21. 鍛冶屋
前回のお話
優剛の悩みを聞く年長者2人。
金属を叩く音がそこら中から響いてくるエリアに、優剛はヒロに連れられてやってきた。そんな中でも通りに面した場所では無く、少し路地に入った家の前でヒロは止まる。
「ここじゃ」
「ここお店なの?看板とか無いじゃん」
ヒロが止まった建物には何かの店を示す看板は無く、建物に入る扉さえも閉まっている。
建物の外観からは全く何の店なのか情報が無い。「一般家庭の住居です」と言われても信じてしまうような外観の建物の扉を押し開けてヒロは中に入ろうとする
「うおぉ!マジか!待ってよ。不法侵入とかならんよね?」
「そんなわけあるか。中に入れば武器も防具も置いてあるから、わかるじゃろう。ほれ、早く入るぞ」
中に入れば狭い店内に武器や防具、盾などが置かれていた。樽に無造作に突っ込まれている剣と槍。壁に取り付けるように吊られている弓と盾。そして木の人形のような物が着ている金属鎧が1着。
「おーい!儂じゃ。ヒロイースじゃ!」
「あぁん!?本当か!違ったらぶっ飛ばすぞ!」
ヒロの名乗りにカウンターの奥にある廊下の先から、物騒で乱暴な言葉が返ってくる。
「おぉ。本当にヒロさんだ。武器なら今朝出来たぞ」
「おぉ!それはちょうど良い時に来たもんじゃ。受け取ろう」
出てきたのは、大きな筋肉に覆われて全体的に太いが、手足が短く、身長は小さい。ずんぐりむっくりで、立派な髭を生やしたおっさんだ。
そんなおっさんはヒロと気軽に会話をして、ヒロの武器を取ってくると言って、再び奥に消えていく。
ヒロの後ろで話を聞いていた優剛に、ヒロが振り返っておっさんの説明を始めてくれた。
「初めて見るか?あれがドワーフじゃ。物作りに長けた種族でな。金属製品はもちろん、あの体型からは想像も出来んくらいの美しい細工も仕上げるぞ」
(へぇー。やっぱりドワーフって名前なんだ。こっちの世界から伝わっている話なのかもな……)
ファンタジー系の話に出て来る種族名と外見の一致に、おとぎ話で飛ばされた異世界人が作った実話が、遠い年月を経て作り話に変わってしまったというような、夢のような妄想が優剛の頭を支配する。
優剛が仮説で悶々としていると奥からドワーフのおっさんが戻ってきた。
「ヒロさん、これはそいつが持つのか?」
おっさんが持っているのは大きくて長い何かを包んでいる布だ。
「ご飯奢って貰ったし、持てって言われれば持つよ?」
「む?飯を奢ると良い事があるのぉ」
「いやいや。ヒロさんが直接来ているって事は、今日も馬車で来てないんだろう?そいつが屋敷まで持って歩くのは無理だろう。っていうかそいつはなんだ?随分ヒロさんと気軽に話すな」
お約束のやり取りである。小さく細い優剛を見れば、誰もが同じ考えに至るだろう。
「こいつはユーゴじゃ。儂の友人だな」
「優剛です。よろしくお願いします」
「友人!?ヒロさんとこんなに若い奴が?本当か?俺をからかって無いか?」
「んー。僕はヒロと友人だと思っているよ」
「儂も友人だと思っているぞ。違ったら少し悲しいのぉ」
優剛は「僕もだよ」と言って、泣き真似の小芝居を始める2人。
「信じられないが、やり取りを見ていると友人なんだろうな……」
「ガッハッハ。ユーゴなら儂の武器を持つだけじゃなく、振り回して使えるぞ」
「あっ。持ちますよ」
優剛はそう言って前に出ると、おっさんから大きく長い物を受け取る。
「これ大きいね。何これ?」
優剛の身長ほどある大きな包みを受け取って中身を尋ねる。
「儂の専用武器じゃ。見るか?」
「おぉ!良いの?布は取っちゃうよ?」
布を引っ張ってクルクルと回し取っていく。
重いはずのヒロの武器を軽々と扱う優剛を見て、おっさんは「細くて小さいのに大したもんだ」と感心の声を呟いた。
「おぉ?敵を吹き飛ばすタイプの武器だね……」
