82. 入学式の準備
82. 入学式の準備
前回のお話
受験と合格
由里とティセルセラが合格した翌日以降も試験は続く。高めな受験料を支払えば何度でも受験する事が出来るのだ。
出題された問題を持ち帰る事は出来ないが、何度も受験すればいずれ同じ問題が出る。問題を記憶してすぐに分析をして、答えを覚えるという手段に出る者も居る。
しかし、そうやって金の力で合格しても入学後の勉強に付いて行けずに退学になるのが殆どである。それでも子供を王都で1番の学園に入学させたいと考える親もおり、毎年数名はそのような合格者が出ている。
日増しに増えていく合格者たち。合格者の受験番号が貼りだされている掲示板の前では、多くの子供と大人が喜びと悲しみの感情を撒き散らしていた。
一方フィールドにいる優剛は、入学式の準備に追われていた。
入学式は子供の為の行事である。和服を着た優剛が参列すれば目立ってしまう。子供たちを主役にする為に、周囲に溶け込む服装を用意する必要があるのだ。
「ユーゴ様、お疲れ様です。」
「・・・ぁい。」
トーリアと一緒に入学式用の服を発注する為に、和服を発注している服屋で生地、デザイン、色まで細かく選び終わった優剛は疲れ果てていた。
(そこの見本で良いから!)
優剛は綺麗に飾られている服をそのまま持ち帰りたい衝動で睨みつけるが、既にトーリアから散々言われた後なので諦めている。
「一般的な正装ですので、1週間後にお届け致します。」
「午前中に来てくれたら空を飛んで良いので、皆さんで来て下さい。」
「まぁ!それは・・・順番待ち無しですか・・・?」
「無しですね。」
「キャッ!」
優剛と担当者の会話を遠くで聞いていた者が短く歓喜の声を出していた。
飛行屋の順番待ちの列が長いのは常識になりつつあるが、優剛が発注した正装を届ければ順番待ち無しで飛べるという事だ。
優剛の屋敷に服を届ける人選は荒れる。優剛とトーリアを見送った担当者は、この後の騒動を予想して表情を引き締めて店に戻る。
1週間後に優剛の屋敷を訪れたのは店員のほぼ全員であった。1着の正装を届けるのに針子を含めた数十人で優剛を屋敷を訪れたのだ。
優剛は昼食後に早速試着しろというトーリアの指示で、正装に袖を通した。
「ねぇ・・・窮屈で苦しい・・・。」
「はい。とてもよくお似合いです。」
トーリアは優剛の発言を無視する。普段ヒラヒラの和服を着ている優剛が、スーツのような首元も袖もピシっとした服を着れば、窮屈と感じるのは当然である。
当然、靴もトーリアが正装に合うように、ありふれた素材で、ありふれた革靴を用意して優剛に履かせている。
優剛に任せて革靴を発注すれば、どんな恐ろしい魔獣の革で発注するのかわからないのだ。
「やはりユーゴ様はそういった服装が良く似合います。」
実に準備の甲斐があるものだ。デップリ太った貴族や筋肉で膨れ上がった肉体では、ピシっとした身体のラインが出る服装はなかなか難しい。
しかし、トーリアが何度褒めても優剛の嫌そうな顔は変わらない。流行など関心が無いのだ。楽な服装でダラダラ過ごしていたいのだ。
「もう脱いで良いでしょ・・・?」
「・・・皆の意見も聞いてみましょう。何か直す箇所があるかもしれません。」
優剛は脱げると思った。既にジャケットを脱ごうとしていたが。驚きの表情でトーリアを見る。
「マジ・・・?」
「では、行きましょう。」
優剛はトーリアに連れられて使用人全員の元を訪れた。
直す箇所などあるはずがない。全員が優剛を絶賛するが、優剛は素直に喜べない。脱ぎたくて脱ぎたくてたまらないからだ。
タカだけは優剛の気持ちを理解してくれた。
「・・・旦那、窮屈そうだな。」
「タカアァァァァ。」
「ぬぁ!旦那、離してくれ。」
優剛は初めて出会った理解者に嬉しさのあまり抱き付いていた。
仕事から帰って来た麻実が優剛を見て吹き出しながら尋ねる。
