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秋葉原ヲタク白書42 "TO romantics"

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒はメイドカフェの美しきメイド長。


この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第42話です。


今回は、アイドルとヲタク限定の出逢い系アプリ"TO romantics"の顧客が次々と"パパ狩り"に逢います。


顧客流出に悩むスタートアップCEOから調査を依頼されたコンビの前に中国国家安全部の影もチラついて…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 個撮落ちと呼ばないで


「個撮に落ちた子を救いたい!俺達の手で」


渡された名刺には"NGO アイドル再生プロジェクトπ"とある。

芸能プロダクションも、最近はNGOを名乗ルンだなと率直に驚く。


「"アキバ水着ビーチ"は、個撮落ちしたアイドル崩れにとって最後の希望だ。彼女達のためにも、アキバから希望の灯を消すワケには逝かない!テリィちゃんも力を貸してくれ!WCB(ワールドコスプレバトル)で魅せた経営手腕を彼女達のために、ゼヒもう1度!」

「うーん貸しても返って来ない人には貸すなって逝うのが家訓なんでwところで"ビーチ"って、アイドルが水着で歌うライブってコトですか?昔、水着カラオケパブとかありましたょね?平成より前の、イキナリ昭和の頃デスが」

「ソレだょ!テリィちゃん、昭和の頃の水着パブなら最低1万円で税金まで取られた!でも、パブをライブに変えただけで¥3000!警察もアキバ系ライブと聞けばウルサいコトは逝わない(あ、リアルJKだけはヤメとけw)。誰にも間違いはある。名前を変えてもう1回アイドルやらないか?スタッフ全員で応援する!スタッフの中には行動経済学者もいるんだ!と、説得すると大抵の子は直ぐ水着になる。チョロいゼ」


そんなコトは聞いてないょ笑


ケンゾさんは、まぁ昔は国営TVでも見かけたアキバ系文化人?の走りみたいな人。

最近トント見かけナイと思ってたら、こんなコトやってたのか?もう終わりだなw


因みに彼は、純白のジャンプスーツで胸をハダけるも胸毛が薄くて何とも間抜けな感じ。

プレスリーのそっくりさんショーか渋谷のハロウィンの帰り?ま、まさか普段着なのかw


あ、ココは僕の推し(てるメイド)ミユリさんがメイド長を務めるアキバの御屋敷だ。

全てがココより始まる、との意味を込めて"宇宙旅行への出発基地(スペースポートアキバ)"とも呼ばれる。


それから、個撮はモデルとカメラ持参ヲタク1:1の撮影会のコトで痴情系トラブルの温床w


「¥12000/hの個撮に身を落とすのはアイドルとして最後の手段だ。2人きりになると豹変する男ばかりに囲まれ、後は風俗に落ちるのは時間の問題。でも、水着ライブなら、同じ30〜40代のモテない独身オヤジ達が喜んで、しかも健全に金を落としてくれる。コレは彼等のタメでもあるんだ!¥3000でビキニの女の子の中から自分の推しをヨリドリミドリで選べる(選ぶダケダケどなw)、となれば会社帰りに仕事仲間と飲みに行くより、よっぽど安上がりだっ!」

「で、僕に何をしろ、と?まさか彼女達の手印刷の写真集に図書コード付けろ、とか無茶は逝わないでくださいょ?」

「ぐっ!ま、まさか。あはは…いやぁ、実はさ、ちょっち聞きたいコトがアルんだょ」


ココでケンゾさんは"ヒューン"と音がする位、急に小声になる。

僕とカウンターの向こうのミユリさんも、慌てて聞き耳を立てる。


「最近、札幌式の耳かきって流行ってる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


令和に入り、耳かき店の繁盛が止まらない。


新橋ストーカー事件の煽りで下火になった"耳かき"だがメインは膝枕と逝うライト感覚が男女双方にウケてスッカリ息を吹き返す。


しかし、耳かきに札幌式とかってあるのか?


