45. 飛行屋さん始めます
前回のお話
料理人が来たぞー
ズルルルル。夏の暑い日の昼食。部屋には麺を啜る音が響いていた。
「ケンピナさんってなんでも作れますよね。冷やし中華もいけるなんてビックリですよ。」
「いえ、いえ。麺は購入した物なので私はタレしか作っておりません。」
一緒に食事をする事にも慣れたケンピナが謙遜して答える。
「ふぅー。美味しかったです。ごちそうさまでした。」
そして、優剛は既に食べ終わっていたレイに近づいていく。
「レイー、顔洗うよ。」
冷やし中華を食べて口の周りを茶色くしたレイが優剛を見上げる。見上げた瞬間、レイの口周辺には水が纏わりついて、水が茶色く変色していく。
茶色くなった水がフワフワと飛んで、調理場の排水溝に直接入る。
『ありがと。』
「はーい。ハルは・・・。なんで綺麗なの?どうやって食べたの・・・。」
「にゃー」ドヤ顔である。
よーく見れば僅かに口周辺に小さな茶色のシミはあるのだが、真っ黒な鱗を持つハルの汚れは非常に目立たないのだ。しかも頻繁に前足で擦って舐めている内に消えていく。
「んー。今日は何をしようかな・・・。」
優剛はゴロゴロしながら魔術の訓練をしているが、その様子は休日に家でゴロゴロしている邪魔なお父さんそのものだ。いや、今日は平日だから無職のどうしようもないお父さんだ。
「ねぇ、ユーゴ様。わたし、お空をとびたい。」
そんな優剛に声をかけたのは屋敷の最年少であるトーリアの娘のオーヤンだ。
出会った当初は「ユーゴー」と呼び捨てにしていたが、今はトーリアとサスリの教育もあって、すっかり「ユーゴ様」になってしまった。
子供の成長は早いもので、口調もしっかりしたものに成長している。
すぐに母親のサスリが駆け足で近づいてオーヤンを咎める。
「オーヤン!ユーゴ様に何を言ってるの!?」
「だって、わたし、・・・とびたいもん。」
泣きそうな表情に変わったオーヤンに優剛が声をかける。
「よーし。飛ぼう!庭で飛ぼう!」
「やったー!ユーゴ様、ありがとうございます。」
「本当に・・・。ありがとうございます。」
恐縮するように頭を下げるサスリにも優剛は声をかける。
「サスリさん、良いんですよ。僕も気軽に接して貰えて嬉しいですから。」
そして、優剛は思い出したかのように調理場に向かって声をかける。
「アイサー。空飛ぶよぉー。洗い物が終わったら来てねー。」
「はぁぁぁぁい!!すぐに行きまぁぁぁす!」
空を飛ぶのが大好きなアイサは物凄い勢いで昼食の時に使った食器を洗っていく。その様子をやや困惑する目でケンピナは見つめていた。
ケンピナも優剛の助けで空を飛んだ事はあるが、どうにも地に足が付いていない感覚の恐怖感が抜けきっていない。時々、飛ぶのは楽しいが、まだ積極的に飛びたいとは思っていなかった。
優剛はビュンビュン空を飛ぶ子供たちを下から眺めている。飛んでいるのは年少組が中心だ。由里と真人は既に自力で飛んでいて、フガッジュとシオンも非常に楽しんでいる。
その中でもアイサとタカは子供たちのテンションに負けない勢いで競い合うように飛んでいる。
「アイサー!今日は俺が勝つからな!」
「ふふーん。経験の違いを見せてあげますですよ!」
(タカだけ地面に突撃させてやろうかな。)
優剛は2人の競争を眺めながら不穏な事を想像する。
優剛は自分の魔力の中で飛んでいる相手の身体の動きや強さを感知して、ほぼ自力で空を飛んでいるかのような体験を提供しているが、優剛の魔力で飛んでいる事には変わり無いので、制御を奪うのは手足を動かすのと変わらないほど簡単である。
(あれ?これ他に競合なんていないから仕事になるんじゃない?)
