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家族で異世界生活  作者: しゅむ
42/215

42. ハンター集団

前回のお話

聖女様~!キャー!こっち見たわー!

 優剛は麻実を病院に送ってその帰り道に鍛冶屋に寄ってから、屋敷に帰って来ると昼食を食べ終わって、テスたちの部屋の扉に表札を取り付ける。

 レイの昼食が少ないのは自業自得なので、優剛は心を鬼にして放置した。


 テスたち4人が目をキラキラさせながら自分たちの部屋に表札を取り付ける優剛を見つめていた。

 タカとフガッジュの尻尾がパタパタと激しく揺れている音が、後ろを振り返らなくても聞こえてくる。


(ぐぅ・・・。絶対に失敗出来ない・・・。)

 優剛はテスたちの視線を背中で感じながらの作業で、絶対に失敗出来ないプレッシャーに襲われていた。


 無事に表札を取り付けた優剛はプレッシャーから解放されて、寝転びながら魔術の訓練を始める。


 身体を特殊な魔力で覆えば汚れる事も無い。室内でゴロゴロ。気怠そうに立ち上がって、フラフラと庭に出て、芝生の上でゴロゴロして再び広間に戻ってゴロゴロ。

 傍目に見れば魔装しながらゴロゴロしているだけだが、優剛は色々と役に立つ魔術の開発と改善をしているのだ。きっと・・・。


 麻実のお迎えに出掛ける時間になれば、面倒そうに立ち上がってスリッパから緑熊の革で作られた靴に履き替える。

(サンダル?草履?作ろうかな・・・。ノブさん持ってないかな?あぁ、でも街で誰かに絡まれたら靴の方が良いのか。サンダルって動きにくいんだよね。うーん。)


 優剛は「うんうん」唸りながら1人で病院に向かう。

(とりあえず履いてみて考えようかな。足を洗うのは水の魔術で包めば、すぐにピカピカだ。)


 病院には少し患者は残っていたが、麻実は既に勤務を終えているのか、休憩室のような場所で談笑していた。


「麻実、お疲れ~。」

 優剛の声を聞いた麻実は休憩室にいる人たちに挨拶をして優剛に歩み寄る。


「今日も疲れたわ。帰りましょ。」

「お疲れ、お疲れ。」

「優剛は今日、何してたの?」

「鍛冶屋でテスたちの表札をダメさんに作って貰って、部屋のドアに表札を付けて・・・。あとは魔術の訓練かな。」

 2人は他愛もない会話をしながら、病院を出て帰り道を歩いていく。


「しかし、急に患者が増えたのはなんで?知ってる?」

「えーっとね。私が脳内血腫を治療してからね。」

「なんだっけそれ?頭の中に血の塊が出来て死ぬ?だっけ?」

「殆ど正解よ。頭の外傷を治療しても脳内に血が溜まった状態は自己治癒ではどうしようもないから放置するのが自然ね。それが原因で多くのハンターが命を落とすか、身体に不調が発生しているのよ。」


「なるほどね。自分で治癒力を強化して治ったと思っても血腫は残るか。」

「死亡後の解剖実験で原因はわかっていたらしいけど、血腫を取る方法は確立されてなかったのよ。」

「視る魔力でスキャンすれば、ピンポイントで穴を開けて血腫を取って塞ぐだけか。」

「そう言う事。穴を開けて取るだけなら他の先生も出来るから、私はスキャンして頭に目印を書くのよ。」

「それで昔、頭を打って死にはしなかったけど、身体に不調を抱えた人たちが受診しているのか。これは麻実じゃないと治せないね。」


 麻実は優剛が感心する様子を見て表情を緩ませる。

「私、聖女様だからね。」

「ははぁー。聖女様ー。」

(偉大なババ様に礼!)