「ぶっ!優剛はなんでそんなの着てんのよ?」
「由里の入学式用の服だよ。トーリアが脱いじゃ駄目だって・・・。」
「マミ様にお見せする為です。」
優剛を上から下まで観察した麻実は口を開く。
「ぷぷ。良く似合ってるわよ。んー。新卒か2年目ってとこかしらね。」
「もう立派なおじさんだわ!」
童顔の優剛がスーツを新調するたびに麻実は優剛をからかっていた。異世界風のスーツを着込んだ今回も同じである。
入学式に行くのは優剛、麻実、真人、ハル、そしてアイサも誘われる。
アイサは優剛たちがレミニスター家を訪れた日から、由里に付いてくれている使用人である。由里が王都の学園に合格した事を非常に喜んでいた。
まさか自分が入学式に出席が出来るとは思っておらず、優剛の指名に驚きで目を丸くしていた。
「由里が1番お世話になってるからね。アイサは参加してね。」
「・・・はい!もちろんです!」
そして、優剛は「んー」と言って使用人たちを見回して口を開く。
「今回はフガッジュを護衛として連れて行くよ。」
「くぅ!」
「・・・ん?俺・・・ですか?」
優剛は悔しそうな呻き声を出したシオンにも伝わるように理由を述べる。
「現状、フガッジュが1番強そうに見える。」
「旦那!俺は!?」
「タカは素手じゃん。なんか武器持ってる方が強そうに見えるんだよ。」
フガッジュは自分の背と同じくらいの短槍を愛用しており、槍を携えたフガッジュの見た目は非常に有能な護衛に見えるのだ。
優剛が述べた理由にタカとシオンは、ガックリと項垂れてしまった。そんな2人を見てテスが口を開く。
「なぜ強そうに見えるという理由なのですか?」
タカとシオンは項垂れながらも萎れた耳をピンと立てて、優剛の答えを待っている。
「今回は由里が主役だから僕らは、周囲の親や参列者に溶け込まないといけない。目立っちゃ駄目なんだよ。護衛は参加者の護衛に負けないくらいの強そうな見た目が大事。家族は奇抜な服装ではなく、ありふれたデザインの正装を着る。だから僕がこんな服を用意したんじゃないか・・・。」
理由を聞いたテスは納得したように頷き、タカとシオンの耳は再び萎れた。
「それと今回は全員を人力車に乗せて空を飛んでいく。何か質問のある人いる?」
ピッと手を挙げて真人が口を開く。
「ボクの服が無い。」
「ある!この間、真人の和服を作った時に採寸してたから、少し大きめで用意してある。」
優剛は異空間から真人の正装と革靴を取り出してトーナに手渡した。真人担当のトーナに渡せば全て問題ない。
「滞在期間は?」
麻実は病院に休暇を届ける必要がある為、日程を確認するのは重要である。
「王都で1泊か2泊だね。最大でも3日の休暇があれば良いよ。」
「はーい。」
この日程には移動日が含まれていないのが恐ろしい。日頃から優剛の非常識に触れていなければ、この日程を聞いて質問や確認をするのが自然だが、優剛が頻繁に王都まで日帰りをしている事実がある為、誰も何も疑問には思わない。
優剛が皆を見渡しても質問は出て来なくなった。優剛が会議を締め括ろうとした時に手が挙がる。
「わたし、王都に行きたい。」
「オーヤン!止めなさい。関係ないでしょ!」
オーヤンの突然の要求に母親のサスリが慌てて止めるが、父親のトーリアは優剛の次の行動が読めてしまった為、既に諦めている。
「良いよ。トーリアとサスリも一緒ね。3人は観光って事で自由にしてて良いよ。無駄に広い荷台にして良かったよね。」
優剛が牽く人力車は10人くらいなら余裕で乗れる。行商用に大量の商品を載せて運ぶ事も想定して作られた万能な荷台である。
王都に行くと言っても荷物は優剛の異空間に放り込むだけだ。荷物が無い為、荷台のスペースは全て使えるのだ。
「じゃあ終わりだね。出発は入学式の前日だから、各自準備はしておいてね。かいさーん。」
トーリアは溜息を吐き出してオーヤンの頭を撫でる。それが終わるとサスリが軽くオーヤンの額を人差し指で押す。