優剛は無職の間、仕事を探していない訳では無かった。しかし、優剛は異世界の文明に貢献出来るような知識を持っていなかった。パソコンなんて作れる訳もなく、それ以外の家電すら作れる知識は無いのだ。
唯一、日本に居た頃に麻実が食べたいと言ったお菓子のレシピは、脳力を強化すれば思い出す事が出来たので、異世界には無いスイーツを作る事は出来たが、それ以外に日本での知識が役に立つ事は無かった。
「トーリア・・・。ノブさん!トーリア呼んで下さい!」
優剛は思いついた事をトーリアに相談しようとして呼んだが、周囲を見渡してもトーリアは見当たらなかった。そこで素早く信長に頼んで、屋敷の中に居るであろうトーリアを呼んで貰う。
すぐに屋敷の扉が開いてトーリアが庭に出て来る。
「ユーゴ様、お呼びでしょうか?」
「はい、はい!相談したい事があるんです。ノブさん、ありがと。」
「では、執務室に・・・。いえ、どのような内容でしょうか?」
トーリアは執務室に移動しようとしたが、空を飛び回る子供たちを見て考えを改めた。
優剛がここから屋敷の中に移動すれば、空を飛べなくなると思ったのだ。
「あのですね。お客さんを呼んで、空を飛ばす仕事って僕がやっても問題ないですよね?」
「間違いなく同じ仕事、商売をしている人物は居ないと思いますが、広い土地が必要になるかと思います。
「ここで良いじゃないですか。」
優剛は腕を広げて屋敷の広大な庭を示す。
「なるほど・・・。しかし、お客様を庭に入れて空を飛ばすとなると、防犯面を心配します。」
「防犯に関してはお客さんに紛れて庭に隠れていてもノブさんなら、何の問題もないでしょ。逆に隠れている人が心配だよ。」
「その通りだな。こちらで決めた場所よりも進むようであれば電撃の餌食だな。くくく。」
優剛は隠れた場合のならず者に少し同情する。その気になれば死ぬまで電撃を上書きして庭から出さない事も可能であろう。
「門からすぐのところで空を飛ばして、時間が経ったら門のところに戻せば、自らの足で庭に入る事は出来ません。空を飛んでいれば屋敷に近づけますけど、近づけるだけです。それ以上に進もうとするなら、その場で止める事も強制的に庭から出す事も、空高く打ち上げて自由落下させる事も可能です。」
「なるほど・・・。」
トーリアは高所からの自由落下を想像して軽く身体を震わせる。
「他の職業と競合もしませんし、仕事として問題無いと思いますが、妙な貴族様や商人などに目を付けられるかと思います。」
「あぁ・・・。それは心配だけど、護衛も雇ったし大丈夫でしょ。」
確かに優剛は心配もあるが、それ以上に無職を続けている事で麻実からのプレッシャーが強まっている事に耐え切れなかった。
「私だけ毎日、仕事してて、優剛は毎日ゴロゴロしてるのはズルくない?」である。
優剛が稼いだ金額は非常に高額だが、毎日家でゴロゴロしているのが感情的に許せないのだ。
「よし!始める前に僕は欲しい物があるから、ダメさんとこ行ってくるね。」
「ユーゴ様、彼らはどうするのですか?」
トーリアが慌てて空を指差して優剛に確認する。
「あっ・・・。うーん。明日にするね・・・。」
その夜。麻実に相談すれば、すぐに始めろとビッグボスからの号令が掛かる。
料金の設定から始まって宣伝方法まで決められていく。
1グループ5人までで、子供グループ100ジェイ。大人グループ10,000ジェイ。
同数の場合は子供料金で1回の時間は10分。
営業時間は雨天中止で午前中のみ。午後は麻実のお迎えを大きな理由として挙げて、子供と遊ぶ為にも営業出来ないと優剛が麻実を説得した。
その話に参加していたトーリアやテスは、魔力消費による疲労についての話が出ない事が1番の謎だったが、対外的にも魔力消費が激しい為に午後は営業出来ないとするのは自然であるという考えを述べた。
麻実は3人の説得もあっても渋々、午前中のみの営業を了承。
使用人たちは買い物ついでに住人たちに宣伝をする。
午前中は騎士団で訓練している真人に同行しているトーナが騎士団員に宣伝をする。
宣伝方法まで決まればあとは小道具の発注だ。
飛行屋の立て看板。看板には営業時間と料金。諸注意が記載される。
これの発注はトーリアが担当してくれた。
さらに優剛が座る外用の椅子とテーブル。
ビーチパラソルのような巨大な傘。
草履。これは信長の箪笥から見つけた草履を解体して優剛用に作り直す。
優剛は自然にこれらの購入を麻実に申請したが、当然のように却下された。
「なんでよ!必要でしょ!?」
「椅子と日傘なんて無くても営業出来るでしょ。草履に至ってはいつでも良いでしょ。」
「快適な職場環境は作業効率の向上やモチベーションを高めてくれるよ!」
その後も優剛の必死なプレゼンが続けられた。
優剛の熱意に押されるような形で麻実は了承する。
「うーん。買っても良いけど、営業開始日は納品まで待たないからね。」
(くっ。ここが限界か!)
