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家族で異世界生活  作者: しゅむ
29/215

29. 新生活の始まりは忙しい

前回のお話

イコライズ、王都の学園に行く。同行者多数。

さよなら領主の屋敷。こんにちは新生活。

引っ越してきた当日は決める事がたくさんあり、その後に子供たちと遊んだので、あっという間に過ぎ去った。

信長も優剛のやり方に何か意見する事も無く黙っていた。むしろ、優剛たちが屋敷に来てからは、気を利かせて喋るのを止めていた。


しかい、由里や真人が呼び掛けると嬉しそうな声で応えるのは微笑ましかったが、かくれんぼをしているのに、優剛の隠れている場所を教えるのは止めて欲しかった。何度、優剛が抗議しても優剛の位置をこっそり子供たちに教える信長。

子供たちと打ち解けているなら良いかと、優剛は諦めていた。


翌日、優剛はダメリオンに欲しい物を依頼する為に、ランドの鍛冶屋にやって来た。

「ダメさーん!いる?」

「あぁ!?誰の店だと思ってやがる!誰だか知らねぇが、ぶっ飛ばすぞ!?」

「居るっスよー。ユーゴさんじゃなかったらぶっ飛ばしますっスー。」


相変わらず店番のいないランドの店でダメリオンを呼び出すと、物騒な返しが店の奥から響いてきた。しばらくすると、ダメリオンが店の奥からやってきた。


「やっぱりユーゴさんっス。久しぶりっス。へ・・・珍しい服を着てるっスね。」

(変?今、浴衣を変って言いかけた?まぁ・・・良いけど。)

今日の優剛は浴衣だ。むしろ、領主の屋敷にいる間も、ずっと浴衣を毎日着回している。

ボタンがたくさん付いていて、袖がヒラヒラした服が優剛は嫌いだった。


「久しぶりダメさん。今日は色々作って欲しくてね。なんでも作れるでしょ?」

「家とか建物は面倒だから作らないっス。」


なんでも作れるという事を否定しないダメリオンに優剛は苦笑して、依頼内容を告げていく。


各自の名前が書いてある表札

お風呂(建物)

スリッパ


「お風呂は建物込みなので勘弁っス。大工に依頼して欲しいっス。スリッパってなんスか?」

当然のように建物は断ったダメリオンはスリッパを知らなかった。優剛はスリッパの用途や形状を説明すると、ダメリオンは唸りだした。


「うーん。面白い靴っスね。」

「外側は硬くでも良いから、中はフワッフワに仕上げて欲しい。履き心地重視でお願いします。」

「了解っス。柔らかい布や毛皮を使っていくつか試作するっス。」

「履き心地が良いスリッパなら試作も全部買い取るよ。後日、子供用のスリッパも依頼すると思う。」

ダメリオンのメモ紙には表札の形状なども含めて、優剛の要求が次々に書かれていく。


「納品はどうするっスか?取りに来るっスか?」

「うーん。見せたい物もあるから、うちに来て欲しいんだよね。」

「ユーゴさんの家って何処っスか?」

「封印の屋敷、開かずの屋敷、呪いの屋敷。南の騎士訓練場の隣にある屋敷。色々呼ばれていると思うよ。」

優剛は色々な表現で自分の家の事をダメリオンに伝えた。


「あそこっスか!?封印された呪いの屋敷って聞いた事があるっス。」

「うん。たぶん、それだ。もう封印されてないし、呪われてもいないから大丈夫だよ。」

(幽霊みたいなのはいるけど)

