24. 空を飛ぶ
前回のお話
少女を治療したら捕まりそうになった。
領主の妻登場。
「皆さん、失礼致しました。・・・イコちゃん凄いわね。」
ようやく泣き止んだミロマリアは感動の表情でイコライズを褒めた。
イコライズも皆に褒められてご満悦だ。自分でも魔力を使っている事が第三者にもわかりやすい身体能力強化が、嬉しくてたまらない。
「そうだわ。レミ様、ラーズリア様も私と一緒にフィールドに来ていますよ。」
「何?ラーズ?・・・あいつが何しに来たんだ?」
レミニスターの言葉から親しい間柄は想像出来るが、目的がわからないと思案顔になる。
「視察って名目ですよ。退屈な王都を出られれば、なんでも良いんじゃないかしらね。ティセちゃんも一緒よ。」
「え!?ティセが来ているの?私、会いたい。」
イコライズは魔力が使えなかったので、他の貴族はもちろん、住民とも交流を持っていなかった。
黙って聞いている優剛もイコライズと交流のある、むしろイコからの好意が感じられるティセという人物に興味が出てきた。
「宿を確保したら屋敷に行くって言っていましたよ。」
「ユーゴはあいつと会わない方が良いと思うが、無理だろうな・・・。」
「ちょっと・・・。怖い事を言わないでよ。」
優剛が恐怖を口にしたその時、部屋の扉が開いて使用人から来客が伝えられる。
「ラーズリア様がいらっしゃいました。客間にてお待ちして頂いております。」
「ふぅー。既に客間か・・・。」
「はい。ラーズリア様を外で待たせるわけにもいきませんので・・・。」
「うむ。その対応で問題ない。ミロ、イコ、一緒に来てくれ。」
3人は立ち上がって客間に移動する。イコライズはティセも一緒に来ている事を確信しているようで、笑顔でレミニスターの後ろを付いていった。
「僕たちは何する?」
「遊ぼう!」
「私も遊びたい!」
「外で?中で?」
「「そとー」」
「それじゃ庭に行きますか。麻実はどうする?」
「私はここで視る魔力の練習をするわ。」
ラーズリアと会わない方が良いと言われたので、帰り際に出会わないように屋敷の正面にある庭は避けて、裏庭に出てきた優剛たち3人は何をして遊ぶか検討中だ。
「とりあえず跳ぶ?」
優剛は由里の両脇を掴んで、上に放り投げる。高さは屋敷の2階を越えるくらいだ。
由里が降りてくる間に真人も同じように放り投げる。
地球では1人ずつで、高さも優剛が手を伸ばした程度の高さまでしか上がらなかったが、今は交互であるが2人同時に、信じられない高さまで投げて、キャッチする事が出来る。
(こういう派手な遊びが出来ると異世界に来て良かったって思うなぁ)
異世界人もここまで派手には遊ばないが、それでも身体を使った遊びの規模は地球に比べたら大きい。
(あっ。閃いた。)
優剛は2人を交互に投げながら、キャッチを繰り返していたが、何かを閃いて大きな空気の板を魔力で作った。そして地面から僅かに浮いた空気の板にゆっくり乗る。
この間も子供たちが落ちてきたらキャッチしては投げてと繰り返している。
(空気の板を作って、浮かせて、乗る。よし、よし。次の段階に進もう。)
次に優剛が作ったのは大きな空気の玉だ。そしてその中に自分が入る。落ちてきた子供をキャッチした衝撃で腕の空気は吹き飛ぶが、すぐに補修する。やがて空気は吹き飛ぶのではなく、衝撃が加わると押し出されるように他の場所に移動するようになった。
(はっはっは。これはイケるな・・・。)
2人を投げるのは止めて「ごめん。ちょっと待ってて」と謝る。既に優剛の足は先程から地面を離れて浮いていた。
「お父さん、浮いているよ!?」
「おとさん!ボクも飛びたい!」
優剛が浮いている事に気が付いて沸き立つ子供たちに優剛は微笑みかけて、「もうちょっと練習させて」と懇願する。
集中が出来れば、その後は早かった。優剛は自由に空を飛んでいた。
(超気持ち良い。)
風で浮かんだ時のような風圧による痛みや不快感は無く、空気の玉に入って、それ自体を動かす事で空を飛ぶ事を実現した。さらに空気の玉に小さい穴をたくさん開ければ、飛んだ時の風も感じる事が可能で、『空を飛ぶ』が実現出来ていた。
