15. ハンター
前回のお話
第六天魔王登場!
ハンター登録してこいや。
ハンターズギルドは子供の行く場所では無いというヒロの執事から進言があった事で、真っすぐにハンターズギルドには向かわず、領主の屋敷まで戻ってきていた。
そして、昼食の時に事件が起きる。
「父上、ユーゴをハンターに推薦すると言うのは本当ですか?」
「うむ。ノブナガ様もハンター登録を後押ししてくれてな。飯を食い終わったらギルドに行ってくるぞ。」
「待ってくれ。俺がギルドに行って推薦する。父上がユーゴを推薦する必要は無い。」
「何を言っておる。儂はノブナガ様からユーゴをハンターにするように頼まれておる。ユーゴがハンター証を持つまで見届ける必要があるぞ。」
「では、ギルドまで一緒に来てくれ。推薦は俺がする。」
「レミは忙しいじゃろ?推薦は儂がするから、仕事でもして待っておれ。」
「いや、ユーゴをハンターに推薦出来るなら、仕事は後回しにする。」
昼食が終わっても決着は付かず、2人はどっちがユーゴを推薦するかで揉めている。
「・・・ハンター業はしないから、どっちでも良いよ。」
優剛の呟くような声が2人に届くはずもない。
もうすぐ夕方になる時刻、ようやくレミニスターが推薦する事で決着がついた。決め手はレミニスターが最後に放った「引退しても父上は名誉が欲しいのか?」だった。
「別に要らんのぉ。」この言葉をヒロから引き出したレミニスターは畳みかけるように、ギルドにはヒロも同行して優剛のハンター証を確認すれば良いという流れになった。
「よし。着いたようだな。」
馬車の窓から見える白い石壁で出来た大きな2階建ての建物。止まった馬車の中で、ハンターズギルドに着いたとレミニスターが優剛に声をかけた。
「あぁ・・・。着いちゃった?ハンターになっても仕事しなければ、除籍とかあります?」
「仕事をしないだけで除籍など無いぞ。ハンターになりたいやつは山ほど居ると言うのに・・・。さぁ!さっさと行くぞ。」
「はーい」優剛はレミニスターに気の抜けた返事をして、馬車から降りるヒロとレミニスターの後ろについてハンターズギルドに入った。
登録は時間が掛かるという事でギルドに来ているのは優剛とヒロとレミニスターと何人かの使用人だけだ。麻実や子供たちはお留守番である。
ギルドの中は入ってすぐに銀行のような受付窓口がいくつもあって、それぞれが何の為の窓口かわかるように天井から小さな看板がぶら下がっていた。
時刻は夕方。多くのハンターが完了報告に来ているのか、各窓口にはヒロやレミニスターに負けない体格の男たちで賑わっていた。
右端は飲食も出来るようなスペースになっており、何人かの体格の良いハンターたちが何やら話し合っているのが見える。
(みんなでかいなぁー。でも良かった。ギルドに入っていきなり絡まれる事はなかった。)
ハンター=荒くれ者の公式を持っていた優剛はいきなり絡まれる事を想像していたが、賑わっている事で優剛たちを気にする者も無く、少し安心した。190㎝もある体格の良い軍人みたいなハンターに絡まれたら全力で逃げ出す事も考えていた。
「ほれ。あっちじゃ。」
ヒロは一番左端にある窓口に向かって歩みを進めていく。
一番左端は新規登録用の窓口で、賑わっている時間ではあるが、そこだけ誰も居なかった。
「ヒロイース様、レミニスター様。ようこそお越し下さいました。そちらの方のご登録ですか?」
窓口に向かうヒロとレミニスターを見つけた40歳ほどの清潔な女性が、小走りで窓口に駆け寄ってきて、挨拶と来訪の目的を問いかけた。
(さすが有名人。窓口に着いただけで話が進むのか。)
「そうじゃ。こいつの推薦登録に来たぞ。推薦するのはレミニスターじゃ。」
「畏まりました。ではレミニスター様がこちらの書類にご記入下さい。後ほどレミニスター様の身分証をご確認致しますので、ご準備をお願い致します。ご登録される方はご説明がありますので、一緒に来て下さい。ヒロイース様、レミニスター様、少し失礼致します。」
女性は一番端のカウンター部分を上に動かして窓口から出て来て、優剛を2階に誘導する。
(あれ?こういうのって登録者が記入するんじゃないの?)
