20. お悩み相談
前回のお話
騎士団訓練場見学ツアー
騎士の戦闘力確認と弓TUEEE
騎士団の見学を終えた優剛とヒロはすぐ近くにある信長の屋敷にやってきた。
優雅「ただいまー。」と言って、屋敷の玄関に手をかけると、「おかえり。開いとるぞ。」という声が聞こえてくる。
屋敷に入れば正面に進んで広間に出ると、ソファーに座って会話を始める。
「信長さんはどこから見えているの?」
「屋敷の敷地内であれば見えるぞ。遠いと精度は落ちるが、田中家とトーリアはすぐにわかる。だから田中が入ってきたのを確認して、鍵を開けておいたのだ。」
「信長さんの印象が未来に伝わっているものと全然違うんですけど・・・。」
短気で傍若無人。鳴かないホトトギスは殺せば良い。そんな信長像が伝わっているので、優しく、気も効く信長が優剛には想像出来なかった。
「当たり前だ。死ぬまで強い指導者でいられると思うな。それに俺はもう死んでいる爺さんだ。田中の世話を焼くのも悪くないぞ。はっはっは。」
「それは嬉しいですけど、織田信長ですからね?慣れないもんですよ。」
「すぐに慣れる。それに田中は強いであろう?この世界の戦は数より質だ。1人の戦士が千の軍勢を蹴散らすのも不可能ではない。日本でもこの世界でも俺には無理だった。そんな田中に仕えていると思えば名誉な事だと思えて来るぞ。はっはっは。」
「そんな物騒な事は出来ないし、しませんって。完全に良いお爺ちゃんじゃないですか・・・。」
「おぉ!良い響きだ。もう1度言ってくれ。」
「ノブさんは凄く良いお爺ちゃんですよ。」
「はっはっは。良いぞ。良いぞ。待った甲斐があったぞ。ここに来たのが田中で本当に良かった。気に入らない奴だったら、電撃でも浴びせてやろうと思っていたからな。はっはっは。」
非常に上機嫌な信長と優剛は苦笑いしながらも、徐々に気安く会話が出来るようになっていく。
「それで?今日は何しに来たんだ?」
「特に用は無いですよ。隣の騎士団訓練場にヒロと一緒に行ったから、挨拶だけでもって思ったんです。」
「くっくっく。特に用も無いのに来たのか。・・・訓練場に行った目的はなんだ?」
信長は笑いを噛み殺すような声の後に目的を聞いてきた。
「異世界の兵士の戦闘力確認と飛び道具の脅威を確認する目的です。」
信長は優剛の回答に感心するように「ほぉ」と言ってから、「田中らしくない目的だな」と付け加えた。
「僕たちの世界では銃が主力武器でしたからね。ちなみにノブさんが日本の戦争を変えたんですよ。」
「はっはっは。あれば脅威だったからな。あの音がすると隣の仲間が倒れるのだ。音で恐怖を煽り、さらには致命傷も与える事が出来る。しかし、こちらの世界では威力不足だ。魔力を込めていない武器は脅威にはならない。」
「僕も同じ結論に達しました。銃を持つなら槍で突くっていうヒロの言葉にも納得しましたよ。飛び道具は牽制くらいにしかならない。だけど、戦争するなら魔装が苦手な人もいるだろうから一定の成果は期待出来る。遠距離武器の弓や銃の重要性は大きいとは思いますが、弓が強すぎて銃や火薬の優位性は低くなっていますね。」
「ふむ。田中はそういう事も考えるのか。」
優剛の話を黙って聞きながら信長は少し感心するような声で返す。
「この世界の戦闘力を知る事は家族を守る為に必要な情報ですからね。どの程度の強さを身に付ければ、理不尽な死や選択をしないで良いのか?という指針になります。」
「戦を知らない優しいだけの男ではなかったか。」
「ユーゴ、儂も感心したぞ。」
「しかし、田中。お前は人を殺せるか?」
2人は感心するように優剛の話を聞いていくが、信長からの問いに優剛は固まる。
「・・・正直難しいと思います。飛び道具なら殺せると思いますが、人を殺す感触が伝わる近接で殺すとなると、最初の1人目は躊躇いもあるでしょうね。」
優剛は言い難そうに殺せない可能性を示唆する。そんな優剛に年長者の2人は「うーむ」と唸る。
