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家族で異世界生活  作者: しゅむ
14/215

14. 過去の日本人と遺産

前回のお話

日本人の家に行ってみよう。

「誰ですか?どこに居るんですか?」

 優剛は突然聞こえてきた日本語に警戒するように、日本語で周囲に呼びかけた。


「優剛?」

「ユーゴ?どうしたのじゃ?」

 麻実とヒロが扉の前でキョロキョロしながら、誰かを探すように声をかけている優剛に話しかけた。


「麻実、この扉の文字は読める?」

「ん?汚くて読めないけど・・・。これ昔の日本語じゃない?」

「きしゃんも同じがか?」


 キャ!という声をあげて周囲をキョロキョロと、優剛と同じように何かを探る麻実。

「そうです。証明出来ないですけど、日本人です。あなたは誰ですか?」

「はっはっは!来おうたか!」


 優剛が日本語で反応すると、すぐに大きな笑い声が周囲に響いた。

「おぉ!なんじゃ?」それに反応したヒロは身構えるようにして周囲を警戒し始めた。


「後ろのでかいのは違うてるのぉ。」

(関西弁?強い訛りでわかりにくいなぁ。異世界語で話してくれないかな?)

 優剛は聞き取り難い日本語だった事で、異世界語で話せないか確認する事にした。


「異世界語で話しませんか?あなたの言葉がわかりにくいんですよ。」

「なんじゃ?けったいなやつやのー。まぁええわ。異世界語で話しちゃるよって。」

 嫌々な感じが伝わってくるが、異世界語で話してくれるようだ。


「お前たちは日本人で間違いないか?」

「おぉ!声が聞こえてきた!こんな事は初めてじゃ!その通りじゃ、ユーゴたちはニホンジンじゃぞ。」

 ヒロは聞こえてきた声に、興奮するように優剛たちが日本人であると答えた。


「でかいお前には聞いていない。ユーゴとはお前だな?日本人で間違いないか?」

「そうです。田中優剛と申します。日本人ですけど、どうやって証明するんですか?」

「はっはっは。田中優剛か。俺を騙そうとしているならよく調べていると思うぞ。俺は『織田信長』だ。」

 姿が見えない何者かは優剛を褒めつつ、織田信長と名乗った。


「は?超有名人と同じ名前じゃないですか・・・。」

「本物?死んだんじゃないの?」

 優剛は天下統一まであと一歩まで迫った戦国武将と同じ名前に驚き、麻実は死んだはずでは?と呟いてしまった。


「ほぉ?俺を知っているのか。お前たちは俺が生きた時代の何年後から来たのだ?400年以上後か?」

「そうです。2020年です。」

「そうか、そうか。戦は終わっているか?」

「はい。僕たちは戦を知らない世代です。」

「そうか。戦の無い平和な時代が訪れたか・・・。俺がいなくなってからの事を知っていれば教えてくれ。」


 優剛は平和な時代が訪れた事を喜んでいるような声に織田信長が死んでからの事を話し始めた。

「あの猿め、上手くやりおって」や「自分が農民の子のくせに身分を定めたのか。」などなど、優剛の話の合間には織田信長と名乗った声は面白がるように声をあげながら聞いていた。


「面白い話だったぞ。田中は学者か?400年以上も昔の事をスラスラ言えるのは大したものだ。」

「違いますよ。今の日本は9年間の義務教育があるんです。そこで日本の歴史を勉強するので、織田信長の事は日本人なら9割以上の人が知っていますよ。」

「はっはっは!平和な世は良いものだ!はっはっは!」

 非常に機嫌が良さそうに大きく笑う声。


「ふぅ。作り話にしては出来過ぎているな。俺はこっちで猿の事も本能寺の事も日本での出来事は記録に残していないからな。」

「では、ユーゴがニホンジンで良いでしょうか?」

 ヒロが姿の見えない声に向かって、敬うように声をかけた。


「ん?先程からいるが、お前はなんだ?」

「私はヒロイース・フィールドと申します。この街の前任の領主で、ユーゴを保護しております。」

 ヒロは片膝を地面につけて、頭を垂れて地面を見つめながら名乗った。


「おぉ!フィールド家か。俺の屋敷の庭の整備には感謝しているぞ。」

「ははっ!勿体ないお言葉に感謝致します。」

「ヒロ、何してんの?」

「何を言っておる!この声はノブナガ様であろう!フィールド家の初代当主様と共にこの街、『フィールド』を作り出した英雄様だ。」

 街の成り立ちに信長が関係していた事に優剛は驚きつつも、信長さん異世界で何してんの?と心の中でツッコミを入れる。


「この屋敷の魔道具がどうやってニホンジンである事を証明するか、わからんかったからな。ニホンジンである事を証明出来るようにユーゴたちには情報を渡しておらんかった。落ち着いたら詳しく教えてやろう」