困惑するユーゴを無視してレミニスターは女性から書類を受け取って、窓口のカウンターで書類を埋めていく。
「レミよ、儂はあっちで茶でも飲んでおるから、終わったら来い。」
「わかりました。父上。」
優剛は2階にある部屋まで誘導された。
「ではこちらの部屋で少しお待ち下さい。すぐに担当の者が参ります。」
「はい。ありがとうございました。」
部屋の窓際に1つのテーブルを挟むようにして椅子が2つ向かい合うように置かれた6畳ほど部屋だった。
優剛は椅子座っていて良いよね?と心の中で誰かに確認してから、椅子に座って窓の外をボーっと眺めていた。
扉をノックする音で優剛は眺めていた窓とは反対側にある扉に顔を向けた時には1人の男性が部屋に入ってきた。
「君がレミニスター様の推薦で新しくハンター登録する人ですね?私はハンターズギルドのフィールド支部長のエモーだ。よろしく。」
「ユーゴです。よろしくお願いします。」
エモーは柔らかい話し方が似合わないほど体格が良く、緑髪に無精ヒゲの似合うナイスガイだった。
「早速ハンターについて説明するか。30分くらいかな?長い人だと1時間くらいかかるかな。ははは」
「フィールド支部長って事は、この街のギルドで1番偉い人ですよね?そんな人が説明の担当者なんですか?」
「推薦登録は少ないんだ。それにレミニスター様の推薦だからね。説明の担当者にギルドマスターとして確認したいと無理を言ったんだよ。」
「そうなんですか・・・。よろしくお願いします。」
「そんなに畏まらなくても良いよ。」
再び頭を下げる優剛にエモーからハンターについての説明が始まった。
ハンターに登録する為には特に手続きは必要が無い。登録した直後は等級なしに区分されて、実績を積む事で5級に区分され、徐々に等級を上げていく。
しかし、3級になる為には2級以上のハンターか、2級に準ずる地位や役職を持っている者の推薦が必要になる。推薦の権限を持つ者は半年に1人だけ3級ハンターに推薦が出来る。
3級以上のハンターが大きな実績を残せば推薦者の名前と共に掲示板などに貼りだされ、情報が流れる。また、悪い事をしたハンターも推薦者の名前と共に掲示板などに貼り出され、情報が流れる事になる。
仮に3級以上のハンターが賞金首になれば、推薦者が捕まる事も命を狙われる事も無いが、賞金首リストに賞金首の名前と共に推薦者の名前も記載される。
3級以上のハンターには常に推薦者の名前が付いて回る事になるので、軽々しく推薦するような事はしない。推薦した者が悪評を振り撒けば推薦者も同じように悪評を受ける事になるからだ。
3級ハンターになりたい者は既に2級以上のハンターである者に弟子入りしたり、同じチームで行動したりする事で信用を得る。または、4級で実績を積み続けてギルドマスターなどから推薦を貰うのが通常の道になるが、信用を得ても推薦となると二の足を踏む者が多い。
ハンターの情報はギルドに依頼すれば閲覧する事が可能で、実績はもちろん。誰に推薦されて3級ハンターになったのか。推薦した者は誰で、過去に何人推薦しているのか。そういった情報も公開されているので、簡単には推薦しない。
悪党を推薦して自分の評判や信用が落ちれば、割の良い依頼を受ける事が出来なくなってしまうからだ。また、悪党の推薦を続ければ、推薦者も降格や推薦権限が剥奪される。
ハンター業は高い報酬である指名依頼は信用が無ければ指名を受ける事が出来ない。護衛を依頼するにしても、評判の良いハンターに依頼したいのが、依頼人の要望になるのは当然である。
(僕を信用して推薦してくれるのは嬉しいけど、ハンターの仕事は遠慮したいな・・・。)
「難しい顔をしているね。どういう理由で君を推薦したのかは知らないけど、レミニスター様には感謝すると良いよ。」
優剛は「そうなんですかぁ」という気の抜けた返事を返す。
「説明を続けるね。」
ハンターであれば等級に関係なく掲示板に貼り出されている依頼を達成すれば報酬を手に出来る。掲示板に貼り出される依頼は大きく分けて2つ。
依頼された物を持って来れば達成出来る依頼。これはギルドに納品すれば達成。そして報酬がギルドから支払われる。
護衛依頼であればギルドの仲介で依頼人と面談をした後に合否が伝えられる。報酬は依頼人と共に目的地近隣のハンターズギルドに同行して、そこで報酬が支払われる。