「俺は戦国を生きていたからな。殺さなければ殺される。この手でも殺しているし、家臣や兵が俺の命令で罪の無い人間も殺している。平和な世で生まれ育った田中の気持ちは正直わからん。」
「儂もノブナガ様と同じじゃ。敵を殺さない事で自分が殺された後は、家族が理不尽に殺されるか、死ぬより酷い目にも合うかもしれない。それが戦であり、盗賊などに遭遇した時の戦いも同じだからな。」
2人の年長者は優剛に優しく語りかけてくれた。
「うん。ありがと。実際その時が来た時に殺す事を躊躇わないように、僕は準備しないとね。何より大切な家族を守る為に・・・。」
「うむ。この世界に生きる者として、前領主してもユーゴの生まれ育った平和な世界と違って申し訳ないとは思うが、大切なモノを守る為には力が必要な世界じゃ。」
「あー、ごめん。僕が生まれ育った日本は平和だったけど、世界全体で見れば戦争もあるし、危険な国や地域もあるから気にしないで。それに日本でも犯罪者がいない訳じゃない。そいつらに襲われていたら、家族を守る為に僕は人を殺す可能性があったわけだしね。」
「家族が守りたいならユーゴは簡単には死ねないのぉ。」
「そうだな。俺も守ってやれるのは屋敷の中だけだしな。」
その後も優剛の悩みのようなものに2人は優剛の話に耳を傾けて、年長者らしく数々の助言を優剛に与えていく。
「異世界に来て曖昧だった部分が明確になった気がするよ。話を聞いてくれてありがとう。」
「若輩者の話を聞くのは年長者の役割だ。はっはっは。」
「その通りじゃ。大いに悩んで強くなれユーゴ。ガッハッハ。」
頼もしい2人に優剛は感謝の気持ちを抱くと一緒になって「ははは」と笑い声を出した。
「ヒロ、この後はどうする?屋敷に戻る?」
「ん?特に予定は無いのぉ。ユーゴは何かやりたい事は無いのか?」
優剛のお悩み相談会が終わって、時刻はお腹が空いてくる昼飯時。この後はどうするのか優剛とヒロが話し合いを始める。
「イコの身体強化の練習用に細い金属の棒が欲しい。魔力を使わないと曲げられないくらいの棒ね。ヒロなら魔力を使わなくても曲げられそうだけどね。」
「ガッハッハ。鍛えた肉体があれば細い金属棒なんぞ曲げられるぞ。・・・うーむ。細い金属の棒か・・・。」
ヒロは魔力を使わなくても曲げられるとマッスルポーズを決めて宣言する。その後に思案するように顎ヒゲを撫でる。
「儂の武器の手入れを依頼している鍛冶屋にでも行ってみるか。」
「ん?いつもその剣を持っているよね?その剣がヒロの武器じゃないの?」
優剛はいつもヒロの腰にある剣を指差した。
「この剣は飾りじゃ。儂が全力で振ればすぐに壊れてしまう。」
「へぇー。じゃあ行ってみよう。あと服が欲しい!お金は少し持っているよ。」
優剛は治療費として手に入れた革袋を異次元空間から出して、ヒロに見せつける。
そして、やはりと言うべきか、その行為を初めて目撃した信長が声をあげる。
「田中、今どこから出した?」
「異次元からですよ。」
「うむ。ヒロイースよ。こいつは何を言っているんだ?」
優剛のお悩み相談会で少し打ち解けていたヒロに信長は説明を求めた。ヒロは丁寧に優剛が作り出した異次元収納魔術について信長に説明した。
「魔人の魔術か・・・。田中がこれから何を成すのか楽しみだな。はっはっは。」
話を聞き終えた信長は感心するように大きく笑った。
「服なら日本風で作った俺の服が2階に保存してある。田中なら気に入ると思うぞ。」
「おぉ!和服!?それ着て良いんですか?」
「着ても良いが、田中は俺より背が高いから大きさが合わないだろう。気に入れば服屋に持って行って作ってもらえ。」
「おぉ!神様、仏様、信長様。」
「はっはっは。大げさな奴だ。こっちだ。」
信長は部屋の広間に入ってすぐにある階段付近の照明を付けて、優剛を2階に誘導する。
広間を見渡せる渡り廊下から扉を開けて2階の廊下に出ると、すぐにまた別の扉があった。
