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家族で異世界生活  作者: しゅむ
74/215

74. 宴

前回のお話

お買い物

死なないでお婆ちゃん

 王都での滞在5日目。明日の朝にはフィールドに出発する為、この日は優剛たちが王都に滞在する最終日になる。

 ラーズリア邸では簡単なパーティーが昼から開かれていた。


「ジェラの快気とユリを歓迎して・・・。乾杯だ!」

『カンパーイ!』


 ラーズリア邸の使用人たちも殆どが参加している。参加出来ないのは料理を担当している者たちや給仕をしている者たちだが、そういった者たちも交代で参加するようにラーズリアは指示を出している。


 ミロマリアと学園を休んだイコライズも参加しており、昼からラーズリア邸は大騒ぎである。

 パーティー開始当初は使用人が参加している事で、ミロマリアが困惑した様子を見せていたが、それもすぐに慣れたようで、楽しい雰囲気を素直に楽しんでいる。

 ミロマリアに仕えている護衛と使用人は対応に苦慮しているが、上手くパーティーに参加出来るようにミロマリアがコントロールする。


「ほら、貴方たちも楽しんできなさい。」

「しかし、奥様・・・、護衛が傍を離れる訳には・・・。」

「何を言ってるの。ラーズ様とユーゴ様がいらっしゃるこの空間は世界で1番安全な場所よ。」


 護衛は腰を折って頭を下げてからミロマリアを離れて料理を堪能する。帰りの護衛に差し支えが無いように、酒には手を付けないように気を付けてパーティーを楽しむ。

「私は奥様の給仕を担当致しますね。」

「ふふ。貴女もよ。給仕は沢山居るから私は気にしないで良いわよ。」

「しかし・・・。」

「ほら、トーナやアイサとは仲が良かったでしょ?行ってきなさい。」


 今回このパーティーに誘われたミロマリアは同行する使用人に、トーナやアイサと仲が良かった者を選んでいた。トーナとアイサは元々レミニスターの家に仕えていたので、王都で仕えている使用人の中にも見知った顔が何人もいるのだ。


 そんな会話を近くで聞いていたラーズリア邸の給仕は、ミロマリアには見えないように手で行って来いと合図する。

 それを見たミロマリアの使用人は先ほどの護衛と同じように、ミロマリアに深く頭を下げて離れる。その際に手で合図した給仕に向かって軽く頭を下げる。


 ふぅーっと息を吐いて一段落したミロマリアに麻実が近づいて口を開く。

「ミロちゃんも大変だねー。」

「マミちゃんが羨ましいわよ。」

「ん?私も結構大変よ?特に優剛の訓練に付き合うのがね・・・。」


 そんな麻実の言葉にミロマリアも嫌そうな表情に変わる。ミロマリアも優剛の訓練には1度だけ参加した事がある。

 戦士でもないミロマリアが魔装地獄をもう1度やりたいとは思わなかった。


「ドーン!食べてる?」

 2人の前に大皿に盛られた料理を持って現れたのはムラクリモだ。


 ミロマリアは子供体型のムラクリモが大量の料理を持ってきた事で質問する。

「ねぇ、それ全部1人で食べるの?」

「んー。食べれるけど、3人で食べようよ。無くなったらまた持ってくるし。」


 ハグハグと豪快に食べていくムラクリモを見て、ミロマリアは体型が維持できるムラクリモを羨ましいと思う。

 そして、このような使用人までが参加するパーティーは今まで参加した事が無い。


 貴族だけの堅苦しいパーティーばかりで面白くも無いのが貴族のパーティーだ。


 しかし、自分たちとは一定の距離を保っているが、使用人たちは楽しそうにパーティーに参加している。ミロマリアも仲の良い2人が近くにいる事で楽しく食事が出来ている。


「良いパーティーね。」

「むふふ。最初はみんな苦労してたけどね。今ではみんなで楽しめるようになったよ。」


 ムラクリモは自分の使用人たちを自慢するように両手を大きく広げる。


 ミロマリアはそんなムラクリモに同意するように頷いてから口を開く。

「それにしても、ジェラ君は本当に良かったわね・・・。」

「うん。ラーズとミロからイコちゃんの話を聞いた時は、うちも!って思ったけど、身体が弱いのはどうしようもないから諦めたのよ。例え魔力が使えても身体が弱かったら意味が無いしね。それにユーゴ様の訓練は厳しいって聞いてたから、ジェラが耐えられるとも思わなかったし・・・。」