掲示板に貼り出されない依頼はギルドで依頼内容を吟味して、各ハンターに指名依頼する。または、依頼人が直接ハンターを指名依頼する。この時にハンターの実績や等級が加味されることになる。
ギルドが仲介をしない依頼もある。これは依頼者が直接ハンターに声をかけて依頼をするのだが、ギルドが仲介しないので、様々なトラブルを懸念して、依頼人もハンターも好んではいない。
「ここまでで何か質問はあるかい?」
「等級を上げる利点はなんですか?指名依頼と推薦ですか?」
「うーん。ハンターになりたい人はみんな知っていると思ったよ。まぁ、良いけどね。等級について説明しよう。」
4級までは登録した支部の街でのみ活動が出来る。他の街では4級のハンター証は使用出来ず、街に入る為には税金や審査が発生する。他の街で活動したい場合は等級なしから再登録になる。複数の街のハンター証を持っているハンターも珍しい事ではない。
3級になると待遇は一変する。どの街にも無料で入る事が可能で、審査も緩い。国の往来も比較的自由になる。しかし、3級になる為には推薦が必要な為、3級以上のハンターは極端に数を減らす。
「3級ハンターって凄いですね・・・。」
「ユーゴ君は推薦登録だから3級からスタートになるね。4級で燻ってるハンターには気を付けてね。推薦が欲しいハンターは大人しいのが多いけど、諦めちゃっているハンターは野犬みたいに噛みついてくるからね。ははは。怖い、怖い。」
全然怖そうな口調と態度ではないエモーが4級の荒くれハンターに注意するように優剛に助言した。
「ここからはハンターの規則とか心得みたいなものだね。」
興味の無いハンターに関する事を聞き続けて限界を迎えた優剛。エモーの説明は続いていたが、優剛は殆ど聞いていない。絶妙なタイミングで「はい」や「あぁ」とわかった振りをして話を流し続ける。
「・・・最後に何か質問はある?」
優剛は表情には出さないが、ハッとしてエモーの言葉を脳内で反芻する。
(質問?質問ある?って聞いてきた?やべっ全然聞いて無かった。)
「あー。強制指名依頼についてなんですけど・・・」
「強制指名依頼?ギルドや依頼人がハンターに依頼を受けるように強制するって事か?」
「そうです。」
優剛は絞り出すように依頼を強制される事はあるのか質問すると、エモーは真剣な表情で答えてくれた。
「それは無いね。ハンターは命の危険も少なくない。依頼を受けない判断は尊重されるべきで、依頼を受けるように強制するのはギルドが許さない。」
「それなら良かったです。ありがとうございました。」
「ユーゴ君はそんな依頼を想定するなんて、自分に自信があるんだね。」
「逆ですよ。自信が無いから強制依頼されても達成出来ないっていう不安です。」
「あはは。まぁ良いけどね。他に質問が無ければ、説明は終わりだよ。ハンター証を作るから移動しよう。」
エモーの後ろに付いて廊下を歩いていると、ハンター証を作っていると思われる部屋の扉を開けて「準備は出来ているかー?」と中に入っていく。
優剛もエモーの大きな体の後ろに隠れるように「失礼しまーす」と小声で言いながら部屋に入っていく。
「準備出来ていますよー。その人が新しく3級ハンターになるユーゴさんですか?」
肌が白く、赤茶色のロングヘヤーが似合っている女性がエモーに軽い口調で返答した。
部屋の中は100個ほどの小指の爪サイズの小さな立方体が棚に納められており、座っている女性が使っている机の上には1枚の黒い無地のカードと複数の立方体が置かれていた。
「はい。僕がユーゴです。」
「うーん。細いし小さいわね。すぐ死んじゃいそうだから自己紹介は今度にしましょうか。あはは。」
「悪いなユーゴ。こいつはミドリナ。3級以上のハンター証の作成と更新作業を担当している。初回以外は会う事も無いから気にするな。」
はぁ。という気の抜けた返事を返す優剛。そもそもハンターの仕事をするつもりが無いので、すぐに死ぬと言われても、なんとも思わないのである。
「えぇ?言い返しても来ないの?ヘタレ?まぁ登録料とハンター証作成費がお手軽に稼げて得したと思えば良いかー。このカードの端を触って魔力流してそのまま維持してて。」
優剛はイライラする事も無く、ミドリナの机に置かれたカードの端に触れようと手を伸ばす。
