66. 王都観光?
前回のお話
強さの秘密
キモっ!
王都観光に出掛けた優剛たちは、ティセルセラの案内で王都の名所を徒歩で回るはずが、いつの間にか買い物に変わっていた。
「マミさん、これ似合うんじゃない?」
「ムラさんにはこれが良いんじゃない?」
楽しそうに買い物に興じる麻実とムラクリモを見つめる優剛の目は虚ろだ。
「どうしてこうなった・・・。」
全ては最初の名所に着いた時に放った真人の一言から始まる。
「ボクは訓練場が見たいな。」
「良いわね。私もマコトがどれくらい強くなったのか知りたいわ。ユリはどうする?」
「うーん。私は興味ないけど、王都の魔術士と話をしてみたいかな。」
(由里と真人は観光に来たはずなのに、そっち方面に興味があるのか・・・。)
優剛は由里と真人の言葉に驚く。優剛は由里と真人にオタク知識を総動員して魔術を教え込んでいる。その結果、由里は超特級危険生物である青銀狼のレイを上回る魔術の使い手に成長していた。
レイは由里を守ると心に誓っているので、由里より強くなるために日々努力している。しかし、それは由里も同じで、ペットのように可愛がっているレイを守る為に努力を怠らない。
ハルもそんなレイを見て危機感を持ったのか、隠れて努力しているのを優剛は知っている。
真人は放っておくと隣の訓練場で双剣を振り続けて帰って来ない。脳筋に一直線である。
優剛は真人が脳筋にならないように、算数を教えるなどして必死に制御しているが、偶に遊ぶヒーローごっこが完全に模擬戦と同じで、真人はそれが大好きなのである。
「ティセ、お昼はいつものお店にするからお昼に集合よ。それまで別行動にしましょう。」
「はい、母さま。ユリ、マコト。行くわよ。」
「うん。」「はーい。」「わん!」
当然のようにレイは3人に同行する。
ハルは優剛の背中に尻尾を巻き付けて動かない。出発してすぐに寝てしまったのだ。
とても自然なやり取りに優剛は会話に割り込めずに呆然としていたが、由里が行ってしまうという段階になってようやく口を開く。
「親が一緒に行かないといけないから僕も一緒に行くよ。」
「ユーゴさん、ティセにとっては庭みたいなものですから不要ですよ。それにお昼には合流出来ます。」
「いや・・・。でも・・・。」
ムラクリモはハッキリしない優剛に畳みかける。
「私たちはお買い物です。良いですよね?」
ムラクリモが確認しているのは麻実だ。優剛の方は向いていない。
「もちろん。行きましょう。」
「うふふ。こっちですよ。」
その後の優剛は2人の後ろに付いて歩き、時折離れて見守り、お金を払って荷物を受け取る。
油断は出来ない。いつ『どっちが良いかな?』『これ似合うかな?』という難題が優剛を襲うかわからない。
選んでいる時の表情や仕草を観察して、優剛に質問する前には既に決まっている答えを、優剛は回答しなければならない。
優剛は今いるお店が何個目のお店なのか、数えるのを止めている。数えれば疲れる要素が増えるだけだ。
「優剛、どっちが良い?」
「・・・こっち。」
「ありがと。」
優剛は虚ろな瞳だが、答えは合っていたようだ。麻実は笑顔で次の商品を選びに行く。
そして、優剛はお金を払う段階になったのを見逃さずにススっと近づいて代金を支払う。そのまま荷物を受け取り、こっそり異空間に収納する。
「ユーゴさんが居ると買い物が捗りますね。」
「荷物を持たなくて良いのは楽よね。」
「うーん。そうじゃないと思うけど・・・。うーん。」
ムラクリモは買い物が捗る理由の説明は出来ないが、荷物持ちという理由ではないと思っている。普段は使用人を連れて買い物をするので、ムラクリモが買った品を持つ事は無いが、今日の買い物は非常に楽しく出来ている。
優剛はムラクリモの質問にも答えているのだ。それが普段よりも気持ち良く買い物が出来ている理由なのだが、なかなか気づくのは難しい。
ほぼ初対面の女性の買い物に付き合って、最適解を出す優剛の観察力は魔術を使って強化しているのだ。
優剛の苦行が終わりを迎える時が来た。
「マミちゃん、そろそろお昼にしましょう。いつものお店を予約してるから期待してね。」
「うん、うん!期待してるよ。ムラちゃん。」
気持ちの良い買い物を通じて、すっかり仲良くなった2人の後ろを虚ろな目をした優剛が付いて行く。
案内されたレストランは小奇麗で、入ってすぐはテーブル席がたくさんあるホールだが、
2階に上がるとそこには複数の部屋があり、プライベートな空間が用意されていた。
「ここは雰囲気が良いわー。由里たちはまだ来てないみたいね。」
「そうでしょー。料理も美味しいから私のお気に入りよ。」
早速、席に座った麻実が綺麗な部屋を見渡してムラクリモに感想を告げた。
優剛はゆっくりとした動作で椅子に深く腰かける。ここで疲れたような動作や溜息などは、『買い物が退屈で疲れた』という意味になってしまうので厳禁だ。
「優剛、疲れた?」
「ううん。お腹空いただけだよ。」
優剛は誤魔化す。世の中には知られてはいけない秘密が山のようにあるのだ。
「あの子たちは何をやってるのかしらね。」
ムラクリモが別行動中の子供たちへの不満を口にした直後に子供たちは部屋に入って来た。
「あれ?待たせちゃった?」
「ううん。良いタイミングよ、ティセ。」
「それなら良かった。」
優剛は合流した真人に話しかける。
「楽しかった?」
「うーん。まぁまぁかな。」
(満足出来る相手は居なかったか・・・。あれ?これ完全にラーズ化してないか?)
