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家族で異世界生活  作者: しゅむ
85/215

85. 嘘だろ?

前回のお話

お父さん帰って!

戦だ。


 ラーズリアが戦場に行ってからも優剛の行動は変わらない。

 朝食を食べてみんなで魔術の訓練をして、飛行屋を終えて昼食を食べた後は、真人と遊ぶか由里に会いに王都に飛んでいく。


 世間の話題は独立した港町と鎮圧に赴いた軍についての噂が多かった。

 情報の伝達速度や精度が悪い為、非常に多くの噂が街に溢れている。優剛の非常識な移動速度で行き来すると、王都とフィールドでは真逆の話が聞けるほどだ。


 しかし、優剛の情報源はラーズリアの妻であるムラクリモである。軍と関係が深いムラクリモは、非常に確度の高い最新情報を持っているのだ。


「え?ラーズが行ったのに押されてる?」

「・・・はい。」


 優剛はムラクリモの言葉が信じられなかった。優剛はムラクリモと模擬戦をして、さらにはラーズリアに引きずられて来た兵たちとも、無理矢理に模擬戦をさせられた経験はあるが、王国最強の魔導騎士の肩書は伊達では無い。


 誰と模擬戦をしてもラーズリアと勝負になるほどの人材は見当たらなかった。改めてラーズリアの実力は相当なものだと実感したのだ。


「相手にもかなりの実力者が居たんですね。援軍はまだなんですか?」

「援軍は来ているようなのですが、各国ともに一般兵のみで鎮圧が出来ると考えていたようで・・・。」

「あぁ・・・、相手の質が上回っていて押されてるんですね。」


 しかし、優剛は楽観している。次は各国のエース級が出張るはずである。そこまで行ったら流石に押し返すであろうと考えていた。


「このままではユーゴ様にとって非常に良くない・・・。」

「へ?なんで僕?」


 優剛は非常に驚いていた。全く関係ないと思っていた戦争に優剛が関わっていると、ムラクリモが言っているように聞こえたのだ。


「ユリちゃんです・・・。」

「ん?子供の由里が戦争に関係してるんですか?」


 ムラクリモは重々しく口を開く。

「ティセとユリちゃんの通ってる学園は王都で1番の、この国で1番の学園です。その生徒たちの実力は現時点で正規兵に勝るとも劣らないのです。中でも成績上位者は既に正規兵よりも実力が上です。」

「嘘でしょ・・・?」


 優剛はその後の展開が予想出来てしまった。しかし、ムラクリモは首を左右に振って口を開く。

「学園の成績上位者は徴兵の対象です。既に選定作業に入ったと報告が来ています。」

「クソが。」


 優剛は静かに呟くように言ったが、漏れ出る怒りの感情は抑え切れていない。しかし、深呼吸して落ち着きを取り戻してから口を開く。

「由里もティセも1年生で半年も経ってないですよ?」

「あの2人・・・戦闘だけなら学園内ではユリちゃんが1番で、ティセが2番です。」


 ここに来て優剛が由里を鍛えすぎた事が裏目に出てしまった。

 戦闘になったら由里に近づく事は出来ない。近づいても由里の移動速度は非常に速く、距離を広げる動きについて行ける者は居ない。結果、遠距離からフルボッコである。


 教師を含めてドン引きだったとティセルセラがムラクリモに語っていた。


 ティセルセラもラーズリアに鍛えられた双剣術と豊富な魔力、優剛の指導までがプラスされて、敵なしの状態である。


「子供ですよ?」

「子供ですが、2人は強すぎます。学園に徴兵があれば間違いなく選出されるはずです。」

「それ・・・バスタは知ってるんですか?」

「子供を戦場に送り出すのです。必ず耳に入っているはずです。」


 優剛は大きく息を吐き出すと、いつものようにボケっとした顔に戻って口を開く。

「今日は夕食を頂きたいです。」

「え・・・、えぇ。わかりました。」


 ビリビリするような雰囲気から急にいつもの雰囲気に戻った優剛に違和感を覚えながらも、ムラクリモは夕食の追加を指示する。


「麻実さんやー、今日は遅くなるから先に寝ててね。」

『何?何かあったの?』

「うん。ちょっとね。」


 麻実は付き合いの長さから優剛の声を聞いただけで、今の優剛に何を言っても無駄だと悟る。

『明日休むなら早めに連絡してね。』

「あーい。」


 その後の優剛はいつも通りゴロゴロしたり、ジェラルオンと遊んだり、由里やレイ、ティセルセラと遊んでいたが、ムラクリモは娘が戦場に行くかもしれない話を聞いたのに、いつもと変わらない優剛が不気味だった。