 行動と内面は一致していないが、優剛は麻実に向かって頭を下げる。


「ふふん。でも優剛だって出来るでしょ?」

「まぁ・・・。出来ると思うよ。」

「だよね。優剛が出来ない事をやってみたいなぁ・・・。」

「症例数が増えれば僕が出来ない事も出来るようになるよ。」

「うーん。それでも治療方法を私が教えたら一瞬で出来そうだけどね・・・。」

「いや、いや・・・。まさか・・・。」


(ん?前から集団がこっちに来る。あれ?目が合うな・・・。)

 優剛は前から来る10人ほどの集団が優剛と目を合わせながら近づいて来る事に気づいた。1度だけ振り返って後ろを確認したが、優剛の後ろを歩いている人物はいなかった。


 優剛たちが道の端に避けても、そのまま集団が行く道を塞ぐようにして立ち止まると、1人の男が前に出て来た。

「おい。お前はマミ先生の護衛か?」

(うわぁ。面倒なやつじゃん・・・。)


 目の前で道を塞ぐ体格の良い男性に向かって優剛は恐る恐る口を開いた。

「いえ、いえ。夫です。何か御用ですか?」


「俺たちは紅の道だ。聞いた事くらいあるだろ?」

「うーん。無いです・・・。麻実は?」

「知ってるわ。2級と3級ハンターが多く所属しているハンター集団の名前ね。」


「てめぇ!知らねぇ訳ねぇだろう!強がっても無駄だからな!」

「護衛なしでマミ先生を送迎してるぞ。こいつ馬鹿だろ!」

「ギャハハハハ」

 後ろの男性たちが優剛に色々な罵声を浴びせながら大きいな笑い声を上げる。


(ん?ハンター集団なら僕が2級ハンターだって知らないのかな?)

「僕もハンターなんですけど、僕の事を知っていますか?」

「おめぇみてぇなハンター知るかよ。まぁハンターだって言うなら話は早えな。マミ先生は貰っていくぜ。」


 言いながら男は麻実に1歩近づく。優剛も麻実の前に立つように1歩出る。

 ちょうど麻実は優剛で半分隠れたような状態になる。


「なぁ。悪い事は言わねぇよ。俺たちは紅の道だって言っただろ?素直にマミ先生を渡せって。」

 男は少しイラついた様子だが、優剛に諭すような口調で告げて来る。


「紅の道だから渡すっていう意味がわからないです。」

「てめぇ!これからハンターとして活動が出来ると思うなよ!」

 後ろの男が優剛を怒鳴りつける。


「まぁまぁ。良いじゃねぇか。俺たちの事を知らねぇんなら教えてやるよ。俺たちと敵対してハンターを続けられた奴はいねぇ。理由はわからねぇけどな。へへ。」

(わかりやす!妨害とか嫌がらせをするんだろうなぁ・・・。)


「別に好きでハンターしている訳じゃないので、引退しても良いかなって思ってますよ。」

「無職は絶対駄目。」

 優剛の後ろから小さい声で抗議の声が聞こえるが、優剛にしか届かなったようだ。


「って言うかそこまでやったら昇級とか出来ないんじゃないですか?」

「はっ!紅の道には2級ハンターが居るんだよ!その人たちが推薦するから昇級は出来るんだよ!」

(あぁ・・・。素行が悪くても仲間内で推薦して昇級するって手もあるか。)


「俺たちもガキの使いじゃねぇんだよ。マミ先生は連れて行くぞ。」

 優剛の正面に立つ男が後ろに向かって「おい」という声で合図すると、後ろの男たちが麻実に向かって歩み寄る。

(うーん。魔装が稚拙だなぁ。この人たちは下っ端かな?テスたちの方が全然良いね。)


 男たちは麻実に歩み寄る際に優剛を警戒したのか、万全を期しているのか不明だが、魔装して優剛と麻実に近づいている。

(麻実には良い実戦の機会かも。)


 優剛は1歩下がって麻実の横に立つと、軽く頭を下げながら腕を前に出して麻実に告げる。

「麻実さん、やっちゃって下さい。」


 この行動はさすがに荒くれ者たちも予想していなかったのか、驚いて足を止めるが、すぐに優剛を罵る。

「なんだよおめぇ!女に守ってもらうのかよ!情けねぇ奴だな!」

「マミ先生、こんな旦那は捨てて俺たちと来いよ!」

「ホントだぜ。ギャハハハ。」


 そんな男性たちを無視して優剛は麻実に再度告げる。

「ささ、麻実さん。即死にだけは気を付けて、やっちゃって下さい。」

「・・・無理。」


 消え入りそうな声で麻実は優剛に告げる。

「え?大丈夫だよ。麻実が負ける要素ないよ。」

「だから無理・・・。」

 麻実は初めて経験する荒事で足が震えていた。


「てめぇ!俺らを舐めすぎだろ!」

 言いながら優剛と会話していた男性が優剛に殴りかかる。身長差で上から打ち下ろす形で、襲い掛かる拳を優剛は避けずに掌で受け止める。


(初回は仕方ないか。)

