34. 縄張り争い
前回のお話
ドラゴンをバシーン。電気犬をビターン。
どちらも生きている模様です。現場からは以上です。
どちらも命が助かって良かったですね。続いてのニュースです。
優剛は限りなく白に近い青い毛色をした犬のレイと艶消し黒の身体で尻尾が異常に長いドラゴンのハルの案内で狂魔地帯の山を登っている。
「そういえばレイって犬?」
『狼だ!青銀狼って言えば人間にも通じるって父ちゃんが言ってたぞ。』
「へぇー。ハルはドラゴンなの?」
『そうよ。ブラックテイルドラゴン。』
(ドラゴンなのか・・・。ドラゴンって四足歩行だっけ・・・。)
優剛は前足が短かったり、前足が翼と一緒になっていたりするドラゴンを想像するが、ハルは猫の背中に小さな翼が生えた外見をしている。
「ありがと。僕はどっちも知らないけど、そう言って報告するね。」
『私、ちょっと疲れたわ。ユーゴの背中に乗っても良い?』
『ハルは軟弱なんだよ。』
『レイみたいな体力馬鹿じゃないの!』
ハルは翼を畳んで、尻尾を身体に巻き付けて走っている。
2人は優剛の前方を進みながら器用に睨み合う。
「背中に乗っても良いけど、その尻尾で切らないでよ?」
『ふっ。切りたい時に切れるのが良い尻尾使いの条件よ。』
ハルはドヤ顔で振り返って意味不明な事を言ってくる。
『俺も腹減ったなぁ。』
「目的地が遠いならちょっと休憩しようか。」
優剛の言葉に2人は急に止まって、その場に座りだした。
『レイ、あんたが獲物を取って来なさい。』
『なんで俺なんだよ。ハルが行けよ。』
レイは「グゥゥゥ」と唸り声をあげて、ハルも「ミィィヤァァァ」と猫のように威嚇している。
(ハルってドラゴンだよね?完全に猫なんだけど・・・。)
「ほら。喧嘩すんな。僕が持って来た食料をあげるからみんなで食べるよ。」
優剛は屋台で買った肉の串焼きを異空間から2本出して、2人の口元に差し出した。
『すげぇ良い匂いがする。なんだよこれ?食べて良いのか?』
レイは鼻先まで来ている肉の串焼きの匂いを強制的に嗅がされて、口からは涎が出てきていた。
ハルは串焼きの匂いをクンクンと嗅いで、冷静を装っているが、チラチラと優剛の事を見ては何かを待っているようだった。
「ん?食べて良いよ。地面に置いても良いの?串は木だから食べちゃ駄目だよ。」
優剛の言葉にハルとレイはすぐに串の先端にある最初の肉に喰らいついた。
レイは前足を肉に引っ掛けて、優剛から串焼きを奪い取ろうとするかのようにガッツいて食べている。ハルも夢中で優剛が持っている串焼きをハグハグと一心不乱に食べている。
(僕も食べたいんだけど・・・。)
優剛は両手で串を持っているので、自分は食べる事が出来なかった。串焼きは地面に置いて、おにぎりでも食べようかと考えていたが、食事を地面に置いて良いのかわからなかった。
すぐに串焼きを食べ終わったレイが顔を上げて優剛を見つめてくる。
『もう無いのか?』
「まだあるけど、食事は地面に置いても良いの?」
『いつも地面に置いて食べるぞ。なぁ、もっと無いのか!?』
(意思疎通が出来ても、食事の仕方は普通の野生動物と同じか・・・。)
優剛は異空間から何本か串焼きを出して地面に置いた。レイは尻尾をブンブン振って串焼きにガッツいている。器用に前足を使って串から肉を取って、次々と肉を胃袋に納めていく。
ハルも2本目の串焼きを食べ始めている。尻尾を使って器用に串から肉を外すと、尻尾で掴んだ肉を口元まで持って来てハグハグと食べている。
(ホントに切りたい時しか切れないんだ・・・。)
優剛はおにぎりを食べながらハルの食事を眺めていた。器用に尻尾を使って食べるハルは、犬みたいに食べているレイよりも新鮮だったのだ。
『ユーゴ、それなんだ?』
「おにぎりだよ。」
レイは尻尾をブンブン振りながら、キラキラした瞳でユーゴのおにぎりを見つめる。
(くっ!ただの可愛い大型犬じゃないか!)
