モエルギ―の暴走
目の前が真っ白になる。
主将の放った矢は光りながら俺に向かってくる。
ピンクの光の向こう側、主将がニヤつきながら俺の方を見ている。
ここまでか……。
主将の放った矢は俺の目の前で爆散し、俺は後方に吹き飛ばされた。
転がりながら妹の弓の隣で、地面に倒れてしまった。
頭がくらくらする。体中が痛い。
「お、お兄ちゃぁぁぁん!」
俺を揺さぶりながら涙を流している。そんな顔するなよ。
そして、怪我しているっぽいし、怪我人をそんなに揺さぶるな。
だがしかし、俺はまだやれる!
「な、泣くなよ。た、いしたこと無いから。お前は、早く逃げろ!」
無理やり体を起こし、再び奴に向かって睨みつける。
このやろぉ! 俺の妹を泣かしやがって!
「お、まだ立ち上がるのか。そんなに妹が大切なのか?」
「大切? 大切に決まっているだろう! この世界でたった一人の妹だぞぉ!」
次の瞬間、俺の着ていたピンクの服が爆散し、いつもの制服になる。
手に握っていたガンブレードも元の形に戻り、ネックレスの先に戻ってしまった。
「な、何でだ?」
「モエルギ―不足ね。さっきの攻撃をもろにくらったから、モエルギ―が尽きたのよ」
なんてこったい、そんな事があるのか。
まずい、もう一度モエルギ―を――。
「わ、私のお兄ちゃんに、何てことするのよぉぉぉ!」
弓が俺の前に立ちはだかり、主将と俺の間に立っている。
俺を、守っているのか?
「弓ちゃぁーん。そんな妹に萌えきれない弱い兄者は捨てておけ。ここに強くてかっこいい、妹萌えなお兄ちゃんがいるじゃないか!」
「あ、あんたなんかお兄ちゃんじゃない! 私のお兄ちゃんは一人しかいないのよぉ!」
「そこで転がっている奴の妹に対する萌えよりも、私の妹萌えの方が上のようだな!」
「っく……。俺の、妹萌えが弱かっただと?」
「そ、そんな事無い! 私のお兄ちゃんは最高なんだから!」
そう叫んだ弓の周りに淡いピンク色の何かが見えた。
シープラも妹の方を見ており、何やらポケットをゴソゴソしている。
「ま、まさかモエルギ―の暴走! まずいわっ!」
そして、手に持ったネックレスを一つ、妹に投げつける。
とっさに受け取った弓はキョトンとした顔でシープラを見ている。
「シープラさん? これは?」
「早くそれを身に着けて!」
言われるまま弓はネックレスを身に着け、その胸には弓矢のトップがぶら下がっている。
「弓ちゃん! 今想っている事を言葉に! そして、その想いを妄想して!」
「妄想? 今思っている事を妄想するの?」
「そうよ! この世界はモエルギ―の世界! 弓ちゃんの妄想を形にするの!」
「や、やってみる!」
倒れている俺の目の前で、弓は立ち上がっている。
助けるはずの俺が、弓に守られるって事なのか?