「魔装!脳内強化!」

 優剛は麻実に指示をすると朝の訓練の成果なのか、麻実は魔装と脳内の強化をスムーズに完了する。

 指示と同時に優剛は殴りかかって来た男の懐に飛び込んで、左肩で軽く相手を押す。そのまま顎を左の掌底で叩き上げる。


 顎を上に撃ち抜かれた男は、力なくそのまま後ろに倒れていく。


「囲むぞ!」

 倒れた男と優剛を交互に見た男たちはすぐに状況判断を下して、優剛を警戒して取り囲むように動き出す。


 優剛は取り囲む為に動いた1番外側の男に近づいて顎を掌底で叩いて無力化していく。そのまま順番に近い相手から顎を叩いて無力化していく。

 最後に残された男は優剛を取り囲むつもりで、外側に2,3歩動いた頃には、他の男たちは地面に倒れて意識を失っていた。


 優剛は最後の男にも近づくと、ゆっくりと右の拳を男の腹を目掛けて繰り出した。

 男はバックステップで優剛の拳を避けると、辺りを見回して明らかに狼狽える。

(ちょっとやり過ぎたか?)


 優剛は麻実の後ろに下がると膝に手を付いて、肩で大きく呼吸しながら限界をアピールする。

 もちろん演技である。


「ごめ・・ん。もう・・限界で・・・。動けな・・・。」

 優剛はその場で座り込んでしまう。


 そのまま項垂れて地面を見つめる姿勢になるが、麻実に小声で語りかける。

「今の速度であいつらは反応すら出来ないんだよ。朝の鬼ごっこはもっと速いでしょ。残り1人だしやってみたら?」


 優剛の様子を観察するようにジッと見つめていた男は1歩だけ優剛に近づいた。

 その音に怯えるようにビクっと顔を上げた優剛は、座りながらズリズリと後ろに下がる。


 そんな優剛に気を良くした男は笑みを浮かべて優剛に近づく。

「どんな魔術か知らねぇが制限付きかよ。俺を倒せなかったのは誤算か?回復されても面倒だし、先にてめぇから片付けてやるよ。」


「どうすんの?」

 優剛は諦めたように項垂れて地面を見つめながら、小声で麻実の意思を確認する。


『やる。』

(おぉ!魔力で返答か。落ち着いたかな?)


 麻実は優剛に魔力で返答すると優剛の前に立って男を睨みつける。

「マミ先生には手荒な真似はするなって言われてんだよ。そんな奴は庇わないで俺たちと来、ごふぅ。」


 麻実は喋る男の腹に目掛けて、ただ右腕を突き出しただけの右ストレートを突き刺した。腰も捻っておらず、足も踏み込んでいない。本当に拳を握って突き出しただけだ。


(げっ。死んじゃう!)


 しかし、そんな右ストレートでも腹を貫くのではないかという勢いで麻実の右拳が、男の腹に埋まったのを見た優剛は、慌てて麻実の後ろに駆け寄って男から引き離す。

 麻実が離れてすぐに、くの字になっていた男はそのまま前のめりに倒れ、口からは血が混じった何かを吐き出しながら地面に倒れ込んだ。


 優剛は倒れた男の背中に手を当てて診断と治療を開始する。

(破裂しています。本当にありがとうございました。)


 優剛は素早く治療を終えて、麻実の様子を確認するように声をかける。

「やり過ぎ。死んじゃうよ・・・。」


 麻実は歩み寄って来る優剛を少し見つめてから口を開く。

「なんで優剛は動けるの?こういう経験って私とそんなに大差ないでしょ?」

「うーん。まぁ一応、男の子なんで喧嘩くらいはした事あるからじゃないかな。」

「・・・それでも変よ。」

 僅かに震える麻実は目に涙を溜めて優剛を見つめる。


(うーん。父親に死ぬかもしれないってくらい殴られた事があるから、震えるほど怖くはないんだよね。)

 優剛の父親は厳しかった。いや、虐待と判断されても仕方が無かったほどだ。事あるごとに優剛は殴られて育った。そんな環境で育てば、思春期には非行の道に入るのも自然であろう。そこでも暴力を経験していたので、麻実のように荒事に遭遇した際に動けなくなるほど震える事は無くなっていた。


