本当の想い―御剣 凛
◆御剣 凛◆
今朝から良い事があった。
会えるかなって思っていたら、ちょうど玄関先で会えた。
ここ最近お話しできないけど、翼君とちょっとだけ目が合った。
ふふ、今日も元気そうだね。
翼君と視線を交わしたけど、私の想いって伝わっているのかな?
いつの頃からだろう。
何となくお互いに距離を置いてしまい、話もしなくなってしまった。
でもね、私の気持ちはずっと前から変わっていないよ。
早く私の気持ちに気が付いてほしいな……。
いつもの角を曲がると、突然変な黒いものが目の前を塞いだ。
危ないって思って、ブレーキを掛けた途端、黒い物体は私を目がけて覆いかぶさってきた。
勢い余って、自転車から放り出されてしまったけど、何なのこれ?
黒いし、ゼリー見たいで気持ち悪い……。
は、早く逃げなきゃ! あ、腰が……。
ど、どうしよう。
「た、助けて!」
思わず叫んでしまった。
誰かに、この声が届いて! お願い!
目をつぶり、覚悟を決めた瞬間――
「このやろぉぉぉ!」
声が聞こえた。
そっと目を開けると、そこには翼君が立っている。
「やぱり出てきたわね!」
聞いた事の無い声、振り返るとパンを持った女の子がいる。
私と同じくらいの年の子かしら。
でも、不思議な格好をしているし、銀色の髪。
翼君の知り合いかしら?
「相手は黒髪ロングフェチ! そこの女の子を狙っているわ! さぁ、早く!」
黒髪フェチ?
確かに私の髪は黒いし長い。この髪は私の自慢。
昔、翼君が『長い髪の女の子って可愛いよな!』って言っていた。
だから、私は髪を伸ばし、手入れもしっかしとしている。
でも、この髪を撫でてくれるはずの翼君はいない。
いつでも撫でてもらえるように準備してるよ?
しばらく銀髪の子と翼君が何やらもめているのが目に入ってくる。
女の子が変な踊りをして、翼君も踊っている。
翼君、その踊り面白いよ。
そして何か叫んだと思ったら、私の目の前から二人と、黒い物体が消えていた。
え? さっきまで目の前にいたはずなのに……。
重くなった腰を動かし、さっきまで翼君のいた辺り、地面を手で触ってみる。
穴はない。空にも浮かんでいないし、辺りを見渡しても気配がない……。
消えた? 神隠し?
どこに行ってしまったんだろうか……。
そんな事を考えていると、突然目の前に二人が現れた。
「おい、大丈夫か? 怪我、ないか?」
翼君が私に手を差し出してくれている。
いつもだったら断ってしまうだろう。
何となく話しづらい。
私は少しの勇気を出して、その手を取る。
「あ、ありがと。助けてくれて。一瞬二人が消えたように見えたんだけど……」
「いやいや気のせいだろ? それよりも怪我が無くてよかったよ。ほら、急がないと遅刻するぞ」
本当はもっとお話がしたい。
その手をもっと握っていたい。
でも、その願いはきっと叶わない。
この銀髪の子は誰だろう? 翼君と随分親しいような感じがするけど。
なんだか心がもやもやする。
嫌な子。こんな自分が嫌いだ。
聞けばいいのに。翼君の隣に行って、その手を握ればいいのに。
でも、私にそこまでの勇気はない。
そんな自分の心を閉ざし、学校に向かって再び移動し始める。
あの二人の関係って、なんだろう?
弓ちゃんに聞いてみようかな……。