「よーし!2人も飛ぼうか。」
そう言って優剛は2つの空気玉を作って、2人を中に入れた。
最初は慎重に2人が入った空気玉を浮かせて、ゆっくりと低い位置を飛んでいたが、やがて速度と高さは上がっていく。
同行していた由里と真人の専属メイドになりつつあるトーナとアイサは、空飛ぶ3人をポカンとした表情で見つめていた。
「トーナさん、私・・・夢でも見ているんですかね?」
「いたた。・・・夢じゃないわよ。」
3人を見つめながら若いアイサがトーナに確認すれば、同じように空飛ぶ3人を見たまま、トーナは頬を抓って夢じゃないと否定する。
ワーワーキャーキャー騒ぎながら空を飛ぶ3人。しかし、真人のある言葉で一時中断される。
「おとさん、競争したい。」
「なん・・・だと・・・。」
優剛は小声で唸るように困惑した。優剛が動かしている空気玉なので、競争は出来ない。接戦を演じる事は出来るが、完全に優剛による自作自演になってします。
「うーん」と腕を組んで地面に降りる優剛。それを追うように由里と真人も地面に降ろす。
「もう終わり?もっと飛びたい!」
「ボクは競争したい!」
(空気玉に中の様子がわかる魔力を混ぜて、身体の動きや力加減で方向や速度を予測するか?あっ!自分で空気玉を作って飛べれば1番良いのか。 )
「2人は空気玉作れる?こういうの。」
子供たちが1人で飛べなければ自作自演でもするかと考えて、まずは自分で飛べるように、優剛が考えた空を飛ぶ方法を教え始めた。
「出来たー」
「由里はこっち方面をかなり練習しているもんね。その中に入って空気玉から出ないように・・・。服みたいに着るイメージで身体を覆って・・・。そう、そう。穴はたくさん空けてね。風が感じられないし、息も出来なくなるかもしれない。」
「むぅぅ。空気に乗れない・・・。」
真人は空気玉を作る事は出来たが、大きな空気玉が薄い為に入ってしまうと乗る事が出来なかった。
「真人はこういう板を作ってそれに乗る練習からが良いんじゃない?」
優剛は浮くスケボーをイメージして、空気の板を作る。そして乗りながらスーッと移動する。
優剛が真人に教えている隙に由里は既に浮いていた。そしてゆっくりと低い位置を滑るように動き出した。
「私、出来てる?」
「由里すごーい!」
「おぉ。凄い、凄い。」
由里と真人は同じような姿勢で地面から低い位置を滑るように飛んでいる。
(なんで真人はあれで転ばないんだ・・・?)
徐々に速度を上げる2人を見て、優剛は真人が板から落ちない理由を考え始める。曲がる時も慣性の法則を無視するように、真人の足が空気の板に張り付いている。
(おぉ!板を厚くして足を埋めているのか!天才か!?)
親馬鹿である。しかし、この発想は省エネという観点では優秀であった。全身を覆うのに対して、足元しか覆っていない真人の方が遥かに魔力消費量は少ない。
「由里も真人も凄いね。そろそろ競争してみたら?」
スタートとゴールを定めて、優剛の「よーいドン!」で同時に地面を滑るように飛ぶ由里と真人。しかし、速度を上げると真人のバランスが崩れて、思うように加速が出来ず、由里の勝利に終わる。
「遅い時は足元だけでも安定感あるけど、速くなってくると全身でバランス調整が出来る由里の方が速いね。」
由里は満面の笑みで少し高い位置を飛び回る。
真人は悔しそうにしながらも、由里と同じ高さを飛び回る。
「真人!手も覆えば少し良くなるんじゃない?」
全身に覆えないなら手だけでもバランス調整用に使えれば良いと優剛は考えた。
しばらく由里よりも遅く飛んでいた真人が、徐々に由里に迫る速度を出し始める。時折、手でバランスを取るように動かしている。
真人は板ではなく、足には空気のブーツを履くような形にしていた。そして、手には大きな指の無い手袋のようにして、それを手首まで覆っていた。
しかし、4つの魔力を器用に扱っていた真人はすぐに降りてきた。
「疲れた・・・。」
「4つも作って、別々に動かしたら疲れるよ・・・。」