「いや・・・。遠慮するよ。」

 ヒロのあとで説明してやるというものを優剛は謹んで断る。今は信長の事で頭がいっぱいだ。


「ほぉ。事前情報も無しだったか。あれだけ詳細に俺に関わる事とその後の歴史も知っているのだ。俺は田中を日本人だと認めよう。」

「はは!手続きを進めます!」

「いやいや!どんな手続き?この屋敷の譲渡の事?」

 勝手に話を進める声とヒロを牽制するように、優剛が声をあげた。


「おい、ユーゴ!無礼だぞ。」

 すっかり畏まってしまったヒロを無視して声に問いかける優剛。


「織田信長がこっちに飛んで来ていたなら驚きですけど、こんな広い屋敷には住めないですよ。屋敷の掃除で1日が終わるじゃないですか。」

「「人を雇えば良いだろ?」」

(ハモるなよ。上級貴族どもめ・・・。)


 領主の家系で使用人は居るのが当たり前の環境に居るヒロ。そして、日本の統一間近にまで迫った戦国の超大物。どちらも使用人は居て当たり前の環境であった。


「仮にあなたが本物の織田信長で、異世界に来ていたなら、一緒に来た家臣とかこっちで作った子供とかに屋敷を譲ったら良いと思いますよ。」

「疑り深い奴だな?俺は織田信長だぞ。一緒に来た家臣や明智の兵どもは蘭丸以外全員死んだ。この世界に来た時には爺だった俺に子供は居ない。作る気もなかったからな。蘭丸はフィールド家に婿として入ったぞ。あやつは魔力がなかなか使えずに苦慮していたな。使えるようになってからは徐々に強くなって、最終的にはこの世界で蘭丸に勝てる者は居なくなってな、この屋敷の魔道具も全てあいつが作ったぞ。はっはっは!」

(50歳って爺さんか?戦国時代なら爺さんか・・・。)


 ふぅーと小さく息を吐いた優剛は今の言葉で織田信長が本物である事を信じる事にした。

「織田様、と呼んだ方がよろしいですか?」

「信長と呼べ。死んだ者を敬うのは良い事だが、同じ故郷持つ者で同じ異世界人だ。気軽に接してくれ。」

(織田信長本人を前にして呼び捨てとか無理でしょ・・・。)


「信長さん死んでいるんですか?」

 呼ぶ捨てには出来ず『さん』付けが優剛の限界であったが、恐る恐る呼んでいた。


「当然だ。魔力のおかげで長生きは出来たが、徐々に身体が衰えてな。この屋敷を守る為に魔力と意思を別の器に残して死んだのだ。器を作ったのは蘭丸だぞ。」

 そんな優剛の呼び方や話し方に不満も無いようで、信長は既に死んでいる事を告げる。


「まぁ、いい加減、中に入れ。」

 信長がそういうと扉が薄く光って勝手に開いていく。


「おぉ」ヒロと一緒に来ていた執事が驚きの声をあげて扉が開いていくのを見つめている。

「次からはお前たちが自分で開けろよ。さぁ中に入れ。正面の部屋が広間になっているから、そこで適当に座っていろ。2階の私室に向かう廊下で靴を脱ぐところはあるが、基本的に靴は脱がなくて良いぞ。」


「・・・お邪魔します。」恐る恐るゆっくりと屋敷に入っていく優剛。

 扉が開いたのに気が付いた由里と真人は優剛が入ったのを確認すると、優剛を追って屋敷に入ると、キョロキョロと辺りを見渡しながら、広―い。凄―い。と声を出していた。

「可愛い童だ。」という信長の声が聞こえて、ビクっとなったが、優剛の説明に納得したのか、それ以降はワイワイと日本語で信長と話をしていた。

(お・・・恐れ多い・・・。)


