お兄ちゃん、大好き
◆鳴神 弓◆
シープラさんにもらったこのネックレス。
今思っている事を、言葉にすればお兄ちゃんは助かる!
「私のお兄ちゃんをいじめるなぁ! ずっと、ずっと言えなかったけど! 私はお兄ちゃんが大好きなのぉぉ!」
私の妄想。お兄ちゃんの妄想を!
――
「そのリボン、かわいいね。良く似合っているよ」
「今日は二人だし、たまには一緒にご飯でも作ろうか?」
「彼女? いないけど。俺には可愛い妹がいるからな」
「今日は良く冷えるな。一緒の布団で寝るか? 昔のように」
お兄ちゃん。大好きなお兄ちゃん。
小さいころからずっと、ずっと大好きなお兄ちゃん。
私の頭をなでなでしてくれて、おやつも多くくれるお兄ちゃんが、本当に大好きっ!
――
ずっと、私の事を見てくれて、いつでも甘えさせてくれる翼お兄ちゃんが大好き!
だから、私はお兄ちゃんの為に戦う! たとえ、この身が砕けても!
――刹那!
その瞬間、私の体からピンク色の何かが噴出してきた。
「な、なにこれ!」
「エクセレェント! 弓ちゃん、萌えてるね!」
「ど、どうすればいいの?」
「落ち着いて、それはモエルギ―。弓ちゃんの萌えよ」
「ごめん、良くわからない。でも、これからどうすれば?」
「そのモエルギ―を身に纏う妄想を!」
「分かった! やってみるね!」
目を閉じ、自然体でモエルギ―? を感じる。
まるでお兄ちゃんに包まれているみたい。
温かい、そしてとても優しいぬくもりを感じる。
お兄ちゃんを身に纏っているイメージ。
どんな形にしたらいいんだろう?
お兄ちゃんはどんな衣装だったら好きって言ってくれるかな?
鎧? 戦うんだったら鎧の方がいいのかな?
あ、お兄ちゃんの書いていた小説の挿絵を参考にしよう。
確か弓矢使いのエルフが身に着けていた動きやすそうな鎧が書いてあったはず。
ふふっ、まさか自分の書いた挿絵と同じような鎧を着るとは夢にも思わないだろう。
かっこいいって言ってくれるかな?
もしかしたら、そのままギュッとしてくれちゃったり!
次第にモエルギ―は私の周りで形になっていく。
目を開けると確かにピンク色の鎧になっている。
だけど、何だが足元とお腹がスース―する。
隣にやって来たシープラさんが姿見を見せてくれた。
それ、どっから出したの?
そこに写っていた自分自身を見ると、驚愕!
「な、なんでこうなるのよぉぉ!」
そこにはピンクのビキニアーマーにミニ袴姿という、良くわからない姿になっている。
靴下はなぜか紺のハイソックス。さらに背中には弓、腰には屋筒が装備されている。
「シ、シープラさん?」
「ぷぷっ、何その格好。弓ちゃんって結構――」
「萌えぇぇぇぇぇぇ! 弓ちゃぁーん! その姿、最高だお! 萌えの塊じゃないですかぁ!」
主将が叫んでいる。
だけど、シープラさんがさっき笑った気がした。
私のこの姿を見て、絶対に笑っていた!
あ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは?
この姿をみてどう思ったのかな?
お兄ちゃんの方を見てみると、いつもの優しい目になっている。
ありがとう、お兄ちゃん!
「お兄ちゃん! 待ってて! 私が主将をやっつけてあげる!」
背中の弓を手に取り、矢を一本筒から取り出す。
お兄ちゃんをいじめた罰よ!
「主将! 私はお兄ちゃんが好きなの! 主将はそのまま寝ててください!」
「弓ちゃんに勝ったら兄になれるんだね! イイヨ! んはぁ、打ってきてごらん! その全てを受け入れて、我は兄となるぅぅ!」
主将もさっきと同じモーションに入る。
命中率は私の方が高い! 主将、勝たせてもらいますよ!
「この一撃に、私の全てを! 『ラブリーアロー!』」
この一本に私の全てを込める! お兄ちゃんを守るために!
「生ぬるい! そんな貧素な胸、じゃない、一撃など弾き返してくれるわぁ! 我の妹になるがいい! 『萌えキュンアロー・ファイナル!』」
放たれた矢は白い光で覆われながら主将に向かって飛んでいく。
同時に主将の放った矢も私に向かって飛んできた。
そして、私と主将の間で互いのモエルギ―が拮抗している。
ダメなの? 私の全てを出し切ったのに!
「主よ! 何をしている! ここで主が立ち上がらなければ、誰が立ちあがるのだ!」
お兄ちゃんが足をフルフルさせながら立ち上がった。
そして、足を引きづりながら私の所まで来てくれた。
「お、遅くなったな……。悪い、俺がダメな兄貴で、弓に迷惑を――」
「そんな事無い! お兄ちゃんはいつでも私を守ってくれてた! 今までも、ずっと、ずっと!」
「弓……。ありがとう、俺のモエルギ―も少しだけ……」
お兄ちゃんが私の背中から抱き着き、そっと頭を撫でてくれる。
温かい、そして私の心は癒される。
今までごめん、お兄ちゃんと話すのが恥ずかしかったの。
でも、今日から昔の私に戻れそうだよ。
ありがとうって、私の方が言いたいよ。
お兄ちゃん、大好き。