そして、優剛はそんな瞳に耐えられるはずもなく、おにぎりも何個か地面に置いた。
ハルも気になっていたようで、置かれたおにぎりを素早く尻尾で掴んで1つ確保していた。
(おにぎりもあの尻尾で掴めるって相当だぞ・・・。あの尻尾が鋭利な刃物だって誰も信じないだろ。)
『美味い!こんな美味いの初めて食べたぞ!』
ようやく落ち着いたレイが尻尾を振りながら、自分の口元を舐め回している。既にハルは食事も終わって、木の傍で丸くなっている。
ハルが食後に前足で顔を拭いて舐めていた時は完全に猫だったが、尻尾を舐めていた時はドラゴンに見えた。
「ちゃんと水も飲みなさいな。」
優剛は食事と一緒に出していた水をレイに勧めた。ハルはしっかり飲んでいたが、レイはずっと食べ続けていたのだ。
器に入った水をビチャビチャと舌で舐め取ると、非常に満足したような表情をしていた。
(犬?あれ?青銀犬だっけ?あれ?)
「まぁ良いや。ハル、背中に乗って良いよ。レイ、もう行ける?」
『行けるぜ!』
ハルは何も言わずに起き上がって、優剛の腹に尻尾を巻き付けて前足を肩に乗せた。
「これ超怖いじゃん。ハルが尻尾をギュっとやったら僕は両断されるんじゃない?」
『しないわ。』
ハルは短く返答すると前足でパシパシと優剛の肩を叩いた。
優剛は溜息を吐いて、走り出したレイの後ろを追いかけた。
日暮れまで走り続けたが、目的地には到着していない。しかし、木々が切り倒されて燃やした跡が目立つようになってくる。荒れた森の周囲には生き物の気配は無く、静まり返っていた。
『ユーゴは夜も走れるのか?』
「問題ないけど、遠いならこの辺で休憩しても良いよ。」
レイが『飯か!?』と言って急に止まって振り返る。
「じゃあ、夜明けまで休憩しようか。」
優剛はブンブン尻尾を振ってご飯を待つレイに抵抗が出来ず、次々とご飯を置いていく。
「2人は睡眠時間ってどれくらいなの?」
『俺は寝るっていうか身体を休ませる為に目を閉じる感じだな。』
『私もレイと同じね。魔力を使い切るか怪我でもしない限りは寝ない。』
野生で生きていれば周囲の警戒をしながら眠りにつかないと、眠っている間に襲われて死んでしまう。2人の睡眠方法も野生で生きる為に身に着けた術だ。
「凄いね。僕はぐっすり寝るけど良い?」
『問題ないわ』
簡単に優剛が寝る事に同意するハルに対して、レイは何かを言いたそうであった。
「ご飯と水は置いておくね。」
『ユーゴは寝てて良いぞ!』
交代で見張りのような事をしようと考えていたレイは置かれた食事の前にあっさりと陥落した。
(うーん。大きい方がしたい・・・。)
優剛は大自然のど真ん中で排便したくなった。しかし、インドア派の優剛は外で便を出すのに抵抗があった。
(ん?出口に異空間を設置して排出と同時に入れて、そのまま外に出しちゃえば・・・。)
「ちょっと出すもの出してくる。」
優剛は2人に告げてその場を離れた。
(ズボン履いたままって怖いな・・・。)
優剛はズボンを履いたまましゃがむ。既に出口には異空間が設置済みだ。
(おぉぉ!すげぇ!これは画期的だ!)
優剛の1mほど右の地面には、今まさに産み落とされた大便がホカホカと落ちている。
(やべ!大と小はセットだった!)
大が終わったあとに小が出そうになった優剛は慌てていた。今からズボンを脱いでいたら間に合わないのだ。
優剛は素早く小の出口も異空間で覆った。そして異空間を経由して外に排出している。
少量の水の魔術で便の出口を洗い流すと、水も異空間を経由して外に出す。そして魔力を解除して出口を洗った水は地面の上から消える。
「ふ・・・ふふ。くっくっく。はっはっは。あーはっはっは!」
ズボンを履いたまま全てをやり遂げた優剛は、異世界に来て初めて味わう達成感のようなものに満たされて笑い声をあげる。
(これが魔法だ!)