空気の板を1つしか出していなかった時は省エネで空を飛んでいたが、4つの空気玉を作って、別々に動かしていたので、1つの時よりも膨大に魔力を消費してしまった。
「ありがとう真人。真人の飛び方も凄く良かったよ。僕には出来なかった発想だからね。」
「え?そうなの?」
悔しそうに座り込んでいた真人は、驚いた表情で優剛を見上げた。
「うん。結果は疲れる飛び方だったけど、それがわかったから良いじゃん。板に乗って飛ぶっていうのは僕よりも省エネで長時間飛んでいられるっていうがわかったよ。」
「そうなんだ・・・。でも由里みたいに飛べるようになりたいなぁ。」
真人は残念そうな表情で空中を派手な動きで飛ぶようになった由里を見ながら言った。
「練習しようか!板が作れたんだから、あとは大きくするだけだよ。」
「そっか。大きくするだけだね!」
「うん。ゆっくりで良いから大きく出来れば由里みたいに飛べるよ!」
優剛は励ますようにしながらも、改善点を克服すれば由里に追いつけると激励した。
「はぁー。ちょっと疲れた。」
優剛と真人が会話しているところに疲れた表情だが、満足気な由里が降りてきた。
「楽しかった?」
「うん!空を飛んだの初めてだもん!」
「みんな初めてだよ。」
3人は空を飛んだ満足感で穏やかな休憩時間を過ごす。しかし、優剛は他人を飛ばす方法も考えていた。
(あの2人で実験するか・・・?)
優剛はチラっと裏庭の端で3人を見守っているトーナとアイサを見た。
「僕はこれからあの2人を飛ばしてみるね。」
優剛は小声で子供たちに伝える。そうすると子供たちは、イタズラ前の楽しそうな表情になって、「驚くね」等々を小声で話す。
「トーナさん、アイサさん、こっちに来て下さい。」
優剛は2人に手を振って近くに呼び出す。2人は素早い歩行術ですぐに優剛の元にやってくる。
(走ってないのに速っ!)
「お呼びでしょうか?」
「はい。2人も飛びたいですか?」
「「え?」」
突然の優剛の問いに固まる2人。
「飛べるなら飛びたいです!」
若いアイサが先に再起動して、自分の欲求を素直に口にした。それを聞いた経験豊富なトーナは、使用人がそんな事を言うものでは無いという表情でアイサを睨んだ。
「わかりました。2人とも飛びたいという事で、飛びましょう。」
「はい!お願いします!」
「え?」
元気な返事で両手を広げて目を閉じるアイサ。
飛びたい気持ちはあるが、これまでの経験が邪魔をして、飛びたい気持ちを表現出来ずに困惑の表情で優剛を見るトーナ。
「最初はゆっくり低い位置を飛んでもらうので、目は閉じないで良いですよ。」
優剛は空気玉の中に入った人の動きが感知出来る空飛ぶ魔力を練って2人を覆った。
「トーナさん!トーナさん!私、浮いていますよ!」
「わ・・・わ・・・私も浮いているわよ!」
トーナは少し浮いた事で、抑えていた感情が爆発。素直な気持ちになり、笑顔でトーナに返答した。
「足で空中を蹴ったり、手で空中を泳でみたりして、身体全体を動かして下さい。」
優剛は目を閉じて、2人の身体の動きに集中する。
膝を曲げて、手を振って大きくジャンプするアイサ。そしてアイサは感動する。
ジャンプしても地面に着地しないのだ。ジャンプしたらジャンプした分だけ、自分の身体が高く上がっていく。
5回ほど空中でジャンプしたアイサは既に3mくらいの高さに浮いて、下を見ながらキャーキャー言っている。
「安心して下さい。スカートは足に張り付かせているので、中は見えないようになっています。」
優剛はハッとした顔で自分のスカートを押さえたトーナに言った。
2人の足にはスカートが密着するように張り付いていて、ほぼズボンのような状態になっていた。
それを聞いたトーナは自分のスカートを触って確認すると、確かにズボンのようになっていた。
トーナは空中を蹴って、低い位置を維持したまま地面を滑るように飛んでいる。そこに両手を前に伸ばして、地面と平行に飛んでいるアイサが並んだ。
「トーナさん!凄くないですか!?私、飛んでますよ!」
「そんな恰好であなた・・・。怖くないんですか・・・?」