「ぉう」という呻き声を出しながら天井を見上げるオーヤンはキラキラの笑顔だ。
「ぅはぁあああ!」
「はやーーい!」
「おぉう!おおぅ!」
真人、オーヤン、アイサが空飛ぶ人力車の窓から顔を出して、声を出しながら景色を眺めている。
「うあぁぁぁ!雲、触ったあぁぁあ!」
「わたしもーーー!」
「私は掴みましたよぉおおお!・・・あれ?・・・ない。」
アイサは雲を握りしめた手を開いて真人とオーヤンに見せるが、開いた手の中には何も無い。3人は首を傾げて不思議そうにしているが、3人は実に楽しそうである。
まともな大人のトーリア、サスリは少し震えていた。高速で空を飛んでいる恐怖に、久しぶりに手を繋いで耐えている。
そんな中で比較的冷静なフガッジュが麻実と会話をしている。
「ユーゴ様は凄いですね。ここって雲の上ですよ?」
「ホントよ。こんな事が出来るなら前回王都に行った時に、地上を走らなくて良かったと思わない?」
麻実の答えが想定外だったのか、あれ?え?という表情のフガッジュを無視して麻実が会話をリードして話は続く。
楽しんでいた3人が飽きて来た頃には、トーリアとサスリも落ち着いてきた。そうなると暇を持て余すので、トランプで時間を潰して王都に到着するのを待つのであった。
「もしもーし。そろそろ着地するよ。」
優剛が人力車の正面の窓から顔を突っ込んで、中で遊んでいる者たちに告げた。通常は御者が中から指示を聞いたり、中の者が前方を確認する為の窓である。
上昇した時とは違って、着地は目撃者を減らす為に高速急降下だ。優剛は7人とハルを飛ぶ魔力で包んで、準備が良いか再度の確認をする。
「良い?今、この下は誰も居ないから一気に行くよ。」
慌ただしくトランプを片付けた7人は優剛に向かって頷く。
「よし。ドーーン!」
「っひ!」
一瞬の浮遊感を感じて漏れた声が誰のものかわからない。
サスリは固く閉じた目をゆっくり開けると、開いていた窓から外が見えて驚愕しながら呟く。
「地面・・・。」
窓の外に見えるのは草原と、遠くには森が見えている。遥か上空から一瞬にして地上に降りて来たのが、夢のようで落ち着かない。
ヒョコっと窓から顔を出した麻実が前方を見て口を開く。
「王都の城壁が見えてるわね。」
「ここからは引っ張るからね。」
「はーい。揺れないように少し浮かせてね。」
「仰せのままに。」
優剛は仰々しく一礼して麻実の要求通りに人力車を牽いて走る。
城壁に辿り着く前にある木製の大きな門の前で優剛は立ち止まる。前回はここで「スタァァップ!」されたからだ。
「ん?お前・・・。また来たのか?」
しかし、優剛の予想に反して門番は優剛を覚えていた。そして、あっさり通るように促す。奇抜な服で大きな荷台を引っ張る人間を忘れる訳が無かったのだ。
「また来ました。お疲れ様でーす。」
「お前も大変だな。」
「いえ、いえ。ただ牽いて走るだけですから。」
「お・・・おぉ。」
その大きな荷台を牽いて走るのが難しいのだと言いたくなったが、既に後ろ姿になっていた優剛に同意するような声しか出なかった。
城壁が近づいて、前方に人や馬車を見つけた優剛が思い出す。
(あっ。今回はティセが居ないから入る為の列に並ぶのか・・・。)
優剛は列の最後尾と思わしきところに人力車を止めて、前方の人に声をかける。
「すいませーん。ここって最後尾ですか?」
「おー。そう・・・だ・・・ぜ?」
馬車の後ろから顔を出した商人のような男が、優剛を見て目を丸くして驚いている。
「ありがとうございますー。」
優剛は固まっている商人を無視して人力車の中に告げる。
「列に並ぶだけだから外に出て遊んでも良いよ。」
すぐに真人とオーヤンが飛び出して、それに続くようにアイサも飛び出した。キャッキャっと走り回る3人に遅れて、麻実が出て来て大きく身体を伸ばす。
続いてフガッジュが出て来て、麻実と同じように身体を大きく伸ばして口を開く。