優剛は真人の回答を聞いて、教育計画の見直しを誓う。
「マコトが強すぎるのよ。何したらそこまで強くなるのよ。」
「ティセ姉さまも強いと思うよー。」
「え・・・。そ・・・そう?」
真人の言葉に照れるティセが気を取り直して口を開く。
「マコトよりもユリが大変だったわ。」
「由里が何したの?」
優剛は訓練場に興味の無い由里が訓練場に行っていたので心配である。
「訓練場に居た魔術士全員の心を折ったわ。」
「ん?・・・何したの?」
優剛は恐る恐る由里に確認した。
「魔術士の人から話を聞いて、魔術を見せて貰って真似しただけだよ。全部簡単だったから、やっぱりお父さんが1番なんだって確認出来たの。」
(ハッハッハ!聞いたか皆の衆!ハッハッハ!僕が1番だ!ふあぁーはっはっは!)
「いや、いや。きっと僕より凄い魔術士は居るよ。きっと訓練場には居なかっただけだよ。」
「いや・・・。ユーゴの上って言うとちょっと・・・。」
優剛の内心は歓喜しているが、発した言葉は真実だ。自分より優れた魔術士は必ず居ると信じて疑わない。
しかし、ティセルセラは優剛の魔術を何度も見ているので、この世界に優剛より優れた魔術士の存在が想像も出来ない。
「まぁ・・・。ユリが話を聞いただけで、みんなの自慢の魔術を軽く真似・・・。違うわ。遥かに上回る魔術で次々に再現して、最後は空も飛んじゃったから、みんなの心が折れちゃったのよ。」
ティセルセラの説明に優剛は満足そうに何度か頷いて由里に告げる。
「そっか。そっか。帰ったらまた面白い魔術を一緒に開発しようね。」
「うーん。偶になら良いよ。」
「お願いしまーす。」
優剛は軽いノリで由里に頭を下げる。そんな2人を呆れるように見ていたティセの呟やきを聞いていた者は居なかった。
「国中の魔術士が死ぬわ・・・。」
美味しい昼食を終えた優剛は今度こそ観光に出発する麻実たちと別れてラーズリア邸に戻る。麻実たちの護衛はハルが担う事になるが、ムラクリモに言わせれば『私たちを襲う愚か者は居ない』との事だ。
ティセルセラは王都では有名なやんちゃ娘だ。ラーズリアを陥れる為に幼い頃から危険に晒されているのだが、誘拐目的の刺客たちを全てティセルセラ本人が撃退している。
婚約希望者も子供から大人まで全員ぶっ飛ばして拒否している。(第3王子含む)
さらには、ラーズリアと共に色々な部隊の訓練に顔を出して、兵士たちと同じ訓練を消化しているのだ。
実はムラクリモも戦士の家系でティセルセラよりも強いのだ。
この2人を襲おうと考えるような者は既に王都に存在しない。仮に襲うとすれば規模が大きすぎてすぐに露見してしまう。
そんな事情を聞いた優剛は安心して、レイとラーズリアの模擬戦の為に、麻実たちと別れてラーズリア邸に戻る事が出来たのである。
優剛は出迎えてくれた執事の男性に尋ねる。
「ラーズは戻ってますか?」
「はい。既に訓練場で身体を動かしております。」
そんな執事の回答にレイの尻尾は振られる。夕食に追加される1品に心が躍っているのだ。
訓練場まで案内された優剛は既に待っていたラーズリアに声をかける。
「お待たせー。」
「おぉ!意外と早かったな。」
「レイが張り切ってるからね。」
優剛は苦笑しながらレイの頭を撫でながら告げた。
「早速やろう。」
「わん!」
レイは尻尾を振りながらラーズリアに歩み寄って行く。
「ラーズ、夕食の追加を忘れないでよ。」
「俺に勝ったらな。」
既にラーズリアに笑顔は無い。レイも尻尾は止まっており2人は臨戦態勢だ。
「はーい。じゃあ適当に始めて良いよ。」
優剛の投げやりな開始の合図でラーズリアがレイに接近するが、合図と同時に横に飛んだレイに近づく事は出来ない。
「速いな・・・。くっ!」
ラーズリアはレイの移動速度に感心しながらも、レイから放たれた電撃を回避する。
(ラーズはレイに近づけるのかね・・・。)
優剛はボーっとした表情で戦いを観戦しているが、ラーズリアがどうやってレイと戦うのか興味があった。
優剛は純水を纏う事で電撃から身を守った。では、そういった手段が無い場合はどうするのか?
