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家族で異世界生活  作者: しゅむ
27/215

27. 冬の終わり

前回のお話。

優剛、空飛べるってよ。

バトルジャンキーな親子。

 朝の訓練に戦闘狂の親子が加わってから、訓練終わりの鬼ごっこが非常に激しいものに変わった。そこで優剛は子供たちと大人たちを分けた。最初の10分は子供たちだけと鬼ごっこ。

 1時間の訓練が終わってから10分間延長して、大人だけで鬼ごっこをしたのだ。10分間の休憩を終えたヒロの勢いは凄まじく、ラーズリアと共に優剛を何度も追い詰めた。

 しかし、ラーズリアが成長すれば、優剛も成長していた。一進一退の攻防でラーズリアとヒロは優剛に触る事が出来ずにいた。


 もちろん優剛からもラーズリアにお願いをしていた。

 真人はラーズリアに剣を教えて貰っている。


 王国最強と言われているラーズリアの双剣を真人は習っているのだ。

 優剛と鬼ごっこが出来るならとラーズリアは快諾してくれた。


 優剛は楽しくないが、他の面々は楽しんでいる修行の日々も、冬の終わりが近づくにつれて終わりを迎える事になる。


 ラーズリアは王都に帰還。

 イコライズは春から王都に留学するので、ラーズリアと共に王都に行く。それに同行するミロマリア。


「くそぉ!帰りたくない!ユーゴと一緒に修行していればもっと強くなれるのに!」

「ラーズは帰りなよ・・・。」

「本来、魔導騎士は自由であるべきなんだ!俺は戻って来るぞ!」

「はい、はい。待っているから、いつでも戻ってきな。何回も王都からの使者を追い返して、最後に来た人なんか何度も追い返されて涙目になってたじゃん。」

 2人はこの冬で打ち解けて、砕けた口調で会話をするようになっていた。主な内容はラーズリアの帰りたくないという愚痴だ。


「寒いから中に入るね。」

 魔装すれば寒くない事がわかっていたが、冬の終わりが近くても浴衣で外にいるのは寒いという雰囲気から、優剛は屋敷の中に退避する。それにしっかり同行するラーズリア。


「出発は明日だよね?」

「いや。雪が降って・・・。」

「帰れよ。」

 往生際の悪い魔導騎士が子供のように嫌だ嫌だと駄々を捏ねている。


 紅茶を淹れてくれたトーリアにお礼を言うと、珍しくトーリアが優剛に質問する。

「ユーゴ様、いつでも良いので、少しお時間よろしいでしょうか。」

「僕はいつでも良いですよ。ラーズが居たら話し難い内容なら場所を変えます。」


 ラーズリアが気を利かせて席を立とうとするのを慌てて止めたトーリアは、問題無いと話を始める。

「ユーゴ様はこの街で子供を回復魔術で治療しましたか?時期はユーゴ様が屋敷に来て少し経ったくらいでしょうか。」

「ん?うーん。」


「ユーゴは回復魔術も使えるのか?」

「最近は使ってないけど、使えるよ。うーん。治療したっけ・・・?」

 ラーズリアは優剛が回復魔術を使える事を知って驚いた。優剛は回復魔術を使った事が思い出せずにいた。冬の修行の日々が忙しく辛かった事で、記憶が修行で埋め尽くされている。


「馬車で轢かれた子供の治療でございます。」

「!!・・・馬車で轢かれた子供の治療ですか。うーん。参考までにその子は治療後にどうなったんですか?」

 優剛は完全に思い出した。そして少し目が泳いでいる。しかし、治療した事を肯定しない。


 ダメリオンから短剣を受け取った帰り道で馬車に轢かれてしまった少女の治療をしたが、その場に居合わせた人たちに、信じて貰えずに逃げ出した時の事だ。しかし、完璧に治した自信はあったが、その後に何かあったのかと思い、自分が治したとは言わずに治療後の事を確認した。