布の中から出て来たのは、持ち手の部分だけが持ちやすいように加工されていて、そこから上は太い五角形に加工された金属性の棒のようなもので、先端は短く鋭利な突起状に加工されており、穿つ事も可能であろう。
「緑のゴリラと戦う時にこれがあったら、状況は違ったんじゃない?」
優剛は初めてヒロと出会った時に、この武器を持っていなかった事を思い出した。
「違ったじゃろうが、戦場で言い訳は出来んよ。ただの監視に同行しただけで、その時から、これはここに預けておったからな」
「ヒロさんが剣を振るとすぐに壊しちまうからな。これも1年に1回は預かって細かい傷や曲がりなんかを修正するんだよ」
「運悪く預けている時にあの騒ぎがあったからのぉ。まぁ、ユーゴが来てくれたから問題なかったがな。ガッハッハ」
「へぇ。兄ちゃんその見た目で強いのか」
「いいえ。強くないです」
食い気味にハッキリ否定する優剛。
「ユーゴは強いぞ。儂より強い。儂は毎朝ユーゴの子供と一緒に庭で倒れ込んでおるよ。ガッハッハ」
「その話が本当なら凄いな。おっと。俺はランドだ。よろしくな」
そう言ってランドは右手を出してくる。そして優剛はランドの右手を握って握手する。
「はぁ?なんだこりゃ?ツルスベの手じゃねぇか。武器なんか持った事ねぇだろ?」
「無いですよ」
バリバリのインドア派である優剛はスポーツも学生時代が終わってからは一切していない。
「ヒロさん、こいつ本当に強いのか?俺をからかうのは止めてくれよ。もういい歳なんだぜ?」
ランドは優剛の手をにぎにぎしてから、顔の近くに寄せてジーっと手の平と甲を交互に観察する。
「うーむ。皆、最初は信じてくれんが、本当に強いぞ」
「うーん。その武器を軽々持っているのを見れば、腕力があるのはわかるぜ。でもやっぱり信じられねぇ。手にマメもタコもねぇぞ。女みてぇに細いし……」
(ぐっ!気にしている事を……。僕もお前らのその筋肉に覆われた骨太の肉体が欲しいさ)
「まぁ、良いけどよ。今日は何しに来たんだ?」
「おぉ。そうだった。10歳くらいの女の子が魔力を使えば曲がるくらいの金属製の棒ってありますか?」
「なんだそりゃ?」
「身体強化の練習で使うんですよ」
「ほぉ。なるほどな。初心者に強化を実感させる為の物か」
「さすが職人さん。話が早いですね」
「うーん。鉄屑でも良いのか?」
「子供が持ちやすく加工されていれば、棒じゃなくても良いですよ」
ランドは思案顔で「うーん」と在庫の金属の事でも考えているのか、唸りながら「アレは?」や「ダメか」などなどを呟いている。
そんな店内に目が隠れるほどの長さに前髪を切り揃えたショートヘアで、オレンジ色の髪をした子供が入ってきた。
「親方ー。戻りましたー。あれ?お客さんっスか?親方が会話しているなんて珍しいっスね」
「あぁ。大きい方が前の領主で、若い頃からの付き合いだ。こっちはユーゴで……ユーゴだな」
「優剛です。よろしくお願いします」
優剛は少年に頭を下げて挨拶する。
「オレはダメリオンっス。親方の下で働いている鍛冶師です。よろしくっス」
口調とは裏腹にかなり丁寧な物腰で優剛とヒロに一礼して、挨拶した後に持っていた荷物を奥に運び込んでいく。
「あいつは知り合いから紹介されてな。今は俺が鍛冶を教えているんだが、勝手に俺から技術を盗んでいくような可愛くない奴だよ。おぉ。そうだ。あいつに兄ちゃんの依頼をやらせよう。あいつならなんでも作れるぞ」
見た目からはドワーフのような印象は受けなかったが、勝手に鍛冶技術を盗んでいくなら凄い才能なのだろう。
優剛は「凄い子なんですね」と感心するように答えた。
「子?子供に見えるが、あいつはもう大人だぞ」
「ほぉ。混血かの?」
「ヒロさんは鋭いなぁ……。そうだ。ドワーフとエルフの混血だ」
「エルフ!?いるの?」
優剛は少し興奮するように尋ねた。