「ソレが、例の老舗耳かき店で、今までのNo.1をアッサリdouble scoreで抜いた耳かき嬢がいて…何か先月、札幌から来たらしいんだけど。彼女の"皇帝コース"とか逝うのがエラい評判ナンだけど、何だ知らないのか、テリィちゃん」

「ケンゾさん。ウチの御主人様はね、そんなトコロまで逝かれる必要はナイのょ。だってテリィ様専用の"膝枕"がココにアルのです。その、あの、私のお膝が、ちゃんとアルんだから…とにかく!私がリィナちゃんから話は聞いてます。その、先月までNo.1だった子から、ですけど」

「ええっ?!どんな話を聞いてんの?ミユリさんも何で教えてくれないかなぁ?TO(トップヲタク)と推しの間に秘密はナシだょ!でも、所詮は"膝枕"でしょ?そんな人によって水揚げが変わるホド、バリエーションがアルとも思えないんだけどな。まさか禁断の"膝マクラ営業"でもアルのかな?ソレに引っかかったケンゾさんが美人局(つつもたせ)に遭い、パニクって駆け込んで来たのが今回の顛末、とか、そんな話デスか?もしかして」


ココでケンゾさんは苦笑い。


「ソレが…俺じゃなくて、さっきチョッチ話したスタッフの話なんだょな。行動経済学者の」

「ええっ?ホントに学者のスタッフなんか抱えてるの?箔付けのフカシ(嘘)かと思ってたケド?そんな学者先生が、よくもまぁ、ディープな風俗世界の"耳かきNo.1"なんかと出会えたね?やっぱり、お金の力?国の補助金が出てるとか?」

「補助金はナイけど、今は便利なアプリがアルんだょ。またまたホントに知らないのか?テリィちゃん…あ、ゴメンゴメン。ソレこそ"ウチ"の御主人様には不要だったな、ミユリ。テリィちゃんには要らないょな、TO(トップヲタク)とアイドルのマッチングアプリ"TO romantics"なんてさ」


第2章 出会い系と呼ばないで


と逝うワケで、翌日、早速ケンゾさんに連れられミユリさんと"TO romantics"を訪問。

"TO romantics"は例の行動経済学者が立ち上げた会社とのコトで彼にも会え一石二鳥。


「やぁ!いらっしゃい!お話は伺ってます。コチラが噂の"アキバ最強コンビ"のお2人ですね?しかし、ケンゾさんがどうお話ししたかは存じませんが、コトは美人局(つつもたせ)なんかでは、終わらナイのです。実は、恥ずかしながら、強盗にも入られてましてw手口から見て、美人局と強盗は同一人物だと思われるので、お2人に先ず美人局を叩いて頂ければ、恐らく同時に強盗退治も出来ちゃうと逝う、タイヘンお得な案件ではナイかと。まぁ、盗まれたモノですが、取り返して頂ければ有難いけど、万一取り返せなくても、ソレはソレで構いません。ココだけの話ですが、実は大したモノではナイので」

「えっ?でも、美人局は、その"大したモノではナイ"モノを盗むために、ワザワザ強盗まで働いたワケでしょ?ホントに取り返せなくてもいいのかなぁ?後から、やっぱりお願い、とか逝われると手間が倍になるんデスけど。しかし…貴方が噂の行動経済学者さんですか?いや、お若い!てっきり学会の重鎮系のお爺チャンかと思ってました」

沖田艦長(ヤマトの)みたいな?あはは。"TO romantics"のイラァと申します。はじめまして」


出会い系サイトの会社なんて、どんな胡散臭いオフィスかと思ってたらトンでもナイ。

中央通り沿いにあるタワーマンションの中層階に入ってるお洒落なスタートアップだw


で、現れた行動経済学者はシリコンバレーの若きCEOと逝う感じ。

そこらのドアが開き芸能人の剛力ナナメとか普段着で出てきそう。


しかし、この手の人達は何で判で押したように皆ポロシャツなの?


「"TO romantics"は、単なる出会い系アプリではありません。行動経済学の最新データをAIに深層学習(ディープラーニング)させ、マッチングアルゴリズムにフィードバックするコトで、ソレ自体が日々経験を積み、進化する持続可能なアプリなのです」

「つまり、電子の生きてる仲人(おせっかいおばさん)と逝うコトですね?TOになりたいヲタクとTOが欲しい地下アイドルをマッチングさせるアプリか。一歩間違えると、太客(おとくいさん)と風俗嬢のマッチングアプリみたいな…」

「エヘン!エヘン!エヘン!とにかく!"TO romantics"は、安易に会員のプライバシーを明かしたりするコトはありません。それなのに、最近"パパ狩り"のターゲットにされてて…」


ええっ?!"パパ狩り"?何ソレ?


