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家族で異世界生活  作者: しゅむ
63/215

63. お巡りさんこっちです

前回のお話

聖女様!惚れた!ぐはっ!

ラーズリア vs ミスリル人形の戦い

 ラーズリアは人形の首を切断した後に、素早く後ろに跳んで距離を取る。そして、油断なく双剣を構えて人形を見つめる。


 そんなラーズリアに優剛が告げる。

「いや・・・。それ魔術で作った人形だから生き物みたいに倒れないよ・・・。」

「おぉ!夢中だったから忘れていたぞ。」


(何と戦ってたんだよ・・・。)


「うーむ。レオネルは何処まで見えていた?」

「はい。見えていたか?という事であれば全て見えていましたが、対応出来るか?と言われれば難しいです。」


 ラーズリアと人形の戦いを観戦していた2人は、それぞれが感想を話し合っていた。


 優剛が人形に近づくと、ラーズリアが優剛に告げる。

「しかし、俺が本気を出したら呆気なかったな。」

「・・・ほほぉ。じゃあもう1回だね。」


 優剛は人形に直接魔力を追加すると、瞬く間に腕と頭が再生される人形。

 優剛は地面に落ちている頭と両腕を拾って、人形に押し付ければ、ズブズブと人形の中に入って、新たなエネルギー源に変わる。


「・・・なぁ。さっきの人形より強くしたのか?」

「いや、いや。本気になったら呆気ないよ。」

「え・・・。俺が言った事を気にしてるのか?」


 1回目の人形は優剛の基準で言えば、それほど多くの魔力を使っていなかった。そこに想定していなかったラーズリアの強化だ。

 ラーズリアが自分の戦闘レベルを引き上げた際に、優剛は人形も強化したかったが、術者である優剛から離れていた人形の強化が間に合わずに、人形の目の前で強化を終えたラーズリアに敗北したのだ。


 しかも人形は動けば動くほどに魔力を消耗する。そんな人形には多めに魔力を込めても良いだろう。というのが優剛の考えだ。


「よーし。構えろラーズ!」

「望むところだ!」


 今回のラーズリアは初めから全開だ。しかし、人形も込められた魔力が増えた事で、ラーズリアと互角の戦いを繰り広げている。


 そんなラーズリアと人形の戦いを見つめるバスターナンが口を開く。

「あの人形・・・。あのラーズと互角に戦っているぞ・・・。」

「はい・・・。しかし、術者のユーゴがそこで寝転がっているんですよね・・・。」


 優剛は戦闘が始まってすぐにバスターナンの近くまで来て地面に寝転がった。そして、肘を地面に付いて、手で頭を支えるというテレビを横になって観る。という体勢で人形を操っているのだ。


「うおぉぉぉ!・・・ん。」

 バスターナンとレオネルは突然、優剛が声を出したので驚いて優剛を見てしまう。


 優剛は仰向けになって大きく身体を伸ばしているだけだった。平常運転である。

「ユーゴさん・・・。ラーズリアさんの動きを見なくて良いんですか?」


 すっかり大人しくなってしまったレオネルが優剛に尋ねた。

「魔術で見てますよ。人形の顔からの視界で見てます。」


 優剛が下からバスターナンとレオネルを見ると、非常に不思議そうな顔をしていたので説明したが、レオネルは不思議そうな顔のままだ。

 しかし、バスターナンが口を開く。

「そうか。ユーゴだからか。」


 優剛とレオネルの声が重なる。

「「え?」」


「ラーズから聞いているぞ。ユーゴ関連で混乱したら、『ユーゴだから』と思えば疑問では無いと。ユーゴであれば何が出来ても不思議ではない。という意味だな。」

(その呪文みたいなの偶に聞くわ・・・。)