 ミロマリアは優剛の訓練を思い出して顔を顰める。

「でも、実際ユーゴ様に診て貰ったらジェラの身体が弱いのは治っちゃうし、何よりジェラの魔力をこの目で見る事が出来たわ・・・。」


 ムラクリモはグイっと袖で目元を拭って再び口を開く。

「マミちゃん。ありがとね。」

「お礼は優剛にね。」

「もう!いくら感謝しても足りないよー!」


 ムラクリモは感謝の気持ちを伝えるようにガバっと麻実に抱き付いた。それにミロマリアも追従する。

「私もー!イコちゃんの事ありがとね!」


 麻実も悪い気はしないのか、笑顔で口を開く。

「だからお礼は優剛に言ってよー。」


 その後も非常に楽しそうな雰囲気で3人はパーティーを楽しんだ。


「ユーゴ、ちょっと良いか?」

 ラーズリアは真面目な表情で優剛を別の部屋に誘導する。そこにはジェラルオンも待っていた。


 パーティーの途中で部屋に案内されたのを不思議に思った優剛がラーズリアに尋ねる。

「どしたの?」

「うむ。ユーゴは明日帰るだろう。その事でジェラルオンの今後を相談したいのだ。」

「明日からどんな訓練をするのか?って事で良い?」


 ラーズリアは重々しく頷いて肯定する。魔力が使えればラーズリアもジェラルオンの指導は出来る。しかし、今のジェラルオンは魔力量が少なく、何を指導して良いのかラーズリアにはわからなかった。


「んー。ジェラ、僕の補助を止めてみるね。」


 優剛が言った瞬間、ジェラルオンは眉根を寄せて苦しそうな表情に変わる。

 そんなジェラルオンをジッと優剛は見つめてから口を開く。

「凄いね。もう自分で動かせてるね。イコの時は結構時間が掛かったけど、起きてる時はずっと動かしてたのが良かったかな?」


 優剛はジェラルオンと接していられる時間が限られていたので、かなり無理な指導をジェラルオンに課している。しかし、ジェラルオンはしっかりとそれに応えて、ゆっくりではあるが、自分の力だけで魔力を動かせるようになっていた。


 そんな優剛の言葉を聞いてラーズリアは優剛に抱き付こうとする。

「ユーゴォォォ!」


 優剛はガシ!っとラーズリアの顔面を手で抑えて、さらに足も使って抱き付かれるのを阻止した。ラーズリアは抑えられたまま口を開く。

「・・・感謝しているぞ。」

「今後の訓練に何をするのか説明するよ。」

「うむ。」


 抱き付くのを諦めたラーズリアは優剛から離れて、再びソファーに腰かける。


「自分で動かせるなら今後も時間がある時は体内の魔力を動かし続ける事。今回は時間も無いし、僕がジェラの魔力を少し使って、身体能力の強化を体験させるね。」


 優剛は部屋の中を見渡す。部屋の中にはソファーが3つある。ラーズリアが座っている1人用の大きなソファー。優剛が座っている3人用のソファー。そしてジェラルオンが座っている3人用のソファーだ。


