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家族で異世界生活  作者: しゅむ
81/215

81. 受験

前回のお話

電話作れ。

ムーリー。

 本日は由里の試験当日である。

 電話を開発した事もあって、麻実は由里から合格の連絡を聞けるため王都には行かない。


 しかし、子供を溺愛している優剛は昼食後に迷う事なく王都に飛び立った。

 ラーズリア邸に前泊すると言い出した優剛に、電話で来るなと由里に怒られたので、出発が昼食後になったのだ。


(うー。自分で受験する方が100倍は楽だよ・・・。)


 日本で育てば義務教育で9年間は学校に通う。その後に高校受験をして、さらに大学受験をするのが一般的だろう。

 優剛も受験は経験しているが、自分の子供が受験するのは初めてだ。


 過去問の結果は?受験勉強は十分か?受験会場に忘れ物は?

 あらゆる事が心配で居ても立っても居られない。


 落ち着かない様子でいつものようにラーズリア邸の決められた場所に、優剛は音を遮断して着地する。


 そこにはラーズリア邸の執事長であるバレンが待機していて、優剛が現れた事で口を開く。

「ユーゴ様、お待ちしておりました。」

「こんにちは、バレンさん。なんかお待たせしてすみません。」

「奥様からユーゴ様を学園まで案内するように申し付けられております。」


 バレンは「こちらです」と言って、優剛を待機させていた馬車に乗せた。

 ガタゴト揺れる馬車で学園まで運ばれた優剛は、学園の前で執事と共に降りて学園の中に入っていく。


(子供が受験してる場所に親が入って良いのか?)


 受験生以外は中に入れないと思っていた優剛は、門の外で待っている人たちをかき分けて、堂々と入っていくバレンの後ろに隠れるようにして入っていく。

(貴族特権ってやつかな?)


 門の前で待機している者たちが、羨ましそうにバレンと優剛を見送っているのを見れば優剛が気づくのも納得出来る。


 案内された大きな教室内は試験を受けているであろう子供たちの親が、護衛や使用人を従えて待機していた。しかし、広い教室の大きさに対して親の数は少ない。


 優剛が教室に入った瞬間、貴族たちは優剛を観察するように視線を向ける。

(うわぁ・・・。お貴族様よ。お貴族様が寛いでいらっしゃるわ。オホホ。)


 和服の上に和装風の上着を着るという新しいスタイルの優剛だが、異世界基準の服装で言えば奇抜なのは変わらない。上級貴族と思われる者たちが、優剛を使用人か何かだと判断しても不思議ではないが、明らかに優剛を知っている目付きだ。


 教室の中では貴族が輪になってまとまっており、それに加わっていないムラクリモの元にバレンは優剛を誘導した。

「奥様、ユーゴ様をお連れしました。」

「ありがとう、バレン。ユーゴ様、座って下さいな。」


 優剛の名を聞いた教室内の貴族たちが納得したような表情で、さらに優剛をジッと観察するように見る。

「どーも、ムラクリモさん。」

(何?何?なんでそんな見るの?って言うかムラクリモさんってボッチ?)


 見られている事に気づかない振りをして、ムラクリモに対して失礼な事を考えつつ、優剛はムラクリモに勧められた席に腰を下ろす。


「レイはなんで居るの?」

『俺は由里の騎士だからな。』

「い・・・狼って入れるの?」

『学生1人に1人までは護衛、もしくは使用人を付けるのが許されてるんだ。だから俺は由里の護衛だ。』

(護衛ならここに居たら駄目じゃない?)


 優剛はムラクリモに視線を向ける。日増しに成長を続けている青銀狼のレイが、本当に護衛として学園側の許可が下りているのか信じられないからだ。

「なんとなく会話の流れはわかります。通常、護衛は試験が行われている教室の最後方に待機出来ますが、ユリちゃんには不要でしょうからここで待ってて貰う事にしました。」


「入学後もですか?」

「入学後は傍に仕える事も可能ですよ。」

「レイでも・・・?」

「前例は少ないですが、魔獣を護衛にするのは問題ありません。その代わり魔獣の護衛も1人にカウントされますので、人間の護衛や使用人を付ける事が出来ません。」


 優剛は学園の厳しいようで緩い制度に感心しながらレイの頭を撫でる。

「教室に行かなくても良いの?」

『この学園に強そうな匂いはしないから大丈夫だ。それにユリの匂いはちゃんと嗅いでるから、何かあればすぐに行けるぞ。』

(匂いでわかるんだ・・・。さすが犬。)