「しかし・・・。」

「レオネル、・・・ユーゴだからだ。」


 国王によって遮られたレオネルは目を閉じて呪文を呟く。

「ユーゴさんだから。ユーゴさんだから。ユーゴさんだから。」


 そして、目を開けたレオネルは少し晴れやかな表情に変わるが、すぐに困惑した表情になる。

 目を開けて訓練場の中心付近で激しく戦うラーズリアと人形の戦うレベルが高すぎて圧倒されたのだ。さらにいつの間にか人形は片手に剣のような棒を握っている。


 人形は棒を使ってラーズリアの右手の剣を防ぎ、左手の剣は回避する。回避と同時に距離を取ってギリギリの間合いで棒を横薙ぎに振る。

 ラーズリアは棒を掻い潜って人形に接近、右手の剣を上から振り下ろす。人形はその剣を半身になって回避して、同時にラーズリアの左手の剣を棒で受ける。


 ラーズリアの双剣は基本的には隙が小さい2連撃を繰り出す事で、相手の回避と防御を困難にする。1本目を回避か防御しても、その動作の隙を付いて2本目が相手を斬り刻む。


 しかし、人形はその同時攻撃とも錯覚させる2連撃の隙間を縫うように、回避と防御を成立させている。


「こっちから仕掛けるか・・・。」

 優剛が呟いたと同時に人形の空いていた左手に丸盾のような物が形成された。


 ラーズリアも盾には気が付いているが、戦術を変える気は無い。覚悟を決めて剣を振る。

「ハァァ!」


 キン!という高い音を立てて、盾がラーズリアの剣を逸らす。ラーズリアは剣を逸らされた事で僅かにバランスを崩す。崩れた姿勢では左の剣による攻撃方法の選択肢が減少する。

 しかし、ラーズリアは攻める。足をグッと踏ん張り左の剣で攻撃する。人形はラーズリアの剣が動いた直後を棒で抑えると同時にラーズリアに接近する。


 既にバランスは回復しているラーズリアだが、人形が接近した事で剣が有効に使えず、一瞬の迷いを見せる。

 その僅かな隙を人形(優剛)が見逃すわけが無かった。


 人形は接近する勢いを利用して、ラーズリアの腹に膝蹴りを突き刺し、後方に吹き飛ぶラーズリアだが、ただ攻撃を喰らって終わる訳が無い。

 人形から離れる直前に右手の剣を下から上に斬り上げるが、人形は丸盾でしっかりと防ぐ。


「ぐぅ・・・。」

 攻撃を喰らった上に自分の攻撃は防御された。ラーズリアは悔しそうな呻き声を出しながら、空中で姿勢を制御して地面に足を滑らせながら着地する。


「まだまだぁ!」

 気合の声と共に顔を上げて人形に視線を戻して絶句する。


 人形は持っていた棒を投擲していたのだ。


「ぐお!」

 剣による防御が間一髪のところで間に合った。しかし、ラーズリアのピンチは終わらない。

 人形の右手から発射されるミスリルの弾丸がラーズリアに向かって飛来する。


「ぬぁ!」

 ラーズリアは横に飛ぶようにして回避したが、再び人形に接近する事が出来ない。

 人形の右手からは次々に弾丸が発射されてラーズリアに襲い掛かっているからだ。


「ハッハッハ!近づけん!近づけんぞ!ハッハッハ!」

(うわぁ・・・。変態だ。お巡りさん!ピンチで笑う変態はここですよー。)



 優剛は異世界には居ない制服警官をイメージして通報したい気持ちを抑えきれない。


 3連発で弾丸を撃って、1拍休む。そして、再び3連発。所謂、3点バーストで人形は弾丸をラーズリアに放ち続ける。


 3連続の後に1拍の間がある事に気が付いたラーズリアは、3連発を避ける際に長距離を移動するように回避した。

 1拍と人形が右手をラーズリアに向ける動作の僅かな隙。その隙にラーズリアは気合の声を出す。


「ぉぉあ!」

 その声と同時にラーズリアの双剣が今までとは異なる魔力に包まれていく。


 優剛は直感する。

(飛ぶ斬撃!?)


「ぬぅん!」

 双剣が2本同時に大きく縦に振られると、2本の飛ぶ斬撃が遠距離の人形を襲うが、術者の優剛は斬撃が飛んで来ると仮定して人形を操作していた事もあって、人形は難なく飛ぶ斬撃を避ける。


「避けるとかマジかよ!?これを知ってるのはティセくらいだぞ。」

「ラーズが魔力を飛ばせるようになってたのは驚いたけど、僕の世界では常識だったからね。勘だよ、勘。」

(漫画やゲームの世界だけどね。)