その点を戦闘狂のラーズリアに期待しているのだ。
「おおぉぉぉ!」
ラーズリアは気合の掛け声と共に自身を強力な魔装で覆った。そして、間合いを詰めるべく一気にレイへと駆け出した。
(ダメージ覚悟の突撃じゃないよね?)
優剛の懸念は合っていた。ラーズリアはレイの放つ電撃を避けなかったのだ。
「ぐぅおぉぉ!」
(脳筋だ・・・。脳筋が居る・・・。)
しかし、ダメージ覚悟の突撃はすぐに終わりを迎える。
ラーズリアの足に電撃で作られた槍が突き刺さったのだ。
「ぐっ・・・・。がぁぁぁあああ!」
うつ伏せに倒れたラーズリアに優剛が声をかける。
「ラーズ、大丈夫?」
「ぐぅ・・・。」
「はい、はい。治すよ。」
優剛が魔力玉をラーズリアに放って、それがラーズリアに命中すると、すぐにラーズリアはガバっと立ち上がる。
「凄いな!レイは凄いな!電撃で槍を作ったのか!?いやー、ただの電撃なら大丈夫だと思ったが、槍じゃなくても逃げながら電撃を使われたら終わりだな。」
「わん!」
ラーズリアは自分の目の前まで来て吠えたレイを怪訝な表情で見つめたが、すぐに思い出したかのように執事に向かって口を開く。
「おぉ!そうだな。レイの夕食は1品増やそう。おい、厨房に行って今日も特別な品を1つ用意するように伝えてくれ。」
「畏まりました。」
「わん!わん!」
早歩きで執事が出ていくのを、高速で振られる尻尾で見送るレイの気持ちは誰でも容易に想像が出来るだろう。
「なぁ・・・。ユーゴはどうやって勝ったんだ?」
「んー。電気を通さない物質で自分を覆って、角を掴んで地面に叩きつけた。」
優剛の言葉に尻尾が止まるレイ。ラーズリアも渋い顔になってレイに視線を向ける。
「お前も大変だったな・・・。」
「くぅーん。」
「もう1回やろう!と言いたいところだが、対策も無しでは何も出来んな・・・。相性が悪いと言っていた意味がわかったぞ。うーむ。」
座り込んで考え込むラーズリア。訓練場の端で寝転がる優剛。そして、無邪気に走り回るレイ。
(午後はゆっくり出来そうだなー。)
ラーズリアは飛ぶ斬撃の練習を始めだした。やはり自分の得意な距離に相手を引き込む為にも、遠距離戦で相手を牽制する必要という結論に達したのだろう。
そんなラーズリアに優剛が左手の剣を指差して助言する。
「ラーズのそっちの剣って柄が完全に木製だよね?」
「ん?そうだな。これはミスリル製で、我が家に代々伝わる剣だ。もう1本あるのだが、俺が個人的に手に入れたこっちの方が性能は良いから、もう1本は使ってないのだ。」
ラーズリアは左手の剣を優剛に向けて尋ねてくる。
「こっちの剣がどうしたのだ?」
「うん。木って電撃を通さないんだよ。だからそっちの剣で電撃を払えれば、感電はしないよ。」
ラーズリアは素早く辺りを見渡してレイを見つけて声をかける。
「レイ、1発電撃を俺に撃ってくれ。」
そんなラーズリアの要望に応えるようにレイは、ラーズリアに向かって容赦のない電撃を放つ。向かってくる電撃をラーズリアは左手の剣でなぎ払う。
「おぉ!払えたぞ!しかし、こっちの剣も柄は木製だぞ。」
ラーズリアは右手の剣を優剛に掲げて尋ねた。
「そっちは柄の装飾に金属が付いてるでしょ。電撃って金属に飛んでいくから、柄の金属に電撃が流れたら、持ち手にも飛ぶよ。」
「なるほどな・・・。レイ!もう1回やろう!」
「わん!わん!」
(なんでレイは喋らないんだ・・・?まぁ良いか。)
防御手段が出来た事で一方的な展開にはならなかったが、剣で払える限界を超えた広範囲に電撃が放たれて終わりを告げた。
「あれは反則だろ・・・。どうすりゃ良いんだよ・・・。」
愚痴るラーズリアに優剛が対策を示す。
「レイ、今のを僕に撃ってー。」
レイはラーズリアに放ったよりも広範囲に電撃を展開して、寝転がっている優剛に放った。