異世界人が今の魔術を見たり、聞いたりしたら、才能の無駄遣いであると断言するだろう。ただ出せば良いだけなのだから・・・。
非常に満足した表情で優剛が戻ると、笑い声が聞こえていた2人は快便だったのかと違う事を思っていた。
「じゃあ、おやすみ。」
優剛はそう言って座って木の幹に寄りかかると目を閉じた。さすがに起きている2人を前にして横になるのは抵抗があったようだ。
朝日が昇る直前、ハルに顔をパシパシと叩かれて目覚めた優剛が、しっかり横になって寝ていたのは言うまでもない。
「ん。おはよ。もう行く?」
『違う。お腹空いた。』
「御意。」
(猫だよね?寝ている主人を優しく猫パンチで起こして、ご飯を強請るって猫だよね?レイを見なよ!耳はピンと立ててピクピクしながら尻尾も振っているけど、寝たフリしてんじゃん!)
優剛がご飯を地面に置きだすと、レイも身体を起こして尻尾を振りながらご飯を食べていく。
食事が終わった優剛は水と風の魔術を器用に使って、頭や身体の汚れを吹き飛ばすように洗った。
『今のすげぇな!』
「やる?」
一連の流れを見ていたレイが優剛を称賛した。そして優剛はレイも同じように洗った。
「ぶはっ」っという声が漏れ出たが、洗い終わったレイの毛はキラキラと輝いていて、モフモフ感も2倍以上の仕上がりになっていた。
当然のように優剛の足元に寄ってきたハルが優剛を見上げながら「ミャー」と鳴いた。
(喋れんだろうが!)
内心でツッコミを入れつつ、ハルも同じように洗った。黒い艶消しの黒は一層濃い黒になったような気はするが、毛のないハルはレイよりも大きな変化が見られなかった。
しかし、ハルは自分の身体を見回すと非常に満足そうにしているので、優剛も納得していた。
その後は前日と同じようにレイを先頭に優剛が後ろに付いて走り続けた。ハルは優剛のお腹に尻尾を巻き付けて背中に乗っている。
そろそろ昼かな?っと優剛が思い始めた時にレイが振り返る。
『もうすぐだぞ。』
鼻や耳をピクピクさせて何度も走る方向を変えていたレイが、前を向いて走りながら告げてきた。
優剛も嗅覚と聴覚を強化させて周囲の状況を探ると、戦闘地帯が近い事がわかった。
木々は切り倒されて、燃やされて。そんな風に強引に作ったような広い場所に出る。そこには血だらけで倒れている犬とドラゴン。まさに殺し合いの真っ最中の犬とドラゴンの2組を発見する事が出来た。
犬は電撃を撒き散らしてドラゴンを感電、もしくは身体を一時的に麻痺させてその隙を狙って、トドメを刺す戦略なのだろう。
ドラゴンはそんな電撃を避けながら尻尾で一撃を入れようと高速移動を続けている。時折、木などを切り倒して、尻尾を使って犬に投げたりもしている。
『母ちゃん!』
『母さん!』
優剛は倒れている犬に向かうレイの角を掴んで止めた。さらに倒れたドラゴンに向かうハルの首根っこも掴んだ。
「落ち着け。死んでない。」
『角を離せよユーゴ!』
『離してよ!』
優剛はジタバタ暴れるハルとレイを掴みながら、父親と思われる2匹の戦いを遠目から観察する。
(電撃の多さも威力も早さもレイとは全然違うな。木を尻尾で持って投げるとか力も相当あるなぁ。)
「よし。ハル!ハルの身体って硬い?それ鱗でしょ?」
『ぐぅぅ!硬いわ!軽い衝撃なら何も感じない!それよりも離しなさいよ!』
答えを聞いた優剛はハルの母親だと思われる倒れたドラゴンに向けて走り出した。ハルは母親に近づける事に安堵して暴れるのを止めた。そして、レイは遠ざかる母親に焦ったように強く抵抗する。
『ぐぉおおお!離せユーゴ!』
優剛はレイを無視して倒れたドラゴンに近づくと、倒れたドラゴンの尻尾の付け根を蹴り上げた。
『はぁ!?ちょっと何すんの!もう許さない!』
母親が蹴り飛ばされた事で再びハルが暴れ出す。今回は尻尾で優剛を攻撃しようとする。優剛は頭上でハルをグルグル高速で振り回して、尻尾のコントロールが出来ない状態にする。
優剛は蹴り上げたドラゴンを追いかけるように走り出すと、今度はレイの抵抗が弱まる。走り出した方向にはレイの母親が倒れているからだ。
そして、レイの母親の傍まで来ると、優剛はレイの母親を軽く踏みつけた。
『てめぇ!母ちゃんを踏むな!』
激昂したレイはバチバチと放電を始める。既に優剛は全身を純水で包んで対策済みだ。さらに頭上で振り回しているハルにも純水を纏わせて感電対策をしている。
そこにハルの母親が放物線を描いてレイの母親の横にドサっと落ちてきた。
そして、優剛はハルとレイから手を離して、近くの地面に向かって優しく放り投げた。
