38. 鍛冶屋の夢
前回のお話
我が家よ!僕は帰ってきたー!
「うーーん。ベッドサイコー。」
優剛はベッドの上で横になりながら大きく伸びをする。1日だけだが、野宿した事で改めてベッドの素晴らしさに感謝する。
「おはよ。」
「おはよー。」
既に化粧台では麻実が身支度を整えていた。朝の挨拶を軽く交わして、優剛は着崩れた浴衣を直しながら立ち上がる。
麻実と一緒に広間に行けば既に騎士たちがキッチンに出入りして、テーブルに朝食を並べている。
(1日で随分馴染んだな・・・。)
既にヒロと一緒に食べる事にも抵抗は無いようで、テキパキと配膳していく。
昨夜の内に護衛は今日の朝までという事を伝えてあるので、彼らにとってはこの屋敷で食べる最後の食事になる。
最後と伝えた際は酷く落胆した様子を見せていたので、快適な護衛生活をしていた事が伺えた。
朝食を食べ終わったら庭に出る。訓練の時間だ。年頃の女の子に戻った由里も黙って訓練には参加する。
「レイ、そこ。ハルはそこね。」
優剛が次々とハルとレイの魔装に穴が空いてしまった箇所を指摘するのを、ヒロは懐かしい風景かのように眺めながら自分の魔装にも集中していた。
「うーん。これくらい出来ないと由里は任せられないなぁ。」
優剛は悪い笑顔を浮かべながらレイに告げる。
レイはその一言を切っ掛けにその後の3分間は完璧に魔装を維持してみせた。ハルもコツを掴んだのか、後半はしっかりと魔装を維持していた。
最後の鬼ごっこでレイは知る事になる。レイが守ると誓った由里は自分と互角。いや、現状では由里が上であると認識してしまった。
訓練中は弟の真人と戦えば相性の良さから勝利出来ると考えたが、鬼ごっこの後に2本の剣を振り回す姿を見て考えを改めた。
『ユーゴがおかしいと思っていたけど、その家族もおかしいわ。』
『俺・・・。ユリを守れないかもしれない・・・。』
落ち込むようにして会話しているハルとレイに優剛が近づいた。
「どうだった?」
『父さんの訓練と違って、肉体的な疲労や怪我は無いけど、一緒に訓練するだけで精一杯ね。』
『ユーゴォ、俺・・・ユリを守れないかも・・・。』
「初日でここまで出来れば凄いと思うよ。由里や真人だって最初は苦労していたからね。すぐに追いつけるよ。」
『・・・本当か?』
レイは縋るように尻尾を垂らして優剛を見上げる。
「今まで自分たちの特徴を伸ばすだけの訓練だったでしょ?ハルなら尻尾に魔力を纏って、身体能力を強化する。レイは電撃を生み出して、身体能力を強化する。」
ハルとレイは黙って優剛の話に耳を傾ける。
「特徴を伸ばす訓練は悪い事じゃないけど、それ以外の部分を伸ばす訓練も特徴を伸ばす良い切っ掛けになると思うよ。」
『確かに変化の訓練は電撃を作るのと似た感覚だったぞ。』
「まぁ、これからも朝の1時間は参加してね。その他の時間は好きな事をしていて良いから。」
『あぁ。真人には負けない。』
真人とレイは魔術の訓練の際に競い合うように身体に電撃を纏っていた。レイは真人が電撃を纏える事で非常に驚いていたが、バチバチと大量の電撃を纏って対抗していた。
「優剛、そろそろ行くわよ。」
「はーい。」
ニートに戻った優剛には麻実を病院に送る日々も戻ってきた。
護衛の任務を終えた騎士たちは1時間の訓練に自主的に参加。その後、這うようにして隣の訓練場に向かって行った。
病院から戻ってきた優剛にトーリアが護衛の面接について告げて来る。
「ユーゴ様、護衛の面接を実施したいのですが、よろしいでしょうか。」
「おぉ!もちろんですよ。僕はいつでも良いですよ。」
「畏まりました。では早ければ本日の午後にでも実施したいと思います。」
「お願いしまーす。」
簡単なやり取りを終えてからは広間で、紅茶を飲みながら寛いでいた優剛にハルが尋ねてくる。
『ユーゴ、尻尾を研ぎたいからあの岩を出して。』
「おぉ!ごめん。忘れてた。今から一緒に出掛けよう。」
「ちょっとダメさんとこに行ってきますねー。」