「見えるとこに居て下さいよー!」
「「「はーい!」」」
トーリアとサスリも降りてきて、見覚えのある城壁を呆けた表情で見つめる。
「王都ね・・・。」
「信じられないが、王都の城壁だ・・・。」
トーリアはハッとした表情になって、何度も優剛に感謝を述べてから人力車の横に立って歩く。
馬車から顔を出して固まっている商人が、人力車から7人の人間が出て来たのを目撃して口を開く。
「兄ちゃん・・・うちで働かないか・・・?」
「いやー、遠慮しておきますよ。」
「今いくらで雇われてるんだ?倍は出しても良いぞ?」
断る優剛に喰らいつく商人。人間1人で大きな荷台を牽いているのだ。その力は非常に金になると判断しているのだ。
「え・・・っと・・・、僕が主人なんですよ・・・。だから払ってる方、ですかね?」
「はは」と苦笑しながら優剛の答えが冗談だと思った商人は、馬車から飛び降りて麻実に直接交渉を試みる。麻実の外見は貴族である。優剛の主人だと思われても仕方がない。
「奥様、私はダイチキと申します。王都ではそこそこ名が知れていると自負しております。」
「私は麻実です。よろしくお願いします。」
貴族のような所作で軽く頭を下げる麻実に、ダイチキは優剛を指差して告げる。
「彼を私のところで雇いたいのです。貸して頂くか、譲って頂く事は可能でしょうか?」
「優剛ー、この人が優剛を欲しいってー。」
「さっき断ったよ。」
ダイチキは2人の気軽なやり取りを見て思い至る。先程の優剛が言ったのは冗談ではないと。しかし、確証も無い為、ダイチキは麻実に曖昧に尋ねる。
「彼は・・・奥様の?」
「夫か?」と直接聞けば違った時に問題になる。ただの使用人を貴族の伴侶と間違えるのは無礼も無礼である。
麻実は苦笑しながら答える。
「はい。夫ですよ。」
ダイチキは驚きつつも馬車から出て来た面々を見回して尋ねる。
「彼らは・・・?」
「子供と使用人ですね。あと彼は護衛です。」
フガッジュは走り回る子供たちを見失わないように、チラっと麻実の方を見ただけで麻実を護衛しようとしない。
今、大事なのは強者の麻実を守るより、真人を見失わない事だ。
真人はアイサやオーヤンと遊んでいる為、本気で走っていないが、いつ本気で走るかわからない。本気で走ったら文字通り消えるのだ。フガッジュは集中して真人の動きを追い続ける。
迷子になったら発見は難しい。最悪なのは真人が襲われて相手が死ぬ事だ。真人に殺人をさせない為にフガッジュは必死に真人を目で追いかける。
ダイチキは麻実の言葉を聞いて、優剛と麻実を交互に何度も見て思い出した。
去年の秋頃に変な服を着て大きな荷台を牽いていたラーズリアの関係者の話を。
その男は大きな布を身体に纏って、腰に帯を巻いて布を止めるという不思議な服装だが、大きな荷台を魔獣のように軽々牽いていたと。さらにその男はフィールドの街で、人々に空の自由を体験させる飛行屋を営んでいると。
ダイチキは無意識に男の名を呟く。
「ユーゴ・・・。」
「はい?」
優剛はダイチキに呼ばれたような気がして返事をしてしまった。
「あ・・・あぁ!大魔術士のユーゴ様か!?」
「違うと思いますよ。」
優剛はダイチキに詰め寄られて思わず嘘で答えた。厳密には大魔術士の部分だけを否定したので、完全な嘘では無いと優剛は弁明するだろう。
(意外とデカイから怖いんだよ・・・。)
ダイチキは優剛より少し背が高いくらいだが、ガッチリというよりも少し太っている印象だ。そんな男が無造作に詰め寄ってくれば怖いのだ。
「いや、いや、いや!さっきマミ様からユーゴって呼ばれてたじゃないですか!?」
「おぉぅ!・・・そうです。私が優剛です。よろしくお願いします。」
観念した優剛は素直に認めて丁寧に挨拶をする。
「私はダイチキと申します。こちらこそよろしくお願い致します。」
