40. 犬じゃない
番外編です。
俺の名前はレイ。俺たちは青銀狼っていう種族だって父ちゃんが言っていた。
色々あって俺はユーゴって人間の家で暮らす事になった。
ユーゴは滅茶苦茶強いのに俺たちにも他の人間たちにも丁寧に接しているように見えた。
俺は他の人間がどれだけ強いか知らないから少し怖い。こいつらはユーゴより強いのか?ハルに聞いてみよう。
『ハル、ハル。この人間たちってユーゴより強いのか?』
『あんな強い奴がたくさんいる訳ない。強いのはユーゴだけ。』
『じゃあ、なんでユーゴはこいつらに対して、こんな態度なんだ?山ならこいつら喰われてるだろ?』
『そんなのわからないわ。ユーゴが言ってた常識ってやつじゃないの?』
俺たちが悩みながら話していると、そんな事を気にした風でもないユーゴが話しかけてきた。
「ハル、レイ、レミさんと話してくれる?」
ん?レミサンって・・・。あぁ。ユーゴの対面に座っている人間か?
ハルも俺と同じように顔を上げて、同じ奴を見ているからこいつがレミサンなんだろう。
『お前がレミサンか?』
「お・・・おぉ!話せるのか!?」
なんだよ。これくらいで驚きやがって。やっぱりちょっと怖いな・・・。
「うむ。俺がレミニスターだ。」
『ん?レミサンじゃないのか?』
「うむ。レミさんで良いぞ。早速なんだがユーゴの話していた事が、本当か確認させて欲しいんだ。」
とりあえず俺はユーゴとの出会いからここに来るまでの事を話した。
そして、俺はユーゴの話をしっかり聞いてたからわかるぞ。むやみに人間を殺すな。って話がしたいんだろ?
ぷぷ。ハルはわかってないだろうな。ミャーとか言ってるし。
『ユーゴが人間を殺すと美味い飯が食えなくなるから殺すなって言ってたから殺さないぞ。』
「うむ、うむ。両方とも似たような事を言うのだな。」
ん?両方?ハルも話しているのか?まぁ良いか。
『人間の常識っていうのがあるんだろ?ユーゴと一緒に常識を学ぶ事は話をしたぞ。』
「ははは。それは良いな。ユーゴにも常識は必要だからな。」
『そうだ。ユーゴは変だぞ。ユーゴみたいな人間は他に居ないんだろ?』
「うむ、居ない。ユーゴは特別に変だと俺も思うぞ。はっはっは。」
やっぱりユーゴは変なんだな。
「ありがとう。君たちの話は非常に参考になったよ。」
『俺もユーゴが変だって知れて良かった。』
俺はなんか凄く安心した。
『なぁ、ハル。ユーゴはやっぱり変なんだな。』
『私もそれがレミサンから聞けて安心した。』
『ん?同じ事を聞いたのか?』
『違うと思うけど、教えてあげる。ユーゴだけが異常に強くて、他の人間は私たちが軽く叩くだけで死ぬかもしれないらしいから気を付けなさい。』
『他の人間はそんなに弱いのか?』
『あんたは何を話したのよ・・・。とにかく、気を付けないと美味しいご飯が食べられなくなるから気を付けるのよ』
俺たちが安心してしばらくすると、変な物を持った奴が部屋に入ってきた。あっ!首輪ってやつかな?
うーん。たくさん色があるなぁ。
俺が悩んでいる隙にハルは赤の首輪を選び終わっていた。
むぅ。黒い身体に赤い首輪を着けたハルは、なんかカッコイイな・・・。
あっ!なんか見せつけるようにこっちを見やがった。くっ・・・。カッコイイなんて言ってやらないんだからな。
よし!俺は黒い首輪にしよう。
『俺はこの黒いのが良いぞ!』
俺がユーゴに希望を伝えると、ユーゴは優しい手つきで俺に首輪を着けてくれた。
なんか嬉しいから尻尾が揺れているのがわかるぞ。
「2人とも今度首輪を買うか、専用の首輪を作って貰うのも良いね。」
俺だけに用意された首輪も良い!
『専用は良いな!』
「ニャー」
ハルは喋れよ!
あっ!ハルが気持ち良さそうにユーゴに撫でられている!ズルいぞ!