「いえ、その子は今も元気でございます。」

「驚かせないで下さいよ・・・。たぶん僕が短剣を貰った帰り道で、治療した少女だと思います。」


「その節は娘が本当に・・・。本当にありがとうございました。」

 トーリアは涙を流して、深く頭を下げながら優剛に感謝した。


「えぇ・・・。トーリアさんの娘さんだったんですか?偶然です。僕も救えて良かったです。だから顔を上げて下さい。」

 困惑する優剛。そこにレミニスターが部屋の扉を開けて入ってきた。


「おぉ。この様子だとユーゴで正解だったようだな。」

「はい。ユーゴ様で間違いありませんでした。」

「レミさんも知っているの?」


 住み込むにはなんらかの仕事をしなければならない為、小さすぎる子供には割り振る仕事が無かった。その為、トーリアは住み込みで執事の仕事が出来ないでいた。


 あの日、トーリアが帰宅すると事故の一部始終を妻から聞かされた。それから感謝を伝える為に、仕事が終わるとハンターズギルドや周囲に聞き込みをして、旅のハンターを探し続けていた。


 その時に周囲にいた人たちもトーリアに協力をして旅のハンターを探していた。あの時に疑った事のお詫びをしたかったのだ。


 ハンターズギルドに問い合わせをしても、情報が少なすぎる為に見つける事は出来ず。門の前に張り込んで見つけようとする人たちもいたが、結果は出なかった。

 この冬の間、優剛はラーズリアの修行に付き合わされていた為、領主の屋敷の庭から出ていなかったからだ。


 トーリアの捜索活動を使用人経由でレミニスターが知り、協力しようとしてトーリアからハンターの特徴を聞いた。聞き終わったレミニスターは眉根を寄せてトーリアと『優剛』の行動履歴を確認した。


 冬に入ってからはずっと屋敷の敷地内にいた。冬の前に出歩いた日は常に誰かが同行していたが、1日だけ優剛が1人で出歩いた日があった事を思い出す。


 旅のハンターを捜していたトーリアたちが見つけられなかったのも無理はない。

 トーリアは旅のハンターであれば、高度な治療魔術が使えても不思議は無いと思っていた。しかし、レミニスターはそんな高度な治療魔術が出来る旅のハンターなら、名が知れ渡っているはずで、そんなハンターが街に来たという報告は聞いていなかった。そんなレミニスターだからこそ、話を聞いた瞬間に非常識代表の優剛が頭に浮かんだ。


「見つかって良かったなトーリア。例の話も進めて良いな?」

「はい。レミニスター様がよろしければ・・・。」

「構わんぞ。」


 何やらレミニスターの了解を得たトーリアが優剛に向き直って跪く。

「え?トーリアさん何してんの?」


「ユーゴ様、私が貴方様にお仕えする事をお許し願えないでしょうか。」

「まずはトーリアさん顔を上げて、普通に立って下さい。そしてレミさん!全部知っているんでしょ?説明して!」

 優剛はレミニスターを少し睨んで説明を要求した。


 トーリアは娘の命を救ってくれた恩人に恩返しがしたい。領主の屋敷を出れば優剛たちは不慣れな異世界で生活をしていく事になる。そこでレミニスターはトーリアが優剛に仕えて支えるという事を提案した。