「魔人の血を引いていると主張している種族じゃな。確かに細身の奴も多いが、魔力適正が高い事もあって、身体能力も高い。それに魔術も上手く扱う奴が多いのぉ。種族全体が戦士として通用するじゃろう」
「耳ってなが……・」
「おーーい!ダメオ!ちょっと来い!!」
ランドが優剛の質問を遮るように大きな声でダメリオンを呼び出すと、奥から「今行くっスー」という声が聞こえてくる。
「親方、オレをダメオって呼ぶのは止めて欲しいっス」
「おぉ。この兄ちゃんの依頼はお前が受けろ」
ランドは呼び方を咎められたが、完全に無視をして用件を伝える。
「ユーゴさんのですか?どんな依頼っスか?」
優剛は先程した説明をもう1度ダメリオンにした。
「へぇー。面白い道具が欲しいんっスね。すぐに作れるんで、ちょっと待っていて下さいっス」
そう言ってダメリオンは奥に消えていった。
「あいつは物作りの為に各地で修行していてな。最後が鍛冶ってわけで、俺の工房に来たんだ」
「多才なんですね」
ランドは彼をダメオと呼ぶ割には高く評価している。
優剛はヒロの武器を布に包んで、店内の樽に無造作に入れられている剣と槍を眺める事にした。
「兄ちゃん、その中に大したもんは入ってないぜ。俺は実際に使う奴を見て、武器や防具を作るんでね。人それぞれ手の形も武器の振り方も違うからな」
「おぉ。拘りですね。良いと思いますよ」
「兄ちゃん、武器は持ってねぇのか?」
「持ってないですよ」
「ヒロさんより強いのにか?」
「うむ。間違いなく儂より強いのぉ。3級ハンターにもなった事だし、武器くらい持ったら良いんじゃないかのぉ」
「へぇ。3級かよ。推薦したのはヒロさんか?」
「レミニスターじゃな。儂が推薦したかったが、レミに取られてしもた。ガッハッハ」
「取り合いかよ。超有望じゃねぇか。兄ちゃんはなんか武器使えんのか?」
「ランドさん、僕の手を見てさっき言っていたじゃないですか。武器は使えないですよ」
優剛はツルスベだと言われた手をブラブラさせてランドに見せる。
「あぁ……。確かにな。しかし、短剣くらいなら持っていても良いんじゃねぇか?」
「えぇぇ。……要らな……」
「ユーゴさーん!出来たっスよー」
優剛の断りを遮るようにダメリオンが小走りで、店の奥から出てきた。
「おぉ!早い!これこれ!イメージ通りですよ。ダメリオンさん凄いですね」
ダメリオンが持ってきたのはマジックペンと同じくらい大きさの金属棒だ。
「へへぇ。オレ凄いっスか?へへぇ」
照れるように自分の前髪を撫でるダメリオン。
「おい、ダメオ。もう一仕事しないか?兄ちゃんの短剣を作ってやれや」
「え?いや、短剣は要らないですよ」
「馬鹿野郎。3級ハンターが丸腰じゃ格好付かねぇだろうが」
「えぇぇ?ユーゴさんって3級ハンターなんっスか?全然見えないっスね」
「はい。残念ながら3級です」
優剛はズボンのポケットから黒いハンター証を出して、ダメリオンに見せた。もちろんポケットの中から出したように見えるだけで、異空間から出したのだ。
「おぉ!本物っス。人は見かけじゃないっスね。3級ハンターなら魔力を纏っても壊れない武器が良いっスよね」
「おぉよ。なかなか新規の依頼が来なくて教えてやれてねぇが、兄ちゃんの短剣作りで練習出来るからな。なぁ、兄ちゃん、良いだろう?」
「魔力を纏っても壊れない武器ってなんですか?」
優剛は2人の会話から疑問点を口にした。
「なんだ?知らねぇのか?説明するのめんどくせぇから、その樽の武器使って良いぞ。2本好きなもん選びな」
ランドは樽に放り込まれている武器を指差して優剛に指示する。そして、優剛は適当に剣を2本選んでランドの前に戻ってきた。
「じゃあ1本はここに置いてくれ。もう1本は兄ちゃんが魔力を込めて、ここに置いてある剣を斬ってくれ」
「斬れないでしょ……」
優剛の発言を無視して、ランドは剣の刃部分をカウンターから優剛側に出した状態で、柄を上から抑えつけるようにして、さらに魔力を纏わせて優剛の斬撃を待った。