ハルは高速で回された影響でフラフラと立ち上がる。レイはバチバチと全身に電撃を纏わせて、優剛を睨みつけながら唸り声をあげる。
優剛はそんなハルとレイを無視して、ハルとレイの母親に水の魔術をビシャーっと放出すると、すぐに血が洗い流されていく。洗い流された後には傷1つ無い綺麗な毛並みや、鱗が復活していた。
ポカンとした表情でハルとレイはそれぞれの母親の様子を観察していた。
水の魔術を解除した優剛は、解除と同時に乾燥状態になった犬とドラゴンを見て、水の魔術での洗浄に満足していた。
(乾燥いらずの水洗浄って半端ないなぁ。)
魔力で作った物は魔力を解除すると消える。これは水を魔力で作った場合、その水で濡らした物は解除と同時に、水が消えて一気に乾燥されるという事だ。
「ハル、レイ、こっち来て良いよ。2人の回復は終わったからもう大丈夫。血が足りないから、しばらく元気は無いと思うよ。」
優剛はハルの母親を蹴り上げると同時に、視る魔力と回復用の魔力玉を引っ付けた。そして地面に落ちる前には治療を完了させていた。
レイの母親を踏みつけたのも治療完了までの時間を短縮する為に、仕方なく踏みつけて直接魔力を扱っていた。あの時、優剛の両手は塞がっていたのだ。
身体から離れた魔力を操るよりも、直接触れて魔力を操る方が、非常に精度良く、高度に魔力を操る事が出来るからだ。
ゆっくりと意識の無い母親の元に歩み寄って来たハルとレイは、前足で母親の顔や体を揺すって起こそうとしていた。
「次はあの父親コンビか・・・。」
レイの父親は基本的にはレイと同じ毛色で姿形も同じだ。しかし、70㎝ほどのレイと比べて頭の高さが2mほどの場所にあって非常に大きい。額の角もレイと比べて長く鋭い。
ハルの父親はハルと比べて一回り大きくなった程度で、大きさは青銀狼と比べて非常に小さい。しかし、ハルと比べても倍以上に長い3mほどの尻尾は、見るだけでわかる頑強さと鋭さを併せ持っていた。
高速で空中を立体的に動くハルの父親を電撃で牽制して、尻尾の間合いに入らせないレイの父親の戦いは非常に早く、割って入るのは困難に思える。
しかし、優剛は魔力を一気に高めて自分の限界で魔装する。
濃密に圧縮された魔力は外に漏れだす事も無く、優剛の身体を包み込む。この状態の優剛を第三者が見ると、全身に得体の知れない何かを纏った異質な者に見えるのだと言う。
1度だけ庭でこの魔装をした時に、周囲に感じさせる魔力量と異質な何にかに恐怖したヒロは、誰かが見ている前で限界の魔装はしないようにと止められていた。
それ以降は優剛が限界まで魔装する事は無く、皮膚下での超圧縮魔装の状態で日々生活していた。
しかし、この行為は魔装の限界を高める修行になっていて、魔装に使う魔力量は日々増加していた。
その結果、現在の優剛はヒロが見た時よりも遥かに凶悪な魔力をその身に纏っていた。
そんな魔力をすぐ近くで感じたハルとレイは伏せの状態になって優剛を見上げている。
ハルとレイの状態を確認した優剛は、今の状態が魔獣にも恐怖を与えるものだと確信した。そして、争っていた2匹の魔獣は動きを止めて、優剛を警戒するように見つめている。
優剛は悪い笑顔を浮かべて、巨大な火球を頭上に作り出した。それはハルやレイはもちろん、母親たちも巻き込めるほどの巨大な火球だ。
それを見て素早く動き出したのはレイの父親だ。火球から助け出そうと優剛に物凄い速度で突進した。
レイの父親は前足の付け根、肩付近を優剛にぶつけて吹き飛ばした。
火球を霧散させて吹き飛ぶ優剛は、空中で体勢を立て直すと地面を滑るようにして着地した。
レイの父親は「グアァァァ!」という咆哮をあげて優剛を威嚇する。ハルの父親もその前に陣取ると、尻尾を空に突き上げて「グルゥァァァ!」と咆哮をあげて威嚇する。
(超怖い怪獣じゃん・・・。怪獣に襲われる。)
優剛は大迫力の2匹の獣から逃げ出したい気持ちを必死に抑えつけて笑顔を貼り付ける。
そんな優剛に対して先に仕掛けたのはレイの父親が放つ電撃の嵐だ。威力、範囲、速度のどれもがレイとは桁外れの電撃が優剛を襲う。そんな目にも止まらぬ速さの電撃が優剛に迫るも、既にその場所に優剛はいない。
(やっぱりこれだけ魔力を使うとかなり速く動けるな。最初は自分の能力を確認する時間になるかな・・・。)
優剛は脳力と身体の強化バランスを整える時間が必要だと判断した。無意識に両方を強化すると、身体能力強化の方が強めに強化されてしまう為、身体の動きに反応が追い付いてこないのだ。
その結果、電撃を避けるたびにバランスを崩す優剛にハルの父親の尻尾が襲い掛かる。
(地面ってこんなに切れるの?)