 レイが居る事の疑問が解消した優剛に、ムラクリモは楽しそうに小声で優剛に告げる。

「それよりも・・・んふふ。注目されてますね。」

「普通に来ただけなんですけど・・・。何か変な事しました?もしかしてこいつですか?」


 優剛はレイに視線を向けてムラクリモに尋ねた。


「いいえ。レイは会話も外に漏らさないし、大人しくしていますよ。原因はユーゴ様ですよ。ユーゴ様の噂は王都でも有名なんです。人々に空の自由を提供する大魔術士。先代国王を治癒させた聖女に魔術を教えた大魔術士。ラーズと互角に戦える大魔術士。そんな大魔術士がこの場に現れたんですもの、注目するのも無理は無いですわ。」


 先ほどの輪になっていた貴族たちから3人の護衛のような男が離れて、会話を進める優剛とムラクリモに近づいて来る。


 それに気が付いたムラクリモが小声で優剛に告げる。

「ほら、こっちに来ますよ。」

「・・・オレ・・・ニゲル・・・。」

「駄目ですよ。」


 体格の良い男性が3人も優剛に近づいて来るのだ。逃げ出したい優剛の小芝居をピシャリと潰して、ムラクリモは顔を上げる。


 そのタイミングで先頭の男性が姿勢を正して口を開く。

「ムラクリモ様、ご無沙汰しております!」

「あら、インクル。どうしたの?」


 ムラクリモは座ったまま姿勢を正す男性を見上げる。

「そちらの男性が気になってしまいました!良ければご紹介頂けないでしょうか!」

「こちらはユーゴ様よ。」

「やはり、あの大魔術士の!?」

(知ってたって話だよ?何その小芝居は・・・。ん?あれ?この人って護衛じゃないの?)


 優剛は貴族の護衛だと思っていたインクルを見て違和感を抱く。さらに後ろに控える2人も同じような感じで驚きの声をあげている。

 その声が聞こえたのだろう。離れてこちらを伺っていた者たちが大勢こちらに向かってくる。


 屈強な者たちがこちらに向かってくる事で、優剛の選択は当然のように逃げる一択である。優剛が腰を浮かそうとした直後にムラクリモが口を開く。

「ユーゴ様、座ってて下さい。」

(止めないで!)


 逃げようとした優剛をムラクリモが止めて、再び優剛は椅子に腰を下ろす。そして、大勢の屈強な男女が優剛とムラクリモを取り囲む。


 優剛には取り囲んでいる者たちの目が、獲物を見つけた猛獣のように見えていた。


 体格では完全に負けているが、ムラクリモは平然とした態度で紅茶を飲む。

 そんなムラクリモにインクルが問いかける。

「ムラクリモ様、そちらのユーゴ様がラーズリア様よりも強いというのは本当ですか?」

「うーん。ラーズにもプライドがあるでしょうから、私からは言えない。言えるとしたら私がユーゴ様に100回挑んでも100回負けるわ。」


 その答えに取り囲んでいる屈強な者たちが「おぉ」という感嘆の声を漏らす。

 今でこそムラクリモはラーズリアの妻として振る舞っているが、かつては魔導騎士候補までなった強者である。


「隊長!私にユーゴ様との模擬戦の許可を頂けないでしょうか!?」

(なぬ!?)


 優剛は背後の女性から放たれた言葉が信じられずに振り返る。

 ムラクリモはそんな女性の言葉を無視して立ち上がり、女性に近づいて口を開く。

「私はもう軍に所属してないわ。隊長は貴女でしょ。」

「いえ!私の隊長は生涯ムラクリモ様だけです。私が隊長なのは有事の際に、ムラクリモ様の席を確保しているだけであります!」


 ムラクリモは溜息を吐き出してから口を開く。

「ふぅー。ユーゴ様は戦う事が嫌いよ。私から模擬戦の許可は出せない。」

「ラーズリア様は毎日のようにユーゴ様と模擬戦しているのでは!?」

(してねぇよ!)


 毎日のようにラーズリアが仕事を放り出して、由里に会いに来た優剛に会おうとしているのは事実だが、実際に模擬戦まで辿り着けたのは本当にごく僅かだ。

 最近ではラーズリアが慌てて帰宅しても優剛は既にフィールドに帰った後だ。しかし、ラーズリアは諦めない。優剛との模擬戦は得られるものが非常に多いのだ。


「ラーズもユーゴ様と模擬戦が出来るのは10回に1回も無いわ。それくらいユーゴ様は模擬戦が嫌いよ。」

「ラーズリア様から逃げられるんですか・・・。」


 妙なところを感心されているが、優剛は恐る恐る口を開く。

「やっぱり外で待ってますね・・・。」


 立ち上がろうとした優剛の肩にさり気なくムラクリモは手を置いて、立ち上がれないように力を込める。

(くぅ。立ち上がれない・・・。)