俺はユーゴが座っているソファーに飛び乗ると、ユーゴは俺の事も優しく撫でてくれた。
おぉ・・・。気持ち良いなぁ・・・。
退屈な話し合いも終わってやっとユーゴの家に着いたと思ったら、声だけが聞こえてきた。
ユーゴに言われた通りに適当な場所に魔力を放って意思を伝えると返答があった。
『俺はレイだ!』
「ほほぉ。利口な犬だな。」
『狼だぞ!青銀狼だ!』
「・・・む?狼か。すまん、すまん。」
変な声だけど悪い奴じゃないみたいだ。
でかい家の扉を開けて中に入る。
家の前も広かったし、中も広いな。これならたくさん遊べるぞ。
ん?ユーゴに体当たりした小さいのは誰だ?
「おとさん、この犬と猫、拾ったの?飼うの?」
む!ユーゴの子供か。俺は狼だぞ!
『おい!俺は狼だぞ!』
「え?喋れるの!?」
『当り前じゃないか!』
何をピョンピョン跳ねて喜んでいるんだよ!
ん?なんだ?少しユーゴの雰囲気が変わったけど、この人間は誰だ?
ユーゴはこの人間から許可を貰っていたからユーゴより偉い人なのかもしれない。ユーゴより強いなら逆らわない方が良いな。
ん?良い匂いがする。あっち・・か・・・。
匂いの元を見た俺は父ちゃんの強い電撃を喰らったみたいに身体が痺れて、頭も痺れたような感覚を覚えた。
『ユーゴ、あの子は誰だ?』
「ん?僕の娘だよ。」
『そうか。一緒に暮らすんだよな?』
「ん?・・・そうだよ。」
気が付いたら俺はユーゴに質問していた。そして俺の足は自然と動き出す。
『ちょっと行ってくる。』
「待て、待て!」
ユーゴは突然、俺の尻尾を掴んで離してくれなくなった。
何故だ!?早くあの子に近づきたい!あぁ!こっちに来てくれる!!
『お・・・俺はレイだ!お・・・あなたは!?』
「お父さん、この犬、飼うの?」
あれ?俺の魔力は届いたよな?なんで無視するんだ?しかも犬って言ったか?
「うん。今日から新しい家族だよ。」
ユーゴは俺の事を新しい家族だと紹介してくれた。家族!やっぱりユーゴは良い奴だ。
そんなユーゴの言葉を聞いてその子は凄く喜んだ表情で俺に笑顔を向けて来る。凄く可愛い。だけど俺は言わないといけない!俺は狼だ!
「やった!私は由里だよ。よろしくね。」
ピョンと跳ねたユリは、満面の笑みで俺の頭を撫でた。
くぅ。可愛い・・・。だけど訂正しないと。俺は犬じゃない!
『俺はおお・・・。うへへ』
ユリは頭を撫でながら俺の身体に抱き付いてきた。
もう俺はユリの犬で良いや。
ユリは俺の顎や頭をワシワシと撫でてくれる。そんな気持ち良さに身を任せていると、ユーゴが俺の尻尾を離した。
俺は素早く床に寝転んでユリにお腹を見せて、撫でて貰おうとアピールする。
『俺はユリの傍に一生居るからな!』
俺の言葉を聞いて由里は少し驚いた表情をすると、すぐに魔力で返事をしくれた。
『こんな感じかな?聞こえる?』
『聞こえるぞ!ユリも凄いんだな!』
『ふふ。レイ、よろしくね。』
あぁ!ユリ!絶対、俺がユリを守ってやるからな!
おふぅ・・・。ユリにお腹を撫でて貰うのヤバイな・・・。なんか頭が蕩けて来る・・・。
俺がユリと至福の時間を過ごしているのにユーゴが声をかけてきた。
「レイ!僕にもそんな風になった事ないじゃないか。」
なんだよ。うるさいな・・・。邪魔しないでくれよ。優剛と由里が同じわけないだろ。何言ってんだよ。
むふふ。俺は遂に見つけた。ぐふふ。
「由里、ちょっとレイと話をさせてくれない?」
ユーゴはユリに声をかけるとユリは俺を撫でるのを止めてしまった。
俺は至福の時間を奪ったユーゴを睨む。
『なんだよ。』
「いや、こっちがなんだよ。どうしたの?」
『父ちゃんが言ってたんだ。お前にも守るべき存在が現れるって。ユリが俺の守るべき存在だって一目見て確信したんだ!』
ん?なんかユーゴが少し納得したような顔をした気がする。俺はユリの傍に居ても良いって事か?