優剛はキッチンに向かって叫ぶと、パタパタとアイサが出て来て「いってらっしゃいませ」と一礼してくれる。
庭に出れば由里と真人とレイがキャッキャっと遊んでいる。それを見守るトーナも微笑んでいる。
ここでもダメさんのところに出掛けると言えば、由里と真人から「昨日、受け取ったスリッパが最高だった」という伝言を頼まれた。
優剛に尻尾を巻き付けて背中に乗るハル。さらに浴衣を着ている優剛は非常に目立っていた。あらゆる視線を浴びてダメリオンが働くランドの鍛冶屋までやってきた。
「ダメさーん!」
「ここは俺の店だぞ!馬鹿野郎!」
相変わらず店番の居ない店の奥に向かって叫ぶと、物騒な声が返って来る。そして、少し待てば奥からダメリオンが顔を出す。
「ユーゴさん、今日はどうしたんスか?」
「伝言を持って来ました。昨日のスリッパ最高だぜ!」
「いや、ユリちゃんとマコト君はそんなこと言わないっスよね。」
優剛はサムズアップしてウィンクするが、ダメリオンに冷たく否定された。
「いや、いや。本当だって。昨日、受け取ったスリッパ凄く良かったって伝えてくれって頼まれたんだよ。」
「おぉ!それは良かったっス。」
ダメリオンは恥ずかしそうに目を隠すほどまで伸びている前髪を撫でる。
「それだけっスか?」
「まさか。ヤスリを作って欲しいんだ。」
「ほほぉ。何に使うんスか?素人が使っても刃が傷むだけっスよ?」
「この子の尻尾を研ぐんだよ。」
優剛は半身の姿勢になって背中に貼り付いているハルを見せた。
「おぉ!魔獣だったんスね。それは変なベルトじゃなくて尻尾っスか。」
ダメリオンは優剛に巻き付いている尻尾を指差して確認する。
「うん。ハルっていう名前で尻尾を研ぐ為のヤスリが欲しいんだよ。野生の時は巣の近くの岩で研いでいたんだけど、飼う事にしたから専用のヤスリが必要なんだ。」
「ちょっと尻尾を見せて貰って良いっスか?」
言葉を理解しているハルはダメリオンの言葉だけで、優剛に巻き付けていた尻尾を外して、カウンターの上に降り立つ。そして、尻尾の先端をダメリオンの目の前に差し出す。
「お・・・。おぉ。頭が良いっス・・・ね・・・。え?・・・触っても良いっスか?」
笑顔から困惑へと忙しく表情を変えるダメリオンの質問に、ハルは了承するかのように頷く。
ダメリオンはハルの尻尾を手に取ってじっくりと観察する。時折、鋭さを確認するかのように指で触ったりもしていたが、突然店の奥に向かって叫んだ。
「親方―!親方ー!すぐに来るっス!ユーゴさんがトンでもない生き物を連れて来たっスー!」
気怠そうに店の奥からノシノシと小柄なおっさんドワーフのランドが出てきた。
「ユーゴ、久しぶりだな。」
「お久しぶりです。ランドさん。」
「親方!すぐにこの子の尻尾を見るっスよ!」
「あぁ!?うっせぇぞダメオ!」
ランドは乱暴な言葉を口にするが、しっかりとダメリオンの言う事を聞いてハルの尻尾を観察する。
「おいユーゴ、こいつを何処で拾って来たんだ?」
「東の山ですよ。」
ランドは真剣な表情で尋ねるが、優剛は気軽に回答する。
「こいつは狂魔地帯の魔獣か?」
「そうです。」
再び真剣なランドの質問に優剛は気軽に回答する。そんな回答を聞いてダメリオンが一歩後退る。
「ユーゴ、言い難いがこいつの尻尾が研げる素材はうちにはねぇ。」
「はい。だからその子の巣から素材を持って来ましたよ。」
優剛は1番大きいバスケットボールサイズの岩石をカウンターに置いた。
「おい、おい、おい、おい!ダメオ!店の扉の鍵閉めろ!窓も全部閉めろ!」
「はいっスぅぅぅぅ!!」
ランドは岩を見てすぐにダメリオンに指示を出す。そんな指示が出る前にダメリオンは既に動いていたかのような阿吽の呼吸で扉にダッシュする。
「ふぅー。ユーゴ、よく聞けよ。この岩はオリハルコンだ。」
「え?オリハルコンってダメさんの小瓶に入っているドロっとしたゼリーみたいなやつじゃないんですか?」