「先程、テリィさんも仰ったとおり、ヲタク側には、あわよくば地下アイドルとニャンニャンなんて下心があるコトは御案内のとおりです。もちろん、ソンなコトは"TO romantics"には、予め織り込み済みでしたが…しかし、地下アイドルの側にも、太客を(くわ)え込むためなら何だってスルと逝うマクラ営業の旺盛な精神があったとは。トホホ」

「およそ行動経済学者らしからぬ弱気な御発言ですが。と、おっしゃいマスと?」

「マクラ営業が横行する現状は、ソレはソレで嘆かわしいのですが、最近、ソレにナリスマシて"パパ狩り"をする奴が現れたのです。ニセのアカウントを作って地下アイドルにナリスマシて、寂しい中年ヲタクと会話を始める。パパ候補が引っかかると直接会おうと誘うが、パパ候補のヲタクが会いに行くとソコにいるのは地下アイドルではなくて、ダブルレンズ仕様のカメラ搭載スマホを構えた自称"パパハンター"と逝う寸法です。殴られライトを浴びせられ顔もロクに見ない内に"私は地下アイドルをホテルに誘いました"と自供?させられ、動画に撮られ、後日UPされ、会社にバレ、恋人にバレ、妻にバレ、人生の景色が一変スル。金品の要求などは一切なくて、脅迫・ユスリとは逝えない。ひたすら"パパハンター"が"正義の追求"だけを執行スルのです」


ホント迷惑な奴だな"ハンター"は。

しかしマクラ営業のナリスマシだと?


世の中も複雑になったものだ。


単純なユスリだった"美人局"がシンプルで美しく見えてくる。

こんな世の中では、出会い系アプリを運用する側も大変だろう。


しかし、イラァCEOも負けてはいない。


「私達も、ナリスマシにはナリスマシで対抗するコトにしました。CEOである私自身が自ら"TO romantics"に登録して罠を張るコトで"ハンターを狩る者(ハンターキラー)"側に転じるコトにしたのです。得意の行動経済学の知見を投入し、ハンターが食いつきそうなデータでプロフィールを立ち上げたトコロ、苦労の甲斐あって、結果は直ぐに出ました」

「ええっ?!"パパ狩り(パパハンター)"を罠にハメたのですか?」

「ハイ。マンマと奴は誘いに乗り、私が指定した場所で逢うコトになりました。即ち真夜中のココ、つまり"TO romantics"のオフィスに誘き出すコトに成功したのです!もちろん、陸上自衛隊レンジャー出身のボディガードを雇って、奴が姿を現し私に暴力を振るおうとしたら、即、返り討ちにする段取りでしたが…」


え?え?ソレでどうなったの?!


「残念ながら、返り討ちに遭ったのは私達の方でした。何と奴等は…単なる"強盗"ではなく"強盗団"だったのです。5〜6人でソレも全員が武装してました。しかも…黒い覆面をしてましたが、多分、全員が女子だったと思います。その、カラダの線とかが、ですね…でも、私や元自衛隊員を縛り上げる手つきはヤタラ手慣れたモノでした」

「と逝うコトは、もしかして、ビルや街頭の防犯カメラには、彼女達の映像が残っているかもしれない、ってコトですね?」

「ソレが、全カメラ見事にループ画像にすり替えられてました。プロの仕事です。コレは、子供じみた"パパ狩り"とは違う、全く別の、プロによる犯罪行為だと考えています」


そして、ラボから7つのハードディスクが消える。

ディスクには、極秘実験のデータが入ってるw


「データは特にパックアップも取ってませんが、コッチは先に申し上げたとおり、もし取り返せナイようなら、特に無理しなくて構いません。ただ"パパハンター"の方は必ず見つけ必ず退治して欲しい。"TO romantics"に限らず、この手の出会い系(何だヤッパリ出会い系だったのかw)はプライバシーの厳重保護がウリです。既に"顧客がパパ狩りされてる"と逝う噂が立って、プライバシー保護がより厳格なサイトへと、顧客流出が始まっています。実損害が発生し、時事刻々と傷口は広がっている。一刻も早い処理をリクエストします。あ、お金に糸目はつけません。一流の仕事には一流の報酬があって当然だ」


ココで彼は天文学的とも逝える数字を口にしたが、いくら儲かってるスタートアップとは逝え、そんな金が何処から湧いて出るのか?


