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家族で異世界生活  作者: しゅむ
12/215

12. 魔法の袋

前回のお話

魔術って何?

魔法の袋だ!ひゃっふー♪

 部屋中では様々なタイミングで驚きと戸惑いの「はぁ!?」という言葉が続いて、数秒の沈黙の後にレミニスターが口を開いた。由里と真人はイコと遊んでいたが、イコは優剛の発言が聞こえていたようで、優剛を見ながら驚きで固まっていた。


「おい・・・。作ってみるとは?魔法袋を作る・・・そういう事か?」

「はい。そうですよ。仕組みはわかったので、あとは僕が出来るかどうか?です。」


 ちょっとおにぎりでも作る。くらいの軽いノリで魔法袋を作ってみると言う優剛。


「優剛、どんな仕組みなの?私たちも作れそう?」

 麻実も便利な袋だという認識はあるので、作れるなら作ってみたいと思って優剛に確認した。


「んー。どうだろ。ちょっと待ってね。実際に1個作れたらわかると思うよ。」

「作れたらユーゴは魔人で良いだろう・・・。」

 呆れるようにレミニスターは呟いた。


 部屋中の視線を集めている優剛は立ったまま集中するように目を閉じた。そして胸の前で小さなボールを両手で持つように構えて、手の間の空間に魔力を集中していく。

(まだ足りないか?そろそろ穴が開くと思うんだけど・・・。)


 優剛の両手は陽炎のように揺らめいて、濃密な魔力を感じる事が出来る状態のまま、さらに魔力を高めていく様子に部屋に居る者は息を飲んでその状況を見守った。

 レミニスターも例外ではなく、経験した事のない魔力の量を驚きの表情で見つめている。


「ぐぅ・・・あぁ!」呻き声を出した優剛の手から魔力が消失したのを誰もが感じる事が出来た。


「はぁー。何これ・・・もうやりたくないんだけど・・・。」

 そう言って座り込んだ優剛は肩で大きく息をしていた。異世界に来てこれほど疲労した様子を見せなかった優剛を心配して麻実は声をかけた。

「ちょっと。大丈夫?」


「ふぅー。うん。大丈夫だ・・・よぉ!」

 座り込んで大きく息を吐いて答えた優剛に由里と真人も心配して飛びついた。


「大丈夫?」

「うん。平気。ありがとね。」

 由里の質問に優しく頭を撫でながら優剛は答えた。反対の手は真人を撫でていた。


「ユーゴ、それで・・・その、なんだ?出来たのか?」

 レミニスターが聞きにくそうに尋ねてきた。


「うーん?半分くらい成功ですかね?」

「どういう事だ?」


 眉根を寄せているレミニスターに先程、優剛の両手があった場所を指差しながら答える優剛。


「この辺の空間に小さい別の空間を作りました。」

(開けた?作った?どっちでも良いか。)


「ほら」と言って、一見何も無い空間に優剛は手を伸ばすと手首から先が消えた。そして驚きや感嘆、悲鳴などの声が部屋に響いた。


「な・・・ん・・・だと?」

 慌ててレミニスターは立ち上がってその空間に手を伸ばしたが、レミニスターの手が消える事は無く、優剛の手だけが消えるという奇妙な空間が部屋の一部に出来上がっていた。


「あぁ・・・。やっぱり使えないですね。」

「どういう事が説明してくれ。」

 レミニスターは座り込んだ優剛を上から睨みつけるように問う。


「うーん。魔力で作った物は魔力が無くなれば消えてしまう。これは良いですよね?」

「もちろんだ。魔術の基本だな。」

 優剛はトーリアから教えて貰った基本を復習するように言ってから説明を始めた。


「この空間の中は僕の魔力で満たされていて、なぜか消えないんですよ・・・。別の世界?空間だからかもしれませんけど、理由はわかりませんが、魔法袋の中も同じようになっていたので異空間?亜空間?では魔力が消えないのかと思います。中の魔力を取り出す事も出来ないですけどね。」

「うむ。続けてくれ。」


「僕の魔力なので、僕の意思が伝わります。僕が入れたくないと思えば空間には入れないし、入れたいと思えば空間に入れる・・・はずです。今はレミさんの手も消えると思いますよ。」


 再び空間に手を伸ばしたレミニスターの手が消えたが、空間が小さいからなのかレミニスターの大きな手を全て消す事は出来ず、指の先端だけが浮いている恐怖空間が完成していた。