「トーリア、立て看板の納品日がわかったら私とみんなに教えて下さいね。その次の日から営業開始よ。優剛が発注する商品が納品されるまで、営業開始を遅らせたら駄目よ。あと、立て看板は最短で作って貰ってね。」
「畏まりました。」
(ぐぅ・・・。トーリアの優秀さと優しさを理解した上で的確な指示だ・・・。)
麻実の指示を受けてトーリアは微笑んで一礼する。
優剛は諦めたような表情で、照り付ける日差しを受けながら、芝生に膝を抱えて座り込んでいる自分の姿を妄想する。
(日差しが厳しく、暑い・・・。)
次の日。優剛は麻実と病院に向かう道で疑問が浮かんだ。
「麻実、午前中の営業だと僕が麻実を病院に送れないよね?」
「あっ!うーん・・・。」
しばらく考え込んだ麻実は1つの案を優剛に提案する。
「仕事をするなら送らなくても良いわ。その代わり護衛にハルちゃんを貸して。」
「ハル?本人が良いなら良いんじゃないかな。送り迎えだけ?病院にいる間ずっと?」
「その辺は相談かな。私としてはずっとが良いなぁ。」
「昼食が美味しければ、ずっとでも良いとか言いそうだよ・・・。」
ハルだけでは少し心配なので、テスたちの中から1人を送り迎えに同行して貰おうと話し合った。この辺りの事は帰ってから麻実が話し合うそうだ。
優剛は麻実を病院に送り届けると素早くランドの鍛冶屋に向かう。
自然な動作で鍵を開けて店に侵入。そしてダメリオンを呼び出す。
「ダメさーん。」
「はーい!今、行くっスー!」
ダメリオンも鍵を勝手に開けて入って来る優剛に適応したのか、自然に店の奥から回答する。
「今日はどうしたんスか?」
「作って欲しい物があるんだよ!」
そして、優剛はダメリオンに欲しい物を伝える。
「うーん。椅子とテーブルは木工職人っスね。ビーチパラソル?これは傘屋じゃないっスか?草履はたぶん俺っスね・・・。」
「傘は大きいから他では売ってないし、作れないんじゃない?」
「うーん。正直オリハルコンの加工で忙しいんスよね。」
「それ僕のじゃん・・・。」
「いや・・・。まぁそうなんっスけどね・・・。」
微妙な沈黙の後にダメリオンが口を開く。
「わかったっスよ!巨大な傘と草履を作るっスよ!椅子とテーブルは他でお願いするっス!」
「ありがとうダメさん!これが草履ね。」
優剛は異空間から草履を3つ取り出してダメリオンに手渡した。
「おぉ!話しを聞いた時から気になっていたっス!これが草履っスかぁ・・・。」
しばらく草履を弄り回したダメリオンが口を開く。
「なんスか?この素材・・・。また変な素材で作られているっスね。」
「素材は知らない。ノブさんのだもん。」
優剛は胸を張って主張する。
「これ・・・。編み直すのに時間が掛かるっス・・・。」
「OKOK。問題ないよ。」
「問題あるっス。オリハルコンの加工が出来ないっスよ・・・。」
残念そうな表情のダメリオンに優剛が告げる。
「オリハルコンの加工って魔力を沢山使うんでしょ?」
「滅茶苦茶使うっス。全力で魔力を込めて叩いているっス。」
「その作業で疲れた時に傘と草履を作ってよ。」
そんな優剛の言葉にダメリオンは若干表情を明るくさせて、ブツブツと呟き始める。
「あぁ・・・。なるほど。うーん。必要な時だけ魔力を使うようにすれば、オリハルコンの加工には影響が出ない・・・?」
そんなダメリオンに再度、優剛が声をかける。
「出来そう?」
「大丈夫っス。」
「では、お願いします。」
「出来たら連絡するっス。あっ!鍵は掛けてから帰るっスよ。」
ダメリオンは鍵を持っていない優剛に違和感なく告げると、優剛も違和感の無い動きで店を出て、鍵を掛けてから立ち去っていく。
屋敷に戻った優剛にトーリアから立て看板の納品日が報告される。
「え・・・。明日ですか?」
「はい。明日の夕方には届く予定です。」
早すぎる納品に肩を落として項垂れる優剛。
優剛は肩を落としたまま同じ職人に、椅子とテーブルの発注を依頼するようにトーリアに頼んだ。
もちろんその夜には麻実にも同じ報告がされる。
「営業は明後日開始ね。」
「早くない?もう少し宣伝に時間を・・・。」
「お金を稼ぐ目的じゃない事は、設定した料金でわかるわ。別にお客は来なくても良いから始めるのが大事よ。空を飛ぶなんて他では出来ないんだから口コミですぐに広がるわ。」