 由里とティセルセラは徴兵の話は知らない為、いつも通りの優剛になんの違和感も覚えない。その為、由里はいつも通り優剛に尋ねる。

「お父さん帰んないの?」

「ん?うーん。帰るけど今日は由里が寝たらかな。」

「えー?なんで?」

「偶にはおやすみなさいって言いたいじゃんかー。」

「おやすみなさい。」

「今じゃなーい。寝る前だよー。」


 ティセルセラまで吹き出して3人で大きく笑い合う。

 今日は何度「帰って」と言っても、優剛は首を横に振るだけで帰ろうとしない。しかし、偶にはこんな日もあるかと由里は気にしなかった。


「それじゃお父さん、おやすみなさい。」

「はーい。おやすみなさーい。」

「ちゃんと帰ってね?」

「あーい。」


 優剛は笑顔で手を振って、部屋を出て行く由里とティセルセラを見送った。


 それから数時間後、優剛は王城の真上に浮かびながら城を見下ろしていた。

 王城に渡る為の跳ね橋は上げられており、地上からという制限であれば、この時間に王城に出入りする事は非常に難しい。


(んー。なんだあの膜。結界かな?)

 さらにドーム状の膜が王城を包むように覆っていた。


(とりあえず診る魔力でもぶつけるか。)

 優剛は小さな診る魔力玉で結界にゆっくりと触れる。様々な感覚が付与された魔力玉は、結界の効果を優剛に伝える。


(ほほぉ。対物理、対魔術、さらに魔力を供給した人に知らせる機能もあるのか。高性能ですなぁ。)


 優剛は高性能な結界を目の前にしても慌てない。結界の膜は結界に衝撃や一定以上の魔力が触れれば、術者に知らせるというものだった。侵入を考えた場合は非常に厄介である。


 優剛は王城の結界と全く同一の性質を持った魔力玉を作成して、結界に向かってぶん投げる。


 魔力玉はあっさりと結界を通過して王城の外壁にぶつかる前に消失した。

(シャボン玉と似たようなもんだよね。)


 シャボン玉に触れれば割れてしまうが、シャボン液で濡らした指で触れれば割れずに、シャボン玉に指を入れる事も出来る。


 結界と全く同じ膜を纏えば突破は可能であるという事だが、結界を複製しようと同期させる為の魔力が結界に触れれば、複製前に警報が鳴ってしまうのだ。


 それくらい結界の感度は良かったが、優剛が相手では分が悪かった。優剛は結界が反応しない極小の魔力玉を作成する事も出来る為、あっさりと極小の結界玉を作成してしまう。


 あとは身体に纏えるくらいに大きくするだけである。


 王城の結界と全く同じ性質の結界を纏った優剛が、ゆっくりと王城の結界に指先で触れる。

 スルっと指が中に入っていくと、そのままズイっと優剛は身体全体も結界の中に入れる。


 結界の中に入った優剛は辺りをキョロキョロ見回し、聴覚を強化するが、慌てた見回りの者や騒がしい音は聞こえてこない。

(よし、よし。侵入成功でござる。ニンニン。)


 優剛は左手の人差し指だけを立てて、右手で握り込んで人差し指を立てる。所謂、忍者が忍法を使う前に印を結ぶ動作である。


 ニンニン言っている優剛からは大量の極小の魔力玉が放たれて王城に侵入していく。それと同時に優剛は結界を抜けて再び遥か上空に戻っていく。


「バースーターくーん。あーそーぼー。」

 優剛は遥か上空に居る為、その声は誰にも届かないが、もし聞こえていたらバスターナンにとっては恐怖の呼びかけであっただろう。


(おっ。居た居た。結構遅くまで起きてるんだね。)