もともと期待には応える主義ダカラやってるダケで、金をもらうつもりはサラサラない。

そもそも僕達はアキバのヲタクで、私立探偵でも民間軍事会社(PMC)でも、何でもナイからね。


パパ狩りキラー(ハンターキラー)"から"ディスク探し(トレジャーハンター)"をリクエストされただけ。

な?コレなら、なんだかアキバ版のドラクエみたいになっただろ?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日、僕は手掛かりを求め、耳かき店へ御帰宅してみる。

まぁ手掛かりと逝うよりアッサリ"犯人"そのものだがw


あ、耳かき店は御帰宅って逝わないのカモ。


「久しぶり。いつ札幌から戻ったんだょ"マスターキー"。挨拶ナシとは水臭いぞ」

「ドノ国二、潜入先ノ首都二戻ッタトろーかる二報告スルすぱいガイル?」

「何が潜入先だょ?世界のヲタク首都に喜び勇んで帰任して来たクセに」


大陸からやって来た美少女スパイ"マスターキー"には、僕は色々"貸し"がある。

世界最強のサイバー軍とも逝われる61398部隊所属の彼女はあらゆる電子錠を破る。


他方、ヲタクな彼女には業平橋通りで"皇帝式"耳かき嬢をやっていたと逝う黒歴史がw

僕とは、その頃からの古い付き合いだが、ここ暫く北海道買収作戦wに従事してたハズ。


「"パパ狩り"してる奴が"皇帝耳かき"と逝うから、1発で"マスターキー"だとわかったぞ。何しにアキバに戻って来たんだょ?まさか札幌のキャラちゃんと喧嘩したんじゃないだろーな。あんないいメイド長は他にはいないぞ」

「マサカ!きゃらメイド長、大好キ。札幌ノ御屋敷(メイドカフェ)"ロミエッタ"ハ、ホント楽シカッタ。秋葉原ニハ"悪魔ト"仕事デ来タ」

「"悪魔ト"じゃなくて"あくまで"だろ?そんなコトだと思ったょ。また誰かをリンカの彼みたいな目に遭わせに来たのか?平和な電気街を余り騒がすなょな」


ミユリさんの親友リンカの彼はCIAだが、彼女に末広町駅のホームで暗殺されかけてるw

あ、耳かき店って半個室なので、隣に話が全部筒抜けだから言葉は選ばないとイケナイ。


果たして"マスターキー"は、悪戯っぽい笑みを浮かべ、自分のスマホを見せてくれる。

可愛い唇をおちょぼ口にして人差し指を縦に当て、声を出すなとジェスチャーで制する。


次に彼女が画面をタップすると、5人の中年男性の顔写真が現れる。

コ、コレは彼女がパパ狩りした相手?教えられてた人数より多いょ?


「4人ハだみー。たーげっとハ、サテ誰デショウ?」

「コレだっ!」

「ぴんぽーん!相変ワラズ、スゲェナ、てりぃハw」


そりゃわかるょwダミーの4人は外見的にイカニモなアキバ系のヲタク←

そして5人目は…金髪の恐らくアメリカ人だから霊南坂(たいしかん)の住人だろうw


「おいおい。この人に何したんだょ?"マスターキー"の祖国は、太平洋の向こうの国と激突の最中だょな?この小さな島国に、大国同士の面子の潰し合いとか持ち込まないでくれょな」