「ユーゴ様が操っているんですよね?もし私が失敗しても、助けてくれるので怖くないです。」
確信を持って言うアイサに不思議と納得したトーナは自分も高く飛び始める。
「由里と真人も一緒に飛んだら?誰かと一緒に飛ぶのも楽しいよ。」
「「うん!」」
疲れていたはずの子供たちは嬉しそうに飛び出した。
子供たちが懐いている事に軽い嫉妬を感じたが、楽しそうなので、トーナとアイサに心の中で感謝を捧げる優剛。
4人が一緒になった事でさらなる盛り上がるを見せる。
由里はアイサと一緒にキャッキャと空を飛びながら盛り上がっている。空中で回転して派手な動きで競い合っている。
トーナは真人と手を繋げて笑顔満開だ。足元しか覆えない真人は基本的に立ち姿勢で飛んでいるので、手を繋いで空中散歩のように裏庭を飛び回っている。
優剛はそんな4人を地面に座って穏やかな表情で見つめる。
(平和で幸せだなぁ・・・。)
トーナとアイサの動きの分析の為に、最初は集中していた優剛だが、コツを掴んでからは片手間のように、2人の身体の動きから意思を読み取って空の自由を提供していた。
そんな優剛の幸せな時間は例の来客によって終了を告げる。
「はぁ!?イコ、飛んでるわよ?」
「私も初めて見る・・・。」
1人はイコだが、1人はイコライズより少しだけ背の低い元気の良い女の子だ。2人は仲が良さそうに会話をしながら裏庭にやってきた。
女の子の目鼻はキリっとしていて、綺麗なカッコイイ女性になる素養を持っているように見えた。真っ赤な髪を耳の横で2つに結んでいるだけで、服装も余り可愛く着飾ってはいない。髪の長さも短く、2つに結んだ後ろ髪も肩に触れない程度の長さである。
「ちょっと!どうやって飛んでるの?」
元気の良い女の子が、偶々、近くを飛んでいたトーナと真人に質問した。
トーナは表情を真剣なものに戻して、地面に降り立つと一礼して説明を始める。
「ティセルセラ様、ユーゴ様の魔術で空を飛んでおります。」
「ユーゴ様?誰よ?その子?」
「誰?」という真人の問いをトーナとティセルセラは無視して、トーナが回答する。
「あちらで座っている方でございます。」
「ねぇ!イコ姉さま、この子、誰?」
真人は2人が回答しないので、イコライズに狙いを定めて問いかけた。
「イコ姉さま?そんな風に呼ばせているの?」
「マコト、この子は私の友達のティセルセラよ。ティセ、あんたも弟や妹はいないでしょ。この子に姉さまって呼ばれてみると良いわ。」
少し意地悪な顔でイコライズはティセルセラに言った。
(いつの間に真人にそんな事を仕込んだ・・・。)
優剛は姉さまと呼ばせる事を真人に仕込んだイコライズを少し驚いた表情で見る。
「はぁ?この子に?・・・確かに少し可愛いわね。良いわ!私の事はティセ姉さまと呼ぶ事を許してあげる。」
イコライズの言葉に少し驚いたティセルセラだが、真人の顔をジッと見てから、イコライズが呼ばせているならと思って、自分も姉さまと呼んで良いと許可する。
「え・・・。やだよ。」
だが、断る真人。
(ぶははは。断られてやんの!)
ティセルセラの胸を張って偉そうに許可したが、あっさり真人に断られてしまう。それをしっかり聞いていた優剛は口を押させて笑いを堪える。
「あははは。マコト、私からもお願い。ティセ姉さまって呼んであげて。」
イコライズが膝を曲げて真人の目線により下がって、姉さま呼びを願う。
「うーん。・・・わかった。」
「ありがとね。」
渋々了承する真人に感謝を述べながら頭を撫でるイコライズ。その様子は可愛い弟に優しく言い聞かせる姉のようであった。
「別にもうい・・・。」
「ティセ姉さまは何しに来たの?」
ティセルセラが諦めた時、真人は小首を傾げてティセルセラを見上げるようにして、ここに来た目的を尋ねた。
「ぐっ・・・。」
ティセルセラは片手で胸を抑えて、一歩後退する。
堕ちたな。
真人を可愛がっている為、同様の想いを抱いているトーナとイコライズが目を合わせながら黙って頷いた。
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