「くぅ・・・御意。」
優剛と話を終えた麻実はテスとハルに送り迎えの件を相談し始めた。
そして2人は問題なくこれを了承。タカが送り迎えをする事になってハルは1日中、麻実と行動を共にする事になった。なんとおやつ付きである。
唯でさえ手足が短めで、身体もゆったりのハルが食べ過ぎで、太ったらどうしようか心配する優剛であったが、その時は運動の為に少しの間、野生に戻せばすぐに痩せて帰って来るかと思い直した。
就寝前にその話を聞いた優剛は麻実に確認をする。
「え?お迎えも?」
「うん。タカとハルちゃんが居ない時は優剛が屋敷を守ってね。」
「うーん。ハルが居るから大丈夫だと思うけど、ちょっと心配だな・・・。」
「大丈夫よ。由里も真人も最近は優剛なしで外出しているし、私も大丈夫よ。」
由里はレイの付き添いと護衛組から1人を付けて外出していた。外壁から出てレイを思い切り遊ばせているのだとか・・・。
レイに言わせれば『この辺の魔獣は弱すぎだな。』である。同じ日に同行したテスに確認しても、狂魔地帯の奥にでも行かない限りは心配無用のお墨付きだ。
後日、護衛が由里とレイに付いていけないと泣き言を言った事で、由里はレイと2人で外出するようになる。その事を話した時のレイは大喜びしていた。
真人は騎士団で訓練している影響もあってか、街中の衛兵や騎士たちと顔見知りになっていて、真人に悪しき事を企んで近づいても本人に返り討ちに合うか、衛兵や騎士たちにも追われる事になる。
事実、真人がトーナと外出中に誘拐されかけたが、相手にファーコンパンチして殺しかけたほどだ。優剛が慌てて駆け付けた時に、真人は襲われた恐怖よりも相手が弱すぎて困惑していた。
いつも優剛を殴るように殴ったら優剛と同じように吹き飛んで行って壁にめり込んだそうだ。優剛ならすぐに動くのに、吹き飛んだ相手は全然動かないから不思議だったそうだ。
優剛は壁にめり込んで死にかけていた誘拐犯を治療したが、そのまま死んだ方が良かったと思うような鉱山仕事が彼を待っていた。
子供が異世界に適応しているのに自分が震えたままではいかん!という思いを麻実が持って、優剛に甘えるのを1回止めてみる事にしたのだ。
次の日の昼過ぎには立て看板がしっかりと優剛の屋敷の門の横に設置された。
優剛は恨めしそうに届けてくれた職人に声をかけた。
「仕事・・・。早いですね。」
「いえ、ありがとうございます。しかし、こんな事を本当に出来るんですかい?」
「はい。出来ます・・・。良かったらお子さんと一緒に来て下さい。」
職人は明確な返答はせずに「ふーん」と言って、椅子とテーブルの発注を請け負って帰って行った。納品は1週間後だそうだ。
(パラソル!パラソルだけでも・・・。)
優剛の願いは叶わず、ダメリオンからの連絡は来ないまま飛行屋の営業開始日がやってきた。
最初のお客は真人やトーナから話を聞いていた非番の騎士たちとその家族だ。しかし、騎士の家族は誰も空を飛べるとは信じておらず、騎士たちが必死に説得して連れて来たのがわかる。
屋敷の門のすぐ横に設置された立て看板を見た騎士が、門のすぐ傍にいる優剛に尋ねた。
「ユーゴ様、本当にこの価格で空を飛べるんですか?」
「はい。門を抜けたらお金を払って下さい。それだけで10分間、飛べます。10分経ったらここに戻します。」
優剛と騎士が話をしていると割り込むようにして子供が声をあげた。
「嘘だ!人間は空を飛べないんだぞ!」
「こらっ!飛べるって何度も言っているだろう。」
「嘘だ!母ちゃんも飛べるわけないって言ってたぞ!」
「いや、いや。俺は何度もこの屋敷の敷地で飛んでる人を見たんだって。」
そんな言い争いをする騎士と子供に優剛が声をかける。
「とりあえず4家族で人数が多いから子供だけで飛んでみます?」
「はい!お願いします。えーっと・・・。」
「子供が10人なので200ジェイですね。」
「え?200ジェイ?え?」
優剛は料金に困惑する騎士を放置して子供たちを門の中に招き入れる。そして騎士を指差して子供たちに告げる。
「そこの人が200ジェイ払ったら飛べるようになるからね。」
「父ちゃん!早く払ってよ。」
「あ・・・。あぁ。すまん。」