「あぁ・・・。オリハルコンってのは魔力の内包量で材質が変わるんだよ。極限まで魔力を溜め込むとダメオの持っているような材質になるんだ。こいつはその一歩手前って感じだな・・・。」
珍しくランドの丁寧な説明だが、優剛は「ふーん」というのが正直な気持ちだ。
「魔力って直接これに込められないんですか?」
「はぁ?頭おかしいのか?長い時間を掛けてゆっくり魔力を溜め込んでいくんだ。急に魔力を増やしたらバラバラに砕け散るぞ。」
優剛がカウンターの岩を指差して質問すると、ランドは乱暴だが、しっかりと回答してくれた。
「へぇー。やってみましょうよ。」
「お前馬鹿だろ?こんな貴重なオリハルコンの原石をぶっ壊すとか言う奴は、世の中の鍛冶屋を全員敵に回すぞ。馬鹿野郎。」
優剛は「えー」というつまらなそうな表情で岩を見つめているが、何かを思い出すようにハッとした表情に変わると、異空間から小さな欠片を取り出した。
「これなら良いでしょ?」
取り出したのはオリハルコンを掘る時に使った優剛の手に収まるサイズの小さなオリハルコンだ。
「いや・・・。それだけのサイズでも・・・。いや。こんだけデカイ原石があるから良いんじゃねぇか・・・?」
「ではでは」そう言って優剛は手に持ったオリハルコンの欠片に、隅々まで自分の魔力で満たしていく。
(魔力を入れると砕けるって事は砕けないように強化してから、注ぎ込めば良いんだよね。ついでに視る魔力も流しておこう。)
優剛は真剣な表情でゆっくりとオリハルコンに魔力を注いでいく。強化されたオリハルコンは魔力を注いでも壊れる事は無く、注ぐ量を徐々に増やしていく。
(視る魔力を混ぜたのは正解だな。注ぐペースがわかりやすいや。)
壊れそうな兆候を感じ取ると、すぐに魔力の注ぐ量を減らして対応する。そうやって魔力を注ぐペースが一定になって、しばらくすると優剛が手を開いた。
その上にはスライムのようなゼリー状の物体に変わったオリハルコンがあった。
「おい、おい、おい!おいぃぃ!・・・マジかよ。」
「うわぁぁぁぁ!ユーゴさんがオリハルコンを・・・神の雫を作ったっス!」
「うげっ。プルプルしているのに触ると硬い感じが気持ち悪いね。」
「なんて事を言うっスかぁぁぁあ!」
優剛は変質したオリハルコンを触って気持ち悪そうに顔を歪める。そんな優剛の言葉に盛大にツッコミを入れるダメリオン。
「お前・・・。なんなんだよ・・・。」
ランドは疲れた表情でグッタリと店番用の椅子に座って文句を言った。
「とにかく、ハルの尻尾が研げるヤスリを作って下さいな。」
「作るのは武器じゃねぇのかよ・・・。」
「オ・・・オリハルコンを加工するなら時間が欲しいっス・・・。」
武器を作ると思っていたランドは拍子抜けしてさらに力が抜ける。ダメリオンは必死な思いで口を開く。
優剛は最高硬度のオリハルコンの加工には時間が必要なのも納得が出来た。
「ハル、しばらくは庭にこの岩を置いておくからそれで良い?」
『うん。良い。』
そんな優剛の発言を聞き逃さなかったランドが優剛を問い詰める。
「ユーゴ、そいつを使わないなら何でヤスリを作るんだよ。」
「その岩が1番大きな岩で、小さいやつならたくさん持っているんですよ。」
「たくさんあるのかよ・・・。」
話を聞いていただけのダメリオンはへたり込んで床に座ってしまった。
「なぁ、そんなにたくさんあるならよぉ・・・。良かったら武器が作りてぇんだが・・・。」
「ず・・・ズルいっス!俺もオリハルコンの武器が作りたいっスよ!」
ランドが優剛に要望を伝えると、慌ててダメリオンも同じ要望を優剛に伝える。
「良いですけど、ヤスリが先ですよ。」
「お前、ヤスリ優先とかマジかよ・・・。」
「武器を作るなら他の欠片もゼリーにしますね。」
優剛は異空間から次々とオリハルコンの原石を取り出して、ゼリー状の物体に変質させていく。
「わぁぁ!もう十分っス!!神の雫をホイホイと作らないで欲しいっス!神の雫は他の素材と掛け合わせないと形が保てないんスよ!」
「面倒な素材だね。じゃあ岩の状態のオリハルコンも置いておきますね。」