大きな力を持つ者は大抵が傲慢だが、優剛からはそんな印象を感じない。むしろ自分たち弱者と似たような印象を受けた。
ダイチキも丁寧な挨拶で返すが、内心は非常に忙しい。
ダイチキから見て優剛の印象は非常に好印象。優剛と繋がりを持つ為に様々な方法を思考する。
ダイチキは今まで知り得た優剛の噂から、ここでの最善を導き出す。
「私の店では色々な品を扱っております。出来れば1度いらして下さい。」
優剛を直接勧誘した商人や貴族の噂は全滅だと聞いている。腕利きの護衛までが優剛に空高く打ち上げられて心を折られるか、獣人の護衛たちにボコボコにされるらしいと。
ダイチキはチラっと少し離れているフガッジュを見て納得してしまう。
手練れの雰囲気があり、自分のような初対面の者が麻実や優剛に近づいても動じていない。おそらくどんな行動を取っても彼にとっては問題にならないという事だと判断する。
この場は繋がりを作るだけ。出来れば自分を覚えて貰うだけ。それだけに集中する。
優剛に対して害意や強引な手を使わなければ、優剛は非常に大人しい。
「どんな物を売ってるんですか?」
優剛の質問にダイチキは内心で微笑む。このまま王都に入るまで会話を続ければ、覚えて貰えるのではないかと。
優剛の質問にダイチキは自分が1番自信のある品を提示する。
「自信があるのはお酒ですかね。」
「他にはありますか?」
ダイチキはお酒で優剛の興味を引けなかった事に落胆するが、大きな店に成長している為、他の商品にも自信がある。
「魔鉱石や宝石はどうでしょうか。」
魔術士なら魔力の篭った鉱石を使用して様々な魔術の媒介にする。
「うーん。麻実、何か欲しい宝石ってある?」
「今は無いかなー。」
なんだこいつ!?ダイチキは既に混乱している。お酒も駄目。魔鉱石も駄目。優剛の好みが全く予想出来ない。
「あっ!これの素材ってわかりますか?」
優剛が興味を持つような品を必死に考えていたダイチキに、優剛は信長の着物の素材で1着だけ作った和服を見せた。
どこから出した!?という疑問が口に出る前に、ダイチキは着物に釘付けになる。
「触ってもよろしいですか?」
「良いですよー。」
非常に気軽な感じで優剛は折り畳まれた着物をダイチキに渡す。
ダイチキは持ってみて初めてわかる着物の異常さに驚く。手触りが良いのは見た目からもわかっていたが、予想を超える手触りにずっと触っていたい衝動に駆られる。
しかし、最大の驚きは特別に薄い訳でもない布の軽さである。渡された服は畳まれているが、優剛が着ている1枚の大きな布であると予想するが、大きな布の軽さでは無い。
ダイチキは僅かに震える手で優剛に告げる。
「大変申し訳ございません。私には見当も尽きません・・・。」
「そうですか・・・。誰も知らないんで気にしないで下さい。」
その後はほとんどが雑談であったが、ダイチキは内容をよく覚えていない。渡された着物が何なのか気になって集中出来なかったのだ。
優剛が別れ際に告げた一言がダイチキの胸に突き刺さる。
「素材がわかったら教えて下さい。ラーズリア邸に伝言してくれたら、ダイチキさんのお店に伺いますね。」
優剛との繋がりを得るという目標は達成した。しかし、非常に難しい宿題が優剛から出された。
ダイチキの心は燃えていた。出来れば優剛の着物を借りて方々に聞いて回りたいが、あれはお金で買えるような品では無い為、借りられる訳が無いのだ。仮に借りても貴族や無法者から守り切れる自信が無かった。
ダイチキは燃えるような瞳で口を開く。
「はい。必ず素材を特定致します。」
逸る気持ちを抑えて店に戻ったダイチキは、自室で商売相手のリストを眺めて呟く。
「絶対に見つける・・・。」
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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