騎士は優剛に言われた通り200ジェイをテスに支払った。会計担当はテスの仕事なので、お客とのお金のやり取りはテスが担当したいという希望だった。
その為に麻実の送り迎えはタカの担当になったのだ。心配する優剛に直接お願いされたタカのモチベーションは高かった。
「もう飛べるよ。ジャンプしてごらん。」
優剛の言葉を受けてその場で跳び上がる子供は、着地しない自分に驚きと歓声を上げる。さらに話を信じていなかった母親たちも、驚愕で目を見開いて宙に浮く子供を見上げる。
そこからは歓声を上げながら手足をバタつかせて、ゆっくりと空を飛び始める。
(うーん。インストラクターみたいな人が必要かもな。)
優剛は不慣れな感じで空を飛ぶ子供たちを見ながら、アイサを初めて空を飛ぶお客に補助で付ける事も視野に入れる。
悩む優剛に1人の母親が声をかける。
「あの・・・。ユーゴさん・・・。ユーゴ様。」
「はい、はい。別に呼び方はなんでも良いですよ。」
「はい。ありがとうございます。その・・・ですね。料金ですが、子供は1人100ジェイだから10人で1,000ジェイではないでしょうか。」
子供グループ100ジェイ。大人グループ10,000ジェイ。
1グループ5人までで、大人と子供が同数になる場合は子供料金という説明書きが小さく立て看板にはしっかりと明記されている。
説明書きを見ずに1人100ジェイと解釈したのだ。
「子供1グループ100ジェイです。」
「ぶっ!」
優剛の回答に隣で聞いていた騎士が吹き出したが、優剛は無視して話を進める。
「看板に追記してある通り、少ないと思ったら終わった後で、適当に払って頂いても良いですよ。」
「では大人は1グループ10,000ジェイで飛べるのですか?」
「そうですね。」
この時、優剛は空を飛んでいる子供たちを一切見ていないが、地上に残された親たちはそれどころではない。親たちで出し合えば10,000ジェイは痛いが、支払う事は可能である。
優剛は悪い笑顔を浮かべて説明を続ける。
「子供が2人で大人が2人。これは子供グループになりますよ。」
「・・・。あぁ!あぁ貴方!次は私も飛びますよ!」
「えぇ・・・。大人は10,000ジェイだよ?良いのか?」
「ユーゴ様のお話を聞いてなかったの!?大人より子供の数が多いか同じ人数のグループを作れば、1回100ジェイで飛べるのよ!」
騎士の夫の肩を掴んでガクンガクンと豪快に揺らす妻のパワーに、優剛は僅かに恐怖を覚える。
「はぁ!?そんな美味しい話があるわけないだろ。」
「いえ、いえ。そういう美味しい話です。」
大人は10,000ジェイだと思っている騎士の言葉を否定した瞬間に、全員の視線が一気に優剛に向けられる。その目は鋭いもので、優剛を圧倒させるには十分であった。
「1回100ジェイで飛ぶなら、見た感じ皆さんの中に6人家族は居ないようなので、1家族1グループにすれば良いのではないでしょうか・・・。」
「凄いわ!まだ10分経たないのかしら・・・。」
「あ・・・あぁ。そうだな・・・。」
騎士は妻に押されてそう言うしかなかった。
騎士とその家族たちは、それから何度も空を飛んで歓声を上げる。
スカートを履いている女性やワンピースの女の子の足には、着ている服がピタっと貼り付いて下着が見える心配もない。その為、男性も女性も関係なく、徐々に大胆な動きを見せるようになっていった。
休憩で我に返った騎士の1人が優剛に尋ねた。
「ユーゴさん・・・。ホントに1回100ジェイで良いんですか?これ、1人1回10,000ジェイでも、貴族の人やお金持ちのお客さんなら余裕で来ますよ。」
「100ジェイで良いんです。貴族の相手なんて嫌ですよ。そんな人たちのプライドを刺激する為に『終わった後に追加で払っても良い』って看板に書いたんですから。」
「あぁ・・・。確かに彼らなら終わった後に追加で払いそうですね・・・。」
「はい。お金が欲しい訳じゃないんです。安全で危険の無い仕事が欲しいんです・・・。」
優剛は切実に仕事が欲しいと言っても苦笑気味に困惑されるだけだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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