 そんな事を気にする事も無く、レミニスターは手を動かして、手首や腕の一部なども消して遊び始めた。


(あぁ。なるほどね。中の魔力に集中?聞く?事で、形や感触がわかるのか。)

「しかし、小さいな。これでは物が入らないのではないか?しかも袋と違って暗闇にもなっていないし、消える空間が固定されているぞ?」


「大きさは魔力を入れれば大きくなると思います。どれくらい大きくなるのかは試してみないとわからないですね。暗くない理由はわからないですが、空間が固定されているのは、何かと空間を結んで引っ張る必要があるんです。魔法袋も入り口付近の布の一部が異空間と縫い付けてあるように繋がっていますからね。」


「なるほどな・・・。しかし、ユーゴの魔力で作るとなると、量産は難しいか?」

「1人1個が基本じゃないですか?どれだけ魔力を入れると大きくなるかわかりません。ちょっと待って下さいね。」


 優剛は空間の中に手を入れて魔力を注ぎ込んでいく。

「ダメです。ダメ。効率悪いです。全然大きくならないです。毎日少しずつ大きくしていくしかないと思います。」


「今はどれくらい入れて、どれくらい広がったのだ?」

「水晶の映像が終わるくらいの魔力を入れて、指1本分くらい広がりました。ちなみに空間を作るのにも大量の魔力が必要でしたよ。」

 優剛は人差し指を立てながら広がった空間のイメージを伝えた。


「空間を作る瞬間は見ていたから想像は出来るぞ。あの量の魔力を俺は初めて見たぞ・・・。広げるのも一般人が倒れる量で指1本か・・・。」

 レミニスターは呆れるような表情で優剛を見ながら量産を諦めた。


「あとは何と空間を繋げるか・・・。」

 優剛は呟きながらキョロキョロと周りを見渡してから、自分の身体も見渡し始める。


(指輪が良いかな?)

 優剛は左手の薬指にある指輪に目を付けた。そして左手を異空間に入れて、誰かが指輪を見ても違和感が無いように、指輪の内部と異空間の端にある魔力と指輪を縫い付けていく。


(これで左手を動かせば・・・。おぉ!異空間も動いているね。あとは使い方か?左手消えたままだし、たぶんイメージの問題だろうな・・・。袋は入り口を設定していた感じかな。この場合は・・・。)


「出来たー。出来ましたよー。むふふ。」

 優剛は左手を異空間から出して、動かしながら出来た事をアピールした。優剛がイメージしたのはゲームのアイテム欄だ。アイテムウィンドウからアイテムを選ぶとキャラクターに装備されるという仕様をイメージした。逆に異空間に何かを入れる際も同様のイメージだ。


 理解しているのか不明だが、由里と真人は優剛を「凄いね」と言って褒めた。


「由里、1つ髪ゴムを借りても良い?」

「良いけど、終わったら結んでね。」

 優剛は由里の髪の毛を結んでいる髪ゴムを「OKOK結ぶよ」と言って後ろで結んでいるゴムを借りて、左手に近づけた。

 優剛は由里が1歳半頃に由里を膝の上に乗せて、大人しくしている時に由里の髪の毛で猛練習して、髪の毛を結ぶ事が出来るようになっていた。


「おぉ!出来た、出来た。」

 優剛は感激したように声を出しながら、左手を動かして様々な位置で髪ゴムを左手の中で出しては消してを繰り返す。


 それを見ていたレミニスターが部屋中の使用人たちに向けて言葉を発した。

「お前たち。今この部屋で見た事、聞いた事は他言を禁ずる!良いな!発覚した場合は処罰の対象とする。皆は1度、部屋の外に出てくれ。」

「え?なんかすいません・・・。」

 部屋中に響く「はい!かしこまりました!」の声と同時に部屋を出ていく使用人たちに、事の重大さを雰囲気から察した優剛が謝罪する。


「ユーゴの真似が出来るとは思えんが、魔法袋の作成方法など悪用したい奴は山ほどいるぞ。しかし、それは袋ではないな・・・。新しい魔術と言っても良いだろうな。」

「作るとしたら最初の空間作りがちょっと難しいですかね。」

「はぁー。ちょっとでは無いぞ・・・。どういう仕組みなのだ?」

 レミニスターは使用人たちが外に出たのを確認した後に、溜息を吐き出して優剛に質問を始めた。


「まず、魔力を視る魔力が作れないと、異空間が作れないと思います。異空間がどんな場所か?が、理解出来れば、あとは魔力を高めて強引に異空間を作って、適当な物と異空間内の魔力を繋ぎ合わせて完成です。」

