妹フェチ現る
「ん? シープラ。今俺の事呼んだか?」
俺は今なぜかシープラと二人で教室に残っている。
一時限目の自習でやれなかったプリントを一人でしているのだ。
シープラは何か事務手続きのような書類を黙々と描いている。
「呼んでいませんけど? 何か?」
「そっか、何か呼ばれた気がしたんだけどな……」
そこまで難しくないプリント一枚。
さっさとやって帰ろう。
「終わった! よし、俺は帰る。じゃぁな!」
「あんっ、待ってくださいよぉ。もう少しで終わりますからっ」
その話し方もそろそろやめてほしいもんだ。
クラスの奴は絶対に騙されている。こいつの本性を知ったら……。
「お、終わりました! 一緒に職員室へ行きましょっ」
そもそも、そんなに絡んでくるな!
ただでさえお前は目立つのに、学校で腕なんか組んだら余計目立つじゃないか!
シープラの腕を振りほどき、一人で職員室に向かう。
「ま、待ってくださいよぉ」
見た目は可愛い。そぶりも悪くない。
だが、こいつの本性はまだ分からない。なぜ、俺の所に……。
プリントも先生に渡し、正門に向かって歩き始める。
すると、向こうから袴姿の女の子がこっちに向かって走ってくる。
珍しいな、こんな時間に校外で走り込みなんて。
しかし、近づいてくる姿が次第にはっきりしてくると良く見た顔が。
「ゆ、弓! お、お前何してるんだ!」
「お、お兄ちゃん! た、助けて!」
妹の通う学校は俺の通う高校の隣。
中学を卒業した生徒はほとんどこの高校に進学してくる。
「妹さん?」
「あぁ、何あわててんだ?」
昇降口で妹の弓に抱き着かれたが、息遣いが荒い。
本気でここまで走って来たのか?
「お前、何してるんだ? 部活はどうした?」
「しゅ、主将が!」
弓の指さす方を見るとゆっくりとこっちに向かって歩いてきている。
何か嫌な感じがする。
弓は俺の背中に隠れ、主将の方を見ている。
こんなに怯えている弓を見るのは初めてだ。
もしかして、怒られているのか?
「お前、ちゃんと部活していなかったんだろ? だから主将に追いかけ――」
「ち、違う! いつもの主将じゃないの! 何か、変だよ!」
目の前まで歩み寄ってきた主将さん。
腕を組み、仁王立ちしている。
「弓。そこで何をしているのかな? さぁ、早くこちらに……」
こいつ、目つきがやばい。
獣の目をしてやがる。もしかして、弓は何かされたのか?
「おい、お前。俺の妹にちょっかい出してんのか?」
おっと、言葉使いが悪いですね。
弓の先輩だけど、俺の方が年上だ。
ここは先輩としてしっかりと指導してやらんとな。
「妹? お前が弓の兄者か?」
「あぁ、そうだ。それが何か?」
「ふ、ふははははぁぁぁ! 手間が省けた! 弓ちぁゃん! 君に感謝する!」
「どういうことだ?」
「お前を消滅させれば、私が兄に! そして、妹ゲットだぜ! ひゃっはぁぁ!」
突然俺の胸ぐらをつかみ、首を絞められた。
「うぐぁぁ! お、お前何してるんだよ!」
主将の腕をつかみ、腹に思いっきりケリを入れた。
相手ももろにくらったようで、数メートル向こうまで飛ばされている。
少しだけ距離が取れたが、相手は本気のようだ。
どうする? 先生を呼んでくるか?
「主よ、あの目を見てください」
目? いっちゃってる目をか?
「あの目、赤くぼんやりと紅くないですか?」
確かに黒い瞳ではない。
少し紅くなっているな。最近はカラコンが流行っているのか?
「確かに紅いな。それが?」
「萌えていますね」
「はい?」
「間違いなくモエルギ―に操られています」
「貴様、何者だ? なぜ、モエルギ―の事を……」
どうやら正解のようだ。
「主よ! 普通には倒せません! 早くフェチズムワールドを!」
え? 何? こいつもあの黒い奴の仲間なのか!
「こいつは『妹フェチ』です! さぁ、モエルギ―を集めるのよ!」
そう叫んだシープラは、踊り始めた。
あ、これって毎回しないとダメなの?