「ねぇ優剛、信長って本能寺で死んだんじゃないの?」

「死んだとされている。かな。焼死体が多すぎて、どれが信長なのかわからなかったっていうのが有力な説だよ。」

「あぁ・・・。燃やしちゃったからね。」

「そういう事。だから死んでいない説っていうのもあるんだけど、異世界に来ていたんだね・・・。他にも来ている偉人がいるかもね。・・・坂本龍馬とか。」


「魔力が使えないから異世界に来た日に死んでいるでしょ・・・。」

 優剛は死んでいない説のある偉人が異世界に来ているかもしれないと言えば、麻実は異世界に来てもすぐに死んでしまうと返す。


「最近は侵入者もいなかったから、屋敷の中も綺麗だろ?」

 信長は自慢するように言ってきた。

 確かに屋敷の中は綺麗で400年間、掃除をしていないとは思えなかった。


「フィールド家よ、この屋敷は田中の物で良いな?」

「左様でございます。」

 信長がヒロに確認すると、ヒロは畏まって肯定する。


「では田中、そこの絨毯を捲れ。」

「そこって・・・。ここですか?」


「おぉ。お前は既に魔力の扱いに慣れているな。いつこっちに来たのだ?」

 優剛は絨毯を捲れと言われて、違和感のある部分まで歩いて、床を軽く足でトントンすると、褒めるように信長が聞いてきた。


「4日くらい前です。んー。おぉ!面白い作りですね。地下ですか?」

「・・・田中は魔人か?」

「ヒロにも言われましたけど、違いますからね。日本生まれの日本育ちです。」

 優剛が魔力で絨毯を探ってから絨毯を捲った。絨毯は魔力で偽装してあったが、切れ目が入っていて捲る事が出来た。そして捲った床も魔力で偽装されていたが、開く事が出来て、開くと地下に続く階段が見えた。


「ちょっと行ってくる。」と言って優剛は地下への階段を降りていく。優剛が地下に入って、すぐに地下に行く為の床と絨毯は勝手に閉じてしまった。


 手探りで地下に続く階段を降り切ると部屋のようになっていたが、暗くて何も見えなかった。

「なぜ閉じたんですか?暗くて見えないです。」


「この部屋の事は屋敷の主だけが知っていれば良いのだ。暗いなら魔力で目を強化すれば良いだろう。見えるはずだ。」

 優剛が言われるままに目を強化して暗がりを見渡すと、魔力で目を強化すれば見えるほどの、淡い光る壁や床に気が付く事が出来た。

 部屋の中央には天井と床を支える大きな柱の中央に、台座のようにくり抜かれ、中に大きな石が置いてあった。


「見えたか?その石が魔石だ。知っているか?」

「少しだけなら。長い年月をかけて地下で作られるってやつですよね。」

 トーリアとの常識勉強会の成果である。


「そうだ。鉱石などが自然の魔力を取り込みながらゆっくりと長い時間をかけて、魔石になっていく。大きければ大きいほど魔石になるのに時間が必要だ。その魔石に俺の魔力と意思や記憶を込めてある。」


「これを壊したら信長さん消えるんですか?」

「はっはっは。その通りだ。俺を消したくなったら壊すが良い。壊す前に屋敷の説明くらいさせてくれよな。はっはっは。」

「僕は壊さないですよ・・・。」

 優剛は困ったように弁解した。


「この屋敷はその魔石にある魔力を使って、様々な事をしている。火や水の作成。屋敷を綺麗に保つ。侵入者の撃退などだな。」

「魔力は無くならないんですか?」

「良い質問だ。魔石は自然の魔力を取り込む事が出来るから、使い過ぎなければ無くなる事は無い。」


「これで侵入者に電撃を喰らわせて撃退するんですね。」

「ほぉ。知っておったか?俺は対策されない為にその事は記録に残していないぞ。」

「侵入者は小さな火傷を残して気絶すると聞いたので、電撃だと思ったんです。今の日本の教育は優れているんですよ。」

「色々聞きたい事はあるが、お前が屋敷に住んでからでも良いだろう。屋敷の説明を始めるぞ。」

(うわー。譲る気満々だけど、本当に僕はここに住むの・・・?)