優剛は信長の事を伝えなかった。その方が面白そうだからだ。


「ちょっと怖いっスけど、そこに持っていけば良いっスか?」

「お願い出来る?」

「重くも無いし、高価な品でも無いので、届けるっスよ。」

「ありがとー。じゃあ見せたい物もあるから、時間のある時に来てね。」

「普通は早く持って来い。とか言うっスよ。」

ダメリオンは嫌な客の事を思い出すようにして言った。


「一流の職人にそんな事を言う訳ないじゃん。・・・早く持って来いよ。」

「言ったじゃないっスか!?ちょっと嬉しかったのに!」

優剛がニヤニヤしながら告げると、ダメリオンも笑顔でツッコミを入れてくる。


「ごめん、ごめん。急いでないから納得のいくスリッパが出来たら持って来て下さいな。」

優剛はダメリオンの言い値を支払ってから店を出た。


その際にもダメリオンから「ちょっとは値引き交渉とかした方が良いっス」と言われたが、優剛は「一流の職人に依頼するんだから言い値でしょ。ダメさんが高すぎる価格を言う訳ないからね。」とそのまま支払おうとした。

ダメリオンは優剛の言葉に観念するようにして「本当はもう少し安いっス」と言って値下げしてきた。

そんなダメリオンにも優剛は笑顔のままで、全額の支払いを終えて店を出た。

ダメリオンが一流の技術を持っている職人であると思っている優剛は、最初から代金を惜しむつもりはなかった。


浴衣を着て街を歩く優剛は非常に目立っていた。しかし、異世界の服も変だと思っている優剛が、街の人たちからの視線を気にする事は無い。お前らこそ変なのだと、強く主張する。


優剛が屋敷に戻ってくれば、すぐにトーリアが総合病院の院長との面談が、午後には可能であると知らせてくれた。


仕事の早いトーリアにお礼を告げると、トーリアが恐縮するようにして口を開いた。

「ユーゴ様、私の住み込みの件でお話があります。今よろしいでしょうか。」

「もちろんです。こういう時は執務室かな。行きましょう。」


広間から執務室に入っても執務机のある椅子には座らず、客人用のテーブルを挟んで設置されているソファーに対面で座る。否、無理矢理トーリアを座らせた。


「住み込みって事で良いですか?」

優剛の先制口撃にトーリアは諦めたようにして答える。


「はい。ご迷惑をお掛けするかと思いますが、よろしくお願い致します。」

「良かったです。荷物なら僕が行って、持って来ましょうか?」

「いえ。荷車を手配しました。仕事の終わった夜にでも荷物の搬入をしようと思います。妻と娘は明日ご挨拶させて下さい。」

「えぇ・・・。今から搬入しましょう。僕が行けば一往復で終わりますよ。」

ハンター証を異空間から出し入れして優剛が主張する。


「主にそのような事をさせるわけには・・・。」

「じゃあ麻実が主って事で、僕も使用人ね。実際、僕は麻実の使用人みたいだし・・・。」

優剛は少し項垂れて最後の言葉を言った。


「よし行こう。すぐ行こう」と恐縮するトーリアを無理矢理立たせて、引きずるように屋敷を出ていく。魔力の修行もしていないトーリアが優剛に抗う術など無いのだ。


観念したトーリアは渋々優剛を自宅に招いた。トーリアの後ろを歩いていたその道中で、優剛は体格の良い男たちに拉致されかけた。旅の回復魔術士を遂に見つけたと、大騒ぎである。