「それハ北京ガ決メルコト。歯車二難シイこと逝ワナイデ。私ハ、私ノオ仕事ヲ済マセテオ仕舞イ」

「あぁわかった!またハニートラップを仕掛けに来たんだな?大方、あのミニの悩殺チャイナドレスでのしかかったんだろ?あぁ目に浮かぶようだ、こうして瞼を閉じると」


と逝いつつ目を見開いて彼女を睨みつける。

彼女は、遠い目でトボけようとするも観念。


やや?急に日本語が流暢になったぞw


「そんなコトより、歯車同士でアキバを楽しみましょうょ?あ、そもそも未だ施術してなかったわ。さぁ!耳かきしてあげる!私の膝枕へプリーズ」

「ゴマかすな!今時の太客(じょうとくい)でホントに耳かきしてる奴なんていないだろ?みんな高い延長料金を払って何時間も無言でDVDを見てるって話じゃナイか」


するとナゼか"マスターキー"が激昂。

な、な、何?開き直ってんのか?お前w


「そうなのっ!ホント、日本の耳かき嬢って情けない!太客に貢がせたら、後は延長料金の上に胡座をかいてるだけ!そりゃ新規のお客様相手に何度も何度も耳かきを繰り返すより、常連とDVD見て居眠りしてる方がカラダは楽ょね!でも、ソコに萌えはあるの?だから、私は秋葉原では延長は1時間までしか認めない!ソレで御新規がつかずに水揚げが落ちるのなら、そりゃアンタは秋葉原の耳かき嬢には向いてなかったってコトょ!そんな女は秋葉原を去れ!萌えをなめるな!」

「おおっ!正論だ。僕は"マスターキー"を断固支持する。同じ趣旨より、耳かき店長同士の"ウチの◯◯ちゃんは◯時間延長の予約が入った"って逝う、あの自慢話合戦もゼヒ自粛するべきだ!」←

「テリィたん。アンタはエラい!アンタこそ今、秋葉原が失いつつあるモノを持ってる男だ!感激したから、大事なコトを教えてあげるね」


ココで彼女は"ヒューン"と音がする位、急に小声になる。


「今回、テリィたんが探してる"パパ狩り"を語った押し込み(強盗)だけど、アレ、って逝うかアレ"だけ"は、私じゃないから」

「やっぱり?大勢で出入り、なんてゼッタイ美しくナイもんな。"マスターキー"の美学に反するって思ってたょ」

「あぁん、テリィたん。ミユリさんだっけ?彼女さえいなければ私、貴方の…いいわっ!出血大サービスで押し込み強盗を仕切った女の名前も教えてあげる。その女の名前はね…」


第3章 禿鷹ファンドと呼ばないで


「カルラだ」


ミユリさんの前でつぶやく男は、元自衛隊のレンジャーでイラァCEOのボディガード。

アイドル通りのカフェで、ミユリさんは彼にスマホで、ある女子の写メを見せている。


「やっぱりね。手強かったでしょ?」

「うーん。多分旧ソ連の軍隊格闘技(システマ)だと思う。ロシアの特殊部隊(スペツナズ)か?あの女」

「ううん。純粋な大和撫子。もしかして、最近ホテル・モスクワ(ロシアンマフィア)の男とつきあい出したのカモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕が耳かき店を出ると…互いに腰に手を回してヤタラとレズっぽい美女2人組がいる。

1人は探さなきゃ!と思ってたカルラで助かったと逝えば助かったけど、もう1人は…


わわ!ミユリさんだw

彼女は…怒ってイル←


「テリィ御主人様、どなたの膝枕でお休みだったのですか?!私以外のどなたの膝枕で?!」

「あ、いや。コレには深い意味が…ナイ!全くナイ!ホントに無意味な膝枕だった!で、無意味ではあったが、リサーチとしては収穫があったんだ!だからっ!話そう!話せばわかる!」

「おほほほー。御覧になって、ミユリさん。男なんてみんなこんなモンよ。貴女のテリィたんも、所詮は男。つまらない男。ミユリさんは私が押し込みやったコトなんか、とっくに御存知なのにね。おほほほー」


えっ?知ってるの?何で?

ってか何でココにいるの?


「貴方が鼻の下をノバして膝枕されてるって連絡があったのょ」


うーん。お喋り"マスターキー"め。

耳かきしながらメールでも打ったか。


そして、勝ち誇った顔でカルラは逝う。


「貴方に会わせたい人がもう1人いるのょ。テリィたん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今度は最上階(ペントハウス)だ。


中央通り沿いのタワーマンションには、最上階専用の秘密のエレベーターがある。

同じタワー中層階の"TO romantics"を訪問したのはついさっきのコトなんだがw


「はじめまして。私はスミス。もちろん偽名です」


エレベーターのドアが開くとイキナリ個室だ。

陳腐な偽名の陳腐な外人が握手を求めて来る。


しかし、絶景!