「去年の冬にユーゴと修行して魔力を飛ばす感覚を掴んだからな。こっちに帰ってからも続けてたんだよぉぉおお!」

 ラーズリアは語尾に気合を乗せて再び斬撃を飛ばす。


 会話していた事で人形が動きを止めていた隙を狙ったのだ。


「でも・・・真っ直ぐ飛ぶだけでしょ?」

 人形は遠距離から飛来する飛ぶ斬撃を難なく避ける。


「この距離を飛ばすだけでも、どんだけ苦労したと思ってんだぁぁぁ!おぉぉらぁぁああ!」

 ラーズリアは気合を乗せて双剣を振り、斬撃を飛ばし続ける。しかし、人形は次々に飛んで来る斬撃をヒョイヒョイと軽快に避けていく。


(飛ぶ斬撃は速いけど、振った軌跡に真っ直ぐ飛ぶから、距離があれば避けやすいでしょ・・・。大丈夫かな?わかってるのかな?)


「レオネル、ユーゴの言ってる飛ぶ斬撃とやらは見えるか?」

「はい。微かに見えますが、避けるのは速すぎて無理です。」

「だよな・・・?」

「・・・はい。」


 遠くでラーズリアが双剣を振った直後に何かを人形が避けた?くらいの認識だったが、目を凝らしてようやく人形が飛ぶ斬撃を避けているのを把握したのだ。


 難しい顔の観戦者2人は目にも止まらぬ速さで飛ぶ斬撃を見て、目を見開いて驚愕したのだが、ヒョイヒョイ避ける人形と『真っ直ぐ飛ぶだけ』という優剛の発言がジワジワと心を侵食していく。


 あの速度なら真っ直ぐ飛ぶだけでも十分に必殺の一撃になり得る。しかし、明らかに相手が悪いのだろう。


「「ユーゴ(さん)だから」」

 結論として2人は例の呪文を唱える。


 ラーズリア vs 人形の攻防は一転してラーズリアが飛ぶ斬撃で攻勢を強めて、人形が回避に手一杯の様相を見せるが、その状況を優剛が覆す。

「ラーズ!その技の先を見せよう。」

「何をぉぉぉ!?」


 人形は飛ぶ斬撃を避けると同時に右ストレートを真っ直ぐラーズリアに向けて放つ。当然、遠くのラーズリアに拳は届かないが、ラーズリアは顔を横に傾けて回避する。


「ぐはっ!」

 しかし、ラーズリアは顔面に横から衝撃を受けてバランスを崩す。

 飛ぶ斬撃ならぬ飛ぶ拳である。


「お前は発想がおかしいぞ!飛んできた拳が直角に曲がったぞ!」


 ラーズリアの言葉で今日一番の驚き顔になっているバスターナンとレオネル。今日ほど驚きが連続した日は無いだろう。誰かにこの話をしても信じる者は居ないだろう。しかし、これは現実である。


「おやぁ?ラーズ君、当たったら終わりだと思うのかね?」

 優剛は悪役のような悪い笑顔と声色でラーズリアに問いかける。


 ハッとしたラーズリアだが、既に遅かった。ラーズリアを殴った魔力の拳が腹に突き刺さった。

「ぐほ。」

 慌てて距離を取るラーズリアに魔力の拳が襲い掛かるが、ラーズリアは油断せずに動き回る拳を避け続ける。


「ここまで出来んのは世界でユーゴだけだろうがあぁああ!」

 この状況でも反撃の斬撃を飛ばすラーズリアは王国最強の魔導騎士に相応しいだろう。しかし、人形は避ける動作と一緒に再び右ストレートを虚空に向かって放った。


「おらぁぁ!!」

 雄叫び。そして、一閃。ラーズリアは魔力の拳をぶった斬ったのだ。さらに2発目の飛んで来る拳もスパッと真っ二つに斬り伏せる。


「どうだ!」

 自慢気に優剛に向かって胸を張るラーズリアに優剛が告げる。


「それ、斬れたんじゃないよ。分けたんだよ。」

「ぶっ!」


 ラーズリアの頬に魔力玉が衝撃を与える。ほぼ同時に腹にも2つの魔力玉が突き刺さる。

 身体がくの字に曲がった事で4つ目の魔力玉がラーズリアの視界に入る。ラーズリアが魔力玉を視認するのと同時に、下から上に顎を撃たれて、くの字に曲がった身体が跳ねるように真っ直ぐに戻る。


