おめでとう! 種は進化した!!
ーー芽が出てからの謎の種の成長速度は速かった。
一日に数センチも伸びていて、目に見える変化に娘は大はしゃぎ
指ほどの芽が五本も生えていて思わずマジマジと芽を見つめてしまった。
不思議な種だなぁ。
今日も娘はうきうきした様子で笑顔のママを連れて植木鉢に水をやりに行った。ママも娘と一緒に、すくすく育つ謎の種の世話をするのが最近少し楽しくなってきたらしい。
二人が戻ってきたら昼ご飯になる。
もう少ししたら娘の声が聞こえる時間だ。そう思いながら僕は玉ねぎがきつね色になったのを確認して、タレとお肉をフライパンに投入した。
「あ、あなたぁぁああ!!」
突然、耳をつんざくような叫び声が聞こえてきた。
「どうした!」
妻の声だ。
急いで庭に向かうと、妻は娘を抱きかかえて真っ青な顔をしていた。
「あ、あなた…植木鉢が……」
植木鉢に何かあったのか? 妻の視線の先にある植木鉢に視線を移した。
「ひっ」
なんだあれ
植木鉢から生えている”それ”は明らかに人の腕の形をしていた。
四
あれからも娘は毎日謎の種の世話をしている。
最初はママと二人で止めようとしたが、娘の涙に揃って敗北した。
なによりあのまま放置するのもそれはそれで恐ろしい。
家の娘が責任感のある子に育っているようで嬉しい限りだし、
何日かして害がなさそうなこともわかってきた。
だが、一つだけ、一つだけ問題がある。
炒飯はもう具材を準備して後はもう炒めるだけだ。ガスの元栓もしめた。さぁこい。
ママもどこか緊張した面持ちをしている。
「ままー! ぱぱー!」
ついに
きた。
庭から聞こえる娘の声は今日も大変嬉しそうだ。
ママと目があった。
僕達は顔を見合わせて一つ頷く。
「なんだいあきちゃん」
まず僕があきちゃんのもとに向かう。
娘はやはり植木鉢の側にいた。
「ぱぱ! おひめさまたすかった!」
「そうかーよかったなー」
「はい、最後に魔王を倒し、姫を救うことができました」
声のした植木鉢の方を見る。目があった。
目が合ったのは、先ほどまであきちゃんと話をしていた(自称)元勇者。
程よく筋肉のついた細身の腕からは、白い掌、そこから節のあるスッとした指が伸びていた。
真っ白で太ももの辺りから膝、そしてふくらはぎへと綺麗な曲線を描く脚。
キュッと絞られた足首からは土踏まずのあるしっかりした足が。
僕のお古のシャツを着ていても判るムダな脂肪の無い身体ボディ。襟元からちらりと綺麗な鎖骨が覗いている。
その上に鎮座するのは、綺麗にパーツが収まった顔。
目尻の下がったアーモンド形の目がしっかりとこちらを捉え、笑みを浮かべる薄い唇からは綺麗に並んだ真っ白な歯が覗いている。
「お二人ともこんにちは、今日もいい天気ですね」
よく通る声でそう言ってお辞儀をすると、さらりと頬の辺りで彼の髮が揺れる。
「……こんにちはナゾくん」
庭に居る青年にぎこちなく挨拶を返す。
「こんにちは……」
少ししてからママの声もした。
それにニッコリ笑うと、彼は娘から貰った水を彼の身体の中央に鎮座する植木鉢にパシャリとかけた。
彼の骨盤の位置には、本来あるはずのない植木鉢が。
僕が昔プチトマトを植えていた植木鉢が。
勇者を名乗る彼の体は植木鉢から生えていた。
そう、彼は元――謎の種なのだ。――