 トーリアは少し悩んだが、領主を支える執事よりも優剛を支える執事を選んだ。

 この半年間で優剛たちを見てきたトーリアも優剛の事は心配していた。そして、主になる優剛の事はもちろん、トーリアは田中一家の雰囲気が非常に気に入っていた。


 レミニスターの説明が終わると、再び跪くトーリア。

「トーリアさん、僕は領主の執事の方が良いと思いますよ・・・。僕は貴族でもお金持ちでも無いですから、僕が突然死んだりしたら職に困りますよ?」


「私が仕えたいのはユーゴ様です。貴族でもお金のある商人や富豪ではありません。仮にユーゴ様が死んでしまった場合は、残されたご家族を支えます。」

「くっくっく。ユーゴ、ここまで言わせるとはお前もやるなぁ。」

 ニヤニヤしながらラーズリアが告げてきた。


「トーリアさん、至らない点が多い主ですが、こちらこそよろしくお願いします。」

「あぁ・・・。ありがとうございます。生涯を掛けてお仕え致します。」

 色々な葛藤があったが、優剛はトーリアの申し出を受け入れた。

 トーリアも受け入れられた事で、感激で再び涙ぐむ。


「生涯は掛けなくて良いですよ。もっと気軽に仕事して下さい。あと僕は非常識みたいだから覚悟して下さいね。」

「はい。承知しております。それに付き従うのも私の務めとなります。」

 晴れやかな表情でトーリアは優剛を見つめていた。


「トーナとアイサもユーゴと一緒に行きたいという希望があるみたいだぞ。」

 レミニスターはトーリアが受け入れられた事で、由里と真人の世話を主に担ってきた2人の希望も優剛に伝える。


「ぐぅ・・・。トーリアさんが居れば何人来ても大丈夫だと思います。全部任せて良いんですよね?」

 優剛はトーリアを見ながら、レミニスターにも伝える。


「もちろんでございます。使用人の管理も私の仕事の1つです。」

「では決まりだな。2人には俺から伝えておこう。執務室に呼んでおいてくれ。」

 そう言って、レミニスターは部屋を出ていった。入れ替わるようにしてズボンを履いた麻実が部屋に入ってきた。


 麻実の「どうしたの?」という疑問に答える優剛。そして、嬉しそうにトーリアを歓迎する麻実。トーリアは少しホッとしたような表情で、麻実と会話を始めた。

 田中家の主は優剛である。麻実も優剛を頼りにしているのは見ていればわかる。しかし、田中家のボスは麻実である。ボスに拒否されればトーリアの雇用は無くなるだろう。


「ユーゴ、今日はどうするんだ?最後だし、模擬戦してくれるのか?」

「しないよ。暖かくなってきたし、今日は麻実と一緒に森に行くよ。」

「ほぉ。何をしに行くんだ?」

「回復魔術の実験。」


 麻実は視る魔力を会得。優剛の医術を知識としては理解し、変化と魔術の能力も回復魔術を行使する下準備が出来たのだ。さらに医療関係の仕事もしていたので、医療知識だけなら優剛よりも上だ。

 寒い冬の間は獣も活発には動いていないので、優剛は暖かくなるのを待っていた。そして、本日は快晴で気温も比較的高い事で、朝には森に行く事を決めていた。


「面白そうだな。俺も行って良いか?」

「出発は明日でしょ?準備とか大丈夫なの?」

「準備は俺の仕事じゃないから大丈夫だ。」

 胸を張って準備しないというラーズリアに、これが主の風格か!?という間違った事を感じ取る新米主の優剛。


「護衛が王国最強の魔導騎士なら心強いよ。」

「お前らに護衛は要らんだろ・・・。」

 優剛も麻実も戦闘技術は無いが、その高速の動きを捉えられるのは、高度な基礎能力が要求される。一般的な護衛を付けても護衛は優剛たちに守られる側になるだろう。


「じゃあ早速行こうか。お昼までには帰って来たいからね。」

「そうだな。俺も午後はマコトに剣を教えたいからな。」

「いつも息子がお世話になっております。麻実ー、ラーズが護衛で同行してくれるって。」

 仰々しくお世話になっているとラーズリアに言っても、苦笑されるだけだった。そして麻実と共に最強の護衛に守られて近くの森に出掛ける。


「まぁ、この辺りだろうな。」

ラーズリアの先導で街から北にある森にやってきた優剛たち。北の森は比較的安全な森とされているが、魔獣や魔物も生息している。ハンターは北か西の森、または南か東の森の浅いところで活動している。

南の森はその先に狂魔地帯の草原が広がっている。草原に近づけばそれだけ驚異的な魔獣や魔物が生息している。東の森の奥は山になっていて、山が狂魔地帯だ。森の浅いところまでは狂魔地帯の魔獣や魔物も来ないが、森の奥に行けば遭遇する事もある。


「獣を捜すか。」

「そうだね。ちょっと待ってね。」

 獣を捜そうと地面を注意深く観察し始めるラーズリアが、直立不動で目を閉じた優剛を見て首を傾げる。


「あっちにいるね。」

「ユーゴ、何したんだ?」

「聴覚強化と嗅覚強化だよ。」

「そうか。そういう方法もあるのか。俺もやってみよう。」

「嗅覚はお勧めしないよ・・・。」

 優剛が忠告してすぐに咳き込むラーズリア。そして涙目で優剛を見る。


「鼻がモゲる・・・。」

「知ってる・・・。」

 強化された嗅覚が捉えるのは、様々な悪臭も強化されて鼻に届くのだ。既に経験済みの優剛も久しぶりの悪臭に少し眉根を寄せている。


「とりあえず行こう。」

「はーい。」

「よく耐えられるな・・・。」

 ラーズリアが涙目で優剛を見ながら呟いた。


 優剛たちが向かった先では大きなイノシシのような獣が、地面に頭を突っ込むようにして食事中のようだった。

「アレで良いね。」


 優剛は素早くイノシシに近づくと、右手で触れて電気ショックを浴びせる。

 ピギィ!という鳴き声で地面に倒れるイノシシ。優剛はすぐに脈を確認して、生きている事に安堵する。


「よし!生きてる。成功、成功。今のうちに足を縛って吊るしちゃおう。」

 優剛は縄を取り出して、イノシシの足を一括りにすると、近くの太い木の枝に吊るす。吊るし終わるとイノシシは身体の自由が回復したのか、頭を激しく動かすが、足は縛られて吊るされた状態では逃げる事も出来ない。