 そのまま仰向けに倒れたラーズリアが口を開く。

「やっぱりユーゴとの模擬戦は最高だなぁ。」

(ボコボコにされて喜んでる変態です。変態がここにいますよー。)


「ねぇ、優剛。何やってんのよ・・・。」

 ちょうど先代の国王に施した治療の説明と、今後のリハビリメニューの説明を主治医という魔術士にしていた麻実が、先ほどの部屋で給仕をしていた女性に案内されて訓練場に到着していた。

 そんな麻実はラーズリアが倒れた瞬間だけを目撃したので優剛に尋ねた。


「僕が最近ハマってる魔力人形とラーズが模擬戦?してたんだよ。」

「国王様がドン引きしてるわよ?」


 魔力を身体から離すのは困難だという常識から考えて、ラーズリアの飛ぶ斬撃とその速さは称賛に値する。元々優れていた接近戦に加えて、遠距離攻撃も身に着けたラーズリアに死角は無い。

 しかし、バスターナンとレオネルにジワジワと侵食していた優剛の飛ぶ斬撃の評価である『真っ直ぐ飛ぶだけ』というものが、腹の底に落ちた事で気が付いた。


 優剛が魔力で作ったミスリル人形は優剛の身体から離れて、ラーズリアを相手に高速戦闘をしていた。

 初めて火と水の人形を見た時から驚きで思考が停止していたのだろう。少し考えれば優剛の人形がどれほど馬鹿げた代物か理解出来た。


 その事に思い至った2人は驚きを通り越して、呆れた顔で優剛と人形を交互に見つめていた。


「国王様、私たちはそろそろ失礼させて頂きます。」


 バスターナンは数秒の沈黙。後にハッとした顔で麻実に返答する。

「あっあぁ。そうだな。父上に何かあればマミを呼ぶかもしれんが、その時は頼むな。」

「はい。喜んで参上致します。」


 麻実は綺麗な所作でバスターナンに一礼してから優剛たちに向かって声をかける。

「優剛、ラーズさん。帰るわよ。」

「はーい。」

「ユーゴ!立てん!治してくれ!」


 優剛は「へいへい」と言う不躾な返事をしながら立ち上がると、ラーズリアに向かって魔力玉をぶつけた。

「おぉ!頭がスッキリしたぞ。それに頬も腹も痛くないぞ!」


 ガバっと起き上がったラーズリアはしっかりした足取りで、バスターナンの傍に居た優剛と麻実に合流した。


 その光景を見ていたバスターナンの抱いていた疑問が思わず口から漏れた。

「何をしたのだ?」

「優剛がラーズさんに回復魔術を施したのです。揺れる脳を鎮めて、ラーズさんが負っていたダメージも治療したんだと思います。」


 麻実の答えに納得が出来ないバスターナンは再び疑問を口にした。

「遠く離れたラーズに・・・か?」

「そうです。私でも遠くにいる患者を治療する事は難しいです。優剛の魔術を見ていると偶に嫌になりますよ。」


 麻実は苦笑して答える。そこに優剛がなんでも無いように告げる。

「練習だよ。練習。」


 その場の全員が『練習して出来るなら苦労しない』と思ったが、口から出る事は無かった。麻実を除いて・・・。

「練習しても離れた魔力の性質を変えるのが出来ないわよ?」


「うーん。コツを掴んだら早いと思うけど、やっぱり練習だよ・・・。」


 何故か優剛はビクビクしながら麻実に答える。優剛だけが出来るという事が気に入らない麻実の目が鋭かったからだ。


「なぁ、ユーゴ!飛ぶ斬撃も動かせるようになるのか?」

「ギュンギュン動くんじゃない?練習すればね。」

 優剛は人差し指を立ててスラロームを描くように動かした。


「おぉぉ!燃えて来た!」


 その後もバスターナンにとっては理解不能な会話を続ける優剛たちは、帰りも馬車に乗ってラーズリア邸に帰るのであった。


 その中でもバスターナンが最大に理解出来なかったのは、帰りの廊下でラーズリアと話していた優剛の『あの人形?10体は余裕だよ』という発言である。


「・・・魔人。」

 消えるような声量で呟いたのは誰なのか。ラーズリアvsミスリル人形の戦いを目撃した者全員なのか。それは誰にもわからない。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


評価や感想もお待ちしております。ブックマーク登録も是非お願いします。

次回もよろしくお願い致します。

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