フェチズムワールド展開!
ふぁぁぁぁ! 良く寝た!
昨日は何だか変な夢を見たな。
ベッドから起き上がり、いつものように制服の袖に腕を通す。
通学バッグを肩にかけ、部屋を出る。
不意に妹とばったり出会ってしまった。
「何だよ」
「何よ。邪魔なんだけど」
朝からこれかよ。
昔はもっと可愛かったのに、まったく顔が可愛いだけに残念な妹だぜ。
階段を下り、バッグをリビングに放り投げ洗面所に。
そして、いつもの席に着席。
「お、今日はパンなんだ。珍しいね」
台所に立っている母さんに声をかけると、隣に銀色の髪をした女性が立っている。
ふぁい?
「翼、起きたの? 今日はシープラちゃんに合わせてパンにしたのよ」
「シープラちゃん?」
「あ、おはようございますっ! 今日からお世話になるシープラです。翼さんですね?」
俺の目の前に、昨夜夢で見た少女が立っている。
夢じゃなかった?
「お母さん! 私朝練あるからもう行くね! シープラさん、また今夜ねっ」
妹の弓はダッシュで家を出ていく。
弓道部も朝から大変だよなー。
「さて、シープラさん?」
「なんでしょうか? 翼さん?」
「洗面所、案内するよ」
「はいっ、よろしくお願いします」
俺はシープラを呼び出し、洗面所に移動する。
「お前、何してるの?」
さっきまで笑顔で俺に話しかけていたシープラと言う名の少女は真顔になっている。
何その顔、さっきまでは作り笑顔なのか?
「あら、嫌ですね。昨夜はあんなに愛し合ったのに……」
「ちょっとま待てぃ! 俺は何もしていないだろ!」
「白を切るのデスカ? あんなに激しく……」
あ、あかん。こいつやばい奴だ。
「いいから、出て行けよ。早く家に帰れ」
「私の家はここですよ? ホームステイってやつです」
誰がそんな事認めるか!
勝手に言いやがって。
「はぁ、あんたも大変だな。で、どうしたら帰るんだ?」
突然、目の前に光の球が現れた。
あ、昨日の夜見たやつだ。
「これ、機能が完全回復してないの。モエルギ―がもっと必要だわ」
痛い。手品か何かか?
「良い腕だな。良い手品師になれるよ」
台所から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「翼! 遅刻するよ!」
「っち、時間か。俺がいないからって、好き勝手するなよ」
「主の母上にはしっかりと暗示をかけたから問題ない」
この人、何しちゃってくれるの?
「お、お前!」
思わず両肩を鷲掴みし、重いいきり揺さぶってしまった。
「大丈夫です、後遺症はありません。私は海外からの長期ホームステイする事になってます。ご安心を」
「い、妹は!」
「いえ、特に何も」
助かった。被害者は母さんだけか。
「とりあえず、おとなしくしておけよ」
「いえっさー」
片言で敬礼をしてくる。
絶対に怪しい! でも、遅刻するわけにはいかない。
俺はパンをかじりながら急いで自転車に乗り込む。
玄関を出ると、俺と同じように自転車に乗り、早々と通り過ぎていく馴染み。
御剣凛。長い髪が特徴的な隣の家に住む同級生だ。
同じクラスなのに、ここ数年会話らしい会話をしていない。
現状、俺が目の前にいても、視線をこっちに向けるだけで何も言ってこない。
何だよ、あいさつ位しろよな。
おっと、遅刻しちまう。
いそがなきゃ!
通りに出て角を曲がるとさっきまでいた凛が自転車を倒され、誰かに襲われている。
と、通り魔か!
「た、助けて!」
しかし、凛を襲っているのは見た事もない黒い物体。
人の形をしているが、人では無い。アメーバーか、スライムか?
その辺に落ちていた棒を拾い、殴り掛かる。
「このやろぉぉぉ!」
思いっきり殴ったが、ゼリーのように棒が吸い込まれ、ダメージがなさそうだ。
な、何だよこれ!
不意に後ろから声が聞こえてきた。
「やぱーり出てきたわね! んぐ。このパンおいしいわね」
おーい、シープラさん?
片手にパンを持って、何しているのかしら?
「主よ、これを身に着けて!」
渡された銀色のネックレス。
トップには何かぶら下がっている。
「早く叫んで!」
「へ? 叫ぶ? 何を叫ぶんだ?」
「相手は黒髪ロングフェチ! そこの女の子を狙っているわ! さぁ、早く!」
言っている意味が分からない。
え? なに、何するの?
「もぅ! めんどくさいな! いいから私に復唱して!」
「わ、わかったよ! 言えばいいんだろ?」
何だかよくわからないけど、凛を助けるためなのか?
渡されたネックレスを身に着け、準備完了!
「『フェチズムワールド展開! ローングゥゥブラック!』」
何だか変なダンスをしながら叫んでいる。
これを俺がするのか?
「えっと、その変な踊りもするのか?」
「そうよ、早くしないと、彼女が危ないわ!」
「襲われたらどうなるんだ?」
「フェチの部分が根こそぎ無くなってしまうの」
「つまり?」
「彼女はツルピカになるわ」
俺は一心不乱に踊った。
見様見真似、シープラの踊りを。
は、はずいけど言うしかない!
幼馴染がツルピカになるのは避けなければ!
「『フェ、フェチズムワールド、展開! ロ、ローングーブラックゥゥゥ?』」
叫んだ瞬間、周りの景色がゆがみ、灰色になる。
え? なにこれ?
そして、さっきの黒い物体と自分自身、そして、シープラだけがカラーで見える。
凛も道路も空も、壁もみんなモノトーンだ。
「な、何だよこれ!」
「初めてにしては上出来! 行くわよっ!」
そして、ほんの数秒後、周りの景色がゆがみ、まったく見た事もない草原に立っている。
おわっふ。これは、夢ですか?
「さぁ、うまく展開できたわね! ここでなら問題ないわ! 思いっきりやっちゃいないさい!」
段々混乱してきた。
草原に黒い物体とシープラ。
そして、俺がいるけど、何だか頭がいつもより重い気がする。
ふと、手を頭にのせてみる。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!」
髪が長い。そう、凛と同じくらい長い。
そして、自分の手を見る。
なんだ、この華奢な手は。
そして、自分の胸が膨らんでいる事に気が付く。
あれ? 俺、胸に何か入れたっけ?
触ってみると柔らかい。まじすか?
「シーぷらさん?」
「はい、鏡」
目の前に現れた姿見を見る。
終わった。俺の人生終わったよ。
そこには黒髪ロングの美少女が。
しかも、ゴスロリっぽい服を着させられている。
いつの間に? 何だかどうでも良くなってきたなー。
「さぁ、戦うのよ! 黒髪ロングを世界から守るために! そして、そいつの『モエルギ―』を回収するのよ!」
朝から訳が分からない。
俺は、この先どうなるんだ?
学校、遅刻しちまうよぉぉぉ!