神具とは
背中にくっ付いている弓が少し邪魔だけど、しょうがない!
ここで弓を危険な目に合わせる位なら、いくらでも笑われてやるぜ!
腰の動き、腕の動きをトレースし膝をカクカクさせる。
前回の踊りと違うのはなんでだぁ! 毎回違うんですか!
「いいわ! いい感じよ! すごく上達しているじゃないの! 今よっ!」
そうか、いい感じなのか? そっか、それは良かった!
「って、そんな事あるかぃ! 『フェチズムワールド展開! ラブ・ストロベリィィィ!』」
今朝と同じように、再びモノクロームの世界へ。
しかし前回と違って、主将とシープラ、俺に弓がカラーになっている。
あ、これってもしかして。
世界が変わる。前回は草原だったのに、今度はお花畑だ。
しかも遠くにお城まで見える。 ホワイ? ここはどこ?
「来たわね。良い妄想ね、お花がとってもきれいよ」
シープラの目の前まで移動し、首根っこを掴む。
「説明しろ。なぜ前回と違うんだ? 弓まで来てるじゃないか!」
俺の後ろにいた弓までがこっちの世界に来てしまった。
これでは意味はが無いじゃないですか!
「飛ぶ直前に主に触ってたんじゃ? でも、妹さんも高いモエルギ―を持っているわね」
「お、おにいちゃん?」
腰が砕けたのか、弓はその場に座り込んでしまっている。
どう説明したものか……。
「良い世界だ。まるで私と弓ちゃんを迎えてくれるような。そして、モエルギ―があふれているぅぅ!」
あ、こいつダメだ。弓のどこがいいんだ?
口悪いし、性格悪いし、ちっこいし。
でも、見た感じはそれなりに可愛いと思うんだけど、性格がねー。
それでも!
「お前に妹は渡せん! 俺を倒してからにしやがれぇ!」
「お、お兄ちゃん!」
弓がキラキラした目で俺を見ている。
少しは兄っぽいか?
「主よ、早くモエルギ―を出して! 来るわよ!」
「ふはははは! この地のモエルギ―はどうやら私にも力を貸してくれるようだな! 妹の為、私も全力で行こう! 『恋! 神具よ!』」
主将の手が輝き始め、弓と矢が現れた。
何だかちょっとかっこいい。むかつくな。
「あっ! その弓と矢はっ!」
「どうした?」
「あれ、私の! 何勝手に持ち出してるのよ!」
おいおい人の物勝手に使うなよ。
つか、神具じゃないだろ?
「妹モエルギ―値が詰め込まれた武器こそ、我の神具なり。兄者よ。貴様を倒し、我が兄となろうぞ!」
主将が弓を引き、俺を狙い始めた!
こっちも応戦しなければ!
「主よ! 早く妄想を!」
「分かってる! ちょっと待て!」
――
妹。それは兄妹にして、叶わぬ恋。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝てくれる?」
「私ね、おっきくなったらお兄ちゃんと結婚するの!」
「あ、あのね! たまには、一緒にお風呂はいってくれる?」
「へへっ、膝の上は私の指定席だよっ」
叶わぬ恋だとしても、もしかしたら義理の妹かもしれない
二人でいるだけで幸せな時間が、尊いと思える時間がここにはある。
「お兄ちゃん、大好き。ずっと私の側にいてねっ」
頬にキスをされると、ちょっとくすぐったい。
――
妄想終了!
ふぅー。最近妹物も読んどいて正解だったぜ!
――刹那!
俺の体から桃色のオーラがあふれ出した!
よっしゃ! きたこれ!
前回と同じように、溢れだしたモエルギ―を身に纏い始める。
目を閉じ、自然に身を任せる。
「完了だ……」
目を開けると、前回と服装が違う。
今回はピンクのフワッとスカートに、白のリボンが着いている。
やっっぱり女の子になっちゃうんですね!
出来れば男のままかっこよく行きたいんですけど!
そこんとこ、修正できませんか?
「今回も可愛いわね」
「お、兄ちゃん?」
あぁ、そんな目で見ないでくれ。
俺だって好きでこんな姿には……。 ん?
弓の所に行き、背比べ。
のぉぉぉぉ! 弓よりも背が低い!
しかも、弓よりもまな板っぽいぞ!
「あ、あの……」
「弓。詳しくは後だ。ここで待ってろ!」
主将はすでに攻撃態勢に入っている。
矢の先にピンクの光が集まり始めている。
こっちも応戦だ!
「『ガンブレードォォ! ガンモードで起動!』あいつを打ち砕けぇぇx」
オニューの武器で先制攻撃。
悪く思うな。先手必勝!
だが、新しい武器は無反応。
形こそ銃みたいになっているけど、何も出てこない。
「シ、シープラさぁん! 何も出ないんですけどぉぉ!」
「そうよ。弾なしよ」
「弾無し?」
「主は女の子でしょ?」
そ、そんなボケはいらん!
「早く何とかしてくれ! どうすりゃいいだ!」
「モエルギ―をチャージしないと何も出ないわよ?」
なんてこったい! 早くチャージを……。
「遅かったな! では、兄者よ、さらばだ! 『萌えキュンアロー!』」
だ、ダサイ! なんだそのネーミングはぁぁぁ!
そして、俺の目の前が真っ白になった……。
すまん、弓。
お前を守れなかった……。