「ほら、貴方たちがそんな目で見るからユーゴ様が退席しようとしているわよ。」

「しかし、私はユーゴ様と模擬戦が・・・。」

「俺もです!」「私も!」「是非お願いします!」


 次々に優剛を取り囲んでいる者たちが声をあげる。

 優剛は小さくなって逃げる計画を立て始めた時だ。ムラクリモの大きな声がその場を沈黙させる。

「黙りなさい!!」

(ひぃ。)


 優剛は背中を丸めて小さくなったままだが、取り囲んでいた者たちはビシっと姿勢を正して沈黙した。若干、膝が震えている者が居るほどだ。


「私だってユーゴ様と模擬戦がしたいんだ!それなのに・・・。そんなに模擬戦がしたいなら、私に勝ってからにしろ!!」


 ムラクリモは黙って俯いている者たちを見渡した後に優剛を見る。彼らを黙らせたご褒美に模擬戦をして欲しいと目で訴えているのだ。

(いや・・・。やらないからね?)


 左右に振られる優剛の頭を見て、ムラクリモはガックリと項垂れて席に戻った。そして、何か言いたげな者たちを目一杯睨みつけると、優剛を取り囲んでいた屈強な者たちは離れていった。


 各々の配偶者に何か言われていたり、殴られたりしている者も居る。優剛は恐ろしくなってそちらを見るのを止めたが、声が聞こえてしまう。

「あんな小さくて細い人を怖がらせるなんて恥ずかしくないの?」

(小さくないから!異世界人が大きすぎるだけだから!)


 しかし、優剛は異世界に来てから、小さい、細いと言われ続けているので気にしない事にした。

「あの人たちって軍の関係者ですよね?今日は休みなんですか?」

「そうですね。子供の受験がある者たちだけに見えます。」

「ラーズは来ないんですか?」


 優剛がムラクリモに質問した時に教室の扉が開いた。

「ユーゴ!居るんだろう!?模擬戦しよう!」

「げっ。やっぱ来るんだ・・・。」


 今日も仕事を放り出して駆けつけたのはラーズリアである。

 ラーズリアが教室に入った瞬間、一斉にラーズリアに向かって敬礼する軍の関係者たち。


 しかし、ラーズリアは慣れた様子で軽く右手を挙げて口を開く。

「今日は非番だろう。俺の事は気にするな。」


 そして、笑顔で優剛に歩み寄っていく。

「ハッハッハ。今日は見つけたぞ。ここの訓練場は広くて良いぞぉ。」

「今日はやらないよ。由里の結果を聞く為に来たんだから。ラーズもティセの結果は気になるでしょ?」


 おぉ。という感嘆の声が先ほどの集団から聞こえた。優剛が聴覚を強化して話の内容を確認する。

「ラーズリア様の申し出を断ったぞ。」

「いや、無駄じゃないか?」

「ラーズリア様があんなに誰かと模擬戦したがるのを初めて見ましたよ。」


 しかし、優剛の断りをラーズリアが気にするはずが無い。

「ティセは合格するから気にならんぞ。それよりも模擬戦をしよう。」

「いや、いや。ちょっと話そうよ。ここに座りなよ。」


 優剛は自分の隣の席をポンポン叩いて座るように促す。

 渋々・・・。本当に渋々という感じでラーズリアは席に座った。

「話ってなんだ?」

「ムラクリモさんってさ、昔は怖かったの?」

「ちょっ!ユーゴ様!?」


 優剛の質問に慌てふためくムラクリモ。そんなムラクリモを一瞬だけ見たラーズリアは口元を歪めてから口を開く。

「あぁ。1年前のティセをもっと傲慢にした感じだな。」

「うわぁ・・・。」

「ラーズ!止めて!」


 優剛たちと会う前のティセルセラはかなり尖っていた。ティセルセラと同世代はもちろん、大人でもティセルセラより強い者は本当に数えるほどしか居なかった。

 自分よりも弱い人間には非常に優しいティセルセラだったが、自分より弱い大人たちがティセルセラを子ども扱いする事にイラ立ちを隠さず、戦闘力こそが上下関係を決める基準になっていたのだ。


 しかし、優剛たちに出会って考え方が変わった。優剛は誰に対してもほぼ平等に接しているし、優剛に育てられている由里も真人も似たような傾向がある。


 さらに優剛たちと過ごした冬の間に知力、財力、権力などの様々な種類の強さに気が付いた。そして、優剛の「相手を下に見るような態度は、敵対してからでも遅くない」という言葉は、ティセルセラが変わる後押しになった。