 優剛はジェラルオンが座っているソファーを指差して口を開く。

「ジェラ、そのソファーを持ち上げて。」

「・・・え?」

「僕がジェラの身体能力を強化するから出来るよ。ほら、出来る出来る。」


 優剛はジェラルオンを囃し立てて、大きなソファーを持ち上げるように促す。

 ジェラルオンは立ち上がってソファーに向き直ってから腰を落として、ソファーの下に手を入れて力を込める。


「く・・・うわ!」


 力を入れた直後は持ち上がらなかったソファーが、突然軽くなって簡単に持ち上げる事が出来た事で思わず声を出してしまう。


「今の状態が身体を強化している時の感覚だよ。殆ど僕の魔力を使ってるけど、この感覚を覚えておいてね。」

 そして、優剛は異空間からペンのような金属棒を取り出して、目の前のテーブルに置いた。


「最初の目標はこの棒を曲げる事だよ。」


 ジェラルオンはソファーを降ろしてから、優剛が取り出した棒を見つめる。


「その棒はあげるよ。あと、まだまだ魔力量は少ないから、気持ち悪くなったり、眠くなったりしたら、身体強化の訓練は止めるんだよ。」

「はい!」


 話が一段落付いたと察したラーズリアが口を開く。

「ユーゴ、これは報酬だ。ジェラの魔力が使えるようにしてれた事を感謝する。・・・ありがとう。」


 ラーズリアは手に持っていた革袋を優剛の目の前に置く。そして、立ち上がって腰を折り、深く頭を下げる。

 それを見たジェラルオンも同じように、優剛に向かって頭を下げる。


 なかなか頭を上げないラーズリアに困ったような表情に変わる優剛が口を開く。

「ト・・・トモダチナラアタリマエー」


 優剛の片言の異世界語を聞いて吹き出したラーズリアが頭を上げて口を開く。

「ハッハッハ。俺は良い友達を持てて運が良いな!」

「お師匠様!僕、頑張ります!」

「棒をグニャグニャ曲げられるようになったら、ラーズリアと一緒に訓練してね。」


 それを聞いたラーズリアは非常に嬉しそうな表情で口を開く。

「それは楽しみだな。ティセと一緒にガンガン鍛えてやるぞ。」

「はい!父さま!」


 優剛はテーブルに置かれた報酬の革袋に手を伸ばして中身を確認する。報酬の確認はちゃんとやりなさい。というトーリアの教えを守っているのだ。

 革袋の中に入っている金貨をジャラジャラかき回しても、金貨以外の硬貨が見当たらない。


「・・・多くない?」

「む?多くないぞ。俺が正当だと思った額が入ってるぞ。」


 優剛はジーっと革袋の中を確認して、恐る恐るラーズリアに尋ねる。

「・・・何枚?」

「500枚だ。」

(馬鹿だ!こいつ馬鹿だ!5億を一括ニコニコ現金払いとか絶対馬鹿だ!)


「半分でも多いわ!」

「そんな事は無いぞ。ムラとも相談したしな。ユーゴがジェラを指導した日は金貨100枚だ。イコよりも短期間で仕上げてくれた事も評価するぞ。」


 ラーズリアは指を折って数えてから腕を組んで「うんうん」頷く。

「仕上がってないから!これからの努力次第だから!それに今日で4日目だよ!その理屈でいったら400枚じゃん。」

「明日の朝も訓練するだろ?だから500枚だ。報酬が少なくて怒る奴は多いが、報酬が多くて怒る奴なんて居ないぞ。貰っとけ貰っとけ。」


 ラーズリアは本当に気軽な感じで告げてきた。しかし、小市民の優剛は金額の多さに眩暈すら覚える。

「これから由里もお世話になるし、こんなに貰えないよ・・・。返すから由里の生活費に充ててよ。」

「む?魔導騎士の給料は馬鹿みたいに多いから、今でも使い切れないくらいだ。気にするな。それに俺は昔、ハンター業で大量に稼いだしな!ハッハッハ!」


 ラーズリアの貯蓄が増えるのは贅沢をしない。というのが1つの原因でもある。ラーズリアが購入するとしたら剣くらいだが、市場に出回っている剣でラーズリアの2本の剣を超えるような剣は存在しない。