「その扉の向こうは土足厳禁だ。扉を開けた先で靴は脱ぐようにしろ。田中が住む時はその扉の向こうがお前たちの部屋になるな。」
優剛は信長と話しているばかりで、屋敷の全体を見て回る事も、中央の広間以外の場所に行った事が無かった。
信長やヒロ曰く、「主は必要な場所だけ知っていれば良い」との事で、優剛を広間に拘束していた。
「へぇー」と言ってから「行っても良いか」聞いても、今は倉庫だと言われて扉の向こうに行ける事は無かった。
「ここが倉庫だ。俺が使っていた武器や防具などの魔道具は全てフィールド家に寄贈したから、その他の雑貨や普段着なんかは全てここにある。」
「箪笥だ・・・。箪笥がある。」
レミニスターの屋敷は全てがクローゼットになっていて、服はハンガーで吊られている。
日本の優剛の家にも箪笥は無かった。スーツやコートなどが吊られたクローゼットの下部にチェストを並べ重ねて、その中に服を入れていたので、久しぶりに箪笥を見た優剛は懐かしさを感じていた。
「その箪笥は魔道具だ。中に入っている衣類が傷む事は無いだろう。」
その言葉通り、中に入っている和服の数々は傷んではいなかった。しかし、服を優剛が自分の身体に当てて大きさを確認すると、確かに小さい。
しかも、どうやって着たら良いのかわからない和服が多く、優剛は困惑していた。
「もっと気軽な普段着は無いんですか?浴衣とか甚平みたいな。」
後ろに付いて来ていたヒロは浴衣や甚平という名に馴染みが無いのか首を傾げている。
「うーむ。未来の日本ではもう着ないのか・・・。」
「ほとんど着ないですね・・・。」
残念そうな信長の声に申し訳なそうに優剛は答える。
そして箪笥を探り続けた優剛は遂に目当ての服を見つける。
「これですよ!」と言って浴衣を掲げる。
「湯帷子ではないか。そんなものを普段着るのか?」
「湯帷子?これを着てお祭りとか行きますよ?あれ?薄いな・・・。」
「それは周囲の目がある状況で風呂に入る時や、湯上りに水や汗を吸わせる服だぞ。普段着ではない。」
信長の解説に「むぐぐ」と呻く優剛。
「普段着用の素材で作れば良い!」
着ていて楽な浴衣が着たい優剛は開き直った。普段着からズボンにベルト。シャツは当然ボタンで留めるタイプで袖までボタンで留める。Tシャツにスウェット上下を愛用していた優剛には普段着にそれらを着ているのは若干辛かった。
「俺からしたらよくわからないが、時代が違うという事か・・・?」
「ユーゴはそれを着るのか?」
優剛と服装に関してジェネレーションギャップを感じる年長者2人。
「これは着ないよ。色々直すから服屋と相談するよ。じゃあノブさん、これは貰って行くね」
「「うーむ。わからん。」」
優剛はハモる年長者を無視して、異次元に薄い浴衣と適当に選んだ帯を入れて倉庫を出た。
「ご飯食べに1度戻る?」
「このまま外で食えば良いじゃろう。向こうも時間になれば勝手に食べ始めるわい。」
「おぉ!外食良いねぇ。ヒロ様、連れて行って下さいな。」
優剛はヒロに対しては普段使わないような言葉と仕草でヒロの誘いに乗った。
「ガッハッハ。飯を食って、鍛冶屋に行ってから服屋の順番で良いな?」
「オッケー。それで行こうか。」
「いってきまーす」の声と共に屋敷を出る優剛を「いってらっしゃい」と送り出す信長。
挨拶は優剛と信長で認識と言葉を合わせていた。未来に合わせるのが良いだろうと信長が優剛に合わせる形で収まっていた。しかし、挨拶が出来る喜びを感じている信長の声は少し弾んでいるようにも聞こえてくる。
(400年以上1人だったし、日本にいる時も無事に帰れるかわからない中で、家を出ていたから、今みたいな気軽な挨拶は嬉しいだろうなぁ。)
ヒロに連れられてやってきた大衆食堂は昼時という事もあって大きく賑わっていた。
「ここは量が多くて、美味いぞ。」
「みんなと比べると僕は食べない方だよ・・・。」