「むぅ。まずは魔力を視る魔力か・・・。どんなものだ?」


「自分の触覚や視覚、知覚などをコピーした魔力を作って、それを誰かに触れて貰って魔力を探せるように調整すれば出来ますよ。」

「出来んぞ・・・。そんな事。まずは自分の感覚が共有出来る魔力を身体の外に作り出す事が難しいな・・・。しかし、やってみる価値はあるだろう。ふふふ。久しぶりに滾るな。」


(レミさんもヒロと同じ狂気をお持ちですか。)


「優剛、私たちも異空間が作りたいならそこからって事よね?」

「そうだね。魔力変化の練習を続けたら出来るようになるんじゃないかな?」

「よーし。変化は割と出来たし練習しよ!」

 麻実は午前中の訓練でも魔力の形を変える練習が1番出来ていた。それを自覚しているので、自分も異空間を作るんだとやる気になっている。


「イコ、お父さんは凄いの?」

「えぇ。とても凄い先生よ。私もいつか先生みたいになりたいわ。」

 由里の質問にイコライズが答えて、そのまま2人は雑談に突入していく。


「ユーゴ、少し良いか?昨日の夜と今朝は出来なかった話だ。」

 落ち着きを取り戻したレミニスターは話があると自分の前の椅子を勧めるようにして

 優剛を呼んだ。


「はい。良いですよ?仕事は大丈夫ですか?」

「この時間は元々予定していたから大丈夫だ・・・。」

 少し遠い目をしながらレミニスターは大丈夫と言った。


「話とはユーゴの報酬の話だ。イコの魔力覚醒と半年間の報酬だ。父上と部隊の救出についての報酬は父上から話があると思う。それと魔法袋の作成方法に関しても必要だな。」


(報酬!素敵な響きですね。)

「ありがとうございます。お金の価値や相場がわからないので、金額については任せるしかないです。」

「領主として恥ずかしくない金額を用意するつもりだ。問題は支払い時期なのだ。既にイコの魔力覚醒という実績を残しているので、すぐに支払うべきなのだが、今渡しても困るだろう?」


「困りますね・・・。僕らが出ていく時で良いですか?」

「もちろん良いぞ。しかし、俺としてはお前をこのまま俺の家臣にしたいがな。」

「あー。貴族の家臣になるとレミさんの上、例えば王様とかにユーゴを貸せ!みたいな命令されたら断れないですよね?誰かを殺せ。危険な場所に行ってこい。僕はそういう命令は断ると思います。」

「王の要請は断れんな。しかし、平民であっても断れんぞ?」


「その時は少し不便になるかもしれないですが、遠くに逃げれば良いんですよ。しかし、レミさんの家臣になっていると、僕が逃げた時に責任を取らされますよね?」

「そうだな。家臣の失態は主人の失態だ。ふむ。なるほど、わかった。何か頼む事はあるかもしれんが、友人でいてくれ。」


 レミニスターはそう言って、立ち上がって右手を差し出してきた。優剛も立ち上がって右手を出して握手をする。

「領主の友人だと悪い事が出来そうでございますね。うっしっし。」

 仰々しく悪い笑顔を作って言いながら優剛が笑うと、レミニスターは「お前はそんな事しないだろう」と言って大きく笑った。


「半年間の予定はどうなっている?」

 座りなおしたレミニスターが優剛に今後の予定を尋ねた。


「半年後はレミさんから貰える報酬でしばらく暮らせると期待して、うっしっし。・・・家を探そうと思います。あとは出来る仕事もですね。」

 悪い笑顔で報酬に期待すると言えば、真剣な表情で家と仕事を探すと答える優剛。


「コロコロと表情の変わるやつだな。まぁ良い。家はいくつか候補を出しているから、絞り込みが終わったら提示しよう。仕事についてだが・・・。」

 仕事の話になってレミニスターは口ごもる。


「ハンターが良いのではないか?ユーゴなら危険な地域にある高額な素材も獲ってこられるだろう?」

「ハンターとはなんですか?」


「簡単に言えば依頼人の欲しい物を獲ってくる者だな。ギルドもあって、そこが仲介している依頼であれば面倒も少ないだろう。魔獣の牙や爪、革が欲しい依頼を受ければ魔獣の討伐も必要になるな。危険な場所に咲く花や実が欲しい依頼なら、危険な魔獣を討伐しながら花や実を獲ってくる事もあるだろう。」


