本当の想い―鳴神 弓
◆鳴神 弓◆
朝起きて、いつもと同じように朝ごはんを食べようとしたら、知らない人がいた。
髪の色も目の色も日本人とは違う。誰?
「お母さん、この子って……」
「あら、おはよう。ホームステイで来てくれたシープラちゃん。仲良くしてあげてね」
ホームステイ? 何それ。昨日まで全く聞いてないよ?
お父さんもお母さんも、そんな事一言も言っていなかったよね?
「いきなり?」
「本当はもう少し後だったんだけど、手続きのミスで、早朝に日本に着いてしまったんですって」
「そう、なんだ」
「おはようございます。これからお世話になりますね」
「うん、こちらこそよろしく。日本語うまいんだね」
「はいっ! この日の為に、たくさん勉強しましたからっ」
笑顔が可愛い。しかも、この言葉使いにその見た目。
反則だよ、お兄ちゃんのドストライクじゃない。
お兄ちゃんは隠しているつもりだけど、私は知っている。
引き出し上から二段目。二重棚の下に隠している一冊のノート。
確か『暗黒魔術と白龍の~~』あー、タイトルが思いだせない。
でも、何だか小説っぽいのを書いていたはず。下手な挿絵付きで。
その中のヒロインが銀髪碧眼の女の子。
それが、今目の前にいる。
こいつは危険だ。お兄ちゃんが骨抜きにされてしまう。
「まだ起きてこないけど、お兄ちゃんもいるから」
「そうなんですね! 後でご挨拶しておきますね」
「うん。ちょっと変なところあるけど、気にしないでね」
いかんいかん。思わず変な事を言ってしまった。
高学年に入ってから、お兄ちゃんの事を意識し始めてしまった。
中学に入ってからはもっとひどい。
普通に話していたはずなのに、普通に話せなくなちゃった。
どうしてだろう? そこまで意識するような事なのかな?
でも、お兄ちゃんのお布団はヌクヌクして気持ちいんだよねー。
家で一人っきりの時の至福タイム! 今日は帰り遅いのかな?
「あ、そうだ! 今日は朝練あったんだ!」
私は自分の部屋に行き、忘れそうになった練習道具を手に持つ。
部屋から出るとお兄ちゃんと鉢合わせ。
「何だよ」
うん、朝からかっこいいね。
高校に入ってから背も伸びたし、私好みのお兄ちゃんだよっ。
「何よ。邪魔なんだけど」
あー、こんな私ダメ! もっと普通に話さないと!
『おはよう』って普通に話せないのはなんでなのぉ!
あ、お兄ちゃんが一人で先に行っちゃう。
わ、私も一緒に行きたいよ!
一階ではお兄ちゃんとシープラさんが互いに自己紹介している。
お兄ちゃんに洗面所を案内されるって?
そ、そんな随分積極的な! シープラさんずるい!
私も一緒にいたいけど、今日は朝練の日! くっ、残念!
「お母さん! 私朝練あるからもう行くね! シープラさん、また今夜ねっ」
玄関に行き、急いで学校に行く。
でも、お兄ちゃんの目はいつもの目じゃなかった。
あの目つき、まるで野獣の目だ。
シープラさんを狙っている? あの可愛さに身なり。
ど、どうしよう! 二人っきりにさせちゃだめだ!
ここは私が何とかしなければ!
でも、私だけじゃカバーできない……。
そうだ! 凛ちゃんにお願いしよう!
学校での様子とか、帰ってからの監視とかお願いしてみよう。
お兄ちゃんの暴走は私と凛さんで止める!
これを期に、もっとお兄ちゃんとお話できるようになるといいんだけど……。
こっちの方も、凛ちゃんに相談してみようかな……。