「ほら、良いから早くやれって」
優剛は持っている剣を魔力で覆うとカウンターから出ている剣に向かって、持っている剣を振り下ろした。
「ぅほぉぉおお。スッパリじゃん。ランドさんって凄腕の鍛冶師?」
綺麗に切断された刃が店の床に落ちるのを見て、3人は驚きの表情を浮かべる。
「兄ちゃん、本当に3級か?魔力に覆われた剣は簡単に斬れねぇんだぞ?まぁ良いや。持っている剣をよく見てみな」
優剛は剣を顔に近づけてジーっと見つめると、斬る時に使った部分が大きく刃毀れしていた。
「ここって元々こんなに刃毀れしていましたっけ?」
「魔力に耐性がねぇ剣だと魔力と魔力がぶつかった時の衝撃に耐えきれねぇんだ。魔力耐性のある剣なら、よっぽど魔力差が無ければ刃毀れしねぇ。それをダメオに作らせてやりてぇんだよ。最初の1本目は失敗するかもしれねぇ。通常の依頼だと納期もあるから、失敗は出来ねぇんだよ」
「あぁ。そういう事ですか。ヒロが良いなら良いですよ。僕はお金持ってないし」
そう言って再びポケットから革袋を出して、中身を2人に見せる。
「うーん。これじゃ魔力耐性の武器は買えねぇな。どうなんだ?ヒロさん」
「ん?良いぞ。買ってやろう」
「キャ。ありがとうヒロ様、素敵」
優剛はそう言って、気軽に短剣の購入を決めたヒロの腕に絡みつく。
「止めんか。気持ち悪い」
腕をブンブン振って優剛を振り払う。その際に優剛は腕にしがみついたので、足が床から離れて、最後は放り投げられるようにして床に着地した。
「よーし。決まりだな。ダメオ、兄ちゃんの寸法測っとけよ」
「はいっス。ユーゴさん、手を見せて欲しいっス」
ダメリオンに手を見せる優剛は再び同じ台詞をダメリオンから聞かされる。
「なんスか。このツルスベの手は。女みたいに細いじゃないっスか。腕も細いっスねぇ」
優剛はダメリオンが子供では無いと聞いていたので、仕返しの材料にしようと年齢を聞いてみる。
「ダメリオンさんって年齢は?」
「……32っス」
子供みたいな外見は本人も気にしているようで、言い難そうに年齢を言う。
「僕は36ね」
「え!?見えねぇっス。嘘っスよね?」
「はぁ!?ダメさんに言われたくないからね?」
仕返ししようと思っていたら、先に口撃された優剛は、純粋なツッコミを入れてしまう。
「ガッハッハ。歳も近いようじゃし、仲良くやれば良いじゃろう」
「短剣が上手く作れたら、ダメオは兄ちゃんの専属だな。ハッハッハ」
それに釣られて2人も笑い声をあげる。
手の寸法などを紙に書き終えたダメリオンは最後に短剣の用途を聞いてきた。
「短剣はどんな用途で使うっスか?」
「斬れて、突けるタイプじゃ」
それに答えたのはヒロだ。
「了解っス。完全に戦闘用っスね。斬るのも想定するなら少し太めになるっスけど、細かい形状はこちらにお任せでも良いっスか?」
「構わんぞ。飾りなども不要で、実用性重視じゃ」
話が終わると、ヒロは前金をいくらか渡して、出来上がったら連絡をするように言って、店を出た。あと追うように優剛もヒロの武器を持って店の外に向かう。
「ダメさん、カッコイイ短剣よろしくね」
「任せるっス。……意外と腕力あるんスね」
優剛がヒロの武器を軽々と持ち上げて運ぶのを見て、思わず呟いてしまう。
「聞こえているからね?」
少し目を細めてダメリオンを見ながら店を出る優剛。
ははっと苦笑いをして手を振るダメリオン。
「ヒロ、ありがとうございます」
店を出た優剛はヒロに頭を下げてお礼を言った。短剣の代金は全てヒロ持ちだからだ。
「何を言っておる。短剣くらいならいくらでも買ってやるわい」
「それでもありがとね」
「ユーゴに渡す報酬から引いておくから、本当に気にするでないぞ」
「あぁ。そっか。じゃあ良いのか」
「いや……。冗談じゃよ……」
そして服屋に向かう際に事件が起きる。