「危ない仕事ですね・・・。出来れば積極的に関わりたくないです。」

(もうおじさんなので、命を大事にして、家でのんびりお茶して暮らしたいです。働きたくないでござる。ニートしたいです。)

 真の願望は内に秘めて、ハンターを断る優剛。


「そうか・・・。ユーゴならどこに行っても死なないと思うがな。では、登録だけでもしておけ。他の街に行く時に便利だぞ。登録には推薦が必要だが、俺が推薦しよう。」

「ハンターになる流れですけど、ハンターしませんよ?」


「ユーゴの自由だよ。他の仕事は魔術教師も良いかもしれないが、変な貴族に当たると面倒事が増えるな。」

「レミさんは良い貴族で良かったですよ・・・。ゆっくり出来る事を探してみます。」

「そうだな。基本的な知識についてはトーリアに聞いてくれ。家が見つかるまではここに住み込みは確定しているのでな。時間はあるぞ。」


「ありがとうございます。じっくり考えてみます。」


「ではな。」そう言って部屋から出ていったレミニスター。入れ替わるように使用人たちも部屋に入って片付けを始めていく。

 イコライズも次の予定があるのか部屋を出ていった。


 残されたのは優剛たちと優剛たちの専属である3人の使用人たちだ。

 優剛は色々話を聞く事にして、異世界の常識をトーリアに確認していく。麻実も一緒に聞いていて、由里と真人は2人の使用人と楽しく遊んでいる声が部屋には響いていた。


「お父さん、外に行っても良い?」

「アイサさんから離れないで言う事を聞くなら良いよ。」

 由里に付いてくれているアイサという若い女性のメイド。真人に付いてくれている人はトーナという真人を可愛いと連呼していた女性だ。


「ボクも良い!?」

「良いよー。トーナさんの言う事を聞いて離れちゃダメだよ。」


「「わかったー。」」そう言って4人は部屋から出ていった。


「ユーゴ様、良いのですか?」

「問題ないですよ。」


 由里と真人は普段怒らない優剛が怒った時の恐怖が心に刻み込まれているので、滅多な事では言いつけを破ったりはしない。破っても理由によっては怒る事も無いので、優剛が怒るのは珍しいのだ。

 優剛を怒らせない。これは田中家の暗黙のルールである事を優剛は知らない。


「左様でございますか。ではお金と貨幣についてご説明します。」


 4つの金属で作られている6種類の硬貨で、穴が空いている硬貨が『小』と呼ばれていて、小が10枚で穴の空いていない同金属の硬貨と同じ価値になる。穴の空いていない硬貨は10枚で次のランクの硬貨と同じ価値になるとの事だ。そして、単位はジェイ。

 小青銅貨1枚10ジェイ、青銅貨1枚100ジェイ。

 小銅貨1枚1,000ジェイ、銅貨1枚10,000ジェイ。

 銀貨1枚100,000ジェイ

 金貨1枚1,000,000ジェイ


「1ジェイが無いのと、銀貨と金貨に小が無いのは何故ですか?」

「1ジェイはあっても使わないからです。10ジェイ以下であれば物々交換やおまけの範囲でございます。この街で生活する場合、1家族が1か月生活するのに銀貨1枚あれば十分足りると思われます。銀貨と金貨は高価で小を作っても、使える者がおりません。硬貨の作成は手間も時間もかかりますから、流通しない硬貨は作っていないと言われております。」


(なるほど。10万で1家族が1か月か・・・。ん?)

「それは家の代金を含んでいますか?家を借りていたら毎月支払いますよね?」

 食費だけで1か月10万円だと日本でも十分だと考えた優剛は質問をした。金銭感覚はこの世界で生きていくなら必要な知識だからだ。


「もちろん含んでおります。しかし、宿に1か月間、泊まるとなると足りないでしょう。」

(住む場所もあると思うけど、日本の半分以下くらいかね・・・。)

 優剛は首を縦に軽く振りながらトーリアの様々な常識に時折質問を交えながら頷いていく。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


次回もよろしくお願い致します。

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