 バスターナンは寝間着のような簡素な服を着て、部屋のベッドに1人で腰かけているところだった。

 何をしていたのかは興味が無い。大事なのはバスターナンが1人で部屋に居る事だ。


 優剛はすぐにバスターナンの部屋の窓を開けようとして気が付く。

(窓が無い・・・。)


 安全上の理由から国王の寝室には窓が無かった。結界を突破されても国王の寝室に辿り着くには、護衛を倒して正面から扉を開けるしかないのだ。それも厳重な鍵が掛かっている扉だ。


 優剛は侵入させている様々な機能を持った魔力玉で、バスターナンの寝室までのルートを確立する。そして、無力化する護衛は寝室の前に立ちはだかる2人だけだと判断する。


 優剛は誰にも見られないタイミングで王城にある無数のバルコニーの中から、適当に選んだバルコニーに降り立つ。同時に窓が勝手に開いてそこから中に侵入。


(ニンニン!)


 緊張感のない優剛は扉の向こうを巡回していた兵士をやり過ごして部屋を出る。そのまま廊下を走り抜けて階段を登る。時折、止まって何やら様子を窺ってから再び走り出す。


 すぐにバスターナンの寝室がある廊下の手前に辿り着いた。

 事前に計画していた通りに護衛の2人を無力化して、寝室に入る準備を始める。


 まずは極小の魔力玉が鍵穴に侵入。いつでも開錠可能な状態で待機させた。

 次に魔力玉で扉を開ける準備も済ませる。


 最後に寝室の前から動かない2人の兵士の瞬きが同時に行われるタイミングをジッと隠れて窺う。そして、2人の兵士の瞬きが重なった瞬間に、待機していた魔力玉が一斉に動き出す。

 瞬きのタイミングで閉じた瞼を魔力玉でそのまま固定する。さらに耳の周りでは空気を遮断する魔力で聴覚も奪う。さらに鼻付近の空気も遮断して嗅覚も奪った。


 既に優剛は自分の動きで空気が流れないように、周りの空気を操作しながら高速で駆け出している。

 ガチャ。っという音と同時にスーッと勝手に開いていく扉をすり抜ける。優剛が入ったと同時に扉が閉まって鍵も施錠された。同時に兵士2人の奪った視覚、聴覚、嗅覚を元に戻す。