避けた尻尾が地面に深い傷を作っている。真昼の太陽に反射して黒い尻尾がギラリと光っているように感じてしまう。
電撃で優剛の逃げ道を塞いで尻尾が襲う。尻尾で優剛の逃げ道を塞いで電撃が襲う。次第に連携は深まっていくように電撃と尻尾は小気味良いリズムで優剛を襲う。
しかし、それ以上に優剛の動きが良くなっていく。強化のバランスが整ってきた証拠だろう。
そんな戦闘を見ていたレイがハルに呟いた。
『俺、この感じ・・・なんか知ってる。』
『偶然ね。私もよくわからないけど知ってる。』
優剛は強化が整ってくると、回避行動に空を飛ぶ事の導入も始める。最初は不自然な挙動で回避している程度の違和感しかなかったが、徐々に2本の脚では実現不可能な動きを見せ始める。
同じく空を飛べるハルの父親が優剛の動きの正体に気づくと、後ろに下がって何やらレイの父親に「グァア!」と吠える。
レイの父親は一瞬だけ信じられないというように目を大きく見開くが、すぐに咆哮をあげると身体に大量の電撃を溜め始める。
時間を稼ぐ為なのかハルの父親が優剛に向かって行く。優剛も同じように向かって行くが、ハルの父親を無視してレイの父親に向かって走り出す。それが簡単に許されるはずも無く、優剛の背後からは鋭い尻尾の連撃が襲い掛かる。
『・・・駄目だ』
『駄目・・・。』
ハルとレイは呟くように言うだけで、戦闘に割って入る事は出来ない。
遂に電撃を溜め終わったレイの父親が優剛に額の角を突き出して猛然と突進してくる。それとほぼ同時に、尻尾の連撃が優剛の左後方に集中する。
そして、連携を取るかのように細かい電撃が優剛の右前方に集中する。
丁寧に両サイドからの攻撃を避けていく優剛だが、遂に目の前には角が迫ってきた。角を避けても帯電している身体に当たれば、感電だけでは済まないだろう。
この距離で優剛が角と突撃の両方を回避するのは難しいと考えた後方に陣取るハルの父親は、その後の事を考えて僅かに優剛が吹き飛ぶ道を空ける。
優剛は角と衝突する寸前に優剛を狙って下がっていた角を両手で掴むと、身体を回して突進してきた勢いも利用して、レイの父親を持ち上げて横に振った。
そんな未来を想像もしていなかったハルの父親は尻尾での防御を試みるも、レイの父親とぶつかって盛大に吹き飛んでいく。細い木をへし折っても止まれず、大きな樹にめり込むようにしてようやく止まった。
殴り飛ばした勢いで1回転した優剛は跳び上がって、レイの父親を縦に振って地面にビターンした。ビッダーーン!という音が相応しいかもしれない衝撃音が響いた。
大きく息を吐き出した優剛は動かない巨大な犬の角を持ったまま引きずって歩くと、吹き飛ばしたドラゴンのところまで歩みを進める。そして痙攣しているドラゴンの首根っこも掴んで、両手に犬とドラゴンを持って、引きずりながらハルとレイが待つ場所に向かって行く。
自分たちと全く同じようにやられた父親を見て、ハルとレイは伏せの状態のまま優剛を見つめている。ハルは涙目になっていて、レイに至っては涙目に加えて僅かに震えていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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