優剛は自分の周囲に地面に刺さった状態の金属の棒を生み出して、避雷針のようにして防ぎ切った。
その時のレイは非常に悔しそうであったが、ラーズリアも悔しそうな表情をしていた。
「もう1回―。」
再び告げられた優剛の指示に、レイが放った電撃は遠慮の欠片も無い。優剛は地面から金属棒を1本抜いて、自分の身体付近の電撃だけを高速で振った棒で絡め取って、先端を地面に付けた。
「こっちの方が可能性あるかな?」
「あぁ・・・。理屈はわかるぞ・・・。よし。も・・・。」
「レイー、おやつにしよう。」
優剛はラーズリアの言葉を遮って告げた。
そろそろレイの小腹が空く時間である。ここまで付き合ってくれているレイに、優剛からもご褒美が提供されるのだ。
既に優剛の前には高速で移動を終えたレイが尻尾を振って待ち構えていた。
そんな姿を見ればラーズリアも無理にもう1戦とは言い難いというものだ。
「場所を変えよう。飲み物も必要だろ?」
「おぉ!ありがたいね。レイも良いでしょ?」
「わん!」
優剛たちは食事をする部屋に移動して、優雅なおやつタイムだ。
「ほい。シュークリームだよ。」
「あおぉぉぉん!」
異世界で再現したシュークリームはバニラの無いカスタードクリーム入りで、レイはこれが大好きなのだ。
レイは優剛の異空間から次々と出されるシュークリームを次々と腹に納めていく。
「これは美味いな。どこで売ってたんだ?」
「僕が作ったんだよ。」
「魔術でか?」
「普通に誰でも作れる作り方で作ったよ。」
ラーズリアは驚愕の表情で再度優剛に尋ねる。
「ユーゴが作ったのか?魔術なしで・・・?」
「そうだよ。作り方、教えようか?」
「もちろんだ!しかし、俺ではなくうちの料理人に教えてやってくれ。」
「うん。あとでね・・・。」
優剛はラーズリアの熱意に気圧されるように告げた。
おやつも食べ終わって小腹が満たされた男たちは満足そうに紅茶に口を付ける。レイは優剛の足元で丸くなってリラックスしている。
「ユーゴ、さっきのシュークリーム?だったか。もう1つくれないか?」
「良いよ。まだ食べるの?」
「いや、俺のじゃない。息子にやるんだ。」
「ん?一緒に住んでるの?反抗期?」
優剛はラーズリア邸に来てからラーズリアの息子には食事の時も含めて会っていない。紹介もされないし、ここまで会う機会もないのは反抗期くらいだろうと思って気軽に尋ねた。
しかし、ラーズリアは悲痛な表情で口を開く。
「息子は身体が弱くてな。俺や客に会うと風邪を引いてしまう事が多いんだ。黙ってた事は申し訳ないと思うが、たかが風邪でも死にかけるくらい身体が弱くてな。」
(何それ・・・。そんな病気ってある?)
悲痛な表情のラーズリアを見ていられない優剛が口を開く。
「僕が診ようか?」
「ユーゴが出来るのは病気や怪我の治療だろ?息子は病気や怪我では無いからな。俺も手は尽くしたんだが、身体が弱いのはどうしようもない。」
「おや、おや。ラーズ君。優剛は何でも出来るって言ってたじゃん。」
「ハッハッハ!そうだったな。最後の足掻きにユーゴに頼るのも良いな。」
そう言ってラーズリアは立ち上がると優剛に向かって頭を下げる。
「息子を・・・頼む。」
優剛は立ち上がってそんなラーズリアの肩に手を置いて親し気に告げる。
「友達に頼む態度じゃないなー。」
「ふっ。そうだな。ユーゴ、俺の息子をなんとかしてくれ。」
そんな気軽なラーズリアの頼み方に満足気な優剛は微笑んで口を開く。
「ふふ。もっと早く言ってよね。何処に居るの?」
優剛はラーズリアの案内で息子の部屋まで案内される。ラーズリアは右手に持ったシュークリームを大事そうにしていたのが、優剛の印象に強く残った。
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