杜弢の意見に従おうとしなかった。


 その結果、杜弢は秀才板(秀才に推挙した文書)を送り返し、官府を出て家に還った。


 辛冉は性格が貪暴だったため、流民の首領を殺してその財産を奪おうと欲すようになった。そこで李苾と共に羅尚にこう報告した。


「流民は以前、趙廞の乱に乗じて多くを略奪しました。彼らの移住に乗じて関を設け、それを奪取するべきです」


 羅尚は梓潼太守・張演ちょうえんに書を送って諸要地に関を設置させ、宝貨を搜索するように命じた。


 李特がしばしば流民のために停留を請い求めていたため、流民は皆、感激して李特に頼るようになり、多くの者が互いに連れ合って李特に帰順していた。


 そこで李特は緜竹に大営を構えて流民を安置し、改めて辛冉に書を送って期限を緩めるように求めた。


 ところがこれに辛冉は怒り、人を派遣して大通りに標識を分布させ、李特兄弟を購募(賞金を懸けて求めること)して重賞を与えることを約束しました。


 それを見た李特は、牓を全て持ち帰り、弟の李驤と共に懸賞の内容をこう書き直した。


「六郡の酋豪である李、任、閻、趙、上官および氐・叟の侯王の一首を送ることができたら百匹の賞を与える」


 その結果、流民が大いに懼れ、李特に帰順する者がますます増えて、一月の間に二万人を超えた。


 李流も数千人の衆を集めた。


 李特はまた閻式を派遣して羅尚を訪ねさせ、延期を求めた。


 閻式は羅尚が要衝に営塞を構えて流民を捕えようと謀っているのを見て、嘆いた。


「民心がまさに危うくなっているのに、今これを急がせれば、乱が起きることになります」


 閻式は辛冉と李苾の意見を変えることができないと知り、羅尚に別れを告げて緜竹に還ることにした。


 羅尚が閻式に言っや。


「汝はとりあえず我が意を諸流民に告げよ。今、期限を延ばすことに同意する」


 閻式はこれにこう言った。


「あなた様は姦説に惑わされているので、延期するはずがありません。但し弱くても軽視してはならないのが民です。今、彼らを催促して道理を用いなければ、衆人の怒りとは触れてはならないものなので、恐らく禍を為すこと浅くはありません」


 羅尚は、


「その通りだ。私が汝を欺くことはない。汝は帰れ」


 と言った。閻式は緜竹に至ってから李特にこう言った。


「羅尚はあのように言いましたが、信じることはできません。それはなぜかと言えば、羅尚は威刑が立たず、辛冉らはそれぞれ強兵を擁しているので、辛冉らが一旦にして変を為したら、羅尚には制御できないからです。我々は深く備えを為すべきです」


 李特はこの意見に従った。


 十月、李特が営を二つに分けた。李特は北営に住み、李流が東営に住んで、それぞれ甲冑を修繕して武器を磨き、戒厳して待機した。


 一方、辛冉と李苾が互いに謀って言った。


「羅侯は貪婪なうえ決断力がないので、日に日に流民の姦計を増長させている。李特兄弟にはそろって雄才があるから、我々はやがて虜となるだろう。計を決するべきだ。羅侯は再び問うには足らない」


 そこで広漢都尉・曾元そうげん、牙門・張顕ちょうげん劉並りゅうふらを派遣し、秘かに歩騎三万を指揮して李特の営を襲わせた。


 それを聞いた羅尚も督護・田佐でんさを送って曾元らを助けさせた。


 曾元らが至った時、李特は平静な様子で動かず、


「もっと来てからよ」


 曾元らの衆が半数入るのを待って、伏兵を発して撃った。結果、田佐、曾元、張顕は戦死した。


 李特は彼らの首を送って羅尚と辛冉に示した。


 羅尚が将佐に言った。


「これらの賊は去ることになっていた。それなのに辛冉が我が言を用いなかったため、賊の勢いを張らせることになってしまった。これからどうすればいいのだ」


 責任感の無い男である。


 六郡の流民は共に李特を推して行鎮北大将軍(「行」は代行の意味)とし、李特に承制封拝(皇帝に代わって任官すること)させた。また、弟の李流を推して行鎮東大将軍とし、東督護と号した。それぞれに一方を鎮統(鎮守・統率)させた。


 李特は兄の李輔を驃騎将軍に、弟の李驤を驍騎将軍にして、兵を進めて広漢の辛冉を攻撃させた。


 羅尚は李苾と費遠を派遣し、兵を率いて辛冉を救わせた。しかし李苾らは李特を畏れて進もうとしなかった。


 辛冉は出陣したものの連敗したため、包囲を破って徳陽に奔った。


 李特は広漢に入ってこれを占拠し、李超りちょうを太守に任命してから、兵を進めて成都の羅尚を攻めた。


 羅尚が書を送って閻式を諭した。閻式は書を返してこう伝えた。


「辛冉は狡猾、曾元は小人、李叔平(叔平は李苾の字)は将の才ではありません。私は以前、節下(晋人は一方面の専征の将率を「節下」と呼んだ。ここでは羅尚を指す)および杜景文(景文は杜弢の字)のために留徙の宜(流民を留めるべきであるという道理)を論じました。人は桑梓(祖父や父が後代のために植えた桑や梓の木。転じて故郷を指すようになった)に懐くものであり、誰が帰郷を願わないでしょうか。ただ、彼らは往日に来たばかりで、食糧を求めて傭作し、一家が五分していて、そのうえ秋の大雨の時期に当たったので、冬の収穫を待つことを乞うただけです。しかし結局、同意されませんでした。彼らを取り締まって度が過ぎていたため、困窮した鹿でも虎に対抗するように、流民も敢えて首を延ばして刀を受けようとはせず、変を為すに至ったのです。もしも私の言葉を聴き、寛大に旅の準備させていれば、九月を過ぎたら全て集まり、十月には道に進ませ、故郷に至らせていました。どうしてこのような事になったでしょう」


 李特は兄の李輔、弟の李驤、子の李始りし李蕩りとう李雄りゆうおよび李含りふんと李含の子・李国りこ李離りり任回じんかい李攀りはん、李攀の弟・李恭りきょう上官晶じょうかんしょう任臧じんぞう楊褒ようほう上官惇じょうかんとんらを将帥にし、閻式、李遠らを僚佐にした。


 羅尚はかねてから貪婪で惨忍だったため、百姓の患いになっていた。そこで李特は、蜀の民に対して三章の法だけを約束し、恩恵を施して労役を捨て、民を救済し、賢人を礼遇して埋もれた人材を抜擢し、軍政を粛然とさせました。蜀の民が大いに悦んだ。


 羅尚は頻繁に李特に敗れたため、長大な包囲網を築いて防いだ。郫水に沿って営を造り、延々と七百里も連ならせて李特と対峙した。


 また、梁州と南夷校尉に救援を求めた。





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[一言] 誰一人物語の主役たりえない小者たちの争い。
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