 高校に入ってなんとなく入った部活動が楽しくなって、真面目な高校生活を終える頃には、すっかりインドア派の引きこもりにクラスチェンジしていた。

 大学生、社会人を経て優剛は自分の育った環境が異常である事を知り、両親を反面教師にする事で、子供たちとは穏やかに接して、手をあげる事もない。


(昔は不良で喧嘩も沢山しました。とか黒歴史すぎて言えないよ・・・。)


 優剛は内心で葛藤しながらも、麻実が落ち着くように抱きしめ続ける。そして、落ち着いた声色で語りかける。

「ハンターになった時に模擬戦したって言ったでしょ?武器を持った人はもっと怖かったからじゃないかな。でも脳内強化すると相手の動きが遅すぎて笑っちゃうでしょ?」


 麻実は優剛の言葉に同意するように鼻をグシグシと啜りながら頷く。

「ねぇ、涙は良いけど、浴衣で鼻は拭かないでね。」

「大丈夫。付いてな・・・。」

「付いたか・・・。」

「・・・ごめん。」

 しばらく抱きしめると麻実は落ち着いたのか優剛から離れて辺りを見渡す。既に周囲の目線は優剛と麻実に集まっており、急に麻実は恥ずかしくなってきた。


「優剛!早く帰ろ!」

「はい、はい。」

 麻実は倒れた男たちを無視して家路を急ぐ。

 優剛は最初に話しかけてきた男に向かって鼻くそを飛ばすように、小さな魔力玉を放った。魔力玉は男の口から入って胃の中に貼り付いて動きを止める。


 優剛は足早に前を歩く麻実に向かって笑いながら声をかける。

「ねぇ麻実、鼻水が結構付いてるんだけどぉ。」

「良いじゃない。貴重な聖女の鼻水よ。」


 冗談が言えるまで落ち着いた麻実は振り返って、優剛に笑顔を向ける。


「ただの麻実の鼻水だよ・・・。」

(ババ様の鼻水は要らんよ。)

 優剛は愚痴りながら浴衣に付いた鼻水を水の魔術で洗い流して、残った鼻水の濡れ跡と涙で濡れた部分を風の魔術で乾燥させる。


「何よそれ!?」

「水の魔術で洗って、風の魔術で乾燥だよ。」

「へぇ~。簡単?」

「中学レベルの知識で出来るでしょ。」

 そんな優剛の言葉に少しムッとした麻実が、水の魔術で優剛の浴衣をビチャビチャに濡らす。


「結構簡単ね。」

「これじゃ濡らしているだけじゃん・・・。水を上手くコントロールして汚れを流してよ。」


 そんな優剛の抗議を無視して麻実は次の工程に移ろうとする。

「それで次は乾燥だっけ?」

「もうさっきの濡れた部分の乾燥は終わっているから、麻実の魔術を解除したら水が消えて勝手に乾くよ。」

「あぁ。なるほど~。これ便利ね。」

「うむ。伊達に引きこもっている訳では無いのだよ。」


 優剛がドヤ顔で繊維の汚れも水の魔術で押し出す方法の説明が終わる頃には屋敷に到着していた。


 優剛と麻実が屋敷に入るとすぐにレイが駆け寄ってきて麻実に向かって吠えた。

(昼食の事をアイサに聞いたかな?)


 麻実は先程の事を思いだしたのか、吠えられた瞬間に身体を固めたが、すぐに溜めこんだ鬱憤を晴らすように射殺す視線でレイを睨みつけた。


 吠えたあとに身構えて唸り声をあげようとしたレイは、麻実の睨みに怖気づいたのか、身構えた動きを優剛に飛び付く動きで誤魔化して優剛の足に擦り寄った。

(止めとけ、止めとけ。)


 優剛はレイをワシワシと撫で回していると、麻実の視線が外れたレイは優剛の後ろに移動して、鼻先で優剛を押しながら広間に移動させる。


 いつものソファーに座ろうとした優剛だが、ソファーの真ん中にはハルが堂々と鎮座していた。

(まぁ端っこが好きだから良いけどね。)


 優剛はソファーの端っこに座ると、ハルが目を開いて優剛を見つめる。

「ニャー。」

(それ何?おかえり?抗議?喋れや!)