中央通り沿いの全てのタワービルを睥睨し、僕達が蠢く電気街などは雲の下だw

アキバで天国に1番近い場所にオフィス(調度的に住居ではナイな)を構える男?


因みに、IT長者のトロイさんも、愛人だけどシングルマザーのドリィと最上階に暮らしているが、彼のタワーマンションよりも高いw


「警備コンサルタントのMissカルラから、お2人のコトは伺ってます。お2人とは、最近の嘆かわしい風潮、つまり"パパ狩り"の実態について意見交換し、自分自身への戒めとしたいと考えています」

「そりゃまた殊勝なお心掛け。転ばぬ先の杖とも申します in Japan。しかしながら、Mr.スミスは既に転んでらっしゃるよーな?などと危ぶみつつも、今日が良き意見交換の場となるコトを望みます。朕は」

「おおっ。秋葉原のヲタクは話が速い。excellent !スミスはありがたく思います。では、単刀直入に申し上げて、出会い系アプリ"TO romantics"に巣食う"パパハンター"の正体は?なお、資本主義体制の守護神たる我が祖国の名において、良き意見交換には良き天文学的報酬が支払われる用意がある旨を全WASPを代表して申し添えます」


また天文学的かょ?宇宙もそうだが、言葉の世界も最近はインフレーション気味だw


「恐らく僕の口から貴方に話して欲しかったみたいで"パパハンター"自身が色々歌ってくれました。"パパハンター"の正体は、お国のCIAが"マスターキー"と呼んでいる、大陸から来た女スパイです」

「…いやはや。ホントに話が早いな。ではコレで会見は終わりなんデスが…せっかくなので、お茶でも飲んで行かれますか?美味しいお菓子もゲットしておりますゆえ」

「あ!"メイドのお土産2.0"ですね?中の白餡が柔らかく舌の上でトロける、別名"アキバ通りもん"とも呼ばれてる銘菓デスょ!テリィ様、御馳走にナリましょうょ?」


あぁミユリさんはこーゆー西洋和菓子みたいなのに目がナイんだ、大酒呑みなのに←

彼女なりに、もっと情報収集したいのかもしれないが…げ!カルラがお茶淹れてるw


毒入りじゃないだろーな。


「テリィ殿。もしかしたら、貴方は私を誤解されてるかもしれない。私はCIAとかFBIとかPTAとか、そーゆー頭文字3文字系のエージェントではありません。私は弁護士だ」

「僕は電気工事士です」

「おおっ!国家試験に合格した者同士だったから話が早かったのか!ハグしていいですか?」


嫌ですw


茶飲み話に、スミス氏は有名法律事務所に勤務中にヘッドハンティングされたと語る。

転職先の財団は、世界中で数千の案件に資金援助しているが、アキバ系も多いらしい。


その内の1つが"TO romantics"で、行動経済学理論に基づく出逢い系アプリは、ナゼか"最有望投資案件"扱いだったとのコトだ。


ネットユーザが、どんな情報を選別し、学習するかを行動経済学により分析する。

次にネットユーザの視点に合う情報に主張を盛り込むコトで意見の流動化を促す。


その先にあるのは"国民洗脳プログラム"。

究極のソフトパワーウェポンと逝うワケだ。


流行りの"やわらかい(ソフトな)"死の商人w


「ところで、私達は訴訟にも投資してイルのです。民事訴訟に必要な資金を提供し、勝訴して賠償金などを得れば、その中から応分の分け前を戴く、と逝うビジネスモデルです」

「ええっ?!そんな阿漕(アコギ)な投資家ってアリですか?勝訴した被告よりも投資家の懐の方が潤う、みたいな?」

「実は、今回の"パパ狩り"も、犯人を見つけて訴訟に持ち込めば、多額のゲインがあると考え、既にイラァCEOには、かなりの先行投資をしていました。多分テリィ殿も"TO romantics"から、多額の報酬を提示されていたのではナイですか?その原資は全て我々が投資したモノです。過去に、この手の性犯罪者狩り絡みの訴訟で、示談金1千万ドルを獲得したコトもあります」


1千万ドル!