騒ぎに気付いたトーリアに救出された優剛は住んでいる屋敷の事まで、彼らにバレる事になる。しかし、優剛にお詫びがしたいと騒ぐ彼らに、お風呂建設の仲介を依頼した。


後日、腕の良い職人と数名のお手伝いによって、男湯と女湯に分けられた立派なお風呂と、個別で使用可能なシャワー室も完備した建物が庭に完成する事になる。


トーリアと自宅に到着すれば、トーリアの妻が土下座する勢いで感謝とお詫びを口にする。

「トーリアの妻、サスリでございます。こちらは娘のオーヤンです。」

「優剛です。これからよろしくお願いします。」

いつものように優剛は一礼して名乗る。雇い主が頭を下げるわけが無いという常識を持っているサスリは混乱したまま、押し黙ってしまう。


「オーヤンは何歳?」

優剛はしゃがみ込んで背の低い小さなオーヤンに目線の高さを合わせて笑顔で話しかける。


「さんさい」

「おぉー。ちゃんと言えて偉いねー。」

褒めるのは慣れたものだ。それに気を良くしたオーヤンが優剛に尋ねる。


「ゆーごーは、なんできたの?」

優剛を呼び捨てにした事で慌てふためくトーリアとサスリ。それを優剛が「良いから、良いから」と問題にしない。


「引っ越しの準備だよ。これからみんなで同じ家に住むんだよ。」

「とおさん、かあさん、いっしょ?」

「みんな一緒。お母さんはオーヤンとずっと一緒だよ。」

「やったー」と喜ぶオーヤンに優剛も微笑みを返す。


「ユーゴ様、私も屋敷でお仕事をさせて頂きます。」

「はい。オーヤンとたくさん遊ぶお仕事をして下さい。」

「ですが!」と反論しかけたサスリをトーリアが首を小さく横に振って止めた。トーリアと優剛を交互に見た後に、サスリは優剛に深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。お世話になります。」

「気軽な感じで良いですよ。では、トーリアさん、持って行く荷物を教えて下さい。」

困惑するサスリを無視してトーリアは次々と荷物を指定していく。優剛は指定された物をどんどん異空間に収納していく。


オーヤンの玩具を収納した時に、消したと思われて泣かれてしまったので、出したり、消したりして、いつでも出せる事を説明する優剛。安心したオーヤンは優剛に自分の玩具を手渡していく。


驚きの表情で荷物が消えていくのを見ていたサスリは、空っぽになった家を呆然と見渡していた。


「トーリアさん、ここは賃貸ですか?」

「そうです。オーヤンが大きくなったら領主様の屋敷で、仕事をさせようと思っておりました。」

「では、解約の手続きは忘れないで下さいね。よーし。帰ろう!」

優剛が手を上げて宣言すると、オーヤンも一緒に手を上げていた。


屋敷に着けばトーナは真人と共に不在で、麻実と由里が広間で寛いでいた。それぞれが挨拶を終えると、2階の大きめな部屋に行き、部屋の中で異空間に収納していた荷物を出していく。


荷物を出し終えた優剛は昼食の準備をしていたアイサを呼んで執務室に入った。


「サスリさんは使用人の仕事を手伝うと思うんだけど、オーヤンの面倒を見ながらだから、仕事量は少ないと思う。アイサさんとトーナさんと比べて、どの程度の仕事をしたのか、僕に週1回くらいで報告して下さい。アイサさんの賃金を基準にして、少しだけサスリさんにも賃金を払うからお願いしますね。この事はトーナさんとも共有して下さい。そしてトーリアさんには秘密にして下さいね。」


アイサは快諾してくれたので、問題は無いだろう。あるとすれば初回の支払い前にトーリアにバレる事だが、バレたらバレたで勝手に賃金を決めようと考える優剛。


アイサが用意してくれた昼食を帰ってきた真人とトーナも含めてみんなで食べる。

真人は隣の訓練場で双剣を振り回してきたようだ。ヒロが関わっているようで、今日が初日だったそうだ。


昼食時は全員同時に広間で食事をする。昨夜の夕飯も揉めたが、今日もサスリと揉めた。使用人が主と一緒に食事を・・・うんぬんかんぬん。

昨夜と同じように優剛が主の命令という強権を発動して場を治める。使用人たちは申し訳なさそうにしているが、慣れる事を期待して優剛はこのルールを継続する。


この日の優剛は忙しい。トーリアが総合病院の院長との面談を取り付けてくれているので、トーリアの案内で麻実と一緒に総合病院へ向かう。


病院の建物は古くも無く、新しくも無い。清潔感を前面に押し出すほど綺麗な印象も無いが、清潔に保たれているのはわかった。大きさは入院も出来るような作りの3階建てだ。


1階は多くの患者が治療の順番を待っていた。優剛たちは3階の応接室に案内されると、しばらくして白衣を着た人の良さそうなお爺さんと、厳しい目つきの40代ほどの男が入ってきた。