「う・・・うん。ただいま。」


 優剛は良い方に解釈して返答したが、外れだったようでハルから魔力が飛ばされる。

『あんまり揺らさないで。』

「なんかごめん・・・。」


 ハル様に気を遣いながらソファーで、だらしなく寛いでいると食事の支度が終わった事が告げられる。


(美味しいのぉ!今日も美味しいのぉ!)


「今日も美味しいですね。ありがとうございます。」

 優剛が感謝を述べるとアイサが照れるようにして「ありがとうございます」と返答してきた。


(ん?レイはもう食べ終わったのか?)

 レイは尻尾を垂らして自分の空になった器を見つめていた。


『レイ君、レイ君。君だけに語りかけています。魔力を直接レイと繋げたから、僕だけにしか聞こえません。どうした?』

『ご飯が足りないんだよ・・・。』

『おかわりしたら良いじゃん。』

『今日は麻実が駄目だって言うんだよ。』

(あぁ・・・。昼は仕方ないとしても、夜は吠えただけだし、可哀想だな・・・。)


『器を麻実から見えないようにテーブルの下に移動出来る?自然に動いて麻実に気取られないようにね。』

『・・・うん。わかった。』

 レイは麻実が食事に目を向けた瞬間を狙って少しずつ移動する。そして優剛の指示通り麻実の死角に移動した。


『僕のを半分くらいあげるから今日はそれで我慢して。』

 優剛は異空間を口の中に上手く設置して、食事は口の中に入れるが、そのまま異空間に収納。収納とほぼ同時にレイの器に放出する。優剛が食事するように見えているだけで、食事はレイの器に次々と移動されていく。


『ユーゴォォ。ありがとぉぉぉ。』


 レイが優剛に感謝の念を送った時、麻実が口を開く。

「優剛、魔術を使ってる?今。」

(な・・なん・・だと・・・?魔力感知か!?)


 今という部分が強調されているが、異空間魔術を使えば確かに魔力を使用している。それを麻実が感知したのだ。

『・・・ユーゴ。』

 レイから悲痛な声が聞こえてくる。


「うん。使ってるよ。」

 優剛はあっさりと認める。ここで嘘を言っても魔力が感知された事を誤魔化すのは不可能だ。


「ふーん。何してんの?」

『ユーゴォォォ。ごめーん。』

 麻実はレイが死角で見えないが、レイが何かを食べる音は聞こえている。優剛がレイに食事を分けていると予想して、咎めるような口調で優剛に尋ねる。既にレイは諦めて尻尾を垂らしている。おまけに耳も垂れている。


「飲み物を氷の魔術で冷やすのに魔力を使ったよ。ほら。」

「え?」

 麻実は予想に反する回答が優剛から返ってきて一瞬呆けてしまう。しかし、すぐに優剛の持つコップに手を伸ばす。


「凄く冷たい・・・。」

「でしょ?」

 優剛は麻実に見つめられる中、テーブルの下から魔力をコップの中に入れて、中身を急いで冷やしたのだ。

 そして、コップを持つたびに少しずつ冷やしていると説明した。


「ボクも触りた~い。」

 真人が優剛のコップを触るとキャッキャと冷たいと言って興奮する。


 そんな優剛の前に1つのコップがフワフワと文字通り飛んで来る。

「私のも冷たくして。」

「もちろんでございます。由里様。」


 空を飛ぶ魔術で制御されたコップはゆっくりと優剛の前に降り立つ。すぐに優剛はコップを掴んで中身を冷やす。

 優剛が手を離すとコップは浮かび上がって由里の前で静止する。由里が掴んでコップの中身を飲み始める。


「冷た~い。」

 笑顔を浮かべて飲み始める由里を見て、真人も優剛に強請り始める。


「おとさん!ボクのも!ボクのも!」

「もちろんでございます。」


 優剛は真人のコップを魔力で空を飛ばして、自分の前に持ってくると冷やして真人の前にゆっくりと置いた。

「冷たい!ありがと!」


 麻実も納得したのか仕組みを解析したのか、自分のコップを掴んでいた。


『レイ、もうご飯の移動は無理だ。これ以上は諦めてくれ・・・。』

『良いんだ・・・。ありがとう、ユーゴ。』


 食事を終えていたハルはテーブルの下で一部始終を見ていたが、麻実に告げ口はしないようで、冷めた目でレイを見つめていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

魔人様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


評価や感想もお待ちしております。ブックマークの登録も是非お願いします。

次回もよろしくお願い致します。

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