地下アイドルに逢おうとした罪でその額を払えと逝われたらヲタクは破滅するしかない。

しかも、恐らく示談金の大半を訴訟ファンドが取って原告には僅かしか回らないのでは?


まるで禿鷹ファンドだw日本人同士の争いに乗じ外国資本が国富を盗み取る。

瞬間、胃液が逆流するような嫌な感覚に襲われたものの続く言葉に救われる。


「しかし、今回は相手が悪かった。先程テリィ殿から伺った"パパハンター"の正体を本国に伝えたトコロ、本件はワシントンD.C.が引き継ぎ、別チャンネルでカタをつけるコトになったので、先行投資は損金計上し、即時撤退するよう、指示がありました」

「おおっ!では、アキバ的には何も起きなかった、みんな全て忘れる、と逝う線で落ち着くワケですね?実損の出た御社だけは、お気の毒ですが」

「あはは。御心配なく。我がファンドは、国際社会では知る人ぞ知る存在ですが、一説に、立ち去った後には草木も生えない、などとも囁かれておりましてね。実は、今回も"TO romantics"側から、例の"国民洗脳プログラム"を、何故か格安の値段で譲りたい、との申し出を受けているのです。本件は、既に、内々イラァCEOのapprovalも得ています」


ええっ?!ソレってカルラが強盗に入った件?格安な値段って…つまり強盗?

でも"マスターキー"もカルラを強盗として雇ったみたいなコト逝ってたが…


"アキバ通りもん"をモグモグやりながら、カルラの方をチラ見したりしてみる。

気づいた彼女は、おちょぼ口になり人差し指を縦に当ててみせて、僕を牽制する。


やれやれ。最近の流行りか?そのポーズw


「私は、コレからランチミーティングがあるので失礼します。ウチの警備コンサルタントを残しますので、どうぞ、ごゆっくり"通りもん"を御賞味ください。いや、実に有益な情報交換でした」

「あ、僕達も、そろそろ失礼します。あれ?でも、もう夕方なのにランチミーティングですか?」

「ええ。先方がランチタイムなので」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「待って!」


アイドル通りをミユリさんと腕を組み、UDXの方へブラブラ歩いてたら、呼び止める声。


「テリィたん!知ってるの?"マスターキー"からも、私に同じリクエストが来てるってコト?でも、何でソレを知ってるのょ!」

「そりゃ、だって"マスターキー"自身が教えてくれたんだょ。タマタマだけど」

「何がタマタマょポケGOじゃあるまいし!そんな大切なコトが何で漏れるの?秋葉原だから?モスクワや北京だったら人が死ぬトコロょ?ま、まさかテリィたんが"マスターキー"を籠絡して寝物語で歌わせたんじゃナイでしょうね?あんな幼気な中華娘を貴方と逝う人は!テリィたん、もしかして絶倫?とにかく!悪いのは"マスターキー"よっ!スパイにあるまじき行為だわっ!」


お前もな、カルラ。


「大陸の共産党は、既にプロパガンダに絶大な力を持ってるのに、ソレには飽き足らず、より完璧な洗脳技術を求めるのょね」

「プロパガンダ理論は、偶像崇拝の必需品だからな」

「でもね。あの"国民洗脳プログラム"は、実は失敗作だった。ボランティアの被験者に洗脳プログラムの集中放火を浴びせたけど、意見に有意な変化は見られなかったの。ハッキリ逝って皆無。実験に志願した数百人が皆同じ結果だった。大陸の国は、太平洋の対岸の国のプロパガンダプログラムなど、恐れる必要はなかったの」


えっ?流石にソレは知らなかったので、エラい驚くワケなんだけど…

じゃ何で"マスターキー"はカルラにプログラムを盗ませたのかな?