「なんて事を言うんスか・・・。」
優剛は岩の状態のオリハルコンもカウンターの上に置いていく。
「もう十分っス・・・。明らかに余るんで少し持って帰って下さいっス。」
「おい・・・。どんだけ持っているんだよ・・・。」
「まだまだありますよ。」
ダメリオンが優剛の回答を聞いて溜息を吐きながらランドと会話する。
「お・・・親方、どこに保管するんスか・・・。」
「鍛冶場の奥にでも置いておけ。誰もオリハルコンが置いてあるとは思わねぇよ。」
ダメリオンは慎重な手付きでオリハルコンを抱えると店の奥に消えていく。
そして、明らかに余る分はカウンターに放置されているので、優剛は余った神の雫とオリハルコンの原石を異空間に収納する。
異空間に収納を終えた優剛は呆けるランドに尋ねる。
「武器って何を作るんですか?」
「あぁ・・・。剣か槍が良いんだが・・・。」
「僕は使えないですよ・・・。」
優剛は困ったように返答する。
「使えなくても使えるようになれば良いじゃねぇか。」
「物心が付く前の子供の頃から剣を振っているような達人と僕が剣で戦う事になったらどうするんですか?そんな達人の間合いに入るんですよ?死にますよ。」
「おめぇなら死なねぇと思うぞ・・・。」
ランドは呆れるように言うが優剛は止まらない。
「中途半端な技術で大きな魔獣に斬りかかっても、相手の間合いの方が広くて不利ですよ。人間が相手でも達人に挑めば間合いに入った瞬間、剣も取られて一方的に切り刻まれる未来が見えますよ。」
「お前、そのドラゴンは・・・。いや、なんでもねぇ。」
「そういう訳で武器は怖いです。最近開発中の魔術もあるんでね。」
「うーん。じゃあ何にでも使える短剣にしとくか?魔術用の杖でも最高の物が出来るぞ。」
「ん?杖?杖って何に使うんですか?」
「あ?知らねぇのかよ。魔力を身体から離しても安定させる為の補助に使う杖だよ。杖に限らず魔力が宿った素材で作る魔道具は、身体から離れた魔力を安定させる補助をしてくれるんだぞ。」
優剛は困惑顔でランドの話を聞いている。
「全然知らないです。」
「あぁ?マジかよ・・・。魔力は身体から離れちまうと消えちまうのは知ってるよな。消えないように補助してくれるのが魔道具であり杖だ。何も使わずに身体から魔力を離しても、安定させられる奴はさらに距離が伸びる。魔道具や杖なしで魔力を身体から離せる奴が使えば・・・わかるだろ?」
「えぇぇ!そんな便利な道具があるんですか?」
「おめぇハンターだろ?ギルドで杖を持ったハンターを見なかったか?」
「え?うーん。」
優剛は良い思い出が無いハンターズギルドの事を必死に思い出す。
「あっ!槍かと思ってたけど、刃を下にして置いてあったし、あれって杖だったのかな?」
ハンターズギルドで槍だと思っていた武器の置き方に違和感を覚えていた優剛が1つの槍のような武器を思い出した。
その槍は刃が鞘に収まっていたが、刃を下にしてテーブルに立て掛けてあったのだ。
「おぅ。そりゃ杖だな。まぁ長い物が多いから槍として使えるように、加工するのも一般的だな。」
「え?なんで長いんですか?」
「本当になんにも知らねぇんだな。杖で説明するとだな・・・。」
優剛はランドの言葉に無言で頷くようにして頭を縦に振る。
「杖の中に魔力を通して先端から魔力が出すと、付与した補助効果で魔力が安定するんだよ。どんな素材を使うかで杖の長さや距離の補正が変わるがな。短い方がすぐに放出まで行けるが、素材は高価で汎用性がねぇ。先端だけ高価な素材を使って、逆側に刃を付けて槍と兼用するのが一般的だな。」
(なるほどねぇー。それで石突かと思っていた箇所に宝石みたいな物が付いていて、刃が下になっていたのか。刃なら傷ついても直せるけど、宝石が壊れたら杖が壊れたのと同じか・・・。)
「杖や魔道具に頼ってる奴は魔力を離せる距離が短いから、自力で魔力の放出が出来る事は重要だ。飛距離を伸ばすのは自身の実力が1番大事だからな。」