 兵士は目をゴシゴシ擦るだけで、異常があった認識はない。瞼が貼り付いていた時間は2秒も無い。その間に何かあったと考える方が異常である。


 しかし、確実に非常識な男が国王の寝室に侵入している。それも誰にも見つからずに。


 バスターナンは戦慄していた。絶対安全な寝室に不審者が音もなく侵入しているからだ。油断なく侵入者を見つめるバスターナンだが、見覚えある顔と服を見て口を開く。

「ユーゴか?」

「こんばんはー。」


 何の気負いも無く、扉向こうの護衛を気にする風でも無く、極々自然に挨拶する優剛にバスターナンは慌てて優剛を咎める。

「おい!外に聞こえるぞ。静かにしろ。さすがに王の寝室に侵入したのが、バレれば俺でも庇いきれんぞ。」


 優剛は首を傾げて口を開く。

「空気は遮断してるからどんなに騒いでも外には聞こえないよ。何者だ!!ぎゃー!助けてくれー!」


 バスターナンはポカーンとした顔で、騒ぐ優剛を見つめてから口を開く。

「お前・・・、非常識すぎるぞ・・・。」

「ごめんね。ちょっと急ぎで確認したい事があってね。」

「俺からも聞きたい事が沢山あるぞ・・・。」

「お先にどうぞ。どうぞどうぞ。」


 優剛は腕を軽く前に伸ばしてバスターナンを促した。

「あ・・・あぁ。すまんな。結界があっただろう。結界はどうした?」

「同化した。僕が結界自体になれば異物じゃないからね。」


 バスターナンは何秒か沈黙してから口を開く。

「は・・・はは。そんな方法があるのか・・・。どうやってここまで来た?」

「走って跳んで。ニンニン!」

「・・・その動作はわからんが、扉の外に居る2人はどうしたんだ?」


 優剛は少し悩むような素振りをしてから口を開く。

「痛くないからバスタもやってみなよ。」

「む?・・・おい!なん・・・。」


 バスターナンは目をゴシゴシ擦って口を開く。

「今、何をした?」

「瞬きの瞬間に目を開かなくした。同時に聴覚と嗅覚を奪った。その隙にスルっと入ったでござる。ニンニン!」


 バスターナンはさらに疑問の数が増えるが、話を進める。

「鍵があっただろう。」

「うーん。鍵って魔術で簡単に開くよ?」

「何?鍵穴の中は魔力をかき回すだろ。」

「あぁ、アレね。僕にとってはちょっと使いにくいなって程度だよ。」


 バスターナンは驚愕する。優剛に命を狙われたら諦めるしかないという事だ。何処に隠れても見つかる。どんな厳重な鍵を用意しても破られる。屈強な護衛を何人雇っても、優剛がこの場に立っているのが無意味である証明になっている。


 バスターナンは落ち着く為に何度か深呼吸してから口を開く。

「俺からは以上だ。優剛の用件を聞こう。」

「ありがとね。学園に通ってる生徒を徴兵するって本当?」


 質問している優剛の表情は非常に真剣だ。バスターナンが麻実に側室にならないかと持ち掛けた時に見ただけで、バスターナンにとってはトラウマのような表情だ。


 バスターナンは再び命の危機を感じながらも口を開く。

「まだ生徒には話していないし、もう少し先の話だが・・・本当だ。ユリとティセは残念ながら選出の対象者だ。」


 優剛はバスターナンの言葉を聞いて、非常に残念そうな表情で大きく息を吐き出した。

 その表情や動作から優剛に殺されると考えたバスターナンは必死に考えを巡らせて、徴兵の正当性を説明する。

「裏ではユリとティセは魔導騎士候補になっているほどで、2人の強さは既に学生の強さでは無いんだ・・・。」


 押し黙る優剛に殺されない為にバスターナンは優剛に説明を続けるが、優剛が何かを言う気配が無い。


 何度も同じような説明を繰り返すバスターナンを無視して優剛が呟く。

「マジか・・・。」

「え・・・、あぁ。まだ先の話だぞ。すぐじゃないぞ。各国の主要戦力が集まっても・・・。」

「いや、良いや。ありがとう。」

「え?あぁ・・・、良いのか?」


 初めから優剛はバスターナンを殺すつもりなんて欠片も無いが、勝手にバスターナンが勘違いして、懇切丁寧に由里の徴兵の説明をしていただけである。


 再び大きく息を吐き出した優剛が右手を挙げて口を開く。

「はぁぁあー。・・・じゃあね。」


 殺される。そう思ったバスターナンだが、振り返って扉を開けるタイミングを計っている優剛に安心して口を開く。

「・・・帰るのか?」

「うん。」

「・・・そうか。来る時は連絡してくれ。」

「あっ。そうだね。ごめん。」

「いや、良いんだ。ただ・・・」


 バスターナンが何かを言いかけた時には扉が開いて、優剛が目にも止まらない速さで廊下に出た後だった。


 バスターナンは優剛が立ち去った後の部屋で、誰に言うでもなく呟く。

「マジで連絡してくれ。・・・怖いから。」


 ドサっと全身の力を抜いてベッドに寝転がるバスターナンは非常に疲れていた。優剛の襲撃のような面会に精神的に疲れ果てていた。

 目を閉じればすぐに意識を手放して朝まで起きる事は無かった。


 部屋を出た優剛は入って来た時と同じように、寝室の前の護衛を無力化して、素早く死角に移動を終える。

 その後も優剛は極小の魔力玉を使って、巡回している者たちをやり過ごして、バルコニーから上空高くに飛び上がる。


 フィールドに飛ぶ優剛の顔は悲痛で歪んでいた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


評価や感想もお待ちしております。ブックマーク登録も是非お願いします。


何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。


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この話だけ投稿日時が違うのは、84話と85話を間違て投稿したからです。投稿後に入れ替える事が出来ず、新規で85話を割り込み投稿した為です。


誤字脱字ってレベルじゃなかった……

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