 しかも純ミスリルの剣を予備で1本持っているのだ。お金の使い道は存在せず貯まる一方である。


「僕が使えないよ・・・。」

「魔道具でも買えば良いだろう?」

「全部自前で出来るのに魔道具なんて要ると思う?」


 優剛は右手を開いてラーズリアに突き出す。その5本の指には火、水、土、風、雷が纏っており、優剛の非常識さを際立てる。


「うわぁ・・・。」

 余りの光景にジェラルオンは口を開いたまま、優剛の非常識な手を見つめる。


「うーん。駄目だ!ユーゴが何を言っても駄目だ!それは受け取ってくれ!俺がムラに怒られる。」

「くぅ・・・。それはズルい・・・。」


 妻に怒られる。これを持ち出されると優剛も弱かった。妻の恐ろしさは優剛も痛いほどわかっているのだ。


「はぁぁー。僕が使い切れなくて死んだら、ジェラに渡すわ・・・。」

 優剛は大きく溜息を吐いて、革袋を異空間に収納した。


 ラーズリアが信じられないモノでも見るように優剛を見つめて口を開く。

「・・・ユーゴが死ぬのは難しいと思うぞ・・・。」

「何それ!さすがに子供たちよりも早く死ぬから!」

「ふっ・・・。その頃にはジェラも立派に稼いでるから、ユーゴからの金など不要だ。ユリやマコトにでも渡すんだな。」


 ラーズリアは自信満々にジェラルオンは将来大量の金を稼ぐと胸を張るが、それは優剛も同じである。

「ふっ。由里と真人も沢山稼ぐから2人も僕のお金なんて要らないよ。」


 鼻で笑い合って睨み合う2人を見て、困ったような表情でジェラルオンが、目の前に置かれた金属棒に無意識に手を伸ばす。


 それを見たラーズリアが口を開く。

「ふっ。その金属棒の代金だと思ってくれ。」

「はぁ!?それは詐欺になるよ!その棒は激安だから。値段も忘れたくらい激安だから!」

「く・・・。金も受け取ったし、もう良いだろう。」

「はっはー。いつでも出せるんですー。」


 重い革袋がドシャっとテーブルに再び置かれる。

 優剛とラーズリアの争いはもはや子供の喧嘩レベルにまで落ちている。


 その後も報酬を貰う方が値引き交渉をする不思議な時間であったが、結局値引きはされず、優剛は王都滞在中に金貨500枚を荒稼ぎしてしまった。

 さらにパーティーの最中に王城からの使者が、先代国王の治療費として金貨50枚を置いていった。


 麻実は初めて自分で高額のお金を稼いだ事を非常に喜んでいたが、小市民の優剛は金額の多さに頭を抱えた。

「フィールドで治療したらそんなに高くないよね・・・?」

「うーん。リハビリを含まないで、銀貨5枚だったかしら。」

「100倍じゃん!ボッタくりじゃん!」


 しかし、麻実は全く怯む様子は無い。

「ふふ。出張費よ。私を呼び出すにはこれくらいは支払ってくれないと困るわね。」


 恐ろしい麻実の言葉だが、優剛は納得してしまった。

 確かにフィールド以外の者が麻実に、自分の住む領地まで来て治療を依頼する料金が安い訳にはいかない。そんな事をすれば麻実はフィールドに帰って来る事は出来なくなるだろう。


 今回の金額は抑止力にも繋がる事になる。100倍払うくらいならフィールドに行った方が、安く済ませる事が出来るだろう。

 しかも、先代国王で100倍である。王族でも無い者が依頼する場合は、さらに高額な請求をするのは当然である。


 良い前例が出来たと麻実は笑みを浮かべて言っていた。


 優剛が貰い過ぎた報酬が気になって、心の底から楽しめないパーティーは、ミロマリアとイコライズが帰宅してからも続いた。

 しかし、ラーズリアも使用人たちも、今日は酔い潰れる事も無くそれぞれの部屋で眠りについた。


 優剛も途中で抜け出してベッドに入る際に、普段よりも多くの魔力を異空間に注いで強引に眠りについた。寝て忘れるに限るのである。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


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次回もよろしくお願い致します。

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