「なんかレイは由里が気に入ったみたいだよ。」
「うん!知ってる。もう良いでしょ。」
ユリは冷たくユーゴに言うと再び俺を撫でてくれる。しかも少し強引に俺を引き寄せてくれたんだ。俺は嬉しくなってユリに身を委ねて、ユリが撫でてくれるのを堪能した。
その日から俺はユリの部屋で寝る事にした。
ユリは自分の部屋に俺の寝床を作ってくれた。最高の気分だ。
最高の気分で朝を迎えた。別に寝る必要は無いけど、ユリが作ってくれた寝床は最高だった。ユリを守る為に全力で警戒してたけど、身体は凄く休めたと思う。
ユリが起きたのを感じた俺はすぐに起き上がってユリに駆け寄った。
『おはよ。レイ。』
『おはよう!』
『ちょっと待っててね。準備したら朝ご飯を食べに下に行くから。』
獲物を取らなくてもご飯が食べられるのは最高だけど、身体が鈍りそうで心配だ。
ユリを守る為に俺は強くなるんだ。父ちゃんが来ても倒せるくらいじゃないと駄目だ!
ユリは俺が守るんだ!
朝ご飯が終わったら朝の訓練というのがあるって事で外に連れて来られた。朝ご飯は超美味しかった。一緒に食べてた3人の人間が作った物なんだそうだ。
ついでだから3人も俺が守ってやる。ユリが最優先だけどな!
最初は魔装ってやつだ。これは身体の周りに魔力を纏わせて防御力を高めるやつだ。
まぁ基本だな。そう思っていたのは10秒くらいだった。
「レイ、そこ。ハルはそこね。」
ユーゴは魔装から外に漏れ出る魔力を許してくれなかった。こんなに繊細な魔装は初めてだ。ドンドン魔装に穴が空いてしまって穴を塞ぐので忙しい。
「うーん。これくらい出来ないと由里は任せられないなぁ。」
ユーゴが俺に向かって衝撃的な発言をしてきた。
よく見ればユリもマコトも身体を軽く動かしながら繊細な魔装を纏っていた。
動いてもいない俺が出来ないなんて許されない。しかもユーゴは「これくらい」と言った。弱い奴にユリは任せられない。そういう意味だと俺は理解した。
それからは意地と根性で繊細な魔装を維持した。
ユーゴが終了を告げるとすぐに魔力で数字という物を作り出した。
魔力ってそんな風に動くのか・・・。俺もすぐに真似してみたが、2っていうのが難しい。中々上手く魔力が曲がってくれない。
なんだよ3って!そんなにグニャグニャするなよ!
次は魔力を飛ばすのか?
へへ。これは得意かもしれない。
え?木に当てるんじゃない?回す?
はぁ?放った魔力を操作する?出来るわ・・け・・・。
ユーゴだけじゃなく、ユリの魔力も形を変えながら飛んで行って、木を1周回ってこっちに返ってきている。
え?ユリは放つ魔力をドンドン増やしていく。
俺・・・。自信が無くなってきたぞ。
魔術の訓練ではマコトって奴が俺よりも電撃を身体に纏って対抗してきた。
これだけは負けるわけにはいかないから必死に対抗した。俺史上最高に電撃を纏った日になった。
ユーゴが放つ魔力玉を避ける訓練はそこそこ出来てたと思った。ユリやマコトの避ける魔力玉を見るまでは・・・。
なんだよあの魔力玉の速さは・・・。しかも避けるのかよ。
ユーゴが何か言ってくるけど、俺はショックで理解出来なかった。
最後のオニゴッコは楽しかったけど絶望した。なんとなくわかってたけど、俺が守ると誓ったユリは俺と互角。いや、素直に認めよう。現状ではユリの方が強い・・・。
弟のマコトと戦えば相性の良さから勝てると思ってたけど、オニゴッコが終わった後に2本の剣を振り回す姿を見てさらに絶望した。
『他の人間は弱いんじゃないの?』
『俺・・・。ユリを守れないかもしれない・・・。』
落ち込むようにして俺とハルが話しているとユーゴが近づいて来た。
「どうだった?」
『他の人間は弱いって聞いた。だけど、ユリもマコトも私達より強いんじゃない?』
「うーん。由里と真人は別にして、そこで大の字になっている4人の事は見てた?」
俺とハルは寝転がっている4人の獣人という奴らを見た。
『そんな余裕は無かった。』
『俺も。』
「タカ」
ユーゴが獣人の名前を呼ぶと、フラフラと立ち上がろうとした。
そんなタカに向かってユーゴは魔力玉を放った。
タカは避ける動作もせずに顔に当たってもう1度倒れた。
「タカ、ありがとう。」
「がふ」
意識を失ったような気がするけど、気にしたら負けなんだろうな。それよりユーゴはなんであんな遅い魔力玉をぶつけたんだ?