「わざわざご足労頂いて感謝します。私が院長のゴリンです。」

「私が医師と医師の採用担当を兼務しております。ジーハです。」


「今日はお時間頂きありがとうございます。私が優剛です。こちらは妻で、本日ご紹介したい医師でございます。」

「麻実です。よろしくお願いします。」

最初は浴衣を着た優剛を警戒するような視線で観察していたゴリンとジーハ。しかし、丁寧な口調と挨拶に服が珍しいだけかと、少し警戒の色を薄める。

浴衣を着たあやしい優剛では無く、異世界の服を着こなしている麻実が就職希望者である事にも安堵していた。


「早速ですが、マミさんの手腕や経歴などを確認したいのですが、よろしいですかな?」

「手腕については自信があります。しかし、経歴は研究と修行に没頭しておりましたので、本格的に医師としての活動は初めてになります。」

院長の質問に優剛が答えていく。ジーハは鋭い目つきで麻実を観察し、麻実は優剛の言葉を聞くだけで黙っている。


家族以外には平然とした顔で嘘を並べる優剛。異世界人ではある事も隠しつつ、虚実織り交ぜて麻実のアピールをしていく。

麻実も嘘が上手い方ではあるが、優剛にはすぐにバレる。こういう場では素直に優剛に任せる麻実。表情や仕草は変わらず、虚実織り交ぜる優剛の嘘を見破るのは困難であろう。


「うーむ。それでは技術を証明する事が出来ませんなぁ。当院はおかげ様で患者も多く来院してくるので、腕の良い医師は確保したいというのは本音ですが・・・。」

「では、私が腕でも切り落として、治療を見せましょうか?」

微笑みながら語る優剛の言葉にゴリンもジーハも目を見開いて確認する。


「切断された腕を元に戻せるのですか?」

「可能です。10分ほどで完治するかと思います。他にも内臓の損傷も同程度の時間で完治可能です。」

優剛は麻実が昨日のイノシシを治療していた時間から完治までの予想時間を伝えた。


「本当に完治までですかな?その時間であれば応急処置も終わりませんぞ。」

「彼女は修行に没頭しすぎて、世界の常識から外れてしまったのです。」

優剛は苦笑を交えつつ伝える。


「彼女の知識や医療技術は採用して頂ければ、秘匿する事もありません。質問して頂ければ、彼女は回答致します。」

「とても信じられない。そんな高度な医療をこんな辺境の病院で?王都に行けば引く手数多ではないですか。大貴族や王族との直接雇用も可能でしょう。」

ジーハが強い口調で反論する。


「私たちはレミニスター様に恩義があります。他の街で医療行為をするつもりはありません。彼の領地の発展に貢献したいのです。また、個人で治療院などを開けば、彼女の医療技術では、他の病院や医師との軋轢も生じるでしょう。それは領主様も望んでいないと考え、こちらの病院で働きたいと考えております。」

優剛の言葉に納得したのか目を閉じて考え込むジーハとゴリン。やがてジーハが口を開いた。


「腕を切り落とす必要はありません。実験用のネズミを持って来ます。それで証明して下さい。」

「ネズミは同じ種類のネズミを2匹持って来て下さい。傷つけていない1匹と同じ形に内臓や骨を治療します。」

「そこまではしません。少し深い切り傷の治療する過程を見たいのです。」

優剛の提案に答えて部屋を出ていく。ゴリンもジーハと目を合わせて頷いていた。


しばらくしてジーハはランドセルくらいの鉄格子で組まれた檻を1つ持って部屋に戻ってきた。

(ネズミがでかいわ!)