「なるほど。自分の持っている力と杖の効果で身体から離せる距離が決まるんですね。」
「そういうこった。だから何も使わずに魔力を飛ばせる奴は重宝されるんだよ。」
優剛はランドの説明に感心するように頷く。
「生活に使うような魔道具だとそこまで距離は必要ないし、形も棒状である必要は無いから様々な形で作られているが、戦闘に使うなら杖の形状が一般的だな。」
「うーん。杖専用で短い物を1本欲しいかもなぁ。でも要らない気もするなぁ・・・。」
「ユーゴは槍も使えないからな・・・。」
そんな話をしていたところにダメリオンが戻ってきた。
「置いて来たっスー。ユーゴさん、短剣作って良いっスか?」
ダメリオンが杖の話をぶった切るように短剣を作る気満々で問いかけて来る。
「その短剣に杖みたいな補助効果って付けられるの?」
「補助効果を付けると刃物としての性能が落ちるっス。どっちも付けるとかなり中途半端な性能になるからお勧めはしないっス。」
「刃部分じゃなくて柄部分に仕込むんだよ。」
ダメリオンはハッとした表情をして考え込む。
「うーん。オリハルコンなら短い柄でも出来る可能性はありますね・・・。」
「まぁ、出来なければ出来ないで良いですよ。ランドさんが作る短剣とダメさんが作る短剣をそれぞれ1本お願いします。どっちが上手く作れるんだろうね。にしし。」
優剛は挑発するような笑顔を浮かべてランドとダメリオンを交互に見ていた。
「上等じゃねぇか。最高の1本を作ってやるよ。」
「俺だって負けないっスよ。」
2人はバチバチと火花が見えるくらいに睨み合う。
「ねぇ・・・。ヤスリが先だからね。」
「わかってるよ!この場合、ヤスリで感覚を掴めるのがありがたいぜ。」
「ちょ、親方、ズルいっスよ。」
「ヤスリは2つあっても良いから、あんまり喧嘩しないでね?代金はいくらになりそう?」
「オリハルコンが加工出来るんスよ!?貰えないっス!」
「あぁ。ダメオの言う通りだな。100%オリハルコン製の武器が作れるなんざ鍛冶屋の憧れで夢みたいなもんだぞ。」
ブンブン首を横に振って代金を受け取れないと否定するダメリオンに同意するように、ランドも首を縦に振った。
「えぇ・・・。じゃあ余ったオリハルコンあげますよ。」
「そっちの方が受け取れねぇよ馬鹿野郎!」
「無理っス!無理、無理!ユーゴさんが最後に変換したオリハルコンが大きめだったので預かる分でも余ると思うっス。あれ以上大量にあったら怖いっスよ!」
優剛は再び拒絶される。それもランドよりも強くだ。
「余っても僕は要らないんだから、適当に自分たち用にオリハルコンを掠め取ってよ。」
「ぐぅ。なんて魅力的な言葉っスか・・・。」
「あぁ・・・。欠片だけでも合金すりゃあ良い武器が作れるぞ・・・。」
何かに葛藤するように頭を抱える2人を見て、優剛は素直に代金を受け取れば良いのにと考えて、再び代金について尋ねる。
「ヤスリと短剣2本。いくらになります?」
「あぁ・・・。うーん。」
「むぐぐ。」
腕を組んで悩むランドと頭に両手を乗せて唸るダメリオン。依頼者の了解の元でオリハルコンを掠め取るのか、素直に代金を貰うのか、2人は凄まじい葛藤があるようだ。
「余ったら全部あげても良いから、納品までに考えておいて下さい。ヤスリが出来たらすぐに取りに来るんで連絡を下さい。ヤスリ、先、絶対。」
優剛はオリハルコンで武器が作れると舞い上がっている2人に向けて、本日何度目かのヤスリ優先を告げて、店の内鍵を開けて外に出た。
優剛が出て行く事を察したハルは素早く優剛の背中に取り付いて一緒に店を出る。
店に残ったランドとダメオはその日、唸り声を上げながら凄いスピードで受注済みの仕事を終わらせた。その日以降、ランドの店の扉には鍵が掛けられて、しばらくの間は休業日が増えたという。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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