「屋敷の設備はこの魔石から魔力を取り出して効果を発揮している。魔石の魔力が無くなれば設備も使えん。防犯機能も無くなるから注意しろ。あと俺も魔石の魔力が回復するまでの間は意識が無くなるから気を付けろ。絶対だぞ。」

「どれくらい使えば無くなるなんですか?」

「無くなった事が無いからわからん。巨大な魔石だからな。容量が大きいのだろう。何日も侵入者を撃退し続ければ無くなるんじゃないか?」

「それは実質無くならないんじゃないですか?」

「はっはっは。そう考えても良いな。しかし、範囲は屋敷だけだ。庭に入ったくらいじゃ、目と耳が届くくらいだ。屋敷に近づけば電撃は届くがな。くっくっく。」


「この魔石の魔力を使って、信長さんは見て、聞いて、喋っているわけですね。姿を作る事も出来るんじゃないですか?」

「可能だな。しかし、魔力の無駄使いだ。具現化は魔力の消費が大きいからな。」


「屋敷の生活に使う設備は新しいのを入れても良いですか?400年前のままなら古いですよね?電撃はそのままにしますけどね。」

「それもそうだな。職人が設備を見ればわかるだろう。田中がここに住む事で侵入者も来るだろう。くっくっく。楽しみだなぁ。」

(強盗が家に来るとか全然楽しみじゃないですよ・・・。)


「この魔石ですけど、僕の魔力を入れて魔力を補充する事は出来ますか?」

 優剛は魔石の上下が柱に触れられるように平らに加工されている以外はゴツゴツしているバスケットボールよりも大きい武骨な魔石を指差しながら確認した。

「ほぉ?可能だぞ。今は補充しなくても良いが、無くなりそうになったら頼むかもしれんな。」


「いつでも言って下さいね。それと設備を入れ替えるなら調査と改修ですぐには住めないと思います。その辺をヒロと話してきますね。」

「そうだな。フィールド家なら問題ないだろう。」


「これって手で押し上げるんですか?」

 階段の上部に着いた優剛は広間に続く床の裏側を触りながら信長に確認した。

「うむ」という短い返事を聞いて、優剛は天井を押し上げ、「ヒロー」と呼びながら地下から出てきた。


 地下に続く階段は優剛が入ってしまうと勝手に閉まっていたので、広間に残されていた者たちは優剛を心配して待っていた。

 ヒロは「おぉ!ここにおるぞ。」と言って返してくれ、由里と真人は優剛に飛び付いて、麻実もホッとしたような表情で優剛を見つめていた。


「君たちは魔力を覚えてから体当たりが激しいよ。」

 優剛はかなりの衝撃で飛びついてくる由里と真人に向かって笑いながら言った。


「可愛い童ではないか。」

 そんな優剛たちを見ていた信長の声が部屋には響いた。


 屋敷の設備の事をヒロに話したが、ヒロではわからないとの事なので、ヒロの執事さんが確認に回っている。案内は信長である。

(屋敷の案内が信長・・・恐れ多い。)


 優剛は全員で確認すると言ったのだが、「お前らが動く必要はない。こういうのは専門家に任せるのが良いのだ。ここで休んでいろ」と言われたら従うしかなかった。


 しばらくして執事さんが戻ってきた。

「皆様、お待たせ致しました。」

「どうであった?」

「はい。古い物が多く、交換する必要があります。職人をここに呼んで設置場所を見せてから発注するのが良いと思われます。」


「信長さん、玄関は開くんですか?」

「俺の意思次第だが、開くぞ。田中の家族と使用人以外は侵入者として対処するがな。はっはっは。」

「僕に使用人は居ませんって・・・。」

「トーリアで良いであろう。今はユーゴの使用人だ。」


「うーん。良いのかな?信長さん、今度一緒に来ますので紹介しますね。はぁー。早く使用人を雇えるように仕事探そ・・・。」

「では屋敷に戻る前にハンターズギルドに行くぞ。凄腕のハンターなら金は稼げるからな。」

「おぉ!フィールド家の者よ。それは良い考えだな。田中なら問題ないぞ。稼いだ金で使用人を雇うが良い。」


(は?ハンターって何百年前からあるんだ?いやいやそれよりも・・・。)

「ハンターの仕事は怖いです!」

 優剛はハンターの仕事が怖いと言ったのだが、ヒロも信長も「登録してこい」と言って2人の年長者に押し切られてしまった。


 優剛は麻実に救いを求めるも味方にはなってくれなかった。

「稼げるなら良いんじゃない?日本では稼げなかったんだから、こっちで大金持ちになってよね。」


 うな垂れて「また来ます」と言って屋敷を出た優剛はハンターズギルドでハンター登録する事が決定した。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


次回もよろしくお願い致します。

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