優剛はネズミの大きさに驚いた。


「大きなネズミですね。」

「魔獣ですからね。これくらい大きくないと、医療技術が正確に見極められないんですよ。小さいから駄目だったと文句を言う奴もいますからな。」

優剛の疑問にジーハが文句を言っていた就職希望者を思い出すように表情を歪めた。


「では、この薬を使って眠らせますので、少々お待ち下さい。」

ジーハは白衣のポケットから液体の入った小瓶を取り出して、それを布に染み込ませるとネズミの口と鼻を布で覆った。


しばらくすると、眠ったように動かなくなったネズミ。それを確認したジーハは小さな道具箱から、小さなナイフを取り出した。

「では、背中を切りますので、治療して下さい。治療方法はお任せします。」


「麻実、出来そう?」

「寝てるし、イノシシより簡単かも。」

ネズミの大きさにビビっている優剛は麻実に小声で確認すると、頼もしい答えが返ってくる。


ジーハはうつ伏せに寝かせたネズミの背中に1本の線を描くように切っていく。深さは内臓や骨を傷つけない程度だが、通常であれば糸などで縫合する深さだ。

麻実は素早く治療を始める。視る魔力で覆って、血の糸で縫合していく。縫合が終われば、自己治癒力を強化して傷が塞がれば完治だ。


余りの早さに目を見開いて驚くゴリンとジーハ。

「もう完了ですかな・・・?どのように治療したのかお聞きしてもよろしいですか?」

院長のゴリアが目を輝かせて、麻実に尋ねる。ジーハもゴリアの質問に同意するかのように、麻実の答えを黙って待つ。その目は院長と同じように輝いている。


しかし、答えかけた麻実を優剛が遮るようにして口を開く。

「ゴリアさん、それは麻実の勤務開始日からですよ。ジーハさんどうですか?」

口に人差し指を当てて、イタズラが成功したような表情で優剛は断る。そして、ジーハに採用の件を促した。


「もちろん、採用です!こちらからお願いしたいくらいです。このような技術は見た事がありません。すぐにでも働いて頂きたいくらいです。」

「ありがとうございます。ゴリアさん、ジーハさん、妻の事をよろしくお願いします。開始日などは妻と話をして下さい。」

優剛は頭を下げて感謝を述べると、続くように麻実も頭を下げて感謝を述べる。


「こちらこそ、当院を選んで頂き感謝致します。早速、勤務条件や賃金について話し合いましょう。」

「トーリア、勤務条件や賃金が麻実に適切か確認しろ。麻実、トーリアと相談してから合意するように気を付けてね。」


院長のゴリアの申し出に対して、優剛は初めてトーリアを呼び捨てにする。しかも命令するような口調だ。麻実に対する口調はいつもと変わらない柔らかいものだ。

トーリアは動じる事も無く、優剛の言葉に一礼すると「畏まりました」と返す。


優剛の表情は真剣なままだが、頭の中のスイッチは完全に切れている。勤務条件や開始日は麻実が納得すればそれで良い。時折、絶妙なタイミングで首を縦に振っているが、テーブルの下では優剛が作った魔力が様々な形を作っている。そう、遊んでいるのだ。


麻実は医師として働ける事が嬉しそうな表情で、条件面に合意していく。もちろん合意の前にトーリアと話し合っているので、麻実に不都合な条件は削除されていく。

トーリアも麻実の技術を安売りするつもりもなく、適切に条件面を整備していく。


しばらく話し合いが続いて、条件に折り合いが付いた。明日、条件をまとめた院長の署名入りの契約書を屋敷まで届けてくれるという事だ。同じ内容の2つの契約書に署名をすれば完了だ。約束した日時から勤務開始となる。

医師のような高額な賃金が発生する場合は口頭では無く、契約書などに残すのが一般的なのだそうだ。


病院を出た優剛は大きく伸びをすると、トーリアに感謝を述べる。

「トーリアさん、ありがとうございました。無事に麻実の職が決まりました。それにしても外向けの口調は疲れるわぁ。嫌だ。嫌だ。」


口を尖らせて嫌だと首を横に振る優剛を、トーリアが称える。


「先程のユーゴ様の口調や態度は素晴らしいものでした。普段からあのような口調で私たちにも接して下さい。」

「ぶー。こっちが自然なのでお断りしますよ。」

優剛は腕で×印を作って、拒否する。


麻実も微笑みを浮かべて肯定する。

「確かに偉そうな優剛は嫌ね。」

「御意。」

仰々しく麻実に一礼する優剛。


軽い足取りで屋敷に帰る優剛たち。そして、優剛は忘れている。

このままでは妻を働かせて、自分は家でゴロゴロするだけの、駄目人間になる道を歩んでいる事を・・・。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


次回もよろしくお願い致します。

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