普段からどんぶり茶碗に盛り上がっている白米を豪快に平らげるヒロとレミニスター。さらにおかわりも2,3回している。
「食べないとでかくなれんぞ?ガッハッハ。」
「もう成長終わっているから太るだけだよ・・・。」
「では筋肉を付けろ。ガッハッハ。」
ヒロは笑い声をあげるたびにバシバシ優剛の肩を叩く。
周囲はヒロに気が付いた客たちがチラチラ見て来るだけで、声は掛けてこない。
聴覚強化で話を聞けば、ヒロはここの常連との事だ。
そこに注文を取りに店員がやってきた。
「ヒロイース様、いらっしゃいませ。いつもご利用ありがとうございます。」
「うむ、うむ。ここは量が多くて、美味いからのぉ。儂はいつものを大盛で頼むぞ。こやつにも同じ物を頼む。」
「僕は少なめでお願いします。」
ヒロの注文が終わってすぐに優剛は自分の分を少なめに訂正する。第六感が告げているのだ。このままヒロと同じ物を注文してはならないと・・・。
(量が多いお店で大盛だと?フラグとしか思えない・・・。)
そしてテーブルに運び込まれた料理は優剛の予想通り大盛だった。いや、てんこ盛りだった。
それらは質素で彩の良い和食のイメージを根底から覆す。大きなどんぶりに山のように盛られた白米。同じどんぶりに並々と注がれている具沢山の味噌汁。小皿ではなく、大皿に並べられた多くの漬物。そして最後に巨大なステーキ。
(あぶねぇぇえ!食い過ぎだろ異世界人。)
周囲のテーブルにも似たような量の料理をガツガツと大柄な男たちが平らげていく。
「少なめで注文するからそうなるんじゃよ。それでは足りんじゃろ?なんなら儂が言って量を増やして貰おうか?」
「大丈夫だよ。十分だから。十分。」
日本の一般的な茶碗に盛られた白米と控えめな味噌汁。小皿に乗せられた数枚の漬物。そして、300g程度の厚切りステーキ。
「あの・・・、ここの人たちはみんな、この量を食べるんですか?」
優剛は料理を持ってきてくれた店員にヒロの料理を指差して聞いてみた。
「まさか。普通の人はこんなに食べませんよ。うちに来る人たちは肉体労働者やハンターたちですから。」
「ですよね。普通は僕くらいですよね。」
「んー。男性ならもう少し食べると思いますよ。」
「そ・・・そうですか・・・。でも僕はこれで十分なので、追加は無しです。」
「そうですか。ご飯はおかわり自由ですので、必要な時は呼んで下さい。ごゆっくりどうぞ。」
そう言って店員は忙しそうに次の仕事に移っていく。
毎回食事に出て来る肉は美味しく、優剛は非常に満足していたが、何の肉かは聞く事が出来なかった。
(肉はなんの肉なのかわからないけど、美味しいんだよね・・・。まだ、怖くて聞けないけど。)
食事に満足して店を出れば、元気な声で「ありがとうございましたー!」という声が店の中から聞こえてきた。
優剛も昼食をヒロに奢って貰ったので、「ごちそうさまでした」とヒロに頭を下げる。
「ん?なんじゃ?」
「ご飯を奢って貰ったらお礼だよ。こっちでは言わない?」
「なんじゃ礼か。礼はするのぉ。気にするな。よし!では鍛冶屋に行くぞ。」
「はーい」と言ってヒロの後をついて歩く優剛。その姿や仕草は小間使いのようでもある事から、店員や街の住人からはヒロの新しい付き人か何かだと思われていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
気が付けば20話まで来ました。ブックマークして頂ける方がいて嬉しい限りです。
そしてブックマークが減って悲しい気持ちにもなりました。
ブックマークの増減で一喜一憂した私は、もっと多くの魔人の皆様に読んで頂きたいなという欲に気が付きました。
どうやって布教しよう・・・。
皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。
評価や感想お待ちしております。ブックマーク登録も是非お願いします。
次回もよろしくお願い致します。