「ねぇ。ヘタレ君は家名あるんだね。意外、意外。名前はこれであってる?」
ミドリナは軽く悪口を言いながら、紙に書かれたユーゴタナカの文字を見せて名前の確認をしてきた。
「はい、はい。合っていますよ。」
「・・・全然怒らないのね。ハンターには珍しいタイプだわ。でもこれからは3級ハンターなんだからビシっとしてよね。」
「ヘタレなので、大丈夫です。これで良いですか?」
優剛はカードの端に触れて魔力を流した。
「良いわよ。ちょっとそのまま待ってなさい。」
ミドリナは立方体の並びを再確認して、カードの上に置いた。
(カードは金属かな?立方体は活版印刷みたいに使ってカードに名前を彫るのか。)
ミドリナは立方体を順番にカードに押し付けながらカードに文字を彫り込んでいく。名前を彫り終わるとミドリナは口を開いた。
「エモーさん、ランクは3級?戦闘試験とかするんですか?」
「3級で良いぞ。レミニスター様の推薦だから試験は不要で良いだろう。」
「えぇ!?レミニスター様の推薦なの?ヘタレ君って何者?」
ミドリナは驚いたように何者なのかを優剛に問う。
「ただの友人ですよ。」
「えぇ?嘘でしょ?うーん。まぁ良いか。魔力は止めて良いわよ。じゃ、すぐ死なないようにね。」
ミドリナは完成したハンター証を放り投げるようにして優剛に渡してきた。
(あれ?彫った文字が消えている。)
受け取った優剛は不思議そうな表情でミドリナからハンター証を受け取って裏表を確認する。
それを見ていたミドリナが嫌そうに教えてくる。
「ヘタレ君、知らないの?魔力を流さないと文字は見えないわよ。」
優剛は「お?」と言って再び何も書かれていない無地の黒いカードに魔力を流した。するとユーゴタナカという名前と3級ハンターという2行の文字がカードに彫り込まれた状態に変化した。
「おぉ。これ凄いですね。」
「ねぇ。エモーさん、ちゃんと説明しました?」
「したぞ。しかし、ユーゴ君はハンターについて知らない事が多いみたいなんだ。」
「他の正式な身分証も殆ど同じ仕様ですよ?身分証を作成する時に、本人の血か魔力を使って記載内容を秘匿する。記載内容は身分証に魔力を込める事で表示される。それに何より黒いハンター証はみんなの憧れ!ハンターを志す者も含めてみんなが知っているわよ?」
「いやー。すんません。無理やり登録に連れてこられたもんで・・・。」
優剛は常識知らず事を申し訳なさそうにしながら、無理やり連れてこられと言った。
「はぁ・・・。理解出来ないわ。じゃあね。」
吐き捨てるようにして部屋を出ていくミドリナ。「鍵は掛けておいて下さいねー。」とエモーに向けて叫んだであろう声が廊下から聞こえてきた。
「すまんな、ユーゴ君。彼女は4級で燻っていた元ハンターだ。実力は3級だと言えるが、性格的に難があって推薦者を得られなかったんだ。魔術の技量が高い事でギルド職員として雇い入れた。」
「おぉ。それでポッと出の小さくて細い、弱そうな僕が嫌われているんですね。」
「・・・うーん。言い難いがその通りだ。あれだけ言われたのにユーゴ君は気にしないのか?」
「うーん。自分の事なら痛くも痒くも無いですね。挑発して怒らせたいなら、やり方を変える事を勧めておいて下さい。」
エモーは「いや。そんな事はしないよ。」そう言って、机の上に置いてあった鍵を手にして、優剛と共に廊下に出て鍵を掛ける。
「これで登録は完了だ。3級と言っても実績が無いから指名依頼は無いだろうが、何か良さそう依頼があれば声をかけるよ。掲示板に貼り出されている依頼をいくつか達成しながら、一緒に活動する仲間を探すと良い。」
優剛は軽く会釈して「ありがとうございました」と言って、1階に向かう階段がある方に向かって廊下を歩きだした。
ひとしきり黒いカードを眺めて、ポケットに入れる優剛。しかし、ポケット中で異空間に収納している。背中越しにエモーがこっちを見ている事を感じて、直接異空間に収納するのを止めた。
(レミさんも秘匿するように言っていたしね。)
エモーは「不思議なやつだな」と呟いて、優剛の背中を見送ると反対方向に歩き始めた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。
次回もよろしくお願い致します。