「"マスターキー"は焦ってた。なぜなら、彼女は北京から命令されたハニートラップに失敗したから。失点回復のために、何か逆転打が必要があったの」

「ええっ?だってマスターキー"の今回のターゲットは"TO romantics"にエントリーして来るような、金髪だけど地下アイドル好きの、タダの冴えないオッサンだったゼ?例の超ミニチャイナドレスで迫ればイチコロだったろうに?」

「ソレがね。彼は、単にアキバでTOと呼ばれたかっただけで、彼自身は…実はゲイだったのょ」


カルラは、僕にウィンクする。


第4章 大団円と呼ばないで


今回も様々なピースがハマりかけた夜、御屋敷(メイドバー)に旧友のタチマンが御帰宅する。

彼は、コスプレ弁護士"アキバハンマー"として、最近TVでも見かける有名人。


「わ!また面倒な奴が来たぞ?今宵は、説教抜きで直ぐに本題に入ってくれ。頼む」

「おいおい。御挨拶だな。優秀なヲタクは、人の話をよく聞くものだ」

「タチマンが弱さと呼ぶモノを、小学校以来、容赦なく切り捨て生きてきたんだけどな」

「手入れしなかった芝生が、力強く育ってくれてて、ホント嬉しいょ俺は」


カウンターの中から、メイド長の援護射撃。


「おかえりなさいませ、センセ。今宵はエリカ奥様は放し飼いですか?」

「ミユリさん、ただいま。エリカは風営法申請をたくさん抱えてて忙しくしてるょ。今宵は、ミユリさんのTOに、自分がどんなに危ない橋を渡ってたか、を教えに来たんだ」

「あぁ助かります。テリィ様は、ヲタクならではの独りよがりの正義感に溢れてるから、いつも向こう傷が絶えなくて」


あぁ。タチマンの援護射撃だったのかw

彼は、"訴訟ファンド"の話を始める。


「欧米の大きな集団訴訟で、原告に投資し、勝訴させ、得た莫大な賠償金の中から利益を得るファンドが横行してる。投資に対する利回りは、時として20〜30%という荒稼ぎブリだ」

「そんなファンドがあるの?2〜3割の利回りなら僕も投資したいょ」

「背景には、民事訴訟の賠償金額が高騰している実態がある。集団訴訟を起こされた国を含む行政や大企業が支払う賠償金は、最近、天井知らずだ。ファンドの連中は、この賠償金の中から、訴訟コストと称する相当額を差し引くので、原告の手に渡るのは実際には僅かという例が後を絶たない。まぁ確かに原告が1万人を超すような大型集団訴訟だと、調査員や専門家の報酬、膨大な聴き取りに係る人件費など、確かに巨額のコストがかかるコトも事実だが」


ココでタチマンは"ヒューン"と音がする位、急に小声になる。


「今回は、出逢い系アプリから天文学的報酬を提示された"調査員"や、押し込み強盗の"専門家"やらがアキバを徘徊した、とか聞いてルンだけど、まさか…」

「ええっ?知らないっ!知らないぞっ!そんな連中がいたの?ケシカラン!何処にいる?連れて来い!」

「そんなファンドに使われる"調査員や専門家"も"調査員や専門家"だが、ファンドの方も根が深い。最近の訴訟型ヘッジファンドの強奪的な投資手法は目に余る。特に汚職が酷い腐敗国家の国債を安く買い叩いておきながら、訴訟を起こし債務履行判決を勝ち取っては国有財産を次々と差し押さえて行く、と逝う訴訟ファンドの手法は、もはや国際的な金融や司法というスキームを変質させてしまっている。今や地球は、得体の知れない力が支配するパワーゲームにより回ってイル」


大陸の国でさえ、訴訟ファンドから見れば、汚職が横行する腐敗国家と逝うコトなのか?

あの怪しい偽名を使うスミス達が大陸の国を起訴する日は意外と近いのかもしれないなw


そう逝えば、失敗したプロパガンダソフトが世論を変えるコトはナイが、スキャンダルとしてなら何か使い道があるのかもしれないw


世の中、お金で買えないモノはある。

ただ、ソレは期待するほど多くない。


確かに、アキバは、ヲタクならではの独りよがりの正義感に満ち溢れた街だ。

でも、そんなアキバを守るためならヲタクはどんなリスクも厭わないだろう。


世界を大きく変える力でさえも、この街を傷つけるコトは出来ないのだ。



おしまい

今回は海外ドラマで見かけた"訴訟ファンド"をネタに、出逢い系アプリのスタートアップCEO、訴訟ファンドの日本代表、大陸から来た女スパイや自衛隊崩れの女傭兵などが登場しました。


TVで見聞きするNYの都市風景を秋葉原に当てはめて展開する手法の経験値を上げているトコロです。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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