服は何でも良いと考えているヒロは服屋を知らなかったのだ。服を作る際は職人を屋敷に呼んで寸法を取るので、そもそも服屋に行った事が無いと言う。
それを知った優剛はすぐに鍛冶屋に戻って、ランドとダメリオンからお勧めの服屋と場所を聞いて、そこならヒロもわかるという事で、今度こそ服屋に向かう事になった。
無事に服屋に到着した優剛は店の看板で店名を確認して、ダメリオンから教えて貰った服屋である事を確認した。
すぐに優剛は店に入ろうとするが、ヒロが若干躊躇している。
「ユーゴ、儂は服屋に入った事が無いから、その……。なんじゃ」
「何?恥ずかしいの?ほら、行くよ」
優剛は太いヒロの腕をガッチリと掴むと引きずるようにして、ヒロと一緒に店に入る。
「いらっしゃいませー」という女性の店員が優剛とヒロを見て、驚きの表情で固まってしまう。
巨体の前領主が小さく細い男性に腕を掴まれて、引きずられるようにして入店してきたのだ。しかもその細い男性は大きな布で包まれた棒状の何を持っているのだ。
「ヒロイース様、本日はどのようなご用件でしょうか」
固まってしまった店員とは別の、妙齢の女性が出て来てヒロに用件を尋ねる。
「用があるのはこいつじゃ。儂は付き添いなだけじゃ」
ヒロは少し恥ずかしそうに顎でクイっと優剛を示す。
「大変失礼致しました。ご用件を伺います」
「はい。ありがとうございます。この服と似たような服を作って欲しいんです」
優剛はヒロの武器に巻き付いている布に手を突っ込むと浴帷子をズルズルと引き出して、何食わぬ顔で自分の要求を告げていく。
しかし、服を作るとなると、素材選びから服の柄など、多くの事を選ばなくてはならなかった。そんな事に興味も無い優剛は早々にギブアップして、自分のイメージを伝えると、浴帷子と帯を渡して、店員にお任せした。
ちなみに寸法を測っている時にヒロが「じゃから服屋は嫌いなんじゃ」と呟いていた。
ヒロも服を作る際の素材や柄、デザイン選びが苦手のようだった。
「普段着に使いたいので、その服みたいに薄い生地は止めて下さい」
最後にもう1度重要な事を言って、依頼は完了だ。浴帷子のように生地が薄いと透けてしまって普段は着る事が出来ないからだ。
「承りました。いつまでにお納めすればよろしいでしょうか」
「うーん。急ぐ物でも無いので、出来たら領主の屋敷に連絡を下さい。お金はこれで足りますか?」
優剛は革袋を広げて店員に中を見せる。
「これだけあれば高級な素材を使って、飾り縫いなども可能です」
「そういうのは要らないんで……。うーん。では、とりあえず3着お願いします」
優剛が微妙な手つきで革袋の中から銀貨を出すと、「十分です」と言って1枚で止められた。さらにお釣りを銅貨で6枚貰う事になった。
(服って安いのかな?わからんなぁ……)
服は新しく作ると割高である。工場も無ければ、機械も無いので、1つ1つ職人が手作りしていれば当然だ。古着屋に行けば安価で服は買えるが、気に入った服や大きさが合う服を探すのは苦労するだろう。
柄に拘りも無ければ、素材の指定も無い。デザインも非常に簡単なので、優剛の依頼した浴衣は通常の服に比べたら安かったのだ。
「楽しみにしていますねー」
そう言って優剛は店を出ていく。
当然ヒロも足早に優剛の後を追う。中からは「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」という声が聞こえてきた。
服を買ってもいないのにグッタリしているヒロと、浴衣の完成が待ち遠しいような笑顔を浮かべた優剛。対照的な足取りで2人は屋敷に戻っていく。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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