「じゃあ、麻実。やるよ。今のうちに視る魔力でイノシシを覆っちゃおう。」

 麻実はイノシシの横腹に手を当てて、そのまま魔力で覆って行く。覆われたのを確認した優剛は、左腰に着けられた短剣でイノシシの背中付近に浅い切り傷を付けた。


「うぅ。ごめんね。麻実、治して。」

 傷つける事をイノシシに謝罪する優剛。そして麻実はすぐに切り傷の治療を終えた。


「楽勝だったね。次は内臓を傷つけるからね。動脈の治療と内臓の治療。あとは体内に出血した血液を残さないでね。」

 優剛はイノシシの腸がある部分を狙って深く短剣を突き刺して、すぐに短剣を引っこ抜いた。傷口からはボタボタと血が流れ落ちるが、すぐに出血は少量になる。麻実が切れた動脈を魔力で摘まんで抑えたのだ。


「優剛はこれを初見でやるとか凄いわね。縫合する箇所が小さくて慎重になるわ。」

「拡大すれば良いじゃん。」

「聞いて無いし・・・。簡単に言わないでよね。」

 真剣な表情で麻実はイノシシの治療を始める。そうなると暇になる優剛は驚きで固まっているラーズリアをからかうように話しかける。


「護衛さん、周囲の警戒して下さいな。」

「お・・・おぉ。イノシシが止まったのは電気ってやつか?それにお前たちの会話は意味不明だ。」

 ラーズリアは血管や内臓が傷ついても自己治癒力の強化で、強引に治療する医療知識しかない為、優剛のあらゆる欠損を一時的に魔力で縫合して、治癒力強化の効率を高める方法が理解出来なかった。


 そんなラーズリアに優剛は知っている医療技術を伝える。そして聞き終わったラーズリアは嬉しそうに口を開く。

「腕が斬られたら、腕を持って優剛に頼めば繋いでくれるのか!はっはっは。これは良い事を聞いた。」


「斬られるなよ・・・。あと模擬戦で斬ってもダメだからね?」

 優剛は苦笑しながら答える。


「繋がる事がわかっていれば、咄嗟の判断も違ってくるというものだ。」


 優剛は溜息を吐き出して、忠告する。

「早めに持ってこないと、切れた腕が腐るからね。」

「わかってる、わかってる。その時は頼りにしているぞ。」


 優剛とラーズリアが不気味な会話をしながら、麻実の治療を待っているとしばらくして、麻実から終了を告げられる。


「終わったわ。確認してくれる?」

 優剛は「はい、はい」と軽く答えると、イノシシを隈なく魔力で確認する。


「うん。良いと思う。骨折の治療も経験しておく?」

「骨折は止めておくわ。左右で微妙に違うし、正しい形がわからないから。それに基本は繋げて、治癒力の強化。同じでしょ?」

「うん。自分自身を見本に出来るから、動物より簡単だよ。」

「じゃあもう良いわ。治療出来る事は確認出来たし、帰りましょ。」


 優剛はイノシシを地面に降ろして縄を解くと、大きなイノシシは何処かに走り去っていった。


「何かがこっちに向かって来ているから早めに退散するよ。」

「うーむ。俺はまだ気が付かんぞ。やはり聴覚と嗅覚を使った索敵は便利だな。」

 優剛の言葉に素早く反応して3人は街の方角に向かって走り出す。当然、走る速度は非常に速いので、何かが向かって来ていても、すぐに振り切ってしまう。


 麻実は冬の間に練習した事が実を結んだ事で、非常に満足そうな表情で屋敷に戻った。

 屋敷でトーリアに森での出来事を話すと、トーリアから「そんな治療が出来る魔術師は居ない」と言われた優剛は、麻実の医術を提供する場所に頭を悩ませる事になる。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


評価や感想もお待ちしております。ブックマーク登録も是非お願いします。

次回もよろしくお願い致します。

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