契約を結ぶ者
できた!
「す、素晴らしい妄想ね」
身に纏った黒のモエルギ―は、ゴスロリ風だが戦えるような服になっている。
そして、さっきまで無かった髪に黒の大きなリボンが付いている。
鎧じゃないし。何だよこの服……。俺の妄想か?
「これでいけるのか?」
「ええ、その服装。それにあなた可愛いわね……」
うっさい! 可愛さとかはいらん!
俺は髪からリボンをほどき手に持つ。
「『ダークネスソード!』」
リボンが形を変え、真っ黒な剣となる。
やべー、かっけー! アニメで見た世界と同じじゃね?
しかも、軽いしなんでも切れそうな気がする……。
遠くに吹き飛んだ奴もこっちに向かって移動してくる。
「お前は俺の幼馴染を傷つけた! その行為は万死に値する! それに黒髪ロングはこの世界からなくさせねぇぇぇ!」
両手で握った剣を大きく振りかざし、黒き物体に向け放つ!
「『ファイナルバスタァァァ!!』」
一筋の閃光が黒き物体を真っ二つにする。
「ぎょえぇぇぇ! 黒髪ロング最高! 萌えぇぇぇぇ」
そして、黒き物体(?)生物(?)は俺達の前から消え去った。
その後には一つの小さな宝石のような何かを残して。
「終わったな」
「終わったわね」
「これで帰れるのか?」
「帰れるけど、このモエルギ―解除してもらえないかしら?」
あ、忘れてた。
別にこのままでもいいんだけどな……。
ま、今日は解除してやるか。
「これでいいか?」
「初戦にしては上出来ね」
「なにを偉そうに。お前、何もしてないじゃないか」
「主のサポートをしっかりとしているでしょ? それに彼女の髪を守ったわ」
「そ、そこについては礼を言っておくよ。サンキュな」
「ふふっ、回収回収。一個目か―、先は長いなー」
シープラがさっきの奴が残していった何かを回収し、懐に入れている。
「それなんだ?」
「これ? 後で説明するわね。それにしても、主はネーミングセンス全くないわね」
「わ、悪かったな!」
「本気でダサいわよ?」
チクショー! いきなりだと思いつきでしか言えないんですよ!
「しょうが、ないだろ……」
「ま、次もあるからそれまでに何とか考えておくのね」
「次もあるのか?」
「もちろんあるわよ。この世界に萌えがある限り」
ふっと、草原だった風景がモノクロになる。
そして、シープラと俺だけがカラーで見える。
さっきと同じだ。
次の瞬間。
さっきまでいた道路に戻ってきている。
俺の姿も服も全て元通りだ。
良かった! マジ良かった!
こんな事でもあの銀髪女が良い人(?)に感じてしまうわ!
そして、目の前で倒れている凛が視界に入る。
「おい、大丈夫か? 怪我、ないか?」
ダメもとで手を差し出す。
初めは、混乱していたようだけど、しばらくすると俺の手を取り立ち上がった。
「あ、ありがと。助けてくれて。一瞬二人が消えたように見えたんだけど……」
「いやいや気のせいだろ? それよりも怪我が無くてよかったよ。ほら、急がないと遅刻するぞ」
凛から見たら一瞬の出来事だってことか?
空間も時間もとんだ?
「うん……」
凛は再び自転車に乗り、俺の前から去っていく。
「おい、銀髪」
「ちょと待ってよ。そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃ?」
「名前はあるのか?」
「失礼ね。私の名前はシープラ。翼、あなたと契約を結ぶ者よ」
契約? 何の契約だ?
あれか? 何か買わされたのか?
「契約ってなんだ?」
「モエルギ―の回収が終わるまで、翼は私の主。私を養う義務が発生する」
「な、何だそりゃ! 聞いてないし、契約してないし!」
ハ、ハンコ押した記憶なんてないぞ!
いいがかりだ!
「契約破棄は無理。それに、昨夜契約は終わっているわよ? あなたのモエルギ―、たっぷりともらったし。私の体の中に、あなたの命の一部が……」
「ご、誤解を招くようないい方やめてくれ! 何だよそれ! 聞いてないぞ!」
「いいから、いいから。ほら早くしないと、学校に遅れるよ?」
「そんな可愛い顔しても契約は無しだ!」
「無理なものは、むりー」
こうして、初めてのモエルギ―回収案件は怪我もなく完了。
毛が無くならなくて本当に良かったぜ。
しかし、今から学校に行くのがものすごいめんどくさい。
今直ぐに帰って、布団に入りたい!
「今度、ゆっくりお話しするから! いってらっしゃーい!」
「そんな笑顔で見送っても答えは変わらないからな!」
っと、いきなりスープラの唇と俺の唇が重なる。
「な、なにしてんじゃぁ!」
「あれ? 行ってらっしゃいのチューをしてほしかったんじゃ?」
「違うわ! 俺はもう行く! 大人しくしてろよ!」
「はいはーい」
シープラがこっちを見て手を振っている。
見送ってくれるのは嬉しいが、やめてほしいもんだ。
俺、これからどうなるんだ?
元の生活に戻れるのか?
物凄く不安でしょうがありません!