『もしかして・・・。今の魔力玉が見えていない?』
ハルは何を言っているんだ?あんな遅い玉が見えない訳が無いじゃないか。疲れて避けられなかっただけだろ。
「ハル、正解。」
はぁ!?あんな遅い魔力玉だぞ?
「タカは獣人だけど人間の基準で言えば強い方だと思うよ。僕も人間の強さの基準はわからないんだけどね。」
『ユーゴの家族じゃなくて、あっちの4人を基準にしたら良いのね。』
でも俺はそんな事より気になっている事がある。
『ユーゴォ、俺・・・ユリを守れないかも・・・。』
「初日でここまで出来れば凄いと思うよ。由里や真人だって最初は苦労していたからね。すぐに追いつけるよ。」
『・・・本当か?』
俺は縋るように優剛を見上げる。情けないけど落ち込むと尻尾が垂れるのは仕方ないんだ・・・。
「今まで自分たちの特徴を伸ばすだけの訓練だったでしょ?ハルなら尻尾に魔力を纏って、身体能力を強化する。レイは電撃を生み出して、身体能力を強化する。」
俺たち黙ってユーゴの話に耳を傾ける。
「特徴を伸ばす訓練は悪い事じゃないけど、それ以外の部分を伸ばす訓練も特徴を伸ばす良い切っ掛けになると思うよ。」
『確かに数字を作るのも魔力を飛ばすのも、電撃を放出する時と似た感覚だったぞ。』
「まぁ、これからも朝の1時間は参加してね。大丈夫だよ。すぐに由里や真人と同じくらいにはなれるよ。」
『うん。マコトには負けない。何よりユリを守れるように強くなるんだ。』
「優剛、そろそろ行くわよ。」
「はーい。」
ユーゴはマミに連れられて病院ってとこに行くらしい。マミがそこで仕事をしているから送り迎えをしているんだって。
独りで行けば良いと言ったらユーゴが少し慌ててた。
その日の昼のご飯が少ない気がしたから、アイサに聞いたらマミが少なくしろって指示があったそうだ。
俺は夕方に帰ってきたマミに昼ご飯の事を抗議するように吠えた。さらに唸り声を上げようとしてすぐに止めた。
あの睨みつけるマミの目は超怖かった。きっとユーゴより強いんだろうなぁ。
そんなマミの指示ならユーゴも従うのは仕方ない事だ。
夜ご飯も少なかった・・・。
優剛が内緒で少し分けてくれたけど、やっぱり物足りなかった。
「わぉーーん!」
【レイ目線の順位付け】
麻実
優剛=由里
真人
レイ=ハル=使用人3人
獣人4人
【実際の順位】
麻実
由里>>真人>>>>優剛>レイ=ハル=使用人5人=護衛4人
【使用人順位】
トーリア(執事長)>トーナ(メイド長)>アイサ>サスリ(トーリア妻)>オーヤン(トーリア娘)
※絶対的な上下関係無し
【護衛順位】
テス
タカ
フガッジュ>シオン
※上に居る人との力の差は怖い上司や先生、先輩だと思って下さい。(逆らうなんてトンでもない)
レイ目線のお話は楽しんで頂けたでしょうか。
狼は群れの中の個体を順位付けしてしまうのです。
皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。
次回も・・・ん?誰か来たみたい。
【ホントウノジュンイ】
ユウゴ
マミ>ユリ>マコト
ソノタ