 ティセルセラは変わる事が出来たが、ムラクリモが変われたのは大人になって、ラーズリアに出会ってからだ。


 優剛はチラっとムラクリモに視線をやる。

「大人であの頃のティセと同じって・・・。」

「もの凄かったぞ。小さいなんて言ったら血の雨が降っていたな。ハッハッハ。」


 ラーズリアはムラクリモと出会った頃を想像して笑うが、ムラクリモは耳を赤くして俯いてしまう。


 優剛は先ほどのムラクリモと屈強な者たちのやり取りを思い出して呟く。

「それであの人たちは今もムラクリモさんを怖がってるのか・・・。」

「下の面倒はよく見てたからな、同じ部隊に所属してた奴らからは好かれてるんじゃないか?」

「へぇ・・・。」

(黒歴史っぽいからそろそろこの話題は止めよう・・・。)


 中学2年生くらいの話を当時の友達が話し出したら、優剛は全力で止めるだろう。誰にだって触れられたくない黒歴史はあるものだ。


 ラーズリアの「模擬戦やろうよー」をのらりくらりと流しながら、優剛は試験が終わるのを待っていると、学校のチャイムのような鐘の音が響いた。

「おっ。終わったみたいだぞ。」

「試験?」

「あぁ。ティセと由里は少し遅れてここに来るだろうから待ってよう。」


 その後しばらくして、子供たちが教室に入って来たが、由里とティセルセラの姿は無かった。そして、遂に広い教室には優剛たちを残して誰も居なくなってしまった。


「ねぇ、先に帰ってるとか無いよね?」

「ティセには試験が終わったらここに来るように言ってるし、案内も付くだろうから大丈夫だろう。」


 その後もそわそわしながら優剛が待っていると、教室の扉が開いて由里とティセルセラが入って来た。

「由里ー!」


 優剛は手を振って由里に存在をアピールする。何やら機嫌が良さそうな由里は優剛に手を振り返す。

(うおおお!)


 優剛は必死に感情を殺して由里とティセルセラが歩み寄って来るのを待つ。そんな優剛の気を知らないラーズリアが口を開く。

「合格したか?」

「「うん。」」


 まだ2人とは距離はあったが、2人は確実に首を縦に振った。

(合格したぁぁぁああ!)


 優剛は近くに来た由里に努めて冷静に尋ねる。

「合格したの?」

「うん。」


 ラーズリアは「うんうん」頷きながら口を開く。

「やはり即日合格か。」

「結構珍しいみたいだけど、父さまも即日合格だったんでしょ?」

「ハッハッハ!10年に1人くらいだぞ。しかし、今年は2人同時だろ?こんな年は例外中の例外だ。ハッハッハ!」


 踏ん反り返るくらいに大きく笑うラーズリア。

「良かった良かった」と何度も呟く優剛。


 そんな2人を無視して、ムラクリモが口を開く。

「おめでとうティセ、ユリちゃん。」

(はっ!)


 ムラクリモの言葉を聞いて再起動した優剛が口を開く。

「由里、おめでとう。ティセもおめでとう。」

「ありがとう、お父さん。」

「合格するのは当然よ。」


 ティセルセラは合格するのが当然だと思っていたのか、それほど喜んでもいないし、安心したような素振りもないが、由里は合格出来て良かったという安心感が見られる。


「麻実に電話しないと・・・。」

「もうしたよ。」

(なんですとぉぉぉ!?)


 優剛は努めて冷静に口を開く。

「う、うん。それなら良いんだ・・・。」

(僕には電話してないよ?なんで?なんでなん?)


 しかし、優剛は聞かない。「別に」なんて冷たく言われたら立ち直れない。直接聞けただけで満足するべきであると思考を変える。


 由里は何日も前から優剛が試験日に王都に来る事はわかっていたので、電話で連絡する必要は無いと思っていたのだ。


「今日はお祝いだぁ!」

「お祝いと言うより受験の為にやっていた勉強のお疲れ様会だな。」


 合格は当然という認識だったラーズリアと少し心配だった優剛とでは温度差はあるが、子供が受験に合格して嬉しいのは共通していた。


 優剛は夕食をラーズリア邸で食べてから帰る事を麻実に電話で連絡する。

『明日の飛行屋さんには影響しないようにね。』

「御意。」


 優剛は朝帰りまで想定した麻実の指示を守るべく、日付が変わる前には王都を出発してフィールドに飛んで帰った